いざアウトラセル城へ
ルドは、懐からもう一枚紙を取り出すと、その紙に魔力を込める。
すると、紙に少しづつ模様のようなものが浮かび上がってきた。
「こいつはアウトラセル城までの地図だよ。あのバカは二万年前にアウトラセル城に封印されてから一歩も外に出てねぇからな。今じゃあの城の在りかを知っているのは俺を除くと、ほんの一握りしかいないはずだぜ」
ルドはそう言うとエミルに地図を半ば乱暴に押し付ける。
エミルはその地図を受け取ると、その内容を確認した。
だが、暫くすると顔を上げルドに尋ねる。
「この地図によると、雷神様がお住まいになられているアウトラセル城はレガリア大陸の奥地にあるとなっておりますが・・・私の知る限りそのような城はレガリアの何所にもありません」
するとルドは笑って答える。
「そりゃあ、あの怪物を封印するのにお前らに認識される程度の結界を張るわけねえだろ。アウトラセル城は魔法を遮断する結界とは別に、ありとあらゆる認識阻害の結界を何重にも張っているからな。少なくともこのまま地図通りの場所に言っても錯乱魔法で永久に違う場所をグルグル周ることになるはずだぜ」
「そんな・・・・、一体どうすればよいのですか!?」
エミルの顔面が蒼白になる。
だが、ルドは地図が書かれた方とは別の最初の紙を再び取り出すと、そこに書かれている魔法陣を指さす。
そこには、それぞれ赤字と青字で書かれた別の魔法陣がある。
「恐らくだが、この青い方の魔法陣が城の周りに張り巡らされている結界を破壊するための魔法陣だ。かなり昔に失われたはずの技術なんだが、流石「導きの羊皮紙」だな」
自画自賛しているルドを無視して、エミルは考える。
確かにこれがあれば、今すぐにでも雷神を開放しに行けるだろう。
だが、そもそもレガリアまでの距離やそこに行くまでの困難さを考えると、難しい話なのも事実だ。
レガリア大陸は、デグルド大陸とは違い神族派の支配下だ。
そのため、人間派の最重要人物であるエミルが万が一レガリアに一歩でも足を踏み入れれば、どのような持て成しを受けるかなど、正直考えたくはない。
だが、人材不足を極める今の人間派陣営にこのような大役を任せられるだけの技量を持つ人材がいないのも事実なのだ。
「どうしましょう・・・道具が揃っていても、それを使うことが出来ないのでは意味がありません・・・」
すると、エミルの様子から大体の状況を理解したらしいルドが彼女に言った。
「大分お困りみたいだが、別に心配しなくてもいいぜ。確かにここから城まではかなり遠いが、俺の空間移動魔法を使えば余裕だ」
それを聞いたエミルは、ハッと我に返る。
「願望神様が手伝ってくださるのですか!?」
「俺の仕事は依頼人の望みを出来る限り補助することだからな。一応これは手伝える範囲さ」
その言葉を聞いたエミルは喜ぶ。
だが、ルドの顔は冴えない。
彼にとっては、「その後の工程」が最も厄介だからだ。
彼はエミルに言った。
「だが、あのくそバカを説得するのは嬢ちゃんの仕事だぜ。二万年も城に閉じ込められたアイツが、すんなり嬢ちゃんの話を聞いてくれるとは思えねぇけどな。俺としてはお勧めできねぇ。あいつの気まぐれさを考えたら、レガリア大陸ごと吹っ飛ばされる方が可能性としては高いしな・・・」
「雷神様は・・・・そんなに恐ろしい神様なのですか? 神族派の神であるのなら、私も交渉は難しいと思うのですが・・・」
「あいつは完全なる「自由派」だよ。自分の思うがままに生き、人には尽くさず、欲望のままに力を振るう、っていうのが俺の知ってる雷神だ。「導きの羊皮紙」が示した道とはいえ、昔の雷神を知っている俺としてはやっぱり信用できねぇ」
だが、エミルの気持ちはこの時点ですでに固まっていた。
確かに危険な神であることはルドの言葉から容易に理解できる。
だが、味方ではない代わりに敵でもないなら、この現状を打開する最大の切り札に十分なりえる。
「危険は十分に承知いたしました。しかし、時間も力もない私にとって雷神様は最後の希望です!どうかアウトラセル城まで連れて行ってください!」
エミルはそう言うと、ルドに頭を下げる。
ルドも、彼女の気迫に覚悟を感じ取ったらしい。
右手を突き出すと、呪文を唱え始める。
魔法を使うことの出来ないエミルにその内容は殆ど理解できなかったが、彼の最後の言葉は理解できた。
『願望神、ルドレウス・オールナイの名の下に空間歪曲陣を召喚する』
すると、地面に強烈な光を放つ魔法陣が現れた。
よく見ると、その光はルドがエミルの前に現れた時と同じ光だ。
「これは空間歪曲陣と言って、指定した場所まで移動することが出来る便利な魔法陣さ。この陣を使う人間は恐らく君が初めてだ」
「ですが・・・魔法の心得が無い私に使えるでしょうか。魔力耐性などの問題は・・・」
「ずいぶん難しいこと知ってんな。でも大丈夫だ。魔力供給は全部俺がやるから君は陣の中に立っているだけで問題無いし、影響もないはずだ」
エミルは恐る恐る陣に足を踏み入れる。
足を入れると、ほんの僅かに体全体が暖かくなるような感触を感じた。
「では、出発だ。お互い無事で帰れればいいけどな・・・」
そう言うと、ルドは一気に魔力を上昇させる。
そして、眩い光と共に彼らの姿は消えた。