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秘境案内人  作者: じょー
5/11

第5巡り 計画前夜

お待たせしました!

よろしくお願いします!(´ω`)

 


 お店のスペースではない、いわば社員達の寝泊まりする場所にあるキッチンや風呂場、他の人の部屋の場所を案内してもらい、最後に今日から僕が住む部屋へと案内して貰った。



「入ってくれ。寝具、机、本棚……まぁ今の所はこれしか無いから、必要な物は自分で(そろ)えてくれ」

「あ、はい。ありがとうございました……っと、荷物置いて来たままでしたっ!! ちょっと、取ってきます」



 さっきまで居たウィズダさんの部屋に荷物を取りに戻り、すぐに戻ってきた。すぐに戻ってきた理由は簡単……捕まると長いからだ。

 それに、一応ではあるが……このお店に(やと)って貰えた事を手紙で家族に報せなければならない。お店の事はボカして、従業員についても心配されない為にボカすとすると、伝えられるのは本当に、雇って貰えた事だけになるかもしれない。



(その前に手紙セットを買いに行かないとな。次の休み……そう言えば仕事割(シフト)はどうなっているのだろうか?)



「あの、ニオンさん。明日からですが……」

「あぁ、そうだね。それはとりあえず、夜のご飯時に話そう。うちのお店は可能な限り全員で食事を取る。時間は決まっているから忘れない様にするんだぞ……時間は七時に食堂に」

「分かりました。では、それまで……荷解(にほど)きしてますね」



 ニオンさんが部屋を出て、この店に来てからようやく一人になった。

 一人になると、どうしてもアレコレと考えてしまう。今の事、これからの事。仕事や仕事以外の事。



(明日の事を話すとは言っていたけど……仕事大丈夫なのかなぁ?)



 ウィズダさんは仕事が無く趣味に走っているし、キングさんはトレーニング……双子のランドルフさんとジョセフィーヌさんは何をしているか分からない。

 よく、これだけの人材が集まって崩壊(ほうかい)しないと驚くが……。



「いや、考えるのは()めよう。それよりウルルと話してた方が有意義だ」



 ◇◇◇



 片付けもソコソコに、部屋の窓を開けて空気の入れ換えをしようと思って窓を開けると、キングさんのトレーニングしている姿が見えた。

 たまに気合いの入った雄叫(おたけ)びが聞こえてくる。僕はそっと窓を閉めて、ウルルを呼び出した。



『トウ……ジ!!』

「こ、こら……ウルル、頭の上で飛び跳ねないで!!」



 手の上に移動して貰い、ウルルをよく観察すると……やはり気のせいじゃない。ウルルは初めて会った時より少し大きくなっている。



「ウルルは水精だったんだなぁ」

『エヘヘ……トウジは……人族』



 まだ上手に話せないのか、それともそもそもこういう話し方なのかは分からない。でも、ウルルと会話が出来る……今はそれだけの事がとても嬉しかった。

 それからウルルと色んな事を話して、お互いの事について語り合った。ウルルはあまり自分の事が分からないみたいで僕の話を聞く方が多かったけど。



「じゃあ、ウルルは空気中の魔素が必要な生命体なんだね。使い過ぎ無いように気を付けないと……」



 空気中の魔素は魔法を行使すれば薄くなる。薄くなればそれだけ魔法を発動するのが難しくなり、それが魔法の上手い下手に……才能に(つな)がる。要は、効率的に魔素を操れるかどうかが、肝心なところだ。

 ちなみに、僕は一番得意な水魔法ですら効率が悪い。つまり、才能が無い――いや、無かった。

 今はウルルがそれを補ってくれているから、僕はウルルとイメージの共有(パス)を繋げれば良いだけ。



『トウジ……いっしょ』

「うん、これからは一緒に観光案内を頑張っていこうね。水場にも沢山行って、綺麗にしていかなくちゃ」



 まだまだ汚れている水場は在るだろうし、誰にも知られてない水場を発見したい気持ちはある。

 せっかくウルルに貰った(スキル)がある。やりたい事もある。だから、やれる環境を整えて、頑張らないとな。


 そんな事を考えていると、不意に部屋のドアがノックされた。



「ちょっと、居るんでしょ!! 飯の時間よ」

「あ、キョーカさん……今行きますっ」



 粗暴な感じ、まさに冒険者然としたキョーカさんだ。この人とペアを組むみたいだが、そこも不安なポイントだ。主にチームワークに関して。



 ◇◇



 キョーカさんを先頭に、一言も話さず食堂に着いた。キョーカさんの呟き『何で私が呼びに行かなきゃ……ちっ』は、決して会話では無いから何も話していない。


 食堂では、ニオンさん、ウィズダさん、ランドルフさんにジョセフィーヌさん、キングさんが先に揃っていた。

 机の上には、一般家庭の夜ご飯にすれば豪華過ぎるメニューが既に用意されていた。量の多さはキングさんの存在があるお陰で、あまり気にならない。



「好きに座っておくれ。特に席順は無いからね……と、普段なら言うが今日はもう二人分の空いてるソコに座ってくれ」


「あ、はい」



 僕とキョーカさんが席に着くのを確認してから、今度はニオンさんが席を立って、飲み物の入ったグラスを肩の高さまで持ち上げた。

 それと同時に他の皆もグラスを持ち上げる。少し反応が遅れた僕達も同じ様にした所でニオンさんが話始めた。



「……コホン。今日はこの店にも新たな出会い。素敵な出会いがあった。この店に入ったからには、私達は家族同然の存在である。助け合いは当然の事だ。トウジ、キョーカ、君達との出会いがどうなるかは分からないが、私は素敵な未来が待っていると信じている。アホな店長の代わりに私が代理として君達を祝福させて貰う……皆、乾杯」


「「「かんぱーい!!」」」



(少し照れ臭い……でも、嬉しい気持ちが大きいな。確かにこの出会いが運命なのかもしれない……どうなるのかは分からないけど)



 それからしばらく楽しい食事の時間が過ぎて行った。

 キングさんの豪快(ごうかい)な食べっぷりに、同じ男として少し憧れがある。それに以外とウィズダさんの胃袋の大きさには驚かされた。

 それに、もう一つ驚いた事があるとすれば、キョーカさんの食事作法の綺麗さというか、優雅さである。とても冒険者とは思えない。


 勇者様の召喚された時代は家名は貴族や王族だけの物だった。だが、いつの間にか、平民農民でも名乗る事は許される様になった。

 名乗るかどうかはその人によるから分からないけど……もしかしたら、キョーカさんは本物のお嬢様だったりするかもしれない。



「なに、見てんのよ?」

「いえ……何でも無いです」

「ふんっ」



(いや、彼女は(まぎ)れも無い冒険者だな。貴族とは思わないで冒険者として接しよう……)



「はい、それでは明日の予定について話しておこう。トウジ以外は特に無し!!」


「え…………えっ?」


「いつも通りなのです。予約が無ければ予定も無い……当然なのです」

「だな、明日はどうすっかなぁ」


「なら、早いが私は先に戻らせて貰おう……やる事があるのでね」

「なら、私も先に戻らせていただくわぁ~」



 もっとこう……書類を片手に話し合うのを想像していただけ、少し裏切られた感じがする。それに、僕だけ予定があるというのが怖い。



「なに……トウジは店の業務内容について午前中の内に勉強して貰う。ここにはここの“やり方”があるからね。キョーカは護衛役の冒険者で覚えるのは剣の腕前だけだし」

「くっ……それは嫌みかしら?」

「そうすぐに怒るもんじゃないよ、流すくらいじゃないと生きづらいだろう? まぁ、八割は嫌みだから間違っていないんだけどね」



 剣の腕前について僕が言える事は多くない……というか無いに等しい。僕が言えるのは、『キョーカさんを刺激しないで下さい』という事だけ。これも、キョーカさんの居る所で言ったら火に油……だから後でひっそりとニオンさんに言わなければならない。

 情けないが、殴られたくは無いからね。



「もう解散でいいのかしら? 私は早く休みたいのだけど」

「あぁ、今日は疲れただろう……ゆっくり休むといい」


「あのっ!! その……お、お疲れ様です」

「………………お疲れ」



 ぶっきらぼうではあったが返事は返ってきた。戦ったから少しは認めて貰えたのだろうか? 赤い髪を(ひるがえ)し、キョーカかんは部屋へと戻って行った。



(僕もそろそろ戻ろうか……今日はちょっと疲れたし)



 明日からはもっと忙しいかもしれない。でも、それでも、水場の評価を上げられる一歩となるならば……この店で頑張ってみようと思っている。



「では、僕もお先に失礼させていただきます」

「待つのです、トウジ。君の力をこの筋肉バカに見せてやるのです……具体的にはこの水をお茶に変えるのです」

「ウィズダさん……」



 あの失敗茶をキングさんに飲ませたいのか、少しだけ悪い顔をしている。たしかに、あの時のお茶は見た目と違って滅茶苦茶(めちゃくちゃ)不味かった。あのお茶の名を『滅茶苦茶』にしても良いくらいに。



「おぉ、トウジ!! さっそく、この水をお茶に変えて見せてくれ。それが出来たら凄い才能だぜ!?」

「では、それをしたら戻りますね……。あと、指を少し浸けますよ――『水質変化 お茶』」



 一仕事をしたかの様に、颯爽(さっそう)とその場を後にして自分の部屋へと戻る為に歩き出した。



「おぉぉ!! うめーぞっ!? こんなスキルは初めて見たぜ!?」

「なん……ですと!? トウジ……空気を読めない奴はお仕置きなのです。スキルに関して言えば、水精と契約したとしても、どのスキルが出現するかはその人、その水精次第と言われているのです」



 食堂からとても気になる発言が聞こえて来たが、流石に今から捕まるといつ解放するのかは分からない。気になるが、重要な部分は聞こえたし、後は自分で考えるとしよう。


(僕のレアスキルがウルルと僕のペアだから……という事を考えると嬉しいかな。部屋に帰ったらウルルにも教えてあげよう)



 ◇◇◇



「さて、二人が部屋に戻った所で話し合いを始めようか。ウィズダ、キング。君達も知っているとは思うが、新人には当然、教育が必要だ、分かるね?」


「何年か前の奴は“ソレ”で辞めたです……どうして、またやるのです? まぁ、予定として合ったですからやるのですが……」

「あー、居たな。アイツは臆病風に吹かれただけだろう。あれじゃ、普通の観光案内だって難しいだろうさ」



 新人が立ち去った後の食堂で話している三人。そこに、足音も無く近付いて来る者が居た。

 食堂に居た三人は当然、それに気付いている。気付いているが、行動は何も起こさない。起こす必要が無いからだ。



「はぁー、疲れた。帰ったぞ……ったく、人使いが荒いぞニオン」

「ふふっ、それは悪かったね。でも、面白くて良い子達が入ってくれたよ。喜ぶといい“テリアス”」



 二十代後半ぐらいで背は高く筋肉質。黒い髪に鋭い眼光は獲物は逃がさない獰猛(どうもう)な獣のみたいである。

 そして、その声は低めであるものの、仲間に対する遠慮の無さと優しさの込められたもので、男の本質を表している様であった。



「旦那、昨日の内に戻る予定だったよな? 何かあったのか?」

「きっと、また面倒を運んで来たのです」


「キングとウィズダへの答えは一度で済むな。その前に、『新人おもしろ教育リクリエーション』の準備はどうなっている?」



 テリアスがそう問い掛けると、副店長であるニオンが一枚の紙を取り出し、その計画を話し出す。

 その内容について異を唱える者は()らず、ふざけた名の計画だが、その中身はしっかりと練られたものであった。



「――と、いう流れだが……テリアス、君の用意する“モノ”次第で内容の変化も、あの子達への負担も変わる。その辺は“信頼(きたい)”して良いのかい?」


「あぁ、信頼(きたい)してくれて大丈夫だ。あくまで……この計画は余興に過ぎない。『面白い』が俺のやり方だし、店の方針でもある。それが合わないならこの店に居るのは難しいだろう」


「旦那が変わり者だからな」

「面白い物は常に興味をそそられる。私は店長のやり方を支持するのです」



 ここに残っているという事は皆、店のやり方に賛同し、少なからず共感しているという事である。

 変わり者……もう少し細かく言い方を変えれば『面白い事なら死地にだって飛び込む男』、それがテリアスという男であった。


 そんな男が立案だけして、部下にその他の準備等を含め、まるごと任せた計画を……双子を入れた六人で実行しようとしていた。計画を知らないのは新人の二人、トウジとキョーカだけ。そして、その計画が行われるのは――明日である。



「これは余興でもあるが、今の新人の実力を知る為のものでもある。そうだ、キングの問いの返しだが……明日、この(キー)を持って例の場所に迎え」

「何です、この鍵は……?」


「計画では、水場になるんだよな? 条件を近場にすればおそらくはニオンの計画通りの場所になる。そこに、安全なこの辺りには居ない“ヤツ”を運んでおいた」



 悪巧み顔をしたテリアスが、キングへと渡した鍵を見ると、金庫を開ける鍵の数倍は大きく、それだけで鍵で開ける(じょう)……そして、その錠が付いている“何か”の大きさまで連鎖(れんさ)して想像が出来た。


 キングはその準備で一日遅れた事を察して、口角をあげて笑いだす。



「こいつは楽しみだぜぇ、旦那!! 下手したら死ぬんじゃねーか?」

「そんなつまらん事にはしないさ。まぁ、俺はその新人の実力を見てないから何とも言えないし……もしもはあるからな」



 もしもがあるとすれば……それはテリアスの、計画にない余計な行動に(ともな)う帳尻合わせの苦労だけだ。

 なんて考えが、他のメンバーの頭を(よぎ)っていた。


 テリアスが店の従業員を死に追いやる程、無計画で無能では無い事を既に三人は知っている。だから、安心して余興にも手を貸せているのだ。



「トウジもキョーカも面白いのは保証しよう。だからテリアス……遊ぶのは帰って来てからにしてくれよ」

「おい、ニオン……俺を何だと思っていやがる……」


「狂人……かな」

「変人ですぜ!」

「奇人、なのです」



 ニオンのみならず、口を挟んだ二人を含めて、一人ずつ丁寧に羽交い締めにされ、テリアスが満足した事でようやく解放された。

 そして明日の準備の為に夜ではあるが、テリアスは楽しそうに笑いながら、食堂を去ってどこかへと向かった。



「私は一応、吸血鬼なんだが……」

「副店長、俺は獣人だぜ? 何故、旦那に腕力で勝てねーのか……いや、スキルのお陰なのは分かってるんだがな」

「私……頑丈じゃ無いの……ですよ」



 愚痴を(こぼ)すが、それすらも楽しんでいた。その顔には笑みが浮かんでいた。皆、テリアスの何かに()かれているのだけは違う種族であれ同じであった。


 それは――かつての勇者が持っていた魅力に似たものなのかもしれない。



「とりあえず、明日は頼むぞ。あくまで私達はここまでで、後は観察をするだけだが」

「おう!! 残ってくれると良いけどよ」

「そうで無くては困るのです。まだ、研究したり無いのですよ」



 雑談を含め、夜遅くまで話し合いが続いていった。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!


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