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15 キャンペーンコード

 昼食を終えたボウイはナデナと別れ、ふたたび2年D組のクラスメイトと合流。

 テーブルの広間を出て、遺跡のさらに奥を目指して進んでいた。


 いますすんでいる廊下は前面、通気口のような格子状になっていて、歩くとカンカンと金属音がする。

 クラッグも食べて元気いっぱいになったゴリタンは、その足音を伴奏がわりに、耳を覆いたくなるような下手な歌を高らかに響かせながら進軍していた。


 やや迷惑そうな顔で、クラスメイトたちが続く。


 いつものように最後尾にいたボウイはというと……。

 目に違和感を感じて、手で擦っていた。



「旦那様、どうかなさいましたか?」



 主人のわずかな仕草も見逃さないコエが尋ねる。



「いや、なんだか目が変なんだ、文字みたいなのだが浮かび上がってきてて……」



「それでしたら、頭部デヴァイスのセットアップが進捗しているのだと思います」



「セットアップが進捗?」



「はい、頭部デヴァイスは、ラスト・マギアをご使用になる方の脳波や脈拍、血流などに限らず、各種神経系にもアクセスいたしますので、お身体に馴染むまで多少お時間がかかります。それをセットアップいうのですが、それは段階的に行なわれ、お使いいただけるようになった機能から、順次ご案内させていただく仕組みになっております」



「そうなの? いま、僕の目の前には……『ステータスディスプレイ解放』ってのと、『コードサーチ機能解放』って文字が浮かび上がってるけど……」



「はい、『ステータスディスプレイ』は旦那様の状態などを表示する機能です。『コードサーチ機能』というのは、視界内にあります『コード』をご案内させていただく機能でございます」



「『コード』って?」



 歩きながら尋ねていたボウイの視界の隅で、何やら青い光の正方形が現れ、壁の一箇所に向かって収束していくというアニメーションを繰り返しはじめた。

 まるで同じものが見えているかのように、コエが説明を続ける。



「あっ、さっそくコードが発見されたようですね。もしご興味があるようでしたら、お近くで『サーチ』されてみてはいかがでしょうか?」



 もちろん興味がないわけがない。

 ボウイは喜び勇んでクラスメイトたちの群れから離れ、青い光に誘われるまま、通路の端へと向かった。


 彼はいつもそんな感じでフラフラしているので、気付いたクラスメイトがいても、誰も止めようとはしない。



「ラスト間際のヤツ、またすみっこのほうに行ってる」



「あんなだから特待科のクラスのヤツらから、すみっこボーイなんて言われるんだよ」



 そんな聞こえるような陰口も、もう少年の耳には入っていない。

 壁に彫り込まれた『コード』に夢中だった。



「これが『コード』かぁ……! 街中とか遺跡でちょくちょく見かけることがあったけど、『コード』って言うんだ……!」



 ほうほうと唸りながら、いろんな角度から『コード』見回すボウイ。


 『コード』は古代文字とはまた違った形状をしており、幾何学模様の古代文字に比べてより記号的というか、いくつかの記号のパターンを組み合わせて表現されている、まさに暗号(コード)であった。



「で、これはどうやったら読めるようになるの?」



「はい、そちらのコードに向かって、デヴァイスを装着されている手のほうをかざしていただけますでしょうか。するとコードスキャンが実行され、読み取った内容が旦那様の(ヘッド・)(アップ・)(ディスプレイ)に表示されます」



 相変わらずコエの説明は専門的というか未来的で、ほとんど意味がわからなかった。

 だがボウイは言われるがままに、コードに向かって左手をかざす。


 すると、壁に彫り込まれていたコードに、走査線のような光の筋が入ったあと……。

 あたりが急に真っ暗になり、



 ……ダラララララララララララララ……!



 ドラムロールのような音が聞えてきた。



「えっ!? 急に灯りがっ!? それに何!? この音っ!?」



 突然の異変に取り乱すボウイ、しかしコエは落ち着いた声でなだめる。



「ご安心ください。こちらは『キャンペーンコード』と申しまして、スキャンしたコードに応じ、いろいろな特典が旦那様にプレゼントされるというものです。暗さと音楽は、その演出でございます」



 なにがなんだかわからなかったが、



 ……ジャーン!



 というシンバルの音のあと、ボウイの目の前にコロコロと玉が転がってきて、パカッと割れ、



『当たり! 10ppプレゼント!』



 という、地味な文字が飛び出した。



「10ppが当たりましたね、おめでとうございます」



 コエがぱちぱちと、控え目な拍手をくれる。

 『10』という文字が移動し、ボウイの視界の隅にあった数値の羅列に移動する。



「『pp』って……?」



「『パラダイスカイポイント』の略称です。パラダイスカイストアでお買い物をされる際に必要となる、ポイントでございます」



 その説明でピンときた。

 初めてパラダイスカイストアで、コエのメイド服を買ったときに、



『5,000ppで購入しますか?』



 という文字が出ていたことを。

 あの時は無我夢中で気にも止めていなかったのだが、どうやらあの分のポイントを消費して、買い物をしていたらしい。


 ボウイの視界の左上の隅には『685,010pp』とある。

 おそらくこの数値が、いま現在所有しているppの総量なのだろう。



「旦那様がお使いになられているデヴァイスは、初期状態として100万ppぶんのポイントがバンドルされたモデルです。これまでに何度かお買い物をされたので、減ってはおりますが……いま10ppが加算されました」



「このppってのは、どうやったら増えるの?」



「はい、主に2種類の方法がございます。受動的なものとしては、デヴァイス経由での体内電気や血液の提供。そしてクラスターシステムへの参加などがございます。こちらはいちど設定していただければ、旦那様は特別なことをしなくても自動的に実行され、そのぶんの報酬としてppが加算されます。設定なさいますか?」



 ボウイは、ppはパラダイスカイストアで買い物をするための通貨というのは理解できた。

 となるとラスト・マギアを深く知るためには、必要不可欠なモノということになる。


 ボウイは一も二も無く頷いた。



「うん、お願い。それと、能動的なものはどんなものがあるの?」



「はい。基本的なものですと、施設の探索、モンスターの討伐、宝箱の取得などの報酬によって加算されます。少し変わったものですと、先ほど旦那様がなされました、キャンペーンコードのスキャンなどの、パラダイスカイ社のキャンペーンの参加によっても、加算される場合がございます」



「ふぅん……。ってことは、この遺跡を探索して、モンスターを倒したり、宝箱やコードを見つけたり……ようは冒険者と同じことをすればいいわけだ」



「左様でございます」



 合点のいったボウイは、いままで以上のやる気を奮い立たせる。

 そしてふと、『pp』の下にある、もうひとつの数値に気付いた。



「『lsp』……?」



「はい、そちらは『LKSK(ラキスケ)』ポイントとなっております」



 そういえば以前、コエのスカートが短くなったときに、そんな単語が出てきたような……。

 と、少年は思った。

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