訪ねてきたのは
一人称と言ったな。
あれは嘘だ。
「ちょっと買いすぎたかな……」
買い物を一通り終え家路についた蒼太とルルリエの両手は食料品や衣類などの入った袋で塞がっていた。
そのどれもがずっしりと重く、ちょっと買いすぎている感があるが足りないよりかは良いだろう。
大は小を兼ねる。だ。
「すぅぱぁは凄かったのだわ! 何でもあるのだわ!」
「何でもはないけどね……取り合えず早く帰ろう」
「はーい!」
スーパーマーケットの季節を選ばない品ぞろえに興奮するルルリエとは対照的に蒼太は帰路を急いでいた。
と、言うのもルルリエの整った人間離れしている造形と大袈裟な反応は地味な服を着たところで嫌でも人目を引くからだ。
こうも人目にさらされると隣を歩くだけでも少し気恥ずかしい。
今になって留守番させておけば良かったと後悔していた。
「……あれ?」
そしてやっと家が見えてきたところで蒼太は首をかしげた。
家に灯りがついていたのだ。
「消し忘れかな……?」
確かに消したはずだが記憶違いだったのかもしれない。
そう言うことはたまにあるのでそれほど深く考えずに玄関のドアを開けた。
「あ、お兄ちゃんお帰りー。珍しいね外に出てるなん……て……」
すると一人の女の子がぱたぱたと居間から小走りで蒼太たちを出迎えた。
そして笑顔のまま固まる。
彼女は蒼太の知っている顔だった。
だからこそ今遭遇するのはまずい。
非常にまずい。
蒼太は冷や汗を流しながら頭の中でこの状況の言い訳を考える。
「や、やぁ……今日は来る日だったっけね……」
だが、何も思い付かなかった。
幼女と出掛けていた理由なんてそう簡単に考え付くはずもない。
だからまるで何事も無かったかのように平静を装うと言うだいぶ無茶のある行動をる。
「あ、あああ……」
そんな蒼太のひきつった笑顔に少女は震える手でポケットから携帯電話を取り出して答えた。
「もしもしポリスメン!?」
「あああああ!! まってぇぇぇぇ!!」
110番を押そうとする彼女の手から蒼太は急いで携帯電話を取り上げる。
「お兄ちゃんはシスコンだと思ってたのにただのロリコンだったのね! 遂にやったのね!?」
「違う違う! 取り合えず話を聞け!」
蒼太はパニックを起こす少女に早口で事情を説明する。
「この子はルル! 別世界から逃げてきたアンドロイドなんだ!」
「何言ってんの!? お兄ちゃんとうとう頭がおかしくなっちゃったの!? 大丈夫。私が面倒見てあげるから……だから本当のことを話して?」
「あーもうどうしたら……」
「そーた! 今こそ奇跡の使いどころなのだわ!」
「えぇ……」
どうにかこの場を収めようと言葉を探してしていると、その元凶が妙案とでも言うように自信たっぷりの顔でさらにこんがらがりそうな言葉を挟んでくる。
「ハッ!? さてはこの幼女がお兄ちゃんをおかしく!? 離れなさい!」
「ほらぁ……こういうことになる……」
「大丈夫なのだわ! そーたがそうだったように一度私の力を見せれば信じるはずなのだわ!」
「まぁもうどうしようもないしやってみるか……えーとたしか……奇跡の代行者として命ずる。一度頭を冷やせ!」
蒼太はルルリエの頭に手を置いて見よう見まねで願いを口にする。
するとその言葉はルルリエを伝い、彼女の中の奇跡を呼び覚ます。
そして生命力を対価に奇跡が模倣された。
「ひぁゃーっ!?」
その願いは少女の頭に局所的な豪雨を降らせるという形で叶えられた。
バケツをひっくり返したようなその雨は少女の髪と服をくまなく濡らすとそれで仕事は終わりと言うように一瞬で止んだ。
「…………」
あまりに突然のできことで雨を避けることも防ぐこともできずにずぶぬれになった少女は何が起こったか理解出来ずにただ呆けるしかなかった。
「なにこれ?」
「……なんかごめん」
やっと発せられた怒気を含んだその声に蒼太は取り合えず謝る。
確かに頭を冷やせとは言ったが想定していたのはちょっと驚くくらいのコップ一杯ほどの水。びしょ濡れになるほどの量が出るとは思わなかった。
空高く飛んだ事といい、まだ奇跡という不思議な力の調整は出来ていないようだ。
今後必要になるときに備えて練習しておく必要があるだろう。
グゥ……
そして対価に持ってかれた生命力を補充しろと腹が空気を読まずに鳴る。
「と、取り合えずご飯にするのだわ!」
そんな微妙な空気になった玄関に幼女の精一杯明るく作った声が響いた。
そりゃ急に水を引っかけられたら誰でも切れますよ。えぇ。