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雷神様の人助け  作者: ミタ
第一章 始まりの場所
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神の鉄槌

「痛い! 腰がぁーーー!」


「ス、スマン! 空間歪曲陣の連発はやっぱり負荷が大きいな・・・」


村へ向かおうとしたエミルとルドに悲劇が起こったのは、ワープした直後だった。

元々、連発するには負荷が大きすぎる空間歪曲陣を無理やり使ったルドだったが、完璧に座標を合わせるのはやはり無理だった。

現在二人がいるのは、明らかに村とはかけ離れた雑木林の中だ。

遠くから魔獣の遠吠えが聞こえてくるのが余計に二人の不安を煽る。


「一体何所なんだここは・・・場所分かるか?」


「分かるわけないでしょ! ああっ腰が・・・・」


ワープした直後に激しく腰を打ち付けてしまったエミルは涙目で八つ当たり気味にルドを責める。

そこまで座標が乱れたわけでは無かったが、元々土地勘が皆無の二人にとって今の状況はとても良いとは言い難かった。


「取り敢えず場所だけでも把握しとくか・・・・・」


そう言うとルドは地図を取り出し、魔力を込める。

すると、村の場所から一キロほど離れた辺りに二つの点が現れた。

これは自分達の場所を地図に映し出すことで、簡単に場所を把握することが出来る方法だ。


「幸いというかなんというか・・・・そこまでずれてなかったな」


かつて、数百キロ単位で座標設定をしくじったことのあるルドにとっては、この結果は誤差の範囲として十分受け入れられる程度の物だったが、腰を痛めたことでかなり機嫌が悪いエミルの前では、ルドの声もかなり小さい。


「・・・・早く行きましょう。雷神様をいつまでも放っておくのはあまり良くないし・・・」


かなり居心地の悪そうにしているルドから地図を受け取り、村までのルートを把握したエミルは、軽くストレッチをすると早くも歩き出した。


「・・・・いや、本当にスマン」


エミルの怒りを前に、ルドはそう言うのが精一杯だった。



=======================





「早く並べ! 貴様らに俺を待たせる権利など無い!」


ジャルトの大声を聞いた村人たちは、次々とジャルトの下へと向かう。

すると、ジャルトの横に控えていた黒甲冑の男が天秤のようなものと、記録簿を取り出した。

そして先頭に並んでいた村人から鉱石を受け取ると、秤にかけて重さを量る。

暫くして異常が無いことが分かると、男は「帰れ」とだけ言うと、鉱石を袋の中に入れた。


長蛇の列が出来ている中、淡々と作業は進んでいく。

『納め』が終わった村人とその家族は極力表情には出さないが、解放されたような表情を浮かべて帰っていく。

そして、数分後にはアレスの出番がやって来た。

手に抱えている鉱石を大事そうに甲冑の男に渡すと、アレスは天に祈るように手を組んだ。

男は秤に鉱石を乗せると、数字を読み取る。

一瞬の緊張が走り・・・・


「・・・・帰れ」


アレスとその家族に許しのサインが出た。


「・・・・有難う御座います」


アレスは甲冑の男にそう言うと、無表情のまま家に帰る。

だが家に入った途端、極度の緊張から解放されたアレスは、思わず地面にへたり込んだ。


「良かった・・・・本当に良かった・・・」


後ろにいた老婆も、思わずそう呟く。

アレスの妻に至っては、思わず泣きだし始めたくらいだ。

だが部外者である雷神には、なぜ彼らがそこまで『納め』を恐れるのかが理解できない。


「ねぇお婆ちゃん。何で皆はあんなに怖がってるの?」


雷神は老婆に尋ねる。

すると、老婆は小声で言った。


「ジャルト様は『納め』に失敗した人間を一切容赦されない方なんだよ。もし『納め』に失敗した場合、その人間には罰が下されるんだ」


だが、今一つ雷神にはピンとこない。

雷神はこれでも数時間前まで極刑を受けていた身だ。

しかしながら人間に今まで興味を示してこなかった雷神にとって、人間がされて最も嫌がるものというのが今一つ想像出来ない。


「それって・・・・殺されたりするの? それとも何万年も封印されたり・・・」


すると、老婆は静かに言った。


「・・・・私のような老いぼれにとって死なんてものは罰でも何でもないんだよ。どうせあともう少し長生きしたら嫌でも死ななきゃいけないんだ。『あの罰』に比べたら死なんて生温いよ」


「それって・・・・」


雷神が再び老婆に尋ねようとした時だった。


「鉱石が手に入らなかっただと!! 貴様は『納め』を放棄するのか!!」


ジャルトの雷のような怒鳴り声が村中に響き渡った。

ジャルトの目の前にいるのは、ボロ布のような服を着て見るからにやせ細った男だった。


「申し訳ございません! 今年は作物の収穫が少なく・・・・鉱石を買うような余裕は・・・・」


男の弁解の声は、バキッという音と空を飛ぶ鮮血と共に途絶える。

ジャルトの棍棒のような足が、男の顔面を直撃したのだ。

ジャルトはボロ雑巾のように打ち捨てられた男を見下ろすと、吐き捨てるように言った。


「鉱石が手に入らぬのならば臓器でも売ればよかろう。 我ら神に尽くすためならば、手でも足でも眼球でも持てる術をすべて捨てて我らの繁栄のために尽くすのが、貴様ら人間の存在理由だ! それを己の命惜しさに媚びへつらい、許しを請うなど人間程度の畜生が笑わせる!!」


すると、ジャルトは虫の息の男の胸倉を容赦なく掴み、引っ張り上げる。

身長が三メートル近いジャルトに掴み上げられた男は、一切の抵抗も出来ずに宙にぶら下がった状態だ。


「貴様には『罰』を受けてもらう。何が起こるかくらいは能無しの貴様でも分かっているだろう?」


「ど、どうかお許しを!!」


だが男の言葉は、ジャルトの耳にはまるで入っていない。

彼は記録簿を取り出すと、しきりに周りの家を見回し始める。

そして目的の獲物を見つけたジャルトは、舌なめずりをすると地面に這いつくばる男に言った。


「お前には一人の妻と、娘が二人もいるようだなぁ・・・・フフフ。鉱石を納めることが出来なかった貴様には、鉱石の代わりに『家族』を差し出してもらうぞ」


「それだけは・・・・お許しを・・・・・」


死人のように蒼白になった男からは、もはや生気は感じられない。

ジャルトは、近くの黒甲冑の兵士を数人呼び、『女と娘を引っ張り出してこい』と命じる。

命を受けた兵士たちは、男の家に向かうと、持っていた槍で家のドアを破壊する。

そして、中から出てきたのは・・・・


「どうか、どうかご勘弁を! せめて娘たちだけは・・・・!」


「お母さん! 私達何所に連れていかれるの!」


「嫌だ! 離れたくない! お父さーーーん!!」


必死に許しを請う妻と、自分達を待ち受ける過酷な運命を悟り、泣き出す娘たちだった。

三人の姿を満足そうに眺めたジャルトは、底意地の悪い笑みを浮かべながら男に言った。


「哀れなことだ。所詮貴様は愛する者を売ることでしか生き延びることすらできぬ、芋虫以下の害虫だったというわけだ!」


そう言うと、ジャルトは声高らかに笑う。

全てを奪われた男はもはや抵抗する意思も無くしたらしく、ただひたすらか細い声で泣くのみだった。


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