39 脱衣勝負3
商人科のクラス15人の女子が、上下1枚ずつの薄布を残して、大人と子供の中間のような、幼気な肌を晒す……!
白くて頼りない、または健康的ですべすべ、さらに活発な褐色の膨らみを包む、ふんわりとしたカップ。
若草を覆う霧雨のような、薄くて小さい下腹部の三角形……。
それらのデザインと、持ち主のリアクションはさまざまであった。
筆頭のチャリンはスポーティな下着で、もうやけっぱちなのか隠そうともしていない。
それ以外には、白やブルーやピンクのレースのブラ、リボンをあしらったブラ、横縞のパンツ、バックプリントの入ったパンツなど、バリエーション豊富。
恥ずかしくて腕を使って覆い隠し、膝をもじもじとこすり合わせる者。穴があったら入りたいとばかりに、その後ろに隠れる者。
逆にふざあい、膨らみをガッと掴んで揉みしだきあう者、後ろからホックを外してあわや丸出しになりかける者……様々であった。
どれもメリハリがあるとはいえない発育途上で、どれも青い果実のように未成熟であったが……。
おそろしく、魅惑的であった。
ボウイは直視できずにうつむきっぱなし。
本来なら純情な彼など、即座に卒倒していてもおかしくはないのだが……。
昨晩すでに、多くの女生徒の生まれたままの姿に目の当たりにしていたので、なんとか耐えられた。
「よぉーし、それじゃ勝負の続きをするで! 次はコレや!」
チャリンが取り出したのは、またしてもトランプの束であった。
しかし先ほどのものとはデザインが違い、裏面には何の細工もされていないもの。
「これで1対1のババ抜きをするんや! そしてこの勝負に勝ったほうが完全勝利! 負けたほうはスッポンポンになるんやでぇ!」
それはかなり理不尽なルールであった。
相手はあと2枚。コエはまだ1枚も脱いでいないのに、負けたら一気に全裸になってしまう。
しかし相手を直視すらできない少年に、交渉の余地はなかった。
彼としては、とりあえずこの肌色天国……いや地獄から脱出したかったのだ。
そんな彼のまわりに肌色過多の少女たちが迫ってきて、花園を作るように取り囲んだ。
いままではチャリンの後ろに控えていた少女たちが、なぜか彼のまわりに集まってきたのだ。
それも、肘を動かせば当たってしまいそうなほどの至近距離に……!
ボウイはあわてて身体を縮こませ、少しでも間を開けようとする。
「み、みんな、どうして僕のまわりに……?」
すると下着姿の少女たちは、妖艶な笑みを浮かべてボウイにしなだれかかった。
そして唇を寄せ、吐息混じりの色っぽい声で、こうささやきかける。
「私たち、すみっこ君のこと、応援したくなっちゃった……」
「そうそう……いいでしょう? そばで、こうしていても……」
「そのかわり……ほら、少しくらいだったら触ってもいいわよ……」
「私なんて、こうやって……腕に抱きついちゃうんだから……」
これはチャリンによって選ばれた精鋭たちによる、お色気作戦であった。
ボウイが非モテであること、は学園のみんなが知っている共通認識。
色香を用いれば簡単に惑わせると思っているのだろう。
その狙いは、効果てきめんに働く。
少年は剥き出しの柔肌に触れるたび、むせかえるような肌の香りを感じるたび、鼓動が青天井に跳ね上がっていく。
ババ抜きのために配られたカードも、まともに持てないほどに震えまくるボウイ。
対面のチャリンは、しめしめと笑った。
――うまくいったでぇ!
すみっこはんが奥手なんは知ってたけど……まさかここまで女子に弱いとはなぁ!
これなら、インチキなしのガチババ抜きでも、負けへんでぇ!
でも、もしものことがあるさかい、キッチリやっとかんとなぁ……!
現時点でババは、チャリンのほうにある。
しかし一度でもボウイが引いてしまえば、それで勝負は決する。
なぜならば、チャリンがクラスメイトをボウイに付けたのは、冷静さを奪うためだけではなかった。
彼女たちは、ドサクサまぎれにボウイの手札を覗き見し、アイコンタクトでチャリンにババの位置を知らせる役目でもあったのだ……!
なので、いちどババさえ送りつけてしまえば、あとは位置が丸わかり。
そしてババさえ引かなければ、このゲームにおいての負けは絶対にない。
――ふふふ、まさかすみっこはんが、わてのトランプの細工を見破るとは思わへんかったけど……。
これならトランプには何の仕掛けもないから、どうしようもないやろ……!
今はせいぜい、女子たちのサービスを存分に楽しむがええで……!
そしたら最後には、コエはんはわてらのもんになるんやからな……!
しかしいくらゲームが進んでも、ボウイは決してババを引くことはなかった。
何度か指をかけたことはあったのだが、ウサギのような用心深さで別のカードを引いていく。
すると、開始当初は余裕たっぷりだったチャリンにも、焦りの色が見え始める。
――な、なんでやっ!? なんでババを引かへんのっ!?
このままではマズいと思ったのか、突然のルール変更を声高に叫ぶ。
「こ……これからは、おのおのが選んだ2枚だけでババ抜きをするんや! 引かせる側は好きなカードを選んでええっちゅうことで!」
ババ抜きというのは手札ぜんぶを相手に提示して、その中から選ばせるというものだが……。
その選ばせるカードを、2枚に絞るというのだ。
理由としては単純明快である。
手札を2枚に制限してしまえば、相手にババを引かせる確率を常に50%にすることができるからだ。
しかし、さすがにそのルールはボウイも反対するだろうと、チャリンは思っていた。
それでも肌色の力を借りて、無理やり押し通すつもりでいたのだが……ボウイはあっさり承諾してくれた。
そして始まる、敗北の確率が2分の1まで高まった、危険なゲーム……!
ボウイ側はいちどでもババを引いてしまえば、ジ・エンド……!
しかし不思議なことに、死の2択を何度迫っても、少年は幸運の女神に導かれるように、常にババじゃないほうを引いていた。
これには、周囲にいたお色気担当たちも、本来の目的を忘れてしまう。
上気した肌が、すっと冷えていくのを感じていた。
「な、なんで……?」
「なんでここまで、ババを引かないの……!?」
「ああっ、また、ババじゃないほうを……!」
「これでもう、15連続よっ!?」
「すごい、それって確率でいうと、どれくらいなの!?」
一斉に頭の中のソロバンを弾き始める少女たち。
しかし、輪の外にいたコエが、
「はい。2分の1の確率で、15回連続で当たりを引く確率は0.003パーセントです。32768分の1の確率でございます」
まるで電卓のような素早さで、すんなりと答えていた。




