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38 脱衣勝負2

 裏面に何のカードかが書かれているという、丸出し神経衰弱を前に、少年は困惑しきりだった。



 ――ねぇ、コエ。もしかしてこれも、ラスト・マギアの力?



 脳内で、背後にいるメイドに問いかける。



 ――はい、旦那様。文字が浮かび上がって見えるのは、ラスト・マギアの偏光調整によるものでございます。ですが、トランプの裏面に文字を書かれたのは、おそらくチャリン様かと思われます。



 ――え? それってどういうこと?



 ――はい。トランプの裏面に使われているインクは、人間の肉眼では見えにくいインクでございます。そしてチャリン様のお召しになっているメガネの透過率と光の反射率を分析したところ、そのインクを見ることができる、特殊な偏光メガネでした。



 お人好しのボウイであったが、そこまで説明されてようやく察する。



 ――そうか、チャリンはインチキしようとしていたのか!



 ――おそらくですが、左様かと思われます。



 ――なんだ、そっかぁ……! なら、遠慮はいらないね!



 それで、少年の一気に迷いは一気に吹っ切れた。

 床に伏せられたトランプに向かって前のめりになると、両手をつかって連続でカードをめくっていく。



「えっ!? ちょ、すみっこはん!? いったい、どないして……ああっ!?」



 少年の手によって次々と表になっていくカードは、すべてペア……!?

 チャリンをはじめとする商人クラスの女子生徒たちは、瞬きが止まらなくなってしまう。



「えっ!? えっえっ!? えええええっ!?」



「またペアだっ! 次も! また次もペアだよっ!?」



「な……なんで適当にめくってるのに、全部当たってるの!?」



「ま、まさかっ……!」



 チャリンは最初は呆気にとられていたが、ハッとなにかに気付くと、



「す……すみっこはん! あんさん、ズルしとるやろっ!? そうでなきゃ、こんなに連続で当たるわけがあらへん!」



 ボウイはカードをめくる手をピタリと止めると、顔をあげる。

 そして、うそぶくように、



「ズルって、いったいどうやって? トランプの裏に何のカードか書いてあるとでもいうのかい?」



「うぐっ……!?」



 グサリと胸を突かれたように、苦しげな表情を浮かべるチャリン。

 しかし突然、床のトランプめがけて腹ばいになると、



「よ、よくわからんけどこの勝負、とにかくナシや! ナシナシっ! やりなおしや、やりなおしっ!」



 泥遊びするワニのようにトランプを散らし、場をメチャクチャにしはじめた。

 ボウイは気にする様子もなく、わざとらしい声をあげる。



「あーあ、しょうがないなあ。やり直すのは別にいいけど、でもそれまで当てた分は脱いでもらわないと。ねえコエ、僕は何ペア達成してた?」



「はい。10ペアでございます、旦那様」



 ボウイは別に意地悪をするつもりではなかった。

 ましてや同じ学校の女子の裸が見たいわけでもなかった。


 こう言えば、チャリンも勝負をあきらめてくれるだろうと思っていたのだ。


 しかしチャリンは、バッ! と獲物に飛びかかるワニような体勢になると、



「え……ええで! その条件、飲んだるわ! そのかわり、勝負続行やで!」



 これはボウイよりも、まわりにいるチャリンのクラスメイトたちのほうが仰天していた。

 特に、チップとなっている女子たちが。



「ええっ、チャリン、本気なの!?」



「10枚も脱ぐなんて、嫌よっ!」



アレ(●●)がバレちゃったんだったら、勝負を続けても勝てないわよ!?」



「えーから! わてに任せとき! ぜったいに、コエはんを手にいれたるさかい!」



 チャリンは女子たちを強引に説き伏せていた。

 そして思わぬ役得となったのは、ボウイ以外の男子たち。



「おいおい、勝負続行だってよ!」



「コエさんだけじゃなくて、女子のハダカが見られるだなんて……!」



「こりゃ、思わぬタナボタじゃねぇか……!」



 彼らはこの場にいる15名、コエも加えた16名の少女たちの柔肌を思い浮かべる。

 酒池肉林のようなその光景に、まだ想像の段階だというのに前屈みになっていた。


 しかしその空想は、クラスのリーダーの無情なる一言により、パチンと弾けてしまう。



「それじゃ、すみっこはん以外の男子(おのこ)たちは外へ出てってや!」



「ええっ!? なんでだよ、チャリン!?」



「俺たちも同じクラスメイトじゃねぇか!」



「そうだそうだ! この勝負、最後まで付き合うぜ!」



「何もせんと美味しい思いをしようったって、そうはいかんでぇ! そんなに見たいんやったらなぁ、ゼニやゼニ! ゼニよこしや!」



「そんな! 俺とお前の仲じゃねぇか!」



「そうだ! なら俺たちも一緒に脱ぐぜ! それならいいだろう!?」



「まぁ、それなら……って、やかましいわ! ゼニ払わんのやったら、さっさと出ていき!」



 ナニワン特有の、ノリツッコミを交えつつも……。

 商人科の男子たちは全員、外の廊下に追い出されてしまった。


 残ったのは、ボウイとコエ、チャリンをはじめとする15名の女生徒たち。



「え、えーっと、別に、無理しなくても……」



 女だらけの密室で、少年はタラリと冷や汗を流す。



「無理なんてしてへんわ! ええか!? 約束どおり、わてらが10枚脱いだら勝負続行やでぇ!」



 15名の女生徒たちは、ザッと一斉に立ち上がると、今度は勿体つけることもせず、いちどきに服を脱ぎはじめた。

 「わあっ!?」と背中を向けるボウイ。


 まず、革鎧の留め金をカチャカチャ、パチンと外したあと、脱皮するようにバンザイして外す。

 窮屈さから逃れ、ぷはあっとひと息。ほんのりと上気した二の腕と、鎖骨が露出する。


 ちょっと蒸れたタンクトップも脱ぐと、湯上がりのような、つるんとした卵肌。


 いよいよショートパンツのベルトを外し、いったんボウイの背中をチラと見たあと、思いっきってずり降ろした。

 ムダ毛のないほっそりした脚が、白木の林のように並ぶ。


 少年はその一部始終を目にすることはなかったが、背後から届く音はすべて耳にしていた。


 しゅるしゅると肌を滑る衣擦れの音。ぱさりと床に落ちる音。

 そして衣類がキツいのか、「んんっ……」「うぅん……」「あんっ……」などと、悩ましげな声とともに身体をよじる音。


 やがて聴覚だけでなく、嗅覚でも感じる。

 むせかえるような肌の匂いが漂ってきて、背後が肌色一色に染まっていくがわかった。


 まるで女子更衣室の中にいるかのような気分になって、少年はドギマギが止まらない。


 コエは正座したまま、女生徒たちの脱衣をじっと見つめていたが、なぜか身体じゅうが痒いかのように、ムズムズさせている。

 やがて、いてもたってもいられない様子で、



「あの、旦那様。チャリン様たちのお召し物をたたませていただいてもよろしいでしょうか?」



 どうやらメイドは、脱ぎ捨てられた服が散らばったままになっているのが、我慢ならないらしい。


 ボウイが許可すると、彼女はそそくさと立ち上がる。

 女の子のたちの服を拾い上げては、混ざらないようにひとりひとりきちんとたたんでいた。


 やがて「ええで!」と威勢のいい声がかかる。

 ボウイがおそるおそる振り返ると、そこには……。


 下着姿の女の子たちが、揃い踏みっ……!

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