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雷神様の人助け  作者: ミタ
第一章 始まりの場所
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解放の時

「あれ・・・結界が壊れていく・・・」


雷神は今まで自分を繋ぎ止めていた結界の一部が崩壊していくのをアウトラセル城の内部から感じ取っていた。

古の魔術を何重にも張り巡らせた強固な結界は、雷神の攻撃すら無効化する。

だが、その結界が猛烈な勢いで解除されていることに流石の雷神も驚きを隠せない。


「なんでこんな簡単に壊れるのかしら・・・・ あのクソバカ野郎共が私を開放するとは思えないし・・・」


雷神の言うクソバカ野郎共とは、二万年前に自らを封印した神族派の神のことだ。

二万年前の争いに関してはその殆どを水に流しているが、自分を封印した神に関しては未だに雷神は根に持っている。

だが、魔力遮断結界が破壊されたことで伝わってくる魔力を調べてみると、明らかに今近づいてきているのは神クラスの存在ではない。

むしろ、何の魔法も使えない平民という感じだ。

しかし、雷神はあることに気付く。


「僅かにだけど、祈りの魔力を感じる。ということは・・・・ルドか!」


謎の存在から伝わる魔力は、かの願望神の祈りの魔力だ。

となると、結界を解いたのは願望神であるルドの可能性が高い。


「ルドかぁ。懐かしいなー」


殆ど神族と交流していなかった雷神だったが、ルドとは少なからず交流があった。

比較的イジリ易い性格だったため、時々悪戯を仕掛けたりして遊んでいたのだが、突如として連絡が取れなくなり、交流することがなくなってしまったのだ。

数少ない知り合いだったため、連絡が取れなくなった時は少なからず雷神も心に傷を負った。


だが実際は、雷神の仕掛けた悪戯というのがルドの命に関わるレベルで危険だったことから、ルドが雷神の魔力を感じるごとに、戦略的撤退を余儀なくされていたことが原因である。

当然ながらそれを雷神は知らない。

だが、どちらにしても雷神のテンションはどんどん上がる。

二万年ぶりの自由と、懐かしい旧友(?)の存在を知った雷神の魔力はテンションと比例してみるみる上昇していく。

結界が壊れたことで、今まで抑えられていた彼女の魔力の一部が、彼女の体を満たしエネルギーを注ぎこむ。

そして、彼女は叫んだ。


「この雷神! 晴れて復活いたしまーす!」


そう言うと、彼女は右手を天に向けて魔力を集中させる。

そして祝砲と言わんばかりに、雷撃を空に向かって打ち上げた。



と、同時にアウトラセル城の門が開き、エミルがビックリ仰天という様子で雷神を眺めていたが、完全に気持ちが高ぶり、周りが見えていない雷神の目には入らなかった。


==================





ここは、迷いの森の入り口。

エミルを森に送り、一休みしていたルドの目にいきなり飛び込んで来たのは、天まで登る勢いで発射された紫色の雷撃だった。


「おいおい・・・変わらねぇなあのバカは。エミルだけに行かせたのはやっぱり良くなかったかな・・・」


魔力が極限まで圧縮された先程の紫電は、雷神の桁違いの魔力と、天性の魔力操作術を示すものとして最もポピュラーだった物だ。

彼女の雷撃を見たものは、どんなに離れていても一目散に逃げだし、かつてあれをまともに受けて生きていたのは片手で足りる程度しかいない。


「まさかあれをもう一度見ることになるとは・・・・本当に何やってんだか俺は・・・」


神族派に対抗するためとはいえ、改めて雷神の雷撃を見ると嫌でも腰が引けてしまう。


「俺のやったことは正しかったのか? ・・・もうどうでもいいや」


最終的に、ルドは考えることを放棄した。



===================




場所は変わり、ギャロス大陸の奥地。

そこには巨大な神殿が建てられていた。

純白の大理石のみで作られたその宮殿は、一見するとこれ以上なく美しい建物だが、ギャロス地方に住む人間族にとっては負の遺産そのものだ。


人間から搾り取った金を一切余すことなく使い、贅沢の限りを尽くしたその建物は神族にとっては繁栄の象徴であり、人間族にとっては悪夢と苦しみの象徴だ。

更に、普通の人間は出入りすら許されず、神族と一部の選ばれた人間以外が宮殿に入れば、一切の言い訳を許さず死刑となる。


そんな呪われた建物の中に、一人の女性が居た。

黒いベールを纏い、妖艶な雰囲気を醸し出している。

グラマラスな体を存分に見せつけるような露出度の高いローブを纏い、上からベールを被せているため、彼女の顔までは見ることが出来ないが相当な美女だろうと推測できる。


そして、その横には黒い甲冑を着た一人の騎士が居た。

こちらも表情は見えないが、一寸の隙も無い殺伐としたオーラを放っていることから相当な実力者だろう。

漆黒の剣を腰に下げ、仁王立ちする様子は正真正銘の歴戦の強者だ。


だがそんな騎士ですら恐怖するような事態が今、この瞬間に起こっていた。

横の女性から放たれる、どす黒い魔力が先程から宮殿を覆い尽くしていたのだ。

その禍々しさから察するに、女性の機嫌が相当悪いのは容易に想像できる。

だが横の騎士は彼女の機嫌が悪い理由を察していた。


それは僅か数分前の出来事だった。

突然、大気中の魔力が強く乱れると、その瞬間に強烈な魔力の波が発生した。

魔力の規模から想像すると、どう考えても最上級クラスの神族による古代魔術が妥当だと考えた騎士は、直ちに迎撃の魔法陣を組み立てるように部下に要請したが、なぜか主である横の女性がそれを止める。

彼女は「貴様にはどれ程恐ろしい事態に陥ったのか予想すらできまい・・・」とだけ言うと、それからずっと一言も喋らない。


無論、怒りの原因を訪ねる程の勇気は無いが、それでも彼は一つの予感を感じていた。

今までにない、恐るべき事態が起ころうとしている。

騎士は、首筋を冷や汗が流れるのを感じた。


一体何が起こっているのか・・・・彼がその全貌を知るのはもう少し先のことである。

そして、先程の魔力波から大体の状況を把握していた女性は、横にいる騎士すら聞こえない程の小声で、さも忌々し気に呟いた。


「何所の愚か者だ・・・・あの悪魔を解き放ったのは・・・。 報復せねばなるまい」


彼女はそう言うと、静かに唇を噛み締める。

彼女もまた、少なからず雷神に苦手意識を持つ一人だった。


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