とある天気のよい平凡な一日 4
スロウペースだね!
もう少しして余裕できたらギア上げるね!
「ぅ……ぁ……」
気が付くとチカチカと瞬く視界で天井を見ていた。
学生の頃校長の話を聞いた後に急に立ち上がって軽い貧血を起こしたときと似た感覚が脳と体を支配する。
体がゴムでできているみたいに自由がきかない。
耳がキーンと鳴る。
視点が定まらず目の前の景色が歪む。
頭が熱に浮かされたようにくらくらする。
「あわわ……どうすれば……」
朦朧とした意識のなかでルルリエの慌てている声だけが聞こえてきた。
「食べ……物を……」
僕は力を振り絞って意思を伝える。
今の自分に足りていないのは栄養だ。
身体中を巡る血液がエネルギー不足であると悲鳴を上げている。
「食事? ええと……人間の食事はたしか本で勉強したのだわ……消化可能な有機物を経口摂取……消化可能な有機物は……」
「そこに……ある……カップラーメン……白い筒状の……」
「こっ、これですわね! えいっ!」
ルルリエは混乱していたためかカップラーメンを容器ごと倒れている僕の口に突っ込んだ。
そんなことをしたらどうなるかは容易に予想がつく。
「がぼぼぁっあづぁっ!?」
少し時間がたって多少は冷めていたもののかなり熱かったカップラーメンの汁と麺が顔に絡まって僕は仰け反りのたうち回った。
その一方で口のなかに入った分が喉元を痛みと共に過ぎて行く。
「あわわ……ご、ご免なさいなのだわ……」
「だい……じょうぶ……」
それでも多少は腹に収まり、生まれたての小鹿のような足で立ち上がれるくらいには回復した僕は鼻から出ていた麺を抜いてばつの悪そうなルルリエと向かい合った。
「……生命力を吸うのは程々にしてね」
「はい……」
今後奇跡を使うときは気を付けてもらいたい。
次は肝臓まで干物にされかねないし熱湯地獄はもう体験したくない。
するとルルリエはそれだけ言って黙る僕を不思議そうに上目遣いで見つめてくる。
「怒らないの?」
「いいよ。事故みたいなものだし。それより君は火傷してない?」
「私は大丈夫……でも失敗したのだわ……罰を受けて然るべきなのだわ……」
ルルリエはとても申し訳なさそうに目を伏せる。
平静さを失うと突飛な行動に出ることはあるが根は良い子なのだろう。
「ふっふっふっ……じゃあここは一つ体罰を受けてもらおうか……」
「……っ!」
僕は彼女の頭に手を伸ばした。
するとそれを見てルルリエは殴られるとでも思ったのか目をぎゅっとつむる。
「大丈夫。人間は失敗して学ぶもんだ。君は立派な人間だよ」
「………ぇ?」
僕はルルリエの頭を撫でた。
ゆっくりと慈しむように。
やってからちょっとキザかとも思って顔が熱くなる。
「ん……」
ルルリエは目を丸くした後、何をされているのか理解したのかはにかんで頬を赤らめた。
「誰かに撫でてもらったのは初めてなのだわ……」
「ごめん、嫌だった?」
「んん……嫌な気分ではないのだわ。むしろ……」
ルルリエは自ら僕の手に頭を擦り付けるようにしてきた。
僕はそれに答えるように絹のような髪を優しく撫で返してやる。
「……」
「……」
互いに言葉はなく、優しい時間が流れる。
きっとこの時間を幸せと言うのだろう。
ちょっとポンコツな奇跡を起こす機械仕掛けの人形との奇妙な生活はまだ始まったばかり。
でも、この先に何が待っていようともこの子は守ってあげないとと強く思うのだった。
法律的には物に該当するのできっとたぶん恐らくセーフ。
寒すぎて指先がかじかみます。
風邪には気を付けようね!