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05 もういちど攻撃魔法

 ボウイは柔らかさに包まれていたが、それどこではなかった。


 手の中にあるL字型の物体……コエ曰く、『ハンドガン』というものから立ちのぼる硝煙。

 そこから爆発的な威力の火の玉が出たのは、やはり夢ではなかったのだと、頭がクラクラするほどの衝撃を受けていた。


 しかしボウイ以上に驚いていたのは、少し離れたところでミ二タウロスと戦っていたクラスメイトたち。



「な……なんだ、今の……!?」



「すげーバカでっかい音がしたと思ったら……」



「ミ二タウロスが、ブッ倒れた……」



 もはや動くことのない大型モンスターに、驚愕はさらに広がっていく。

 あと少しで倒せそうな勇者クラスの面々も、虫の息のミ二タウロスにトドメを刺すのも忘れ、唖然としている。



「ま、まさかミ二タウロスを、一撃でっ!?」



「そんなバカな!? ミ二タウロスを一撃で倒すなんて、高等部の勇者にだって無理なんだぞっ!?」



「あの爆音……もしかして、大魔法か!?」



「大魔法にしては発動が早すぎる! それに発動の気配もなかったし……!」



「いったい、どこのどいつがやったんだっ!?」



「爆音はたしか、部屋の入り口のほうから……!」



 ……バッ!



 クラスメイトと勇者クラスが一斉に振り向いた先には、美しすぎる像に受け止められている少年の姿があった。



「ラスト間際……!? まさか、アイツがっ!?」



「そんなワケあるかっ! アイツは魔法科の授業に出てるけど、適正がまるでなくて、初歩の初歩の魔法である『発火(ファイヤリング)』ですらできないんだぞっ!?」



「じゃあ、いったい誰がっ……!?」



 ……ドガシャンッ!



 困惑を断ち切るかのような音が、部屋の奥から届く。



 ……ドガシャン! ドガシャン! ドガシャン!



 とてつもなく重く、巨大な鋼鉄が地を打つ音が断続的に続き、そちらに注目せざるを得なくなった。


 いま少年少女たちがいる部屋は、百メートル四方の広さがある。

 次の部屋へと続くであろう廊下の両脇には、高い鉄格子がふたつあって、さっきまで戦っていたミ二タウロスはそこから登場したものだったのだが……。


 新たなる巨影が、ぬぅと姿を現したのだ……!


 背の高さはミ二タウロスと同じくらいだが、体格はひとまわり大きい。

 無骨なシルエットの正体は、すぐにわかった。



「あっ……!? 『アーマード・ミ二タウロス』だっ……!?」



 誰かがそう叫んだ。


 『アーマード・ミ二タウロス』……ようは武装したミ二タウロスのことである。

 能力的にはミ二タウロスと大差ないのだが、その武装が何よりも厄介なのである。


 ゴリラ・タンク少年の全身鎧をそのまま大きくしたような鎧をまとい、手には街灯くらいある両手斧(ツーハンド・アックス)

 その斧をひと薙ぎされるだけで、クラスの半分くらいは戦闘不能になるであろう強敵。


 驚愕は恐怖へと変わる。



「うわあああっ!? まだミ二タウロスがいただなんて!? しかもずっと強いのがっ!?」



「アーマード・ミ二タウロスなんて、勝てるわけがないよっ!?」



「しかも怒ってる! 怒ってるよっ!?」



「きっと仲間を殺されたからだっ!」



 敗戦色を滲ませる彼らに向かって笑いかけたのは、勇者クラスのリーダー、ライトニック少年。



「ふふっ、ライライ! あのアーミニ君は、君たち庶民クラスを狙っているようだ、ライライ! キミたちが危惧するように、アーミニはそう簡単に倒せる相手じゃないからね、ライラライライ! このライたちがまとめて面倒を見てあげるから、キミたちは逃げるがいいさ、その貧相なしっぽを巻いてね! ライライラライ!」



 その言葉を受け、2年D組の生徒たちは一斉に逃げだそうとしたが、その前に立ちはだかったのは……。

 彼らのリーダーである、ゴリラ・タンク少年……!



「うっほおっ! おいっ、どいつもこいつもビビってんじゃねぇっ! ゴリがヤツの攻撃を引き受けるから、お前らは援護するんだっ!」



「そ、それはムチャだよゴリタン!」



「う、うんっ! いくらゴリタンが頑丈だからって、武器を持ったミ二タウロスの攻撃に耐えられるわけがない!」



「そうだよ! ライトニック君みたいに回避できないと、とてもじゃないと持たないよ!」



「うっほおっ!? うるせえっ、やってみねぇとわからねぇだろうがっ! ゴリは世界最強の盾役(タンク)になるって決めたんだ! だからあんな雑魚相手に逃げてるヒマなんてねぇんだよっ! うっほぉぉぉーーーっ!!」



 2年D組始まって以来のような最大のピンチに、喧々囂々(けんけんごうごう)のクラスメイトたち。


 その輪からだいぶ外れたところで、ボウイとコエはふたりだけの世界を作っていた。


 ボウイはコエに抱きとめられた流れのまま、背中を預けたままにしている。

 コエもそれが当然であるかのように、上質のクッションのように少年の身体を支えている。


 それはさながら、仲睦まじい坊ちゃんとメイドのようであった。



「す、すごい威力だね、この魔法……! これがラスト・マギアなの!?」



「はい。左様でございます、旦那様。あの、それと、申し訳ございませんでした」



「えっ、どうしたの?」



「『バントラン(シングルエス) 9821モデル』は、フルモデルチェンジをした都合上、特に反動が大きくなっております。後年のモデルでは解消されているのですが、それをお伝えするのを失念しておりました。そのため、こうして『補助』をするのも遅れてしまい……大変申し訳ございませんでした」



 『補助』と聞いて、肩甲骨のあたりにある、無限の柔らかさを再認識するボウイ。

 いつの間にか、硝煙の匂いが甘い匂いに置き換わっていて、今度は別の意味でクラクラしてしまった。



「あっ……そ、そう。あの……ところでこの、柔らかい感触は……?」



「そちらは、わたくしの胸でございます。本来の用途とは異なるのですが、緊急時には柔軟化し、旦那様のお身体を守るためのエアバッグとさせていただいております」



「……本来の用途って?」



「はい、それは」



「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」



 そこで起こっていたすべての会話は、蒸気機関車の汽笛のようないななきによって遮られてしまう。


 地面に大穴を残すほどの勢いで、アーマード・ミ二タウロスが突進を開始した。


 ある者は地に根を張るように身構え、ある者は優雅に髪をかきあげる。

 多くの者は逃げ出そうとしていた。


 しかし、交錯する幾多の思いを蹴散らすかのように、ミ二タウロスは……。



「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」



 集団から外れた場所めがけて、一直線っ……!



「う……ウホオッ!? どこへ行く気だっ!?」



「ライライ!? ゴリタン君ならまだしも、この剣客オーラあふれる、ライまでもを無視するとは……!?」



「あっ、ああっ……!? 見ろっ!」



「ミ二タウロスは、ラスト間際のほうに向かっていってるぞっ!?」



 少年少女たちの視線が、再び落ちこぼれ少年に集約する。



「わあっ!? こっちに来てるっ!? どっ、どうしようっ!?」



「落ち着いてください、旦那様。先ほどと同じように、そのハンドガンで頭部を狙ってくださいませ」



「でもアイツ、鉄のマスクを被ってるよ!?」



「ご心配には及びません。『バントラン』は(シングルエス)モデルでも、鋼鉄に対して50cm以上の貫通力(ペネトレーション)がございますので……」



「と……とにかくイケるってことだね!?」



 ボウイは話を打ち切ってハンドガンを構えた。

 その背後にいたメイドは、今度こそ正式な『補助』をと思い、旦那様の腰に手を回し、きゅっと抱きしめる。


 すでに少年にとっては意識の外だったのだが、傍からはとても大胆不敵なポーズに映った。



「な、なんだっ、アイツ……!?」



「アーマード・ミ二タウロスが迫ってきてるってのに、逃げもしないだなんて……!?」



「しかも、なんか構えてるぞっ!? まさか戦うつもりかっ!?」



「何の適正もない落ちこぼれのアイツに、敵うわけがないのにっ……!」



「しかも美人に抱きしめられながらだなんて、余裕たっぷりじゃねぇかっ……!?」



「な……生意気だぞっ! ラスト間際のクセしてっ……!」



 『ラスト間際』などという、不名誉なアダ名でクラスメイトからもバカにされていた少年。

 彼の『ラスト・マギア』がふたたびドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!


 先ほどの再現をするかのようにズダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーンッ!!!!

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