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37 脱衣勝負1

 なし崩し的に、ボウイはチャリンと脱衣勝負をすることになってしまった。


 チャリンは勝手に、自分も含めたクラスの女子の脱衣を宣言したので、総スカンを食らうかと思っていたのだが……。

 商人科の女子生徒たちは、特に文句を言うこともなく承諾していた。


 それどころか、



「コエさんをゲットしたら、うちらの店にも回してよね!」



「コエさんがお店に来てくれたら、きっと大助かりだわ!」



「ナイス、チャリン! さすがクラスのリーダー!」



 と、チャリンを褒め称える始末。

 そして思わぬ役得に、男子生徒たちはみんな鼻の下を伸ばしていた。



「へへ……まさかこんな所で脱衣勝負が始まるだなんて……!」



「コエさんみたいに綺麗な女の人のハダカが拝めるなんて、ツイてるなぁ!」



「チャリンも、たまにはいいことするじゃねぇか!」



 と、こちらも大好評。

 商人科の生徒たちはみな、もう勝った気でいるようだった。



「それで、どんな勝負をするの?」



 ボウイが尋ねると、チャリンはニヤリと笑いながら、「これや!」とトランプの束を取り出した。


 商人は客商売だけだって、人との交流を重視する職業でもある。

 まず仲良くならなければ、商売も情報交換もできないからだ。


 そのコミュニケーションを円滑にするためのツールとして、彼らには『酒』と『ギャンブル』というものがある。

 『酒』はまだ未成年なのでともかく、『ギャンブル』はうまく使えば相手の心に入り込むことができる優れモノ。


 なので彼らはどこへ行くにも必ず、『トランプ』『サイコロ』『コイン』を持ち歩いている。

 その3つがあれば、世界中のどこへ行っても賭け事ができるからだ。


 今いるのが遺跡という場所だったので、ボウイはてっきり短距離走とかそういう種目が出てくるのかと思っていたのだが……。

 走るよりは勝てそうだったので、トランプ勝負を受け入れる。



「トランプかぁ。あんまり得意じゃないけど、いいよ。で、トランプのなにで勝負するの?」



 するとチャリンは「これや!」とトランプの束を高く掲げたあと、メンコのように床にたたきつけた。



 ……ばさっ!



 とあたり一目にぶちまけられるトランプの裏面。



「やるのは『神経衰弱』や! ペアを取るごとに、相手が1枚脱ぐ! すみっこはんがワンペア取った場合、わてらクラスの女子全員が1枚! わてがワンペア取ったら、コエはんが1枚! それで脱ぐものがなくなった時点で負けや!」



 勝負のルールは至って単純だった。

 ボウイはいちおう、後ろに控えていたコエに確認を取る。



「コエ、それでいい?」



 するとコエは、なぜかボウイの足元にひれ伏し、土下座していた。



「誠に申し訳ございません、旦那様……。わたくしがあんなことを申し上げてしまったせいで……」



 ボウイはしゃがみこんで、彼女の顔を上げさせる。



「そんなに気にすることはないよ、コエ。っていうか、負けたらコエが脱ぐことになるんだけど……大丈夫?」



 するとメイドは、頭から蒸気を出しそうなくらいに赤面する。



「はっ、はひ、旦那様。だっ、旦那様のご命令とあらば……。わたくしは、どんな羞恥にも、耐えてごらんにいれます……」



 コエは有能な秘書みたいにいつも冷静沈着なのだが、とにかく恥ずかしがり屋のようだ。

 なんだか気の毒なくらいうろたえていたので、ボウイは彼女に代わって、負けたら自分が脱ぐことを宣言したのだが……。


 泣き顔でコエにすがりつかれたうえに、商人科クラスの男子全員から反対されてしまったので、引っ込めざるをえなくなってしまった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 隠し部屋の地べたに座りこみ、散らばったカードを挟んで向かいあう、ボウイとチャリン。

 少女商人は不敵に、フフフ……と笑いながら、譲るように手を差し出す。



「すみっこはんが先手でええで」



 しかし、少年は浮かない顔だった。



「……いいの? 僕が先にやっちゃっても?」



 「ええで」と頷き返す少女。



「……本当に? 本当にいいの?」



 すると少女はムッとした表情になって、



「しつこいなぁ、ええって言うとるやろ。さっさとやりいな」



「わ……わかった、そこまで言うなら、僕のほうからやるよ」



 ボウイは「いいのかな?」みたいな表情で、伏せられたカードを1枚選び、めくる。



「ダイヤの7とは、幸先ええやん。わてら商人にとってはダイヤのカード、とくに7がいちんばん縁起がええ言われてるんやで」



 メガネごしの瞳を、羨ましそうに細めるチャリン。

 商人たちはこうやって、ギャンブルを通じて相手とコミュニケーションを取るのだ。


 「そうなんだ……」とボウイは気のない返事をしながら、迷わず2枚目をめくる。

 ダイヤの7だった。



「ええっ!? いきなりワンペア!? な……なかなかやるやん、すみっこはん!」



 52枚のカードから初手でペアを引き当てるのは、事前情報がないためかなりの低確率となる。

 そんな奇跡を起こしたというのに、ボウイは「そうかな」と気もそぞろ。



「ごっついラッキーやけど、しゃあないな! おいみんな、1枚脱ぐでぇ!」



 それまで少年は、妙に冷めていたのだが……彼女の台詞で、急に意識する。

 目の前のいる賭け銭(チップ)たちを。


 おだんご頭に大きな丸メガネ、動きやすそうな皮鎧を身にまとい、ショートパンツとハイソックスにブーツのチャリン。


 そしてリーダーの後ろに控えた、14人もの女の子たちが……。

 立て膝で座っていた彼女たちが一斉に、立てていたほうの脚を艶めかしくあげたかと思うと……。



 しゅるりっ……!



 とブーツの紐をほどき……。



 ぽろりんっ……!



 と脱ぎ捨てた。


 ただ片方の靴を外しただけだというのに、女の子に免疫のないボウイはそれだけで脈が乱れてしまう。


 かたや彼女たちは、負けたというにまだまだ余裕の表情。



「さぁ、すみっこはん、当てたんやから、次もあんさんの番やで」



 少年は、頬が熱を帯びていくのを感じながら、ぎこちなく頷き返す。



「う、うん。でも、続けちゃって、本当にいいの……?」



 ボウイはずっと煮え切らない態度だったので、少女はいい加減キレてしまった。



「もう! 何やねんさっきから!? 当てたら続けられるルールやろ!? 神経衰弱やったことないんか!? さっさと次のカードをめくりや!」



 ばしん! と靴下の足を床にたたきつけられ、ボウイはビクッとなる。



「わ、わかったよ……」



 しかし本心では納得いってないようで、心の中でつぶやく。



 ――でも、本当にこのまま続けちゃって、いいのかなぁ……?



 彼がためらい続けるのも、無理はないだろう。


 なぜならば、少年の視界から見えている、カードの裏面には……。



 『ダイヤのエース』

 『スペードの4』

 『ハートのクイーン』

 『クラブの10』



 などと……。

 蛍光色に光る文字が乗っかっていて……何のカードか、丸出しだったからだ……!

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