本意
聞くことはそんなに多くない。
すなわち、ザクロが今何をしているかと今の「神族派」の状況だ。
ルドは取り敢えずザクロの現状を尋ねる。
そして分かったのはこのような内容だ。
ルドの予想は見事に的中し、現在ザクロはレガリア大陸最大の都市であるアトムで贅沢な生活を満喫しているらしい。
当然ながらレガリアの統治などはするわけがなく、そのような雑務は全て忠誠を誓った人間の腹心に任せているらしい。
その代わり、圧倒的な力を誇るザクロがレガリアに入ってきたことで、神族のいざこざが絶えなかったレガリアの殆どの場所で揉め事が無くなったそうだ。
しかしながら、人間に対する弾圧は日増しに強くなり、他の村によっては税を払えなくなって逃げだすような人間も後を絶たないらしい。
だが、逃げ出した人間の多くは神族が率いる兵士団によって処分されるか、女の何人かはザクロに献上される。
仮に兵士団から逃げ出せたとしても、住む場所を持たない人間が生きていける程生易しい環境ではないため、魔獣の餌になるか野垂れ死ぬのが大半だそうだ。
「全く変わってねぇなザクロの野郎は・・・・」
ルドはそう呟く。
そしてそれは雷神も同意見だったらしい。
「というかさっさとアイツをぶっ飛ばしに行きたいんだけど。正直、人間派を助けるとかどうでも良くなってきて・・・・」
「ダメ!! 何のためにここに来たのかもう忘れたの!?」
旅の趣旨を完全に忘れてしまっている神二人に対して、必死に抵抗するのはエミルだ。
いくら何でもこのタイミングで、人間派救済という本来の趣旨を忘れられてしまったらエミルとしても、何のために遥か遠くのアウトラセル城まで来たか分かったものではない。
今一つ三人の思惑は噛み合わないが、話は続く。
次の話題は、今の「神族派」の状況だ。
だがこれに関しても本来得ていた情報と変わらない物だった。
殆どの大陸を手中に収めている神族派は、支配できた地域に神族を派遣し、各地域で神族による支配を行っている。
特に力のある神族は例外なく重要な役職に就き、神族派の中心拠点であるギャロス大陸からの指示を受けて各地域を統治する。
結局の所、新しい情報は何も得られなかったが、三人にとってはそこまでがっかりするようなことでもなかったのはせめてもの幸いだろう。
ジャルトは、神族の中でも最弱の立ち位置であり、元々重要な情報は持たされていなかったらしい。
雷神はザクロに関する情報が手に入らなかったのをかなり残念がっていたが、元々持っていない以上こちらからどうする事も出来ないのだ。
「結局ロクなことにならなかったな・・・・」
尋問が終わり、思わずルドは呟く。
薬の効き目が完全に切れた後のジャルトの暴れ方は凄まじかったが、雷神の右ストレートによって再び夢の世界に逆戻りしてしまった。
その後は、ルドが作り出した忘却魔法でジャルトと兵士の意識を改ざんし、今までのトラブルは完全に記憶から消して、送り返した。
完全に記憶を失ったジャルトが、自分の傷に不信感を覚えることを考慮して、ジャルトの体に刻まれた雷神との戦いの後はルドの治癒魔法で消してしまった。
結局の所、最後の最後まで雷神の不始末はルドがケリを付けた流れだ。
今の三人は、デラス村から見える無数の星空を眺めていた。
雷神にとっては名残惜しいが、デラス村に長居することは三人にとっても村人にとっても良い影響を与えるとは思えないため、翌日の朝には村を出発することにした。
この後は、レガリア大陸最大の港であるアクアポートという町に向かい、人間派の最大支配地域であるデグルド大陸を目指すことになる。
ぼんやりと星空を眺めていた三人だったが、ふと雷神が口を開いた。
「人間って・・・・神より優しいんだね」
「それは・・・俺も同意だな。神にはロクな奴が居ねぇよ」
その言葉にルドも同意する。
すると、エミルが言った。
「でも・・・神族の人達も羨ましいよ。私だって力があれば人間派をもっといい方向に導けたはずなのに・・・」
だが、それを聞いたルドは首を横に振ると言った。
「それは違うよエミル。神族に腐った連中が多いのは「力を持ったから」さ。強い力を持った奴はみんなその力に頼っちまうんだ。でも人間は一人じゃ生きていけない。だからこそ協調性という武器を手に入れられたんだ」
「協調性って・・・そんなに強い武器なのかしら」
「今はまだ分からないはずだ。ただ一つ言うなら・・・・神に協調性や倫理を求めるのは不可能さ。だから俺も、雷神も、他の神も、最終的には馬鹿になるんだ。世の中ってのは理不尽だよ、誰よりも強くなればなるほど、最大の強みを見失うんだから・・・・」
エミルはルドの言葉を今一つ理解できていないようだ。
ただ一つ察したことがある。
神の中でも人間に近い考えを持っているルドでも、やはり「神」なのだ。
恐らくその長い人生の中でも大事な物を「捨ててしまった」経験があるのだろう。
ルドのような男でも、後悔は抱えている物なのだ。
暫くの間夜空を眺めていた三人だったが、一時間くらい夜風に当たったところで部屋に戻ることにした。
そして、用意されていたベッドの中に入る。
だが、エミルは寝付けない。
ほんの僅かながら、デラス村の人々の暖かな生活を見てしまったエミルにとって、ここから先は生きるか死ぬかの地獄のような生活だ。
だが、もう戻れない。
雷神を解放し、神族派と戦うことを決めてから彼女の使命は決まっている。
エミルは無理やり目を閉じると、心を落ち着かせる。
明日からは、今日以上に過酷な生活が待っているのだろう。
だが、諦めない。
彼女は人間派のリーダーだ。
全ての人間族のために戦うことが彼女に課せられた運命である。
そして、暫くするとエミルのベッドから静かな寝息が聞こえて来た。
人間の未来は、この三人に託されている。
だからこそ、今は束の間の休息を楽しむことにした。