表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘境案内人  作者: じょー
1/11

第1巡り 秘境案内所 『リージョンガイド』

たぶん、週一くらいで更新していくと思いますが、遅れたらすいません。


よろしくお願いします!(´ω`)


 


 そこは、目を閉じると今でも自然に思い出せる。子供の頃にたった一度だけ訪れた場所。


 とても(おだ)やかな空間。

 ()んだ空気、肌を()でる風、(あたた)かな陽射(ひざ)し。

 小鳥の(さえず)り、動物の足音。


 ――そして、その中央に存在する雄大で美しい湖。


 一目惚れとはこういう感情なのだと、子供ながらに覚えた瞬間。その時、僕の人生設計は大きく書き換えられ……いや、自分で書き換えた。


 こんなにも美しい場所を案内する職業、『観光案内人』に絶対になるのだと……自分自身に、そして、この湖に誓ったのだ。



 ◇◇◇



「トウジ君……トウジ君!!」

「は、はい!」



 隣に立っていた先生の声で現実に戻され、急いで立ち上がる。

 このクラスに居る二〇名にも満たないクラスメイト(ライバル達)がクスクスと笑い声をあげるが、それを聞くのも今日で最後になる。



「貴方も今日でこの『案内人育成学校』を卒業し、これから五等星として、仕事をしていくのですよ? 『水科』と『森林科』を卒業した貴方は人一倍……いや、二倍は大変な思いをするのですから、しっかりなさい!」

「す、すいません! 先生!」



 育成学校へは、十三歳から入学が可能で、最初の一年と後半の一年で最低二つの『学科』に入る事になっている。

 今の流行りを押さえるならば、他のクラスメイト達と同じ様に『ダンジョン科』や『遺跡科』や『夜景科』に入るべきだったのだが……僕は人気の無い二つを選んでいた。


『水科』の人気が無いのは、簡単に言うと単純に地味(じみ)だから。釣り好きな方や老夫婦くらいにしか人気は無い。

『森林科』は男性にはそこそこ人気はあるのだが……迷いやすい、虫が多い、目的地まで徒歩で行かなければならない。と、女性にはあまり人気が無かった。


 お貴族様はダンジョンへ向かい、カップルは夜景を楽しむ為に案内所を利用する。先生の言う僕がするであろう大変な思いとは、つまるところ、客が居ない。そして、そんな僕を雇ってくれる『観光案内所』を探す所からスタートしないといけないって事だ。



「私は、貴方の持つその熱意と知識だけは評価しているのです。武芸の方は……冒険者を雇いなさいね。はい、これが卒業の証でもある五等星バッチです。一等星を目指して頑張りなさい」

「はい! ありがとうございました先生! 先生の事も、いつかは案内できる様に頑張りますっ!」



 先生が優しく微笑んでから、次の生徒へバッチを渡しに移った。先生は火の悪魔だから水場も森林も環境的に厳しいかもしれないけど……それでもいつかは先生を案内出来たらと思う。



 ◇◇◇



「おい、トウジ! お前、ホントにどうすんの? 就職先無いだろ?」

「あー……リーク。うん、卒業前から色んな所を回っては居るんだけど……今のところ全滅」



 リークは女の子が多いこの学校で数少ない男子の一人。

 獣人で豪快な性格だが、面倒見の良い奴で、武芸を習う時に僕の相手をしてくれていた。



「だから、二年の時は『ダンジョン科』を選べと言っただろ? 今は休日に刺激を求めて、ダンジョンに潜る平民も増えてるんだからよ……はぁ」

「いやだって……ダンジョンはどうせ、お店の先輩に同行しながら学べると思ったんだよ」



 卒業したばかりの五等星は、先輩案内人と一緒に行動し、現場のいろはを叩き込んで貰う。

 最初からお客様を接客する事は、いくら学校で優秀な成績を修めていたとしても無理な話で、一人で接客出来るのは、研修を終えた四等星から。それでも、ルートの確保された安全な場所だけだ。


 三等星になればベテラン。団体客もこなせるし、貴族からの指名がたまにあり、四等星に比べて依頼料が少し高くなる。そしてお給料も変わってくる。


 二等星からは自分で店を構える事が可能で、指名料が高く貴族向けになる事がほとんどだ。


 そして、一等星。誰しもが憧れるそのバッチを持っている人は少ない。何故なら、一等星になるためには、接客、武芸は勿論……一番難しいとされる、未開拓地へと出掛け、新たな観光スポットを見つけ出すという条件があるからだ。



「俺はもう、大手案内所の支店に入る事が決まってるけどよ……お前が心配だぜ。別の案内所に就職したら俺とお前の案内する場所は違うし……はぁ、心配だぜ」


(何!? リークの奴、いつの間に。大手と言ったら……まさか!? サーチ案内所か? くそ、羨ましい……)



 自分を売り込みにサーチ案内所の支店には幾つか行ったんだが……そこでは(まった)く相手にされなかった、という苦い記憶を最近作ったばかりで、羨ましさよりも、少しだけ嫉妬が勝つ。

 だから、リークを軽く小突くくらいは許されるだろう。



「卒業したのにいきなり無職だよ……せめて複数のスキルや魔法を覚えていたら僕だって! 僕だって勧誘されるくらい人気だった筈だ!」

「覚えて無いんだからそんな話をしたって無駄だろうに……“黒髪”のお前に最初は期待してたんだがな。ま、まぁ? お前の水魔法は凄いし、知識も……まぁ、水場と森林に関しちゃ凄い。でも、それでも、残念ながら時代の流行りじゃないんだよ!」



 ごもっともな正論だ。僕に戦う力はほとんど無いし、勇者の末裔とも言われる黒髪だが、強いわけじゃない。そもそも……黒髪で産まれるのが稀なだけで、実はそこそこ子孫はいるらしい。

 だから知識を……流行りに乗らない分、学べる事は出来る限り詰め込んだつもりだ。使う機会が無ければ意味は無いのかもしれないけど。


 これは、あれだ……かつてこの世界を救った勇者様の残した言葉。『俺は悪くない。時代(しゃかい)が悪い』というヤツだ。勇者様は異なる世界から来たらしいが、素晴らしい言葉が在る世界だったのだろうな。



「……っと、悪い。そろそろ店に行ってちゃんとした契約書を書かないと。じゃあな、トウジ。また何処かで会おう」

「あぁ、どちらが先に一等星になれるか……勝負だ!」


 名残惜しいがリークとは最後に拳を合わせてから別れた。いつかまた、何処かで会えると良いけどな……。

 他のクラスメイト達ももう残っては居ない。俺も……そろそろ行かないとな。早くどこかに就職しなければ、入学金まで払ってくれた両親に会わせる顔が無い。


 教室に一礼をし、学校の敷地から外に出て、もう一度だけ頭を下げる。お世話になった学校ともこれでおさらばだ。さて……これからどうしようかな。



 ◇



「あの子。ふむ……面白い」

「あらぁ~? 副店長。最後の最後に()()()ですかぁ?」



 ローブと帽子でその姿を隠し、手に沢山の紙を持った副店長と呼ばれた人物。それともう一人……背が高く綺麗な格好をした人物が、物陰に(たたず)みながら、街往く人の中から特定の人物達を観察しながら話していた。



「えぇ。あの子は少し珍しい。それに、人柄も良さそうだ。店長も喜ぶでしょう……ゲーイ、先回りしますよ。作戦通りに」

「んもぉ~、副店長! ジョセフィーヌと呼んでって言ってるじゃないのっ。でも……作戦は私にま、か、せ、て!」



 目を付けたモノは何が何でも手にいれると言わんばかりの眼光を黒髪の少年へと最後に残し、二人揃って路地裏へと消えて行く。



「悪いわねぇ、ボウヤ。でも、悪い話じゃ無いからお姉さんを許してねっ。すぐに会いに行ってあげるわ」

「変態の名人……コホン。いや、変装の名人だったか? 声帯まで変わるのは相変わらず気持ち悪いがな。さ、急ごうか……他の店に取られるのは面倒だ」



 ◇◇◇



「悪いね……今うちの店、『水場』と『森林』は募集してないんだよね」

「そう……ですか。分かりました、お時間頂き、ありがとうございます」


(くそ……ダンジョンダンジョンダンジョン! 皆、何でそんなにダンジョンが好きなんだよ!)



 学校を出てから三店舗。やはり、どのお店も流行りじゃ無い場所を学んで来た五等星を、新しく雇うのは難しいらしく……俺は途方に暮れ出していた。



「はぁぁ~。あと回ってないお店は何処(どこ)だったっけなぁ……」


「ボ、ウ、ヤ」



 振り返るとそこには綺麗な女の人がいた。金色の髪を靡かせて、まるでこれから社交界に出るかの様におめかしをしている。

 そんな人が僕に何の用だろうか……?



「キミ、さっき案内店に断られてたけど……そのバッチは五等星よね? まだ就職先が決まってないのかな?」

「は、はい……。どこも流行りじゃ無い観光地を学んで来た僕は必要無いみたいで……」



 大手なら僕みたいな奴を一人くらい雇ってくれるのでは? なんて考えが甘かった。大手だからこそ余分なな人件費は無く、その分を新人教育に注ぎ込むそうだ。

 まぁ、だからと言って自分のやりたい事を諦めるつもりは僕には無い。結果、お店と僕の条件が合わないなら、大人しく引き下がり、また別の案内所を探し出すしかなかった。



「あら……あらあら。それは可哀想ねぇ。あっ! お姉さんの知り合いにもお店(・・)を経営している人が居るんだけど……行ってみる気はある?」

「――え? ほ、本当ですかっ!?」



 まだ、そのお店に就職出来るかは分からないけど……今の僕にはこの人が女神に見えた。


 ――結果として、僕は騙される事になるのだが。



 ◇◇



 優しくも美しいこの女の人の後ろについて行き、人気の無い道を右へ左へと進み到着したお店は、文字の(かす)れた看板、所々に割れて簡単に補修した窓。傷んだ木造建築の壁や床。

 一言で言うなら、『ボロい』お店だった。



「お店の外はこんな感じだけど、中は大丈夫よぉ?」



 “おい、眼鏡女! お前、また俺の飯取っただろ!!”

 “うるさいですよ。早く食べないお前が悪いのです”



 建物の中から良く言えば賑やかな雰囲気、悪く言えば殺伐とした雰囲気を感じる。

 というか、悪く言わなくても殺伐とした雰囲気を感じる。隣の女の人を見るが、ニコニコしているだけで何も言わない。

 まさか、これが日常とでも言うのだろうか……?



「おや? お店の前で何をしているのかな?」


「あらっ! ボウヤ、この人はここの副店長さんよ! 副店長、この子……就職先が見付からなくて困っているそうなの。ここで雇ってあげる事は出来ないかなぁ?」



 副店長と言われた女性は、肌が白く、髪も白く、全身をローブで隠し、陽射しを避ける為の大きな帽子を被っていた。身長は僕より少し低いが……一度視界に入り、認識してしまうと存在感が桁違いである。

 そして、開いた口から見える鋭く(とが)った八重歯で確信する。


 ――吸血鬼。もっと言えば、アンデット科吸血属の最強種。つまり、珍しい魔族のお方という事だ。



「ほぅ……うちの店にか? だが、うちで募集してるのはな……」


(やっぱり……ダンジョン系、遺跡系かな? 吸血鬼の方が居るなら廃墟系もあり得る。だとしたら、案内してくれたお姉さんには悪いが僕は……)



 副店長さんの溜めが凄く長く感じられて、焦りを通りすぎ落ち込み始めた時に、ついに募集の条件が言い渡された。



「『水場』への熱い思いと知識を持った人物だけだ!! お前にその覚悟はあるのか!? その心意気があるならこの契約書にサインしろ!!」



 ローブの中からさも、用意しておきましたと言わんばかりに突き付けられた契約書。

 いつもだったらしっかりと読むはずの契約書。

 ただ単に、副店長さんの勢いに負かされたのかもしれない。

 だが、今の僕はこの幸運を手放してたまるかと、その契約書を手に取り……借りた羽ペンとインクでサインをしていた。


 サイン……してしまっていた。店は少しボロく立地もどちらかと言えば悪い。店は殺伐としてそうだが……そんな事は全部頭の片隅へと追いやっていた。



「うむ……これで契約は完了だ。私は副店長のニオン。お前の名前を聞いておこう」

「はい! 僕はトウジと言います! 『水科』と『森林科』を学び、卒業しました! 水場への想いは負けないつもりです。よろしくお願いします!」


(やりましたよ、お父さん! お母さん! そして、リーク! 僕はここで立派な一等星になるから!)



 契約書をニオンさんに手渡すと……ニオンさん、そして、ここまで連れて来てくれた女の人が()みを浮かべた。が、先生が見せてくれたモノとは方向の違う、含みのある()み。



「さぁ、トウジ。中に入ろうか。ようこそ、『“秘境”案内所 リージョンガイド』へ!」

「……嘘、でしょ?」


(あっ……死んだ)



 その店名はこの街に住んでいれば聞いたことの一度や二度はあるだろう。それほど“有名”な店だ。


 だから、店名を聞いたその瞬間。騙されたというよりも、真っ先にその考えが頭の中を駆け巡っていた。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ