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08 天国と地獄

 結局、少年少女たちは二手に分れて進むということでまとまった。


 右側の扉には、賢者科のンーイーンと、勇者科のライトニックをはじめとする、特待科の生徒たち。

 左側の扉には、普通科である2年D組の生徒たち。


 当初、2年D組の生徒のほとんどは、右側の扉に行きたがっていた。



「ゴリタン! いくらなんでもムチャだよ!? ラスト間際の言うことを信じるだなんて!」



「そうそう! だってコイツ、魔法も使えないし、剣の腕もへなちょこだし、何もできないんだよ!?」



「よくわかんないけど、ミニタウロスを倒したのも偶然だろ!?」



「それに相手は賢者科のンーイーン君だよ!? どっちの言ってることが正しいかなんて、わかりきってじゃないか!」



「うほっ! うるせえ、ごちゃごちゃ騒ぐなっ! お前ら、特待科のヤツらにヘコヘコ付いていって、悔しくないのかよっ!?」



「やっぱり! ゴリタンはラスト間際を信じてるわけじゃなくて、特待科に逆らいたいから、逆のほうを選んでるだけじゃないか!」



「うほっ!? そうだよ、悪いかっ!? もし間違っていたら、ギタギタにしていいぜ!」



 そこで言い争いの矛先は、いつもすみっこにいる少年に向けられた。



「アイツをな……!」



 クラスメイト全員から刺すような視線を向けられ、ボウイはすくみあがる。



「ええっ!? べ、別に、無理してこなくていいのに……!?」



「わぁい、ギタギタ、ギタギター!」



 いつの間にかボウイの隣には小学生くらいの女の子がいて、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。



「わあっ、キミ、誰っ!?」



「ナデナ!」



 と簡潔に答えた少女は、またしてもいつの間にかボウイの手を握りしめていた。

 「誰、あの子……?」とざわつくクラスメイト。



「格好からして、賢者科の小等部の子みたいだけど……?」



「でも、今日の実習は中等部だけのはずでしょ……?」



「あっ、わかった! あの子、最近、賢者科の中等部に飛び級してきた天才少女なんじゃ!?」



 ボウイもその噂は知っていた。

 まだ小等部の三年生だというのに、高等部の生徒以上の能力を持った賢者科の女の子がいると。


 しかしナデナと名乗ったその子は、とてもそんな風には見えなかった。


 年相応のあどけない顔は優秀さよりも可愛らしさにあふれ、仔犬の垂れ耳のように結ってある髪が幼さに拍車をかけている。

 服装は、賢者科の中等部の制服であるアカデミックブレザーなのだが、上着だけでスカートははいていない。


 まだ背が低く、スカートを着用すると長袴のように引きずってしまうので、上着をワンピースのように着こなしているのだ。


 しかしそれでも丈余りで、裾は膝小僧を隠すどころか地に触れるほどの長さ。

 袖もあまりに余っていてダボダボ。萌え袖を通り越して、博士のような袖になってしまっていた。


 しかしそのチグハグ感のある装いがまた、彼女の愛らしさを引き立たてているといえた。



「いやぁん、かわいい~!」「抱きしめちゃいたい!」「あぁん、ぷにぷにしてて、やわらそ~!」「おねえちゃんたちが、食べちゃうぞぉ~!」



 と黄色い声で集まってきたクラスの女子たちが、ボウイを弾き飛ばす勢いでナデナを愛でる。

 なにはともあれ、この少女の出現によって、クラスの殺伐とした雰囲気は消え去った。


 さらにナデナは、「ナデナ、おにいちゃんといっしょにいくー!」とニコニコ顔で宣言。

 天才少女がそう言うのであれば……と2年D組の生徒たちをみな納得させた。


 と、いうわけで……。


 右側の扉には、賢者科の生徒が29名、勇者科の生徒が30名の、総勢59名。

 左側の扉には、2年D組の生徒たちが30名、賢者科の生徒が1名、部外者が1名の、総勢32名。


 2年D組には重量級のゴリタンがいるが、27名ぶんの差を埋めるほどではない。

 ボウイはこの先の部屋は天秤のようになっていると予想していたので、異存はなかった。


 ふたてに分れた少年少女たちは、おのおのが選んだ扉の前に立ち……。

 両開きの扉を押し開いて、室内になだれこんでいった……!


 ゴリタンが先頭になって進んだ先には、一本橋のような通路があった。

 右手側を見ると、遙か遠くに同じような橋があって、その上には特待科の生徒たちの姿が。


 扉はふたつに分れていたが、出た先は同じひとつの部屋のようだ。

 しかし右と左に架けられた、橋と橋の間はかなり離れている。


 間の空間は吹き抜けのようになっていて、橋の手すりから身を乗り出してみると……。

 下のほうには水が張られてて、プールのようになっていた。


 全員が室内に入って、しばらく進むと……。



 ……ガコオンッ!



 と何かが外れるような音がした。


 そして、ボウイたちが進んでいた橋はゆっくりと浮き上がり……。

 特待科の生徒たちがいた橋は、逆に沈んでいく……。


 その様はまさに、巨大な天秤であった……!


 直前までは、余裕たっぷりだった特待科の生徒たち。

 しかしさすがに気付いたようだ。



「うっ……し、沈んでる!? 沈んでるぞっ!?」



「まさか、このままだったら……!?」



「水の中に、橋ごと落っこちるかもしれんぞっ!?」



 しかも、凋落が始まった瞬間から、下にある水が急に熱を帯び、とうとう沸騰しはじめた。

 むわっとした熱気と湯気がたちのぼり、優等生たちはさらに色を失う。



「お……おいっ!? み、水がお湯になったぞっ……!? 」



「これじゃ、本当に地獄みたいじゃないか!?」



「あのすみっこボーイが言っていたことのほうが、正しかったんだ!」



「あっ!? 熱い熱い熱いっ!? 熱いいいーーーっ!?」



 そして先を争うようにして、入り口へと戻ろうとする。



「どけっ、どけっ、どけえっ! こんな所で、溺れてたまるかっ!」



「溺れるどころか、煮えちゃうかもしれないわっ!?」



「俺が先だっ! 俺が先に逃げるんだっ!」



「痛い痛い痛い! 押さないで! 押さないでぇっ!」



「らっ……ライライライライライライっ! ライは鎧を着ているんだ! 沈んでしまうから、優先的に外に出させてくれっ!」



「ンンーン!? ンーは泳げないんですネェーっ!? だからンーのほうが優先なのですネェーっ!?」



 しかし、入ってきた扉はすでに、手の届かない位置に……!

 それでもあきらめきれず、蜘蛛の糸に飛びつこうとする餓鬼のように飛び跳ねる。


 お坊ちゃん、お嬢ちゃんとは思えないほどの、必死の形相で……!


 それは、とても特待科の生徒とは思えないほどの取り乱しようであった。

 かたや普通科の生徒たちは、天国の雲の上にいるかのように、その醜い争いを眺めている。



「うほっ! うっほっほっほっほっ! ざまあみやがれっ! やっぱり最後に勝つのは正義なんだ!」



「見ろよ! ライトニックのあの必死な姿を!」



「おーい! 昇天ソングを歌ってくれるんじゃなかったのかよーっ!」



 熱湯風呂に沈んでいく優等生たちが痛快でたまらなかったようで、ざまぁみろとばかりにヤジを飛ばしていた。

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