表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷神様の人助け  作者: ミタ
第一章 始まりの場所
12/36

戦う理由

(酷い・・・・あれが『罰』なの・・・)


家から表の様子を見ていた雷神は、思わず心の中で呟いた。

横にいる老婆も、悔しそうな表情を浮かべながら言う。


「あれがジャルト様が『納め』を達成できなかった者に下す罰さ。もし家族が居れば家族全員を売りに出され、独り身だったらそいつ自身を売りに出す。それがあの方のやり方だよ」


どうやら、今回の『納め』をクリアできなかったのは先程の家族のみだったらしく、他の人々は悲劇の一家に対して憐れみの気持ちを送る以外に出来ることは無さそうだった。

シドとミルは、広場の悲劇が起きる前にアレスの妻によって奥部屋に移動させられていた。

確かに、あの光景をまだまだ幼い子供たちに見せるのは酷だ。


すると、雷神はあることに気付いた。

自分の中に、今まで殆ど感じたことの無い感情が沸き上がっていたのである。

それは、今まで誰に対しても情を向けることすらなく、ひたすら自分のためにしか生きなかった雷神には決して感じることが無かった感情。


そう、怒りだ。

雷神が生きてきた気の遠くなるような時間に比べれば、ほんの刹那の時間に等しい時間だったが、人間という非力で神に比べれば遥かにちっぽけな存在と触れ合ったことで、雷神の気持ちには少なからず変化が起きていた。


(人間にも生活はある。人間にも意思はある。それなのにあのジャルトとか言う奴は、何で人間をあそこまで見下すことが出来るの・・・・)


だが、雷神の中で答えは出ていた。

何よりそれは、自分自身にも通じることだったからだ。


(それは・・・・力ね)


魔法という神特有の能力を持ち、肉体面でも人間とは比べ物にならない強さを持つ神にとって、人間とは姿が似ているだけの欠陥品そのものなのだ。

だからこそ、共存というある意味自らを「欠陥品と同レベルまで」貶める行為を受け入れられない。

では、神の迫害を受ける人間は神の奴隷として生きねばならないような存在なのか。


(違う・・・絶対違う!! この村の人達は・・・・神よりもずっと優しかった・・・」


神族からも嫌われ、この世から殆ど味方が消えた末に封印の末路を辿った雷神にとって、人間達から受けた温かい歓迎は、他の何よりも愛するべきものに感じたのだ。


(守らなきゃ・・・・誰も戦えないならアタシが! それが戦う理由じゃないの!?)


雷神は心の中で叫ぶ。

広場には絶望のあまり、生死の間をさまよい続けている男と泣き叫んでいる妻と二人の娘が居る。

そして圧倒的な力を持つジャルトの前に、反論すら言うことの出来ない非力な人間も居る。

ならば、自分のすべきことは一つではないか。


雷神は急に立ち上がると、家のドアを開けて外に飛び出した。

突然の雷神の行動に、横にいた老婆は叫ぶ。


「何を考えているんだい!! 戻っておいで!!」


だが、雷神は止まらない。

雷神は周りの野次馬の間をすり抜け、広場に出た。

そこにはジャルトと兵士達、そして一家が居る。

雷神は一切の迷いなく前に進むと兵士たちの前を素通りし、ジャルトの前に立った。


その様子を見ていた老婆は血相を変えて、外に飛び出す。

表の騒ぎを聞いていたアレスや、シド、ミルも横にいたアレスの妻から事情を聞くと、慌てて飛び出した。


「殺されたいのかい!? 今すぐおやめ!!」


老婆は、老体に鞭を打つと、驚異的なスピードで広場に向かう。

アレス、シド、ミル、アレスの妻も、雷神を止めるべく広場に向かった。

だが、遅かった。


やっとのことで広場に到着した五人の目が捉えたのは・・・・


「・・・誰だ貴様。私は餓鬼の世話を買って出た覚えは無いぞ」


「覚えがあろうがなかろうがどっちでもいいわ。これは貴方に対する「命令」よ。今すぐその人たちを開放しなさい」


三メートル近い巨人の前に、堂々と仁王立ちする少女の姿だった。

流石のジャルトもこの展開は予想していなかったらしく、無言で目の前にいる少女の顔を見つめるのみだ。

すると横にいた、天秤係の黒甲冑の男が前に歩み寄ると、雷神に向かって槍を突き付ける。


「ジャルト様に対する無礼な発言、例え子供だろうと許すことは出来ない。今すぐに粛清してやる!」


男の言った言葉に呼応するように、周りの男達も一斉に槍を突き付ける。

だが、雷神はまるで動じない。

自分がこの場で最も力があるとでも言わんばかりの態度で、ジャルトを見る。


すると、ジャルトが不意に笑いだした。

最初は静かに、そして暫くすると大声に変わる。


「ハッハッハッ!! 面白い! この私に逆らう人間などかつて数えるほどしかおらんかったが、まさかその一人がこのような幼子になるとは!」


そう言うと、ジャルトは周りの兵士に槍を下すように命じる。

そして、雷神に近づくと言った。


「その年でこの私に逆らう程の豪胆さを持つとは、中々見どころのある人間だ。神をも恐れぬその態度に免じて貴様の無礼を許そう」


だが、それを聞いた雷神は、ジャルトに一歩詰め寄ると言った。


「貴方がアタシに命令なんてできない。ましてや許そうなどと言われる筋合いは無いわ。貴方はただそこの家族を開放しさえすればいいの」


雷神の命知らずな発言を聞いた村人の殆どは、雷神の死を覚悟した。

一度ならず、二度の無礼を働き、一切の迷いもなくジャルトを糾弾するその態度は、命を捨てることに等しい態度だからだ。

だが、そんな村人たちの予想に反して、ジャルトの態度はむしろ上機嫌になっていく。

そして、ジャルトは雷神に言った。


「見事なまでの傲慢さだ。だが、すまぬな小娘よ。貴様が私を楽しませたことに関しては大いに評価出来るだろう。しかし、それでもこの女どもを開放することは出来ぬ」


「何故なのかしら。そもそもその人たちを攫って何をするつもりなの?」


雷神はジャルトにそう尋ねた。

もし、これが雷神以外だったらその理由をジャルトが言うことは無かったかもしれない。

しかし、上機嫌になっていたジャルトは特に渋ることもなくその理由を漏らす。


「この女どもは、我が主であるザクロ様に献上するための物よ。今まで献上した女どもは皆好評で・・・・」


その発言は、余りにも不用意で危険な物だった。



それを聞いた途端、雷神の表情が豹変する。

今の雷神の表情は、先程ジャルトの前に立ちはだかった時とは違う。

先程はジャルトを見下していた部分もあったため、そこまで敵対心は見せていない。

だが、今の雷神の顔は最早溢れ出る敵対心を微塵たりとも隠さない凶暴な顔つきだ。


突如として雷神が放ちだした強い敵対心をおのずと察した村人たちは、緊張の表情で雷神を見つめだした。

ジャルトも明らかに先程とは異なる、殺伐とした空気を感じたのか、表情は先程よりも固い。


すると、雷神は言った。


「アンタ・・・・さっきザクロって言ったよね。詳しく教えてくれない?」


だが、ジャルトは面倒くさそうに手を振ると言った。


「そんなことを貴様に話したところで意味など無い。それは人間である貴様には・・・・」


ジャルトがそう言っている時だった。

ジャルトの手の甲に鈍い痛みが走ったかと思うと、パキッと何かが割れる音がした。


「・・・・? 何が・・・」


そう呟いたジャルトだったが、痛みが走った手の甲に視線を移した途端に、彼は信じられない物を見た。

いつの間にか彼の手には雷神の手が添えられている。

そして、雷神の手が添えられている方の手には鋼鉄製の小手が付けられている。


その小手が、完全に折られていた。

いや、正確には雷神の小さな手が、ジャルトが付けていた鋼鉄の小手を「握り潰した」のだ。


「・・・・・!! バカな!!」


使い物にならなくなった小手を投げ捨てると、ジャルトは腰に下げていた刀を抜き放つ。


「全員構えろ!! 取り囲め!!」


ジャルトの叫びと共に、周りの兵士たちは雷神に対して槍を向ける。

雷神の背丈以上の長さを持つ刀を構えるジャルトだったが、その手は震えている。

恐らく気付いてしまったのだ。

雷神が持つ強烈な「何か」に。


周りの村人たちは困惑している。

小手に生じた異変を見ていない村人たちにとって、ジャルトが突然慌てだしたのは不自然に見えたからだ。

だが、雷神を取り囲む兵士たちの何人かは、早くも滝のような冷や汗をかきだしている。

神族直属の兵士となるには、相当な訓練を積んで過酷な試練をいくつも潜り抜けなければならない。

だからこそ、分かるのだ。

修羅場をいくつも潜り抜け、あらゆる強敵を見て来たからこそ、ジャルトと兵士たちは気づいてしまった。


「・・・・貴様何者だ」


雷神は不敵な笑みを浮かべると言った。


「貴方たちの遥か高みを生きる存在。それが私よ」


最強の神である雷神の真価はまさに今、発揮されようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ