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雷神様の人助け  作者: ミタ
第一章 始まりの場所
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封じられた神

「フザけんじゃねぇぞオイ! エミルに万が一のことがあったらどうしてくれるんだ!」


遠くから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

どこか適当なようで、優しさを感じる声だ。

だが、どうやらかなり怒っているらしい。


(この声は・・・ルドかしら。森の入り口で別れたはずじゃ・・・)


はっきりしない意識の中で、エミルはそう呟いた。


「だーかーら! ちゃんと魔力中毒の手当てはしてあげたじゃない! 久しぶりに会ったのにそんな冷たいこと言わないでよーー」


すると今度は、幼い少女の声が聞こえてくる。

聞き覚えが無い声だったが、エミルの中で声の主の見当はついていた。


(雷神様・・・ですか? 何でルドと喧嘩しているのかしら・・・)


エミルは僅かに薄目を開ける。

すると、エミルの目と鼻の先で言い争いをする二人の人物が見えた。

片方は冒険者風の服装に、特徴的な茶色い帽子を被った青年と中年の境目くらいの男だ。

勿論ルドである。


そしてもう片方は、一見すると十歳に届くか届かないかくらいの少女だ。

髪の毛は緑色でかなり長く伸ばし、白いドレスを着ている。

とても世界最強の神とは思えない可愛らしさだが、間違いなくこの少女こそが雷神だ。

少なくとも紫の紫電を纏って高笑いするような少女は、雷神と断定せざるを得ない。

仲があまり良くないのはルドから聞いていたが、二万年ぶりに会っていきなり喧嘩するほどなのだろうか。


それにしてもルドの怒りは収まらない。


「冷たいも暖かいもあるかボケ! 依頼人が死んだら、『契約破棄』に該当するのは知ってるだろうが! 神族の契約違反は、どんだけ重罪か分かってんのかよ!」


(依頼人・・・私のこと? どういうことなの?)


聞きなれない単語の連発で意味はよく分からないが、どうやらエミルは先程まで命の危機に瀕していたらしい。


「でも、アタシとルドが居れば別にどうってことなかったじゃない! ちゃんと責任は取るって言ったんだからもうこれでお終い!」


「・・・相変わらず反省してるのかしてないのか分かんねぇ奴だな。ちゃんと『契約破棄未遂』をした責任は取れよ」


「・・・分かった」


「・・・・あの・・・何をしているのですか?」


話の展開がよく分かっていないエミルは、起き上がると尋ねた。

どうやら、エミルが目覚めていたのは雷神もルドも分かっていなかったらしく、エミルの声を聞いた途端に驚きの表情を浮かべる。


「エミル! 良かった・・・本当に。 俺が駆け付けなかったら間違いなく死んでたぜ」


ルドは安堵の表情を浮かべると、そのまま地面にへたり込む。

一見すると何とも情けない絵面だが、それだけ心配していたのだろう。

だが、エミルにも聞きたいことはいくつかある。

聞いていいのかよく分からない内容だったが、思い切ってエミルは聞いてみることにした。


「先程の話にあった「契約破棄」とはどういうことなのですか?」


すると、ルドは途端に「しまった」という表情を浮かべる。

だが、エミルの真剣な表情を見て下手に誤魔化すのは悪手だと判断したらしい。

半ば観念したように、彼は話し出した。


「神が力を貸すには、それに伴う契約が必要なんだよ。今回のエミルと俺で交わされた契約は、『エミルが俺に祈りのエネルギーを渡し、その代わりに俺はエミルの望みを叶える』という物なんだ」


「しかし・・・そのような契約を交わした覚えはありませんが・・・」


するとルドはポケットから紙を一枚取り出した。


「これは『導きの羊皮紙』と言って、これに依頼人の祈りのエネルギーを注ぐことが契約の絶対条件だ。そして、そこに書かれた内容通りのことをすれば目標への大きな近道になるってわけさ」


だが、エミルは釈然としない。

契約について一切の説明なく、勝手に契約を結ばれるのはあまり気持ちの良い話ではないからだ。

しかし、横にいた雷神はエミルの考えていることを読み取ったらしく、半ば呆れるように言った。


「エミルだったっけ? 随分頭が固いねぇ。 基本的にルドみたいな良心的な神が契約を結ぶ時は、依頼人に不利な点が残らないように考えてくれるものなんだよ。今回のことならエミルがするのは、祈りのエネルギーをルドに渡すこと。後はルドがエミルを全力で支えるだけ」


そう言うと、雷神はエミルの方に一歩詰め寄ると、言った。


「エミルはルドに会えて本当に幸運だったんだよ。もしこれが神族派の性格の悪い神だったら、とんでもない代償を背負わされていたかもしれないんだから」


だが、それを聞いたルドが雷神に突っかかる。


「お前が言うな! 契約履行中の依頼人を殺しかけるなんて、一歩間違えれば俺も破滅していたんだぞ!」


途端にまた、雷神とルドによる言い争いが幕を開ける。

だが、エミルは内心冷や汗をかいていた。

確かに、言われてみれば自分のこれまでの行いは、お世辞にも相手が自分を『騙そうとしていた』場合に対応した行動とは思えない。

神クラスの存在と交渉するには、心構えから無防備すぎた。


(もっと考えなきゃ・・・そうしないと生きていけない)


彼らの言い争いをバックに聞きながら、彼女は決意した。




=================




ルドと雷神の言い争いが落ち着いたところで、エミルが倒れた後の話を始めることにした。


森の入り口で紫電を見たルドはその直後にエミルの意識が吹き飛んだことを、魔力の乱れから感じ取ったらしい。

本来は、雷神と顔も合わせたくなかったルドだったが、エミルの命に万が一のことがあると自分も危険だと判断し、慌ててアウトラセル城まで駆け付ける。

そこで見たのは、雷神の強力な魔力波によって魔力中毒を起こしたエミルの姿だった。


魔力中毒とは、魔力耐性が無い人間に無理やり魔力を捻じ込むことで起こる、中毒症状のことだ。

放っておくと、体に入った魔力が体の臓器を犯し、多臓器不全を起こす。

それを回避するには、その魔力を吸い取って、かつ乱された体のバランスを整理しなければならない。


だが雷神の超高濃度の魔力を吸収し、かつそのダメージを最小限に止めて体のバランスを戻すような芸当は、それこそ魔力の出どころである雷神と、神でも高ランクに位置するルドが居たからこそ出来る超絶技巧であり、それだけにエミルが助かったのは奇跡なのだ。


「本当だったら死んでいた可能性の方が高かったのに・・・・本当に有難う」


「別にいいぜ。今回は全面的にこいつが悪いからな」


エミルの感謝の言葉を、ルドは笑顔で受け止める。

雷神も、エミルに対して申し訳ない気持ちがあるらしく、先程と比べて大人しくなっている。

因みに、エミルが敬語を止めたのは雷神に対しても同じだ。

雷神の方も、敬語で丁寧に接されるのは苦手らしい。


因みに、エミルが気を失っている間に雷神とルドの間で交渉は大体行っていたらしく、雷神の方も当初予想していたほど難しい態度ではない。


「それでぇーー? アタシにやってほしいことってなによ?」


エミルは、比較的フレンドリーに話すように心がけながら、話を切り出した。


「今回やってもらいたいのは、神族派との対立時に助太刀してもらうこと。あと、神族派ではなく人間派だということを明確に示してもらうこと、って感じかな」


エミルとしても、雷神が仲間になればこれ以上なく心強い。

雷神の方も、その提案に異論はないようだ。


「いいよ。アタシもこれ以上人間に嫌われるのは嫌だし、アタシをこの城に閉じ込めた奴等にも恨みがあるしね」


思わず、エミルは胸を撫で下ろす。

最悪の場合、ここで雷神の逆鱗に触れることも考えられただけに、最高の結果で終われたのは奇跡だ。


だが、エミルが雷神に対して感謝の気持ちを述べようとした時だった。

雷神はふと思い出したように言った。


「そう言えばぁ、アタシの力って相当落ちているのよね。正直力になれるかしら」


「え・・・でも、さっきとんでもない雷を落としてたじゃねぇか」


雷神の言葉に思わず反応したのは、ルドだ。

だが、静かに首を振ると雷神は言った。


「違う。さっきの奴はアタシが何千年もかけて溜めた、大気中に漂っていた魔力をまとめて発射しただけよ」


「マジかよ!? じゃあ、お前の魔力はどうしたんだ! 結界は解いたはずだぜ!」


すると、雷神は城の天井を指さした。

ルドとエミルも、天井を見上げる。

そして二人の目に飛び込んで来たのは、予想だにしない物だった。


天井には、巨大な赤い魔法陣が描かれていた。

雷神は言う。


「アタシの魔力はほぼ全部、あの魔法陣に吸われているのよ。しかもその魔力は全部このアウトラセル城の建物全体に貯め込まれてるの」


その時、エミルは気づいた。

彼女は慌てて、ポケットから魔法陣が書かれた紙を取り出す。

そこには、赤字で書かれた魔法陣がある。


「ルド! この魔法陣を使えばあれを破壊できるんじゃ・・・・」


だが、ルドと雷神の表情は冴えない。

彼らの表情の理由が分からないエミルだったが、暫くするとルドが言った。


「エミル・・・確かにそれを使えば魔法陣を壊せると思うぜ。でも、そうするとかなりヤバい問題が起きるんだ」


すると、雷神が言葉を受け継ぐ。


「魔法陣は、魔力を消すわけじゃなくて、魔力を『吸収』するの。つまり、魔力自体は消えていない。それは言い方を変えると、アタシの二万年分の魔力がどこかにずっと貯められているってわけよ。じゃあ・・・何所にあるか分かる?」


「それは・・・やっぱりこの城ですか?」


エミルは、当然のことと言わんばかりに言ったが、その途端に彼女は理解した。

彼らが言わんとしていることを。


「アタシの魔力は全てこの城の建物に吸収されてるの。じゃあ仮にその魔力を抑え込んでいる魔法陣を破壊したら・・・・どうなると思う?」


言うまでもない。

雷神の途方もない魔力が、アウトラセル城を中心にして一気に放出されるというわけだ。

そうなれば、もはやこの世界はお終いだ。


「そーゆーこと。エミルとルドが結界を壊してくれたおかげでだいぶ楽になったから、戦えなくはないけど、閉じ込められる前の完全無欠なアタシはしばらく無理ね」


結局、雷神の魔力を完全に開放することに関しては断念することとなった。

それだけに、エミルの中にはかなりの不安が残った。

いくら何でも、魔法がほとんど使えない状態で戦うのは無謀すぎるからだ。


しかし、エミルは後に思い知らされる。

彼女が、『世界最強』の神と呼ばれるその理由を。


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