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僕は声を届けたい  作者: mazicero
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プロローグ

 声優。

 それは元々、俳優が下積みとして海外ドラマや映画の吹き替えをしたのが始まり。

 つまり、俳優になるための一つのステップだと思われていた。

 しかし、今となってはそんな名残はない。

 声優という活動をしている人々は色々なことをしている。

 例えば、アニメやゲームのキャラクターの声、もちろん外画の吹き替えも担当している。そのほかにも、アーティストとして歌を歌っている人もいれば、ゲームを作る仕事をした人もいる。

 最近は少しずつだが、人気声優たちがテレビに出たり、雑誌に出たりもしている。

 その分、声優の認知度は高くなった。

 が、しかし、認知度が高くなるということは声優という活動をしたい人が増えるということにつながった。

 今では多くの声優プロダクションが世の中にあり、たくさんの『声優として活動したい人』がいる。そんな中で、声優の仕事の幅は広がったが、仕事の席が開かないようになった。そう。仕事の数に対して、人の数が増えすぎたのだ。

 声優にマルチな活動が求められるようになった今、人気声優と呼ばれる人たちは『声優として活動している人』の中でもほんの一握りしかいない。中には声優としての仕事がほとんどなくアルバイトで生きている人もいれば、夢みやぶれて挫折し、声優の世界から去ってゆく人もいる。

 だからこそ、声優という活動は憧れになるのだ。


 僕も、いつかあの人みたいな声優になりたい。


 そう思う人たちがたくさんいるのだ。


 ***


 僕も、いつかあの人みたいな声優になりたい。

 僕の声を、みんなに届けたい。


 僕は小さい頃にそう思った。

 今まで生きて来た短い人生の中で、僕は何度も声優になるか、安定を求めて会社勤めのサラリーマンになるかを悩んできた。

 いつ仕事がなくなるか分からない。

 そんな不安で悩んだこともあった。

 でも、今がある。今があるからそれで良い。今のうちに貯金をして、稼げるときに稼ぐ。それで良いと思っている。

 今ではそう思えた。

 だって、僕は声を届けたいからこの生き方を選んだんだ。

 今でも、不安になることがある。自分はこの生き方であっているのだろうか。

 そうやって、ずっと悩む。

 でも、その悩みを打ち払って、目を開ける。

 本番前。

 少し緊張の走る収録ブース。

 雲一つない青空と、燦燦(さんさん)と輝く太陽の眩しさが眼下の街を彩っている。

 僕はこの声をみんなに届けたい。

 こんなに綺麗な青空が広がっていること。

 太陽が眩しくて、でも、まだ抜けない寒さのせいで暑さを感じない。

 そんな感覚を届けたい。

 茜音(あかね)唯斗(ゆいと)

 それが僕の名前。昔は嫌いだったけど、今では誇らしくみんなに言える名前。

 届けたいんだ。

 この声を。

 カフボックスのレバーを上に上げれば、それで僕の声を届けられる。

 ブースとはガラス一枚を隔てた向こう側。そこにはディレクター、音響監督、脚本家。そのほかにも数名のスタッフがいる。

 本番開始十秒前の合図が出た。

 この合図が出れば、タイミングを合わせればいい。後は、僕が喋るだけでいい。脚本家の方には来てもらっているけれど、僕が今日話したいことを聞いた上で番組の段取りを整えてくれているだけだから、ほとんどが僕の自由だ。

 本番開始五秒前の合図が出た。

 この合図で、僕は呼吸を整えるために深呼吸をする。

 本番開始三秒前の合図が出た。

 この合図で、僕はカフボックスのレバーを握る。このレバーを握るだけで、僕はテンションが上がる。

 本番開始二秒前の合図が出た。

 だんだん世界がスローモーションで再生された映画みたいに遅く見えて来る。視界には一定いる物と心地の良い焦りで不安を抱きそうになる。

 でも、それは目を閉じて仕舞えば大丈夫。

 本番開始一秒前の合図が出た。

 目を開ける。キューボックスに出された表示がゼロになった。

 本番開始零秒前の合図が出た。

 レバーを上げる。

 ブースの外ではスタッフの方々が「頑張れ!」と応援してくれる。

 自分の思ったようにやれば良い。

 話し始めれば、怖さなんて、どこかに飛んでくれる。

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