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鬼畜道  作者: 山茂 二雄
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鬼退治

初めまして。二つの物語を同時に書き始めました。よろしくお願いいたします。割と救いがないダークな話が多めになる予定なので、ご注意下さい。※実際の仏教や民話、妖怪等と本物語は関係ありません。

 その日はとても昼間とは思えぬほどに暗かった。猛烈な風は吹き荒れ、滝の様な雨が地を穿つ。海は黒く、波は島を喰らう。


 もはや何処が海岸なのか、何処までが島なのかも分からぬ嵐の中で、2人の男と蜘蛛の様な大きな生き物が佇んでいた。何かを話している様だが、轟々と荒ぶ風に声はかき消され、男達も今にも吹き飛ばされそうだ。


「駄目だっ。俺が、俺だけが行くなど、できるかっ」


 一人の男が、岩にしがみつきながら、あらん限りの力を込めて、か細く叫ぶ。男は無造作に伸びたくすんだ赤い髪に、額には角の様な小さな突起があった。全身痩せこけ、ボロ布を纏うだけの貧相な、しかし、その燃える様な赤い目に強い意志と力を感じる男だ。


 赤髪の男を、もう一里の男が3本の腕で優しく肩を掴んだ。その男は全身血まみれで、良く見れば、先にはまだ腕があったのだろうと思われる千切れた腕も3本あった。肩で息をし、呼吸も苦しそうだ。


伽楼婆(がるば)様…あなた様だけでもお逃げ下さい。…閻魔(えんま)様が亡くなった今…十王も、もう誰もおられないのです…。我々には………ガルバ様しかいないのです……」

阿修羅(あしゅら)……だがっ!」


 赤髪の―ガルバと呼ばれた男が食い下がろうとするも、アシュラは地下へと続く洞窟の奥から光が近づいてくることに気がついた。追っ手だろうか。もう、時間は無い。


 アシュラは深呼吸をして、呼吸を整えると、真っ直ぐにガルバを見つめた。


「お逃げ下さい。あなた様だけが、鬼の希望です。それに、若い牛鬼(ぎゅうき)では、この嵐の中ガルバ様一人運ぶのも手一杯です。………お気になさらないで下さい。どのみち、もう私は永くありません。」


 皆が待っております、と穏やかにアシュラは笑った。


「アシュラ………」


 ガルバは酷く辛そうに顔をゆがめた。乾ききった肉体の、その目から流れる水は、果たして涙なのか、打ち付ける雨なのか。しかし、二人の別れを待とうともせず、洞窟の光は遂に入り口へと達した。


「おい、あそこにもゴミがあるぜ」

「あー?何やってんだ、あのカス共。面倒増やすなよ…」


 洞窟から腰に刀を携えた筋骨隆々な作業着姿の人間が二人出て、ガルバ達を捉えると、無駄口を叩きながら歩いてくる。


「ギュウキ、ガルバ様を連れて行きなさい!必ずお守りするのです」

「はっ!」


 アシュラはガルバの手を取り頭を下げると、満身創痍の体に鞭打って最後の力を振り絞り、守るべき者の為走り出した。


「ッ………アシュラ、すまないっ」

「ガルバ様、こちらへ」


 アシュラは、もう痛みすら感じていなかった。肉体はもう限界なのだろう。武器もなければ、余力も無い。人間を相手にしても、数秒も持たないだろう。だが、この嵐の海だ。数秒でも稼げれば、いくら人間と言えども、ガルバを追うことはできまい。


 アシュラは叫んで拳を振り上げた。いや、崩れかけた肉体が本当に叫べたのか、拳が持ち上がったのか、それすらアシュラには分からなかった。分かったのは、人間がただただ面倒くさそうに腰の刀に手を伸ばすと、首を斬られたのだろう、視界が回転したこと。もう幾ばくも数えるまでもなく、命は果てる。


 何かを守れたのだろうか。薄れ行く意識の中で、アシュラはそれを思った。


 全てを失った。奪われた。何も手には残らない。掴む手も無くなった。


 間もなく最後の瞬間は訪れた。暗転しゆく視界。もう何も見えない。全てが終わろうとしたその時、ガルバがギュウキに跨がり、海原を進む姿が見えた。静かな暗い海原に、ただただガルバだけが、太陽の様に美しく、輝いていた。


 一瞬にしてアシュラの脳裏に、忙しくも穏やかで平和だった日々が駆け抜ける。父の背中、母の温もり、エンマに仕えた日、妻を娶った日、娘が生まれた日、娘の夜泣きが酷くて悩まされた日々、一緒にピクニックに行った日、娘とガルバがエンマに悪戯して叱られた日………


―ガルバ様、あなた様ならきっと、大丈夫です。幸せを願っております


 全てが白く霞んでいく中で、妻と娘が笑顔で手を振っていた。エンマもいつもの思案顔で、でも笑ってこちらを見ていた。同僚の伽樓羅(かるら)乾闥婆(けんだつば)が酒を飲んで手招きする。


―あぁ、そこにいたんだ  全く、仕事をしなさい  私も そこ へ――――







――遠い過去、神話と呼ばれた時代、そう むかしむかし


  それは とてもむかしの おはなしです


  ある所に おじいさんと おばあさんが 住んでいました


  おじいさんは山へしばかりに おばあさんは川へせんたくに行きました


  おばあさんが川でせんたくをしていると ドンブラコ ドンブラコと 大きな桃が流れてきました


  ―まぁ なんて大きな桃でしょう―


  おばあさんは 大きな桃を持って帰って切ろうとすると なんと桃から大きな赤ん坊が


  赤ん坊は 桃から生まれた桃太郎と名付けられ 二人の下ですくすくと成長しました


  それから二十年の月日がながれました


  気がつけば桃太郎は もはやだれも手が付けられない 世界最強の男に成長しました


  ある日 桃太郎はとてもイライラしていました


  何もかもがムシャクシャします 自分の名前も気に入らないようです


  桃から生まれたら桃太郎なら 男は全員 股太郎に改名しろ と叫びました


  女子は とても口で言うには はばかる名前にしろ と叫びました


  それでも 桃太郎は気が晴れません


  桃太郎はきび団子で ほかくしたペットに 当たり散らしらしました


  イヌが毛皮に キジが鶏肉になりましたが やっぱり気が晴れません


  死の恐怖に怯えたサルは 身代わりに 鬼退治を提案しました


  こうして桃太郎は 鬼退治に出かけました


  世界最強の男に鬼達は 為す術もありませんでした


  とてもとても楽しい 鬼退治


  桃太郎は ちぎっては投げ 斬っては捨て 破壊の限りを尽くし 鬼達を服従させました


  この日、鬼達は桃太郎に支配され、人間の奴隷となったのです。


 それから、さらに6年の歳月が過ぎます。鬼達は過酷な労働を強いられ、虐待、差別に苦しみ、多くの命が散った。


 一際大きく、強く優しく、皆を鼓舞させ、守り続けたエンマも、人一倍過酷な労働の末に、遂に帰らぬ鬼となった。


 鬼達は全ての希望を失った。絶望の果てに、鬼達は嵐の日に反乱を蜂起した。したと思わせた。真の狙いは、人間達に素性を隠したお陰で一人生き残ったエンマの息子ガルバを混乱に乗じて逃がすことだった。


 多くの命を犠牲にして、ガルバはギュウキに捕まり、海へと飛び込む。それを見た人間の男が嗤う。


「ブハハハハハ!?なにあれ?逃亡?自殺?だっせぇー!」

「いや、ありゃ牛鬼だな。あれ、まだ在庫あったんだな」


 もう一人の男が額に手を当てて目を細めて見やると、そう言った。あれなら荒れ狂う海も進めるだろう。安い海の脚としてよく売れた。


「お?じゃぁマジで逃亡?いやー、駄目っしょ、駄目駄目」


 馬鹿笑いしていた男は辺りを見回して、人の頭ぐらいの手頃な石を拾うと、ガルバ目がけて投擲した。石は風を物ともせず真っ直ぐと進むと、ギュウキに直撃した。12ポンドはあろう石が高速で突き刺さり、ギュウキはバラバラの肉塊へと爆ぜる。


「よーっしゃ、ストラーイク!イェー!!」


 一発で命中させて気をよくした男はガッツポーズを取る。


「いや、当たったのは下だけで、上には当たってないぞ」


 ガルバは吹き飛ばされ、そのまま荒れ狂う黒い海へと飲み込まれたところだった。一瞬にして姿が見えなくなる。


「あー…。ま、乗り物はなくなったんだ。後は勝手に壊れるだろ。ほっとけ」


 もう興味は無いと言わんばかりに、ヒラヒラと手を振ると、男は歩き出した。


「それもそうだ。後は適当に見回りして、桃太郎様に報告すればお終いだな」


 もう一人の男もアシュラの遺体を蹴り飛ばして海に捨てると、歩き始める。もう、誰も気に止めない。残ったのは轟々と吹く風と、荒れ狂う波。すぐに男達の記憶からも忘れ去られるだろう。


 


 しかし、この日をきっかけに、後に神話と呼ばれた激動の時代は幕を開ける




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