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06 ライトニック・ソング

 ボウイ少年が所属する2年D組、そのクラスメイトである少年少女たちは見ていた。

 いつもバカにしていた彼の手から竜の咆哮のような激烈とともに、爆裂が放たれるのを。


 2年D組といさかいになった時に、彼はいつもクラスメイトたちから離れた場所にいたので、『すみっこボーイ』と密かに呼んでいた、勇者クラスの少年少女たちは見ていた。


 いつもすみっこにいるはずの彼が、たったのひとりで……。

 それもたったの一撃で、強豪モンスターをノックアウトしたところを……!


 アーマード・ミ二タウロスは、例えるなら疾走する電車の屋根の上にいる最中、トンネルに頭をぶつけてしまったかのような倒れ方をしていた。


 頭だけが後ろに引きずられ、そのまま電車に置き去りにされてしまい……。

 高所から落下してレールの上に叩きつけられるような、ド派手な最後……!


 大の字のまま動かない、アーマード・ミ二タウロス。

 彼の怖ろしさを体現するのに一役買っていた、鋼鉄のマスクには丸い大穴。


 もはや生死を確かめる必要すらないのは明白であった。


 室内には他にも、勇者クラスが相手をしていた死にかけのミ二タウロスが1体残っていたのだが、それが片付けられると再びボウイに注目が集まる。


 最初に、ガシャンガシャンと鎧を鳴らして近づいてきたのは、ゴリタンことゴリラ・タンク少年。



「ウホッ! おいラスト間際っ! なんだ今の攻撃はっ!?」



 銃のとんでもない威力にも、少し慣れつつあったボウイは、待ってましたとばかりに答える。



「今のは……ラスト・マギアだよ」



「ウホッ!? ラスト・マギア!? ウソつけっ! この黒いのに、なんかとんでもない仕掛けがあるんだろう!? よこせっ!」



 ボウイの手から、力任せにハンドガンをもぎ取るゴリタン。

 見よう見まねで構えると、クラスメイトたちがカミナリを怖がるように身を縮こませた。


 しかしいくら引き金を引いても、弾は出ない。



「あの、申し訳ございません、ゴリラ・タンク様。ラスト・マギアはすべて生体認証により管理されておりますので、生体情報が適合しない場合、ご利用になれません」



「ウホッ!? なにワケのわからねぇこと言って……! ん……だ……?」



 ボウイの背後にいたコエに気付くと、ゴリタンの怒鳴り声は急速にしぼむ。


 いや、誰かがいることは知っていたのだが、いざその美貌を目の当たりにすると……。

 あまりの可憐さに見とれてしまい、思わずポッと頬を染めてしまっていた。



「ようは、ラスト・マギアへの適正がないと、その魔法触媒は使えないんだよ」



 ボウイが自分なりの解釈で補足するも、うわのそら。

 いつのまにか街灯に吸い寄せられる虫のように、多くの少年たちが集まってきている。


 その中から代表するかのように前に出たのは、ライトニック少年。



「ライライ。初めまして、レディ。ライは勇者の名門、サンダース家の跡取り、ライトニックと申します。ライライラライ。レディは魔導人形(ゴーレム)のようですね。ライライララライ。でも、こんなに芸術的なまでに美しいゴーレムというのは見たことがない。それにゴーレムというのは人間の言葉を話すことができない。ラライライライ」



 金髪を春雷のようにふわりと広げ、ボウ・アンド・スクレイプのお辞儀をするライトニック。

 そして顔をあげて、「ライ!」ときっぱりと一言。



「となると、残るはひとつ……! あなたはきっと、空から落ちてきた天使だ……! ワン・ツー・スリ・フォー!」



 突如として盾の絃をかき鳴らし、情熱的なステップを踏み始める。



「♪ライラ・ライラ・ライラ・ライ! ♪ライラ・ライラ・ライラ・ライ! 翼がないのがその証拠さ! ♪ライラ・ライラ・ライラ・ライ! ♪ライラ・ライラ・ライラ・ライ! キミのことならなんでもお見通しだよ! ♪ライラ・ライラ・ライラ・ライ! ♪ライラ・ライラ・ライラ・ライ!」



 その場にいた女性陣はみな、立場にかかわりなく毛を逆立たせた。



「ああっ、あれはっ!?」



「ライトニック様の、ライトニックソング!?」



「いつもなら、特別な時にしか奏でてくださらないのに!?」



「しかも、ラヴソング版だなんて……!?」



「♪ライラ・ライラ・ライラ・ライ! キミには『すみっこボーイ』の側なんて、似合わない……! だって美しい花は、痩せた地には決して咲かないからさ……! さぁおいで、ライという名の豊穣なる地へ……! ♪ライラ・ライラ・ライラ・ライッ!」



 踊りながら手を差し伸べるライトニック。

 その、女性ならば誰もが魅了され、手を取らずにはいられない求愛ソングに、コエは……。



「わざわざご丁寧に、ありがとうございます。それとご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。わたくしのほうからも、ご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか」



 全方位を見回しながら、ぺこりと頭を下げた。



「わたくしは、本日よりボウイ様……旦那様の専属メイドとなりました、コエと申します。不束者ではありますが、どうかよろしくお願いいたします」



 すると、ざわっ! とざわめきが返ってくる。



「う、ウソ……!? ボウイ君の、専属メイド……!?」



「あんな天使みたいな人が……!?」



「そう言われてみれば、メイド服みたいなのを着てる……!」



「う……うらやま! いや生意気っ! ラスト間際のクセしてっ……!」



 信じられないような声をあげるクラスメイトたち。

 勇者クラスはそれ以上の衝撃を受けたようで、



「ふ……普通科のクラスに通うような、庶民のクセして……!」



「あ、あんな……! あんな美人のメイドがいるだなんて……!?」



「しかも専属だなんて……! 勇者科に通う僕ら金持ちですら、夢のまた夢なのに……!」



「ずっとすみっこにいて目立たなかった、『すみっこボーイ』のクセに、生意気だっ……!」



 ……『ラスト・マギア』は、失われた古代魔法……。

 とは言われていたものの、信じている者はほとんどいなかった。


 サンタクロースなどと同じ、おとぎ話の世界で語られるだけの存在。

 幼い頃は誰もが夢みるものの、小等部にあがるころには卒業する。


 しかしボウイは中等部になっても『ラスト・マギア』を追い求めていたせいで、変人としての扱いを受けることが多かった。


 しかし今、彼に突き刺さっている視線は、明らかに別の(たぐい)のもの……。

 嫉妬や、羨望……!


 そんな目で見られるのは初めてだったので、ボウイは背中に当たり続ける好感触も忘れ、居心地の悪い思いをしていた。


 ちなみにではあるが、コエが自分のことを『AMR(アムール)』と呼ばなくなったり、ボウイのことを『旦那様』と呼ぶようになったのは、ボウイからメイド服を買い与えてもらったからである。


 AMR(アムール)は、所有者の側に常にいられることを欲求のひとつとして設計されている。

 そのため姿形だけでなく、性格をも所有者の好みに合わせて自律的に変化させるのだ。


 女性なら誰もがなびくであろう、勇者の名門の息子に誘惑されたところで、いたって事務的な対応となってしまうのは当然のことといえる。


 その第一のフラレ虫となってしまったライトニック。

 レディに取られる事のなかった手を、所在なく空中でさまよわせたあと、さりげなくごまかすように髪をかきあげたあと……。



「ライライ! じゃあ、ライたちがミ二タウロスを倒したことだし、それに新しい仲間も増えた! ライライラライ! 天使が舞い降りるなんて、実に幸先がいいじゃないか! ライラライラライ! それじゃあ諸君、遺跡の探索実習を再開しよう! さぁ、庶民たちよ、ライのあとに続くがいいさ! ライラライラライ!」



 彼の……いや、勇者たちの得意技である、『現実逃避』と『話題のすり替え』を披露した。

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