第10巡り 筋トレ
やばば((( ;゜Д゜)))
書き溜めが……消えた!?(かいてなかっただけ)
よろしくお願いします!
「な、何よ……」
「いや、その……ラーブルの事なんだけど」
「――っ!!」
キョーカさんの顔が紅くなる。それはそうだろう。僕だって逆の立場ならそうなる。例え相手が誰だろうと、恥ずかしくて照れるものは照れるのだ。
だからそこ……早く誤解を解いて、いつも通りに戻らなければ。うん、そうだな……拳の1、2発くらいは甘んじて受けよう。3発からはちょっと気絶する疑いがあるからな。
「実は――――」
俺はちゃんと話した。たぶん、話せたと思う。
偶々見付けられた珍しい花だからプレゼントした事や、感謝の気持ちは感謝の気持ちとしてちゃんとあるけど、花とは無関係という事。
その説明を一息に、キョーカさんの反応を窺いながら全部話した。
「……という事で、殴っても良いですから! 許してください!!」
頭を下げて謝って、キョーカさんの反応を待った。怒ってるだろうか? そりゃ、怒ってるだろうな……。
「ひ……」
「ひ?」
「一人で舞い上がってた私が馬鹿みたいじゃない……あっ! ま、舞い上がってたと言っても、花を贈られた事に関してなんだからね! 別に、今後どうなるとか想像してた訳じゃないんだから! 勘違いしないでよっ!? と、というか……紛らわし事してんじゃないわよっ! 馬鹿トウジ!!」
顔を上げた途端、怒濤の勢いでキョーカさんの口から言葉が溢れだした。手が出てこないのが以外だが、その分、早口で言葉がどんどん出てくる。
「ご、こめん……」
「ふんっ! お詫びね、トウジ……これはお詫びが必要な案件じゃないかしら?」
「お詫び?」
結局、花はそのまま手元に残しておくみたいだ。
お詫びを請求されているが、僕はこんな時のお詫びの仕方が分からない。たぶん、現金とか持ってきたらより怒られるというのは、何となく分かっている。
けど、なら、何が正解なのか皆目検討もつかない。……はっ! も、もしかして――。
「ウ、ウルルは渡せないよ! 僕の友達だからね!」
『ウル……トウジと、離れ……ない』
「違うわよっ! まぁ、お詫びの内容は考えておくから楽しみにしておくのよ? 分かった!?」
俺とウルルが揃って悪魔を見るかの様にキョーカさんを見ていたら、どうやら違ったみたいだ。とりあえず安心だが、お詫びの内容はキョーカさんに委ねられてしまった。
そこはかとなく心配だが、今回は僕が悪いってのもあるし……お任せしておこう。
「危なく無いやつで頼みたいんだけど……」
「ふふっ! 大丈夫よ。じゃ、休みの日は予定を開けておいてね」
赤い髪を翻し、無邪気な笑みを最後に見せて、部屋の扉は閉められた。
思ったより気にしていなかったのか、怒られなかったのは良かったが……いったい、何をさせられるのか、不安だけが残った。
「僕達も部屋に戻ろうか」
『トウジ、遊ぶ!』
「はいはい、明日も仕事だから少しだけね」
部屋に戻って少しだけウルルと遊び、明日も朝は早いと、眠りに就いた。
◇◇◇
今日も朝早めに起きて、仕事場に出勤する。
やはり、誰も居ない。お客さんが来る気も全然しない。そもそも予定は一つも無い。
「とりあえずまた掃除でもしようかな?」
例の倉庫に向かい、魔導機械の入った箱を横目に掃除用具だけを手にして掃除を開始する。
店の前に落ちた葉っぱを掃いて、綺麗にしていく。
三十分くらいの掃除の後に仕事場に戻るが、やはりまだ誰も来ていない。もう、そういうお店だと軽く諦め始めて、自分はそうなるまいと気持ちを引き締める。
つい先日、初仕事を終えて少しは自信をつけたのだが、まだお店の業務だって完璧に把握していない。
「たしか、資料はこの辺に……」
とりあえず勉強の一貫として、仕事場にある過去の仕事内容のチェックをする。早く五等星から上のランクに昇りたい気持ちが、僕は人一倍はある。
「あれ……それなら……この店に……あれ?」
五等星から四等星。案内人としての称号を上げるには、国が実施する試験を通らなくてはならない。
勿論、担当する場所が人によって違うから試験は第一担当の場所の試験を受ける。だから面白い事に、『ダンジョン』が三等星で『森』が四等星……みたいな複数の称号を持つ人も存在している。
どこか特定の場所を極め、二等星や一等星になる人も居れば、三等星や四等星までの称号だけど、幅広くやっている人も居る。
僕が後々どのタイプになるかはまだ分からないけど、水場に関しては一等星まで行きたいと思っている。
「実地試験があるからな……筆記はともかく経験を積む為にはなぁ~」
学校を卒業する時点で、人気店に就職できた者はそれだけで有利だ。この店を悪く言うつもりは無いけど……人の来店が少ない店は、それだけ経験値が積めない。
だから、ここでしか学べない事を学んでおこうと自分を慰めるしかないのだ。
「うぅ……資料の数も少ないし危険地域ばかりで参考にならない」
「それはそうさ! ここはなんたって秘境案内所だよ? 観光案内とは違うのだからね」
「あっ……おはようございます、ニオンさん」
僕にとっては危険過ぎる地域の資料しか無く、結果として何も学べなかったと落胆している時に、副店長が出勤してきた。というか、副店長しか出勤していない。そろそろ起きてはいる頃だと思うけど……。
「勉強かい? 熱心だね」
「えぇ、まぁ……あまり参考には出来ませんでしたけどね」
死を呼ぶ森『デス・フォレスト』、幽霊の住む館『ゴーストタウン』、冒険者の墓場『キラーダンジョン』……どれも高レベルの冒険者だってあまり近付かない場所だ。
そんな場所で何を学べと言うのだろうか。危険過ぎるし、僕に関係の無い場所だ。
「そうだ、トウジ。君にも先日の業務報告を書類に記載してもらう。書き方はその手に持ってる物を参考にすると良いだろう。机の上に置いといてくれれば後で確認するから」
「はい! 書き方も一応は習いましたけど、こっちの資料を参考にさせて貰いますね」
「頼むよ」と、一言告げてニオンさんは外へと出て行った。どこに行くのかは知らないけど、店長が店長だから副店長に仕事が向かうんだろうな。
俺もすぐに作業に取りかかった。既に書かれてある資料はその人の個性が出ているのか、キングさんとウィズダさんでだいぶ書き方が違う。
キングさんは大雑把に必要最低限の事が書かれてあって、ウィズダさんは新しい発見があれば大量に書いてあり、無ければ特に書いてない。差がとてもある。
ここは……うん、そうだな。やはりニオンさんのが一番良さそうだ。丁寧だし、字も綺麗だし。
「えっと、ここをこうして……こうで……あれ? あの時のやつって何だっけ……」
ウキウキで書き始めたら書くべき事と省く事の選択が、意外と難しくて少し手間取っていた。特に接客した人が凄い方だったのもあって、どう書けば良いか迷ってしまう。
――それから時間はだいぶ掛かったが、何とか報告書としては形になった。
これを後はニオンさんに見せてサインを貰って完成なのだが、そのニオンさんが出掛けたきり戻ってきていない。とりあえずは机の上に置いておけば良いらしいからそうするが……。
「おう、トウジ! 早いな!」
「あ、キングさん……おはようございます」
「おう、俺はトレーニングでもしてるわ」
まさかの秒退勤だ。まぁ、退勤とは違うだろうけど同義だろう。
キングさんは朝からトレーニングか……凄いな。僕もたまには、体力をつける為に運動をした方が良いのかもしれないな。この前みたいに魔物と遭遇した時に逃げられる為にも。
(うん、報告書も終わったし……キングさんについて行ってみようかな?)
報告書を置いて一度部屋に戻り、動きやすい服装に着替えてから店の裏にあるトレーニング広場へと向かった。
◇◇◇
「はっ、はっ、はっ……ふん!!」
僕がその場に着いた時には既に――キングさんが、穴を掘っていた。
その光景は何とも形容し難く、言語化も難しかった。
上半身裸の獣人・ライオン種の男性が、スコップを片手に穴を掘っているのである。
トレーニングと言っていたからあれはトレーニングなのだろうけど、もっとこう……走ったり腕立て伏せとかのトレーニングを想像していた。
「キ、キングさん!」
「お、どうしたトウジ?」
「いえ、その……僕も空いてる時は体力を~と、思いまして」
キングさんが、短時間で掘った穴を埋めてから僕にスコップを差し出してくる。
何かを差し出されたら、とりあえず受け取ってしまうのはよくある事だろう。僕も例に倣ってスコップを手にしてしまった。
渡されたその意味は、受け取ったと同時に理解が出来た。
「場所は今俺が掘ってた所だけにしておけよ? 前に、あちこち掘りすぎて副店長に荒らすなって怒られたからよ」
「いや、その……この穴堀にはどんな効果が?」
「あん? そんなのやってみれば分かるってもんだ! そんなんじゃ、ウィズダみたいになっちまうぞ?」
きっと、効果はやれば分かるしやらなければ分からないと伝えたかったんだろう。ウィズダさんみたいに仮説を立てて検証する事も大切だとは思うが、ここはキングさんの言ってる事を信じてやってみよう。
やってみるのが一番早いというのも分かるし。
「よっせ、よっせ、よっせ……」
「おいおい、腕だけ使ってちゃ駄目だぜ? もっと足を開いて腰を落とせ……そして、全身で掘るんだ!」
「は、はい! よっせ! よっせ! よっせ!」
キングさんに細かい部分を幾つか指摘され、僕の穴堀がある程度形になったら、キングさんは自分のトレーニングに戻っていった。
僕が場所をお借りしたから普通のトレーニングをしている。
いつまで掘ればいいのか分からないが、とりあえず疲れるまではやってみようと気合いを入れて、地面を掘り続けた。
――――十分後、息切れをして、地面にへばっている姿がそこにはあった。
勿論、僕だ。キングさんはまだ元気に走り回っている。
「はぁ……はぁ……きっつい……腕が」
腕だけじゃない。一番疲れている場所は腕だが、言うなら全身疲れていた。それなのに掘った場所はそれほど深くなっていない。
これは……疲れるし、キツい。だが、全身を鍛えられる。
キングさんがトレーニングにこれをしていた理由が体感できた。
僕が着替えてここに来るまでの時間に、キングさんが掘った穴はもっと深かった筈だ。改めてキングさんのあの肉体の凄さを感じる。
「トウジ、もう疲れたか? キョーカはもっとやってたぜ? ウィズダはすぐに辞めたけどよ」
「つ、疲れました……けど、休憩です! 休憩したらもう少しやってみます」
休憩に十分間を要して、再開をするものの、たった五分で、腕がたちまち動かなくなってきた。
「よし、今日はやめよう」
情けないが、腕が動かないから仕方ない。今日“は”やめるが、今日“で”やめる訳じゃない。また明日にでも挑戦してみるつもりではある。
こんなに腕を酷使したのは久し振りだし、明日にまで疲労が残ってるかもしれないが……それがトレーニングというものだ。毎日コツコツとやるのが僕の性には合ってるだろうし。
「キングさん、また明日にでも挑戦しますね……あと、空いてる時間に来ますから」
「ガハハ! この店は時間だけはクソほどあるから鍛えられるぜ!」
それはどうなのかと少し考えてしまうが、とりあえず勉強の合間にでも体を動かしてみようと思っている。リフレッシュにもなるし、体力もつくだろうし。
――――と、思っていたその翌日、決意とは裏腹に、筋肉痛で朝の掃除を終えた僕がトレーニングをする事は無かった。
この痛み具合だと三日に一回のペースにしようと考えたのだが、そこは頑張って二日に一回にしてみるつもりだ。あの筋トレだと、どうせまだ短時間しか出来ないし。
今はウルルを手に乗せるだけでも腕が痛む。だけど……無邪気に跳ねるウルルを見てると、ほんの少しずつではあるが、腕の痛みが薄れていく。気のせいかもしれないが、そんな気がしていた。
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