対面
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森に入ったエミルは、順調に中を進んでいった。
結界の影響でかつては絶対に奥に入ることが出来なかった迷いの森も、結界が破壊されてしまえばただの森だ。
比較的危険度も低く、猛毒を持つ植物以外は命を脅かすようなものが存在しないため、エミルのような武装していない少女でも、突破することは難しくない。
武器を持っていくことも考えたが、ルドからのアドバイスで却下した。
ルドによると、雷神は昔から何かと戦うことが多かった影響で、一部の知り合いを除くとほぼ例外なく武装している人間には敵対心をむき出しにするらしい。
今回はあくまで「交渉」のため、雷神の機嫌を損ねることは好ましくない。
加えて、ルドはあることをエミルに言った。
「いいか。雷神は下手に出られることをあまり好まない。かと言って図々しく接されるのも嫌う。面倒くさいかもしれないが、もしあいつと話すときは同じ立場の人間として話してやれ。あまり遜るとアイツの機嫌を損ねるかもしれないからそのつもりでな」だそうだ。
どうやら、雷神はあまり人間を見下したりしないようだが、それでもエミルは不安だった。
ルドの話を総合すると、どうやら雷神はかなり面倒くさそうな性格のようだ。
本人を知らない以上、度が過ぎる推測は逆効果なのだろうがこの調子では、ルドの言った通り、レガリア大陸もろとも吹っ飛ばされる未来も真面目にありそうな話だ。
だがそんなことを考えていたエミルがふと前を向くと、彼女は思わず叫び声を上げた。
だが、それも無理はない。
結界を越えた影響からか、今まで見えなかったはずの巨大な建造物が彼女の目の前にそびえ立っていたからだ。
見上げるだけで首が痛くなるほどの高さで、横幅も宮殿がすっぽり入ってしまいそうなほど大きい。
間違いなく、これが噂のアウトラセル城だろう。
造りは、流石二万年前の建築物と言うべきか、相当古風だ。
窓は少なく、灰色がかった壁で、迷いの森の暗い雰囲気に完全に溶け込んでいる。
だが、遥か昔の建築物にしては建物の老朽化が起こっておらず、どちらかというとここ最近建てられたと言っても全く不思議ではない。
恐らく、魔法で半永久的に劣化しないようにしてあるのだろうと見当をつけたエミルだったが、少し先に進んだとたん、彼女の視線はある一点に集中した。
厚みを感じる灰色の重厚な門が、城の城壁に設置されている。
勿論これは内部につながる入り口だろう。
だが、それ以上にエミルの視線を引いたのは、門に貼られたありとあらゆる呪符や、魔法陣を刻んだ魔法石の数々だ。
その様子からも、かつて雷神を封印した神々が意地でも雷神を外に出したくなかったことが予想できる。
しかし、彼女が中に入るにはその門を通過しないといけない、
かの雷神すら、結局外に出ることが出来なかった門の封印を破ることは出来るのか。
その心配は無用だった。
エミルは門に近づくと、恐る恐る呪符の一つを手に取った。
だが、何も起こらない。
「さっきの結界解除の術式は本当にすごいわね・・・・ここの呪術すら無効化しちゃうんだから」
そう、先程の結界を破壊した過程で、門に仕掛けられていた呪術もすべて破壊されていたのだ。
門にも何かしら仕掛けてあることと、それが解除されているであろうことは、すべてルドから聞いていたが、いざ見てみるとやはり驚いてしまう。
いずれにしても、これで彼女の歩む道を妨げる物は無い。
エミルは、深く深呼吸をすると門の取っ手を掴み、力を込める。
ついに、雷神との対面だ。
この人間の世界を守るための、大一番がこの先に待ち構えている。
「・・・神よ。非力なる私に大いなる力を」
エミルは、そう呟くと門を開けた。
ずっと開けられることの無かったアウトラセル城の門は、金属の擦れる嫌な音を発しながら少しづつ開いていく。
そして、彼女が目にしたものとは・・・・
「この雷神! 晴れて復活いたしまーす!」
右腕を空に掲げて何とも楽しそうに笑う小さな少女の姿と、そんな彼女の何とも可愛らしい叫び声だった。
「・・・・え?」
恐ろしい魔王のような存在をイメージしていただけに、無粋ながらも思わず彼女は拍子抜けする。
だが次の瞬間、強烈な閃光と魔力波が辺りを満たし、魔力耐性の無いエミルを襲う。
混沌の極みとなった状況で、エミルが覚えていたのは紫色の閃光と、意識を容赦なく刈り取ろうとする強烈な魔力波、そして高笑いする小さな少女の姿だった。
せめて話だけでもと、意識を強く持ったエミルだったが、神族すら裸足で逃げだす死の稲妻から発される魔力波は、魔力耐性の無いエミルに耐えられるような代物ではない。
「あ・・・れが・・・雷神・・・様・・・」
彼女はそう呟くと、そのまま意識を失った。