只今封印中
暗闇にそびえ立つ巨大な城の中には一人の神様が居た。
通称「雷神」と呼ばれ、圧倒的な魔力と魔法を持ち、人間のみならず、身内の神にすら畏れられる存在である。
かつては雷神の名前を知らない人間は存在せず、神族に至っては名前を聞くだけで拒絶反応を起こす輩すらいたほどだ。
だが、完全に一人歩きしていた世間の評判と比べて、当の本人は果たしてどんな神様なのか。
それをご覧頂こう。
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「暇だなぁ・・・・誰か遊んでよぉ」
ここは雷神が住む雷神の城、「アウトラセル城」の中。
その最上階に置かれている玉座の上に一人の少女が居た。
彼女こそ通称「雷神」。
仲間の神族からは敬遠され、人間からはこれ以上なく恐れられていた世界最強の神である。
一度魔力を発動すれば、世界中を覆いつくすほどの雷雲を作り出し、肉弾戦においても空手チョップで敵の城壁を真っ二つにするという、恐るべき逸話を残す伝説の神だ。
だが、二万年前の神族同士の戦いに介入した時に、その余りの強さと見境の無い暴れっぷりが他の神に危険と見なされ、結果神クラスの戦士およそ数百人によってその力の殆どを封印され、辺境の地であるレガリア大陸のそのまた端っこに作られたアウトラセル城の中に完全幽閉されてしまった。
それからの二万年は彼女にとって退屈極まりない時間だった。
寿命がほぼ無限に等しい神族にとって、二万年という時間はさほど長い時間ではなかったが、それを差し引いてもアウトラセル城での時間は、暇つぶしも何もない雷神にとっては地獄の時間だ。
勿論、脱出することも考えた。
だが、いくら最強の神である雷神といえど、アウトラセル城に作られた結界を打ち破ることは出来なかった。
そして、気が付けば二万年が経過した。
「そろそろ許してくれてもいいじゃない・・・・もう悪いことはしないからさぁ」
彼女は一人でそう呟く。
その言葉に嘘は無い。
流石の雷神も、二万年という月日は自分自身を見つめ直すには十分過ぎる時間だったらしい。
長い幽閉期間の中で、彼女は一つ決意したことがあった。
すなわち、自分の力の使い方である。
その気になれば世界を消し炭に出来る彼女の力が、世間から恐れられたのは自分がそれを破壊に使ったから、というのが彼女の持論だった。
だからこそ、自分の力の使い方を改めようと彼女は数百年前に決意したのである。
この力を戦争や争いのためにではなく、弱き存在を守り、悪から守るために使おう。
彼女はそう誓った。
だが、そんな大層な決意も自分以外は誰もいないアウトラセル城の中に閉じ込められている以上は意味など無い。
かつては世界中に轟いていた雷神の名前も、恐らく人間の世界では殆ど消えているはずだ。
寿命の短い人間族の尺度で考えれば、二万年という時間は雷神の存在を消すには十分すぎる。
さらに言えば、完全に厄介者扱いされていた雷神のことを、他の神が話すことも考えにくい。
しかし、雷神には一つ気になっていることがあった。
元々、力が極端に強かっただけで、地位や支配欲にあまり執着しなかった雷神とは違い、この世の殆どの神族は人間を支配するか、争いの駒にすることを楽しむ悪癖があるのだ。
神の勢力としては、人間を支配して自らも神の頂点に立つために争いを好む、通称「神族派」と、人間をそのような好戦派から守り、人間と共存することを第一とする「人間派」がある。
そして第三勢力として、そのような類には興味を持たず、好きな時に好きなことをするという「自由派」も存在し、雷神はどちらかというと自由派に位置していた。
神族派と人間派はその対照的な理念から、大抵いつも争いをしており、自由派は自分の利害が一致する方に味方するのが普通だ。
勿論、何もせずに傍観することも可能だが、時と場合によっては神族派と人間派の両方を敵に回すことがあるため、それこそ雷神クラスに力が強くなければ、よっぽどの理由が無い限り、自由派と言われる神でもどちらかの立場は取る。
というより、その最たる例が何を隠そう雷神本人を襲った悲劇にほかならない。
当時、派閥争いにほとんど興味を持たなかった雷神は、気の向くままに戦場を駆け巡っては、適当に魔力を放出して遊ぶのが趣味だった。
といっても、雷神の基準で言う「遊び」は他の神や人間からしてみれば「天災」だ。
その結果、神族派と人間派の両方から超危険神としてマークされ、挙句の果てに封印されたわけである。
その為、彼女の幽閉生活の原因は彼女自身にあるわけで、自業自得と言われても反論は出来ない。
加えて、彼女自身は元々人間がどうなろうと気にしないような筋金入りの自由派だったのもあり、今更「正義のために弱い者を守る!」などと言われても、他の神にとってはそれはそれで信用できない話である。
しかし、二万年前は人間のことなど微塵も考えていなかった雷神だが、何人かの仲の良かった神が人間派だったという安直な理由で、立場的には「人間派」よりの立場を取っていたため、雷神の存在を恐れた神族派が人間に手を出すことを恐れていたという裏事情がある。
その為、神の中でも圧倒的多数を誇る神族派が、人間派を「完全に滅ぼす」ような行動を迂闊に取らなかったのは雷神をそれだけ恐れていたからなのだ。
だが、雷神は力を大幅に落とし、挙句の果てに封印された。
それは恐らく人間派の窮地を意味する。
しかしながら、雷神自身はそれを知らない。
彼女に出来ることは、自分の封印が解ける日をひたすら待つことだけだった。