44 ポルターガイスト4
一撃必殺の攻撃を防がれ、ポルターガイストの取り憑いた宝箱は、驚愕したようにビクッと震える。
魔法の気配すら無いタダの薄布で、どうやって音速に近いコインを防いだのかと、ありもしない目をぱちくりさせているようだった。
しかし同時に、次の攻撃の準備を始める。
……ガション! ガション! と箱の中で装填するような音が響く。
しかもそれは、途中で漏れるようにブバッと放たれた。
……ドォンッ!!
殺人蜂のように再来する、黄金のつぶてたち。
ポルターガイスト的には、発射のタイミングをずらすというフェイントのつもりであった。
並の人間ならば引っかかって、今頃は蜂の巣に……!
しかしデヴァイスは、そんな浅はかな考えなど、とっくにお見通し……!
ボウイは視界に示されたタイミングにあわせ、マントを振るう。
……バッ!
紙より少し丈夫そうなくらいにしか見えない、その繊維は、
ジャランッ……!
と飛んできたコインを受け止め、一網打尽にし……!
……ジャララララランッ!
無力化して、バラバラと床に散らしていた。
とうとうムキになったポルターガイストは、狂った殺人鬼のように飛びまわりながら、ショットガンを放ちまくる。
……ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
四方八方から襲い来る散弾を、ボウイは何十頭もの闘牛を相手にしている闘牛士のように、いなしまくった。
……ジャランッ! ジャランッ!ジャラララランッ……!!
一発でも後逸すると、背後にいる女の子たちに被害が及ぶので、少年は気が抜けなかった。
その後ろ姿は実に必死だったが、同時に感動を呼び起こす。
少年の背後にい少女たちは、驚嘆の溜息を漏らしていた。
「す……すごい……!」
「あれだけの攻撃を受けても、なんともないだなんて……!」
「あんな布で、どうやって防いでるのかわからないけど……すごい……! すごすぎるよっ……!」
「それに見て! コインがキラキラしてて、綺麗……!」
「素敵……! まるで、福の神さまみたい……!」
「本当……! 打ち出の小槌を振り回してる、神様みたい……!」
商人科のクラスの少女たちには、今のボウイの姿は……。
宝船に乗ってやって来て、悪霊を軽々といなし……そしてお金まで落としていってくれるという神様同然であった。
少年の足元には、散らばったコインがどんどん積み上がっていたので、なおさらそう見える。
そして、ついに……、
……ジャラララララーーーーーーーンッ!!
ポルターガイストのすべての攻撃を、防ぎきった……!
攻撃手段を失った悪霊は、憑依体である宝箱を捨て、幽体に戻ってどこかへ消えていった。
「ふ……ふぅ……! やっと、終わった……!」
ずっと集中していたボウイは緊張の糸が切れ、目の前にあったコインの山に寄りかかる。
その山を崩しながら、コインの上に腰掛けた。
「たいへんご立派でございました、旦那様、お身体の方はなんともありませんか?」
後ろに控えていたコエがすかさずやって来て、少年の前に跪く。
どこからともなく取り出したハンカチで汗を拭い、扇のようなものでパタパタ仰いでくれた。
「あ、ありがとうコエ……」
しかしボウイは一息つくヒマもなく、新たなる衝撃が目に飛び込んできて、
「ぎょっ!?」
と思わず驚きが口を突いてしまう。
彼の目の前には、なんと……。
全裸土下座をする、商人科クラスの女生徒たちが……!
しかも勝負に負けて嫌々というよりも、自ら進んで額を床にこすりつけていたのだ……!
「ボウイはん……! ボウイはんは、神様やぁ!」
「うん……! 神経衰弱は11回連続でペアを引き当てるし……!」:
「ババ抜きに至っては、17回連続でババをよけてみせたし……!」
「それにそれに、布きれだけで、ポルターガイストの攻撃を、全部防ぎきるだなんて……!」
「神様としか、考えられないよ……!」
「うん……! 恐れ多くて、もう、まともに見られない!」
下々から、口々に起こる讃辞に、ボウイはどうしていいのか分からず、あんぐりと口を開けたまま固まっていると……。
……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
隠し部屋の壁が地響きとともにスライドした。
廊下側には、追い出された商人科クラスの男子生徒たちがいたのだが……。
心配になって覗いてみた彼らが目にしたものは……。
想像を遙かに超える、にわかには信じられない光景であった……!
「な……なんだ、こりゃあ……!?」
「すみっこのヤツが、山と積まれた金の上で、ふんぞりかえってるぞ!?」
「コエさんが跪いて、すみっこのヤツを仰いでる……!?」
「いやいやいや! それよりも……なんで女子全員が、ひれ伏してるんだ!?」
「そ、それも……全裸で!?」
「か、完全に、平伏してる……!?」
「うちのクラスの女子たちは、一筋縄ではいかず……たとえ賭けに負けたって、絶対に負けを認めないってのに……!?」
「いったい、なにをどうやったら、ここまで屈服させることができるんだ……!?」
「これじゃあまるで、ハーレム王みたいじゃねぇか……!?」
しかし王と呼ばれた少年は、心ここにあらずといった感じで、
「じゃ、じゃあ僕、このへんで行くね、行こうか、コエ」
「はい、旦那様」
第一夫人のようなメイドを引きつれ、そそくさと隠し部屋を出る。
「あっ!? 待ちいや、神様っ! わてとの勝負はまだ終わってへんでぇ!! 次は神様とコエはんをセットにしての勝負やぁ!!」
「さ、さよならぁぁぁぁーーーーーっ!!」
チャリンは裸足どころかハダカでも追いかけてきそうだったので、少年は走って隠し部屋を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
遺跡内をがむしゃらに走りまくったボウイは、ここなら大丈夫だろうというところまで逃げ切って、ようやく一息ついた。
「はぁ、はぁ、はぁ……隠し部屋を見つけただけなのに、まさか、あんなことになるだなんて……」
「大変でしたね、旦那様」
コエはあれだけ走っても息一つ切らさず、少年の背中をさすっていた。
「ありがとう、コエ。でもコエが買ってくれた布、凄かったね。まさか銃弾みたいなものまで防げるだなんて」
「ありがとうございます、旦那様。でも、布のほうは隠し部屋に置きっぱなしですが……」
「あっ、そっか、しまった! チャリンから逃げるのに夢中で、つい忘れてた!」
「わたくしが取ってまいりましょうか?」
「いや、いいよ。必要になったらまた買えばいいし。アレっていくらしたの?」
「はい、旦那様。10万ppでございます」
値段を聞かされて、ボウイは一瞬後ろ髪を引かれたが、300万ppも手に入ったし、まあいいかと思いなおす。
「そっか……じゃあ、そろそろ遺跡の探索を再開しようか、コエ」
「はい、旦那様」
再び二人きりになれたのが嬉しいのか、コエの声もどことなく弾んでいるようだった。
チャリン編はこれにて終了です。
そして次のネタが思いつくまで、少しお休みとさせていただきます。




