とある天気のよい平凡な一日 2
ぶれぶれ!
「え? 人形? でも腕は……」
「機能の一つで人工皮膚を貼ってカモフラージュしてますの」
「あー……なるほどねー……」
ゴム風船でも割ったかのように肘の柔肌からスッと現れた球体間接も見せつけられたらもう信じる他なかった。
つまりこの子――――ルルリエは奇跡を起こせる人形。
存在があり得なさすぎる。
だが確かに此処に存在しているのは認めねばならない。
「奇跡も魔法もあるんだよ……」
「?」
なので現実逃避でそんな戯れ言もはきたくなる。
「でもこれで分かりましたわ。ここはやはり別の世界。人間の滅んでいない世界なのだわ……」
「別の世界!? それに人間が滅ぶって……」
「ごめんなさい。一方的に巻き込んでしまった言い訳になるけれど話しておくのだわ。私のいた世界と私の事を……」
それから彼女はいろいろな事を話してくれた。
元いた世界の事、奇跡と言う魔法のような力の事、友達を置いて逃げてきたことを。
「なるほど……つまり君はこことは人間の滅んだ世界で造られたおーとまた? で、君を造った『お父様』から逃げるために友達が命がけで君だけをこの世界に送った。だから友達を助けに戻りたかった……と」
「うん……でも、もう戻ることは出来ないのだわ……」
「なんで? さっきは失敗したけど、ちゃんと準備して来たときと同じように奇跡使って戻れば良いんじゃないの?」
同じ事をすれば良いだけではないかと思ったが、彼女はしゅんと肩を落としたまま首を横にふった。
「渡界するためにはその世界の事を深く知らないといけないの。それで初めて楔となる。でも私はほとんどあの世界の事について知らないのだわ……」
「自分のいた世界の事を知らないって……」
「しょうがないじゃない! 私たちにとっての世界は白い壁に囲まれた場所と本や映像の中だけ。知りようがないのよ……」
「……ごめん。ちょっと軽率だった」
「いえ……私もまだ気持ちの整理がついていなかったのだわ……」
ルルリエは人形なのに目尻に浮かんだ涙を乱暴に拭う。
他人事だからって軽々しい言葉を言っていいものではなかった。
この子は恐らく断腸の思いで此処にいるのだ。
その気持ちを案じてやれなかった蒼太は自分を恥じる。
「……よしっ!」
「……!?」
蒼太が本気で凹んでいるとルルリエがいきなり自らの頬を両手で叩いて思わずビクッとなる。
「こうなってしまった以上、仕方がないのだわ! ここで生きて、いつかみぃちゃんを救う手段を見つけるのだわ!」
「た、逞しいな……」
見知らぬ世界に来たと言うのにもう覚悟を決めたようだ。
これだけ気持ちの切り替えが早いのならこの世界でもうまくやっていけるだろう。
「そう言えばあなたのお名前を聞いていませんでしたわ」
「そうだった。僕は水野蒼太。よろしく」
「よろしくお願いしますわ!」
こうして蒼太はなし崩し的にこことは別の世界からきた機械人形と知り合いになってしまった。
これから起こる大騒動に巻き込まれる事など露知らず。
この物語はフィクションです。
残念ながらフィクションです。
悲しいかなフィクションです。