次の道
見事なまでに空は晴れ、それはまるで三人の旅立ちを喜んでいるかのようだった。
村の入り口には立派な馬がいる。
そして馬には三人が乗れるように、車も付けられていた。
加えて、その車の中にも数日間は困らないくらいの食糧が用意されている。
多少のトラブルはあったとはいえ、村人が連れていかれるはずの所を救った三人は村全体から大いに感謝され、ご丁寧に移動手段まで用意してもらっていた。
因みに馬や食料はすべて雷神に救われた男とその家族が負担したらしい。
村の人と殆ど交流が無いルドとエミルは早くも馬に乗りこんで出発の時を待っていたが、雷神には挨拶しておきたい家族が居た。
「気をつけるんだよ。いくら強いからって油断は大敵だからねぇ」
そう話すのは老婆だ。
「この先は強い魔獣も出るからね。願望神様もいるから大丈夫とは思うが気を付けてくれよ」
アレスもそれに同意する。
勿論表立って言われてはいないが、村人からあまり良く思われていなかったジャルトを叩きのめしたことが村人たちにとってもかなり小気味よい出来事だったらしく、先程から「もう少しゆっくりしていけばいいのに」というような声が多数聞かれる。
雷神としてもその好意に甘えたい気持ちはあったのだが、エミルとルドを待たせることは出来ないと感じたため、名残惜しいが村に別れを告げることにしたのだ。
そして一通り挨拶を終え、雷神が馬車に乗りこもうとした時だった。
「ちょっと待って!!」
ギリギリのところで引き留める一人の少年が居た。
勿論、シドである。
横にはミルもいる。
「何所に行くのかは分からないけど・・・・頑張ってね」
ミルはそう言うと、横にいるシドの脇腹を突っついた。
「早く言え」とでも言うかのようなミルの行動にシドは一瞬だけ驚いたような素振りを見せると、ポケットから鉱石の付いたネックレスのような物を取り出すと、雷神の方に突き出した。
「あの・・・・これ、俺が初めて見つけた鉱石で作ったヤツだから・・・・あの・・・あげるよ」
シドのペンダントに付けられている鉱石は、雷神が持っているような七色鉱石と比べればゴミと言われても仕方がないような赤みを帯びた鉱石だ。
だが、雷神はそれを見ると嬉しそうな表情を浮かべ、シドからペンダントを受け取った。
「大事にするよ!! 二人とも元気でね!!」
そう言うと、雷神は元気よく手を振り、馬車に戻っていった。
シドは、まだ何か言いたげに口を一瞬だけ動かしたが、結局何も言うことは出来なかった。
そして、雷神が馬車に乗り込んだのとほぼ同時に馬車は動き出す。
「・・・何で言わなかったのよ」
遠くに消えていく馬車をぼんやりと眺めているシドを半ば責めるようにミルが言う。
だが、シドからの返答は無い。
「ちょっと! 何か言いなさ・・・」
ミルがそう言ってシドの方を見ると・・・
シドは泣いていた。
何も言わないが、静かに涙を流している。
「・・・・無理だよ。あの子に俺は釣り合わない。俺とあの子じゃ根本的に何もかもが違うんだ・・・」
ミルは敢えて何も言わない。
「釣り合うように努力しろ」とか「諦めるな」という言葉も空しいだけだと察していたからだ。
ミルから見ても、雷神がシドのような普通の男の子とは明らかに違うのは分かる。
それだけに何も言えないのだ。
「・・・・帰ろうよ。みんな待ってる・・・」
ミルの言葉に軽く頷いたシドはゆっくり家の方向に歩いていく。
家に帰る二人の背中は、とても頼りなさげで、そして寂しげだった。
だがこの二日間は、二人にとってとても大きな物になったことは間違いないだろう。
こうして、デラス村での騒動は幕を閉じた。
デラス村編はこれで終わりますが、村の人々にはまた登場してもらう予定です。
by ミタ