第3巡り 水精、その名は
3話切りは出来ればしないで欲しいですよぉぉぉぉ!!(´Д`)
では、よろしくお願いします!
「ちょっと!! 何で私がこんな奴と組まないといけないのよっ!!」
「こんな奴……」
凄い言われようだが、僕だってもっとこう……水場に理解のある冒険者さんと組みたい。キョーカさんは絶対に森を傷付けそうだし、静かな所が魅力の水場でも五月蝿くしそうだ。
ニオンさん的には、新人を組ませるという真っ当な判断から僕達を組ませようとしたのかもしれないが……きっと逆効果になるだろう。
そもそも、僕もキョーカさんも可能なら今すぐこのお店を辞めて、僕は普通の観光案内所で、キョーカさんは冒険者として働きたいのだから。
「まぁ、落ち着きたまえ。キョーカ、君がこの店で勝てるのはトウジくらいだ。他の者のサポートをするにしてもまだ弱い。不要だ」
「うっ……それは……そうかもしれないけど」
僕の次に戦闘力が低そうなウィズダさんでも、キョーカさんよりは強いのか……。キョーカさんがどれくらい強いのかは分からないけど、さっき怒らせてしまった時の迫力は、素人目に見ても凄そうだったのに。
「そしてトウジ……お前はもっと弱い。観光案内をするならどうしても冒険者が必要だろう?」
「そう……ですね。僕は“守る”事しかできませんから……いや、ですがっ!」
確かに冒険者が居なければ、魔物が現れた時に僕だけじゃ討伐出来ないだろう。下手すれば、守る事さえ出来ずに冥界へと案内する事になってしまう。その時は片道になってしまつけど。
――これ……僕に拒否権なんて無いのではないだろうか?
「まぁ、お試しでも構わないよ。合う合わないはあるのだからね」
「でもこの男……戦えないならお荷物じゃないの? 多数の魔物に囲まれたら一人でお客を守るのは不可能よ?」
(うぐっ……お荷物。でも言い返せない!! 悔しいぃぃ!!)
だが確かに、案内人が一人と冒険者一人で案内する事が可能なお客様は二人……多くて三人くらいが限度だろう。僕が守れるのは自分以外に一人くらいだろうし。
「そうか……お荷物。そうかそうか。ふふっ、我ながら良いことを思い付いたよ」
ニオンさんが何かを思い付いたらしいが、この状況で果たして良いことが思い付くだろうか? 僕にはとてもそうは思えない。そもそも、“誰”にとっての良いことなのかも分からないし。
「二人ともちょっとついて来ておくれ。お前達も来たければ来ると良い」
「おっ! 俺は観にいくぜぃ!!」
「私の好奇心が疼いているのです」
「私も暇だからぁ、ついて行くわよんっ!」
結局は全員で移動する事になったが、お店は良いのだろうか? いくら暇だと言っても店に誰も居ないというのは良くないのでは?
僕のそんな心配は余所に、店の奥にある扉を抜け、通路を進み、裏庭というには些か広過ぎる場所にやって来た。
何故にこの場所に来たのか……それは、歩いている最中に少しずつ察せている。というか、予想が出来る。僕にとっては当たって欲しく無い予想ではあるけど。
「ニオンさん、一応聞いて起きますが何故このようなトレーニング、主に戦闘訓練に適した広場に来たのでしょうか?」
「トウジ、君の言ったことを復唱したまえ。自ずと問いの答えが見えてくるだろう」
予想通り……か、最悪だな。
当然ながら、先輩達の戦闘を観るために来た訳では無いだろうし、僕とキョーカさんの戦いになる。勝てるとは到底思えないし、十秒と立っていられるかも分からない。
「ニオンさん、何回も言ってますが!! 僕に戦う力はありませんよ!?」
「何度も聞いているさ。でも君は守る力はあるのだろう?」
(守る力と言ってもそれは、ただの防御の魔法だ。攻撃魔法は苦手だし、あの時の様に水場ならもしかするかもしれないけど……)
「トウジ、来たまえ。君の入学当時と卒業時のスキルを教えてやろう。確認はまだだろう?」
「えぇ、それはまぁ。確認するにはギルドでお金を支払わ……ニオンさん、まさかその系統の魔眼を持っているのですか?」
「そうだ。キョーカは準備運動でもしているといい。キング、軽く手伝ってやれ」
指示を出し終えたニオンさんに近付くと一枚の紙を渡された。
――――――――――――――――
トウジ
スキル
・水魔法
――――――――――――――――
「見覚えがあります……。これは僕が入学する前に確認した時と同じですね。自分の才能の無さに絶望しかけた記憶が懐かしいです」
「確かに、これしか無ければ恵まれているとはお世辞にも言えないな。次……これが卒業時、今の君だ」
そう言って渡されたもう一枚の紙には、自分でも驚くべき事が書かれていた。
――――――――――――――――
トウジ
スキル
・水魔法
・話術
・森林歩行
レアスキル
・浄水
・水精魔法
・水質変化
・称号
『水精の友』
『五等星』
――――――――――――――――
紙を何度も読み返した。唖然として言葉も出ない僕を急かさずに焦らさずに、自分で落ち着いて、声を出せるようになるまでニオンさんは待っていてくれた。
心当たりの在るものと、無いものがある。
スキルの話術や森林歩行、称号の五等星……これは学校に通った事で手に入れたモノだろう。だが、レアスキルと称号の『水精の友』なんて……。
(いや、待てよ? 確かあの時の出会いがそうだとすれば……?)
「ニオンさん……レアスキルについてですが、僕はこのスキルを使った覚えがありません。使い方も……正直分かりません」
「立ち直ったかい? ふふっ、安心したまえ! 内には優秀な図書館が“居る”」
ニオンさんが始まりを待つ間に本を読んでいたウィズダさんを呼び寄せ、僕のレアスキルを一見して瞳を輝かせた。
「トウジ君、レアスキルについては知ってますか? 知ってますね? 簡単に言うと、取得難易度が桁違いなスキルです。しかも、その取得方法があまり知られていないスキルです。あぁ……良いです良いのです。私の脳が心が血肉が喜んでいるのですよ!!」
「すまないトウジ。ウィズダは新しい何かに出会うといつもこうなる。つまり、君のレアスキルはウィズダも知らない……レアレアスキルと言った所かな?」
本当なら今すぐ両手を上げて、喜びを表したい所だが……僕よりも気分が高揚しているウィズダさんの圧に気圧されてそれ所じゃ無くなった。若干……というか、急な変わり様にかなり怖いまである。
ウィズダさんが集中力をそれだけに向け、紙に何かを書き出して数分後……まだ何か納得しきれてない顔のまま説明をしだした。
「まず、称号の『水精の友』それと、レアスキルの『水精魔法』だけど……これは副店長も知ってますよね?」
「うちの店長も似たスキルを持ってるからね。まぁ、少し先に進んではいるが。トウジ、君は『水の精霊』と会ってるね?」
『水の精霊ウルル』との出会いは学校に通いだして、しばらくしてからの事だった。
◇◇◇
あれは、入学してから間もない頃。僕の選択した学科の人数の少なさに、ただでさえ少ない先生を回す事が難しいと判断した学校は課題を出してきた。
「……え? 水場に関する事を紙に纏めて提出すれば良いんですか?」
「だが、魔物が多い場所に在る水場には行かない様に。この紙に丁度良い水場が……といっても結構前の資料だけどな」
入学する前は皆で水辺を散策したり、あれこれと語りながら学んでいく事を期待していのに出鼻を挫かれてしまった。
先生から貰った紙には学校付近が主だが、その中には行くだけで数時間は掛かりそうな場所まで記載してあった――が、これを見た僕は当然やる気に満ち溢れていた。
友達と学ぶ事を楽しみにしていたのは事実だが、湖、沼地、川、滝……紙に書いてある場所に何があるのかは分からないけど、早く行きたい気持ちが抑えられなかった。
「では、早速……明日から実地調査に行ってきます!」
「頑張ってね。でも、魔物がいたら静かに離れてその日は帰って来る事。良いですね?」
担当を付けてあげられない事を何度も謝ってくれたが、誰かが悪い訳では無いと、そう僕も思っているし、むしろ自由に出来る事を喜んだ。
――それから、休みの日も含めてほぼ毎日どこかの水場にへと出掛けるようになり……そこで一つ、悲しい現実と向き合わなければならなくなった。
「またゴミか……先週掃除したばかりなのにな」
各家庭で出るゴミは、火魔法が使えれば燃やして灰にしたり、ゴミを燃やしてくれるお店に出すのが普通なのだが……こうしてお金をケチって捨てる人も居る。
そのせいでせっかくの綺麗な水は汚れ、景観も悪くなっていた。
許せなかった。偶々、ゴミを捨てに来た男の人を見掛けて注意するだけのつもりが……気付いたら、怒鳴ってしまっていた。
まぁ、相手との口論から少し発展し、僕はボコボコにされたが、結果的にその日はゴミを捨てさせなかったし、勝ちと言ってもいいだろう。
そして、その日を境に、妙な姿を見掛ける様になった。
青くて丸いナニか。優しい色をして、見ているだけで落ち着くナニか。
小さく手の平サイズのそれは、木の上、水の中、草陰……色んな所に居て探せば、沢山の数を見付けられた。
近寄る訳でも離れる訳でも無く、いつもそこに居て、僕の掃除をずっと見ていた。瞳があるかも分からないがきっと見ていたんだと思う。
ゴミの片付けの傍らで、空いた時間には魔法の練習もしていた。別に強くなりたいとかでは無くて、水場で使う水魔法は少しだけ扱い易く威力も出ている気がしたから。
青くて丸いそれは、僕が水魔法を使うと飛び跳ねる。嬉しいのか迷惑なのか分からなかったが、念のために攻撃性の魔法は使わずに、水を操るだけにしておいた。
そして、入学から一年が過ぎ去りそうな頃。
いつもの様に水魔法を使っていると、一匹の青いそれが近寄ってきた。初めて向こうから近寄って来てくれた事に内心は喜びながらも、とりあえず両手を差し出してそこに乗のせて目線の高さにまで持ち上げた。
「結局、挨拶も遅くなっちゃったね。僕はトウジ、君の……君達の名前は何かな?」
『な……まえ?』
心に直接声が響くという何とも不思議な感覚に陥った。女の子の様な声で途切れ途切れではあるが、響く声は心地好く、決して悪いものでは無いのだけは確かだった。
「名前は無いのかい?」
『ト……ウ……ジ』
「それは僕の名前だよ~」
『なま……え……ない』
「なら、僕が名前を付けても良いかな?」
『つけ……て』
名前なんて付けた事も無いし、大切なモノだからと凄く悩んだ。時間だけが過ぎていくが、思い付く時は一瞬だった。それを思い付いた時はもうそれしかないと、だいぶ待たせてしまったが……すぐ呼んであげる事にした。
「うん! 君の名前は“ウルル”だ!」
『ウルル……ウルル! ウルル!!』
手の平の上で飛び跳ねるそれを見ながら微笑んでいると、僕に不思議な言葉を残して何処かへと行ってしまった。
――会うときが突然なら別れる時も突然で……その日以来、一度たりともウルルの姿を見掛ける事はなかった。
◇◇◇
ニオンさんから言われた、水の精霊という言葉であの時のウルルがそうなのでは無いかと思い始めた。
「たぶん……会っていると思います。ある日から会えなくなりましたが」
「なるほど。トウジ、うちの店長も精霊と居る。そして君と同じ事を体験したと言っていた。えっと……店長は何と言っていたかな。たしか……『言葉はもう知っていた』だったかな?」
(あぁ……そうか!! そうだったのか!! 確かに僕は……“言葉を既に知っている”)
何故、今まで呼んであげなかったのだろうか。会えなくなった事ばかり考えて、近くに居たのに遠くばかりを探していたのか、僕は。
「ありがとうございます、ニオンさん」
「私は面白い方が好きだからね。さ、キョーカが待ってるよ。彼女の攻撃を防いで見せろ。それが君の勝利条件さ」
「ふぅ……やっと準備は出来たのかしら? ちょっと、準備運動で疲れたけど……あんたには良いハンデよね!」
僕とキョーカさんが離れて向き合う。さっきまでなら嫌で嫌で仕方がなかっただろう。でも今は不思議と怖さも無い。
「キョーカ、君は攻めるだけで良い。トウジ、君は守るだけだ。これは、お互いの実力を知る為のもの。遠慮は要らない……危なかったら私達が止めてやるから安心すると良い。好きなタイミングで始めてくれ」
そうか、それは安心だ。僕は防ぐ事だけに力を出しきれる。
「すぐに地面に転がしてあげるわっ! 目を閉じる暇もないと思いなさい!!」
キョーカさんが動き出した。きっと……本気じゃないな。でも、助かる。確信はあるけどやはり不安もあるから。
僕は……心を込めてその言葉を、教えて貰ったその言葉を――そっと紡いだ。
「『水精よ、その力を繋げ』」
僕から約二メートル手前、キョーカさんがその領域に足を踏み入れ、剣を振りかぶると同時に――全てを遮るかの様に円柱上に水壁が作り出された。
『トウジ! トウジ!!』
「ウルル……ゴメン。遅くなってゴメンね。また、会えて良かった」
変わらずに手の平の上で飛び跳ねるウルルに、思わず笑みが浮かぶ。前に会った時よりも、なんだか少しだけ大きくなった気がする。
水精――ウルル。水を司るその精霊は、僕の友達だ。
「ウルル。僕は才能が無くてね……それに環境を壊さない為にも攻撃魔法を使わない事にしてる。だから……守る事以外に魔法を使うつもりは無いよ、今の所はね」
『まか……せて、トウジは……わたしが……守る!』
俺の頭の上に移動したウルルが、目の前の水壁を解除した。
「あんた……何よ今の!! 水なのに剣が通らなかったわよっ!?」
「正確には押し返された、だと思いますよ! 水だって使い方は色々です……ね、ウルル」
『トウジ……いっぱい……練習してた……私もそれ、見てた』
空気中の魔素を水に変換し、その水を魔素で操る。それが一般的な魔法の行程だが、水場でなら水を操るだけで済む。そりゃ、周囲の魔素が薄くなるまで色々と試したくなるというものだ。
「まぁ、何だっていいわ……行くわよっ!!」
「『水精よ、守りの力を』」
◇◇◇
――結果、僕は負けた。
周囲の魔素が薄くなった事で、効率良く魔素を操る能力が低かった僕の敗北だ。キョーカさんも息は上がっているものの、魔法が使えないならこれ以上やっても結果は目に見えている。
「はぁ……はぁ……私の、勝ちよ」
「僕の負けですね」
「今にも倒れそうな方が勝ちで、全く疲れていない方が負けか……うん、中々に面白かったよ二人とも」
見世物扱いはやめて欲しいが、副店長のお陰でまたウルルと再会できた事を思うと、今日は感謝するしかない。
ウルルは周囲の魔素が薄くなったからか、眠くなったと言って消えてしまった。だが、また会えるという確信があるだけで十分だ。
「トウジ君、戦闘なんて野蛮な事は早く切り上げて、君のレアスキルについて研究するのです……暇ですから」
「じゃあ俺はキョーカを鍛えるとするかな……暇だから」
「まぁ、店長が帰ってくるまでは良いだろう」
「店長さんは出掛けているんですか? えっと、名前だけでも先に教えて貰っても良いですか?」
みんな店長と言ってるし、僕も名前を知っても店長と呼ぶことにはなるのだろう。だけど、この濃いメンバーを集める様な人だし意外と有名な人かもしれない……と、ずっと気になっていた。
「あぁ、まだ言ってなかったね。たぶん、聞いたことはあると思うよ? テリアス……こう言った方が良いかな?『秘境狂いのテリアス』と」
その名は確かに有名だ。冒険者では無い僕でも知っているくらいに。でもまぁ、知ってる事は少ない……元Aランク冒険者という事くらいだ。秘境に魅せられて、冒険者を辞めたという話を聞いたことがあったが……まさか、ここの店長をしているとは思わなかった。
(その店長にしてこの従業員あり……やはり浮いてるよな、僕は)
「有名な人ですね……それなのに、何故お店は暇なのでしょうか?」
これも気になっていた事の一つだ。これだけ話題になりそうな人達が居るのに暇だとは考えにくい。予約が埋まっていてもおかしくは無いと思うし。
「うちは客を選んでいるんだ。……と言いたい所だが、何かと訳アリでね。ウィズダの作った人避けのアイテムを使用しているんだよ。それを越えて来られる様な者しか来れない……あぁ、従業員には一応、ここに辿り着く道を示してくれるアイテムを渡す事になっている。君にも後で渡そう」
(このお店……連れて来られなかったら、僕じゃ一生たどり着けなかだただろうな)
どうりでお店の名前は聞くのに、その住所や従業員についての詳しい事は何も知られていない訳だ……その答えが知れて少しスッキリした。
でも、アイテム無しで外に出掛ける事すら出来ないな。無くさないようにしなければ。
「そうだったんですね……」
「そんな事より知識を探求するのです……行きますよ」
急かすウィズダさんに引っ張られながら、最後にチラッとキョーカさんとキングさんの訓練を一瞥し、自分のレアスキルを知るために僕はお店の中へと戻って行った。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
ほのぼのしてますね、うんうん!