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小さな国だった物語~  作者: よち


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24/218

【24.作戦会議】

キエフ・ルーシ諸公国の東側。

トゥーラは移民の流入によって大国への道を歩むリャザンから分岐した、人口1500人ほどの要塞国家である。


特徴は30人の近衛兵を擁する事。

加えて戦いが起こるたび、他国と同じように男衆が兵士として召集されるのだ。


故にトゥーラの兵力だけでは、どう頑張っても800人。


だからこそ王妃は専守防衛を打ち出して、最大限の対抗を図ろうとしている――



「じゃあ、始めようか」


昼下がり、ロイズはグレン、ライエルの両将軍と、尚書のラッセルを二階の広間に集めて、対スモレンスクの作戦会議を開いた。


この場所は国王夫妻の寝室の下。

南側に設けられた二つの上下窓が、外からの光を取り込んでいる。

窓の外側には十字の鉄格子が設けられていて、侵入者を阻む仕様となっていた。


4人は光の中で、四角いテーブルの上に周辺地域が描かれた図面を広げて、四方それぞれに足を置いていた。


この4名が中心となって、国家を司っている――


グレンとライエルの両将軍は、当然ながらそのような認識を持っていた――


「先ずは、近衛兵を四方に分けます。西はグレン将軍。南はライエル将軍に守って頂いて、私とラッセルは遊軍となって、他の二方向。及び、援護に回ります」

「はい」

「承知しました」


端正な顔立ちに光を浴びた国王が、図面の上で指揮棒を動かしながら指示を与えると、二人の将軍が頷いた。


真っ先に固めるは、スモレンスク方面の西側と、唯一の都市城門が在る南側。


経験豊富なグレンを南西の見張り台に置く布陣で、さすがに異論は起こらない。


「次に民兵ですが、先ずはそれぞれの特化した持ち場に配置して、残りは待機。増援を送る判断は、私かラッセルが担います」

「宜しくお願いします」

「分かりました」


会議に先立って、ラッセルにはリアも交えて作戦の詳細を伝えてある。


細い瞳が二人の将軍を見やると、ライエルが頷いた。


「この戦いの鍵を握るのは、弓兵です。見立てはどうですか?」


練兵は、二人の将軍が担っている。

グレンが先導しているが、弓の扱いは若い方が優れているらしい。

そんな噂を耳にした国王が、敢えてライエルに尋ねた。


「指示通り、最近は射撃の訓練ばかりです。正直に言って、皆さんかなりの腕前になりました。狩りの時間が短くなって、感謝されています」

「わはは。そりゃ結構だな!」


左右の金髪から覗く整った顔立ちが自信を示すと、グレンが笑いを起こした。


ロイズの赴任前から、トゥーラの男子は10代半ばで軍事教練が義務付けられていた。

ここ数年。小競り合いは頻繁に起こって、トゥーラの男衆には戦う意識。兵士としての下地が概ね備わっている。


「問題は、相手の数ですが……どう思います?」


相手を最も知る男。

ロイズは表情を崩した四角い顔が落ち着くのを待ってから、冷静に尋ねた。


「そうですな……少なくとも1500。多くて3000。又は、それ以上といったところでしょうか……」

「3000!?」


挙げられた数字に驚くと、ラッセルが数字を繰り返した。


人口の倍。兵数の4倍以上の敵が攻めてくる。臆するのも無理はない。


「私も、そのくらいかと……」

「え?」

「そうだよねえ……」

「ええ!?」


しかしながら、ライエルもロイズも平然を繰り返した。


「ちょっと待ってください! 3000ですよ? さすがに、多過ぎではないですか?」


薄い顔に焦りが浮かぶ。

尚書は両の手のひらを腰の高さに上げながら、3人に迫った。


「多くない!」


狼狽するラッセルを、最年長のグレンが窘めた。


「3000とはいかずとも、わし等は、それなりの数を相手にしてきた。なあ?」


誇らしく言い切って、グレンはライエルを見やった。


「そうですね……」

「え? そうなのですか?」

「別に、城を出て戦う訳じゃないからね」


経験者の会話に尚書の動きが止まると、ロイズが口を開いた。


「向こうは渡河をして、四日も掛けてやってくる。それだけでも、有利でしょう」

「そうですね。この城が耐えてこれたのは、消耗戦に持ち込んだ結果ですから」


若い将軍が、ロイズの言葉を補足する。


「それに、今回は準備も整いました。きっと大丈夫です」


端正な顔立ちが自信を放つと、グレンとライエルが頷いた。


「大体あなたは、情報に疎すぎます。過去の記録も見ている筈なのに、なんでいちいち驚くんですか!」


この場に於いて最年少のライエルが、背筋は真っ直ぐで口を尖らせて、年上の尚書を (たしな)めた。


「すみません。リャザンでは、戦いの準備などしなかったもので……」


猫背を更に曲げたラッセルが、面目ないと謝罪した。

なにしろ戦いの準備は未経験。ロイズの了承は得た上で、経験豊富な他の文官たちに任せた。


しかしながら、作戦会議の場において、尚書が過去の資料や帳簿を読み返していない事態は、怠慢と言われても仕方がない。



細身の身体に薄い顔。ラッセルは、リャザン公国でロイズと出会い、誘われるがままにトゥーラへとやってきた。


任務は予算の編成、物資、兵糧の管理など。財務全般という話だったが、何故だか最近は、鍬を持ったり荷車を曳いたり、果ては剣技を磨いたりしている――


しかし当の本人は、想像とは全く違う現在の状況を受け入れていた。


王妃の存在が大きいのは勿論。何よりも、リャザンに居た頃とは、日々の充足が違うのだ。


「まあ、そうだよね。ラッセルと僕は、初めての実戦だからね。頼りにしないで欲しいかな……」

「それは、困ります」


ロイズが軽い感じで擁護を挟むと、ライエルが率直な思いを吐き出した。


普段は物静かにしているが、言うべき時は相手が誰であろうと発信をする――


これこそが、グレンが若くとも彼を将軍に推挙した理由の一つだ。


尤も、これは将軍(グレン)に彼の発言を受け入れる度量が備わっているからで、ともすれば、ただの生意気な小僧となり、疎まれる存在となっていたかもしれない。


生かすも殺すも、指し手次第――


幸運にもライエルは、上司に恵まれたと言えまいか。


「将を見て、兵士は戦います。常に気丈に振る舞うようお願いします。勿論、前線に出る必要はありません」

「うん。それは了解」

「……」


グレンが補足する形で口を開くと、ロイズは小さく頷いた。

軽い感じの返答に、グレンは眉をひそめたが、相手は国王である。

言葉に変換することは、ひとまず控えることにした――


「次に、 兵具(ひょうぐ)だけど……準備はどう?」

「はい。最低限の数は揃えました。後は、どれだけ増やせるかですね……」

「そうだね。敵のやってくるのが遅いほど、僕らには有利って事だからね。明日からは柵と強弩、あと、弓矢の作成だけやっていこう」

「はい」


ロイズの発言に、ライエルは任せて下さいと頷いた。


「相手の動向は、カルーガからの連絡待ちですか?」

「そうですな。カルーガ(あそこ)には、常に数名が常駐しております。動きがあれば、報せが入るでしょう」


ロイズが話題を移すと、四角い顔(グレン)が口を開いた。


「了解。ただ、早馬ではどうしても察知が遅れるんだよね。今回は、狼煙を上げてみようと思うんだ」

「狼煙……ですか?」

「でも、天気によっては使えないからね。あくまでも補足で。だから、偵察の人数を少し増やして欲しい」

「承知しました」

「それで、そのまま別動隊になってもらいたいんだけど、できそうかな?」

「別動隊……」

「うん。こっちは人数が少ないからね。狼煙が上手くいったら、そのまま潜んで、後方から相手を攪乱してほしいんだ」

「なるほど……」


ロイズの提案に、四角い顔の将軍が目線を下げると、下顎を右手で触りながら考える。


「ですが、何をするにしても、さすがに人数が少ないと思うのですが……」


10人にも満たない人数で、何ができるのか?

顎を上げた将軍が、丸い(まなこ)をロイズに預けた。


「難しい事はしません。ただ、追手から逃れる技量を持った人選は、必要だけどね」

「そうですか……」


煙に巻かれた返答も、先の戦いを思えば認める以外にない。

軍務を司る男はゆるゆると顎を触って、適当な人選を行った。


「居るかな?」

「そうですな……騎馬戦になる可能性は、無いですか?」


グレンは一つを尋ねた。

浮かんだ人物は、馬の扱いは秀でても、武芸には劣るらしい。


「使うにしても、威嚇や囮くらいかな。突撃なんてことは、ありません」

「それであれば、選りすぐりの者を集めましょう。普段から遊撃隊を指揮する事の多い、メルクという者が部下に居ります。彼なら、適任でしょう」


ロイズの返答に、グレンは一人の名前を挙げてみた。


「グレンさんの推薦なら、間違いないでしょう。あとで足を運ぶよう、伝えて下さい」

「承知しました」


伏し目になった将軍は、快く了承の言葉を口にした――

お読みいただきありがとうございました。

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