この幼女は男なのですか?
「・・・てください」
「・・きてください」
「起きてください」
「切りますよ?」
「ッッハァ!?」
「やっと起きましたか。約束を忘れて眠っている挙句、ドアを開けさせないように物を置くなんて。切って良いですか?」
ドアの方を見ると、テレビやパソコン、ソファーや椅子、それにタンスが無造作に置いてあった。
「はい!?なんだこれ?」
「とぼけないでください」
ルイカがレイピアを構える。
「待て!誤解だ!」
「問答・・・無用!」
「ああああああああああああ・・・・ッハ!
・・・・・・・・夢かよ」
外を見るとまだ日が昇っていなかった。時計を見ると4時半を指していた。
「いや〜、早朝って気持ち良いんだな。いつも深夜にしか出歩いてなかったけど、もっと時間ずらせば良かったな」
街を歩きながら辺りを見渡すが、まだ寝ているのか人は全然いなかった。
「これがゲームの世界なら大体ここで強制イベントのフラグが建っているのだが、あいにくこの世界にその常識は・・・・・誰だあいつ?」
建物と建物の間にある広場への近道になる路地に髪の長い女の子が倒れていた。
「おい!大丈夫か?生きてるか?怪我はないか?」
そばに駆け寄って様子を見る。
「生きてるか?」
「い、生きてます。なんとか」
「そうか、なんで倒れてたんだ?」
[グゥーーーー]
「お腹が、お腹が!」
「腹でも痛いのか?」
「いえ、お腹が空きました」
お腹が減って倒れてるって漫画かよ。
とりあえず、爽やかな笑顔を作って〜と。
「そっか!じゃあ、俺は行くよ!」
路地を抜けようと歩き始めた瞬間、足をものすごい力で掴まれた。
「女の子が倒れているのに見捨てるなんて、鬼か悪魔かどっちですか?」
「悪いな、俺には用があるんだ」
「こんなに可愛い幼女を見捨てるなんて、それでも男ですか?」
「悪いな、俺は幼女好きじゃないんだ」
そう言った瞬間、倒れていた幼女は飛びついてきた。
「御慈悲をーー!!」
「やめろー!引っ付くなー!」
引き剥がそうとするが全く離れる様子がない。
「テ、テメェ!離れろぉぉぉぉぉぉお!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ、食った食った〜」
「こ、こいつ・・・俺が家から持って来たお菓子類全部食いやがった」
「さあ、自己紹介まだだったね、私の名前はクラウド・トルマリン よ」
「クラウド・トルマリン………お前、男じゃないのか!?」
「やだなぁ、こんな可愛い幼女を男扱いなんて酷いじゃない」
「中島庄司・・・じゃないのか?」
「んだよぉ〜、ミカの奴が言いやがったな?」
「俺の名前は 後藤霧斗。お前と同じ異世界召喚者だ」
「私は 中島庄司。こんな幼女だけど、27歳の男だったわ。と言ってもあまり記憶はないけどね」
「率直な質問だが、なんで幼女なんだ?」
「知らないわよ!言ったでしょう?あまり記憶がないのよ。私にある記憶は5年くらい前に気がついたら居たの!」
「そ、そうか。じゃあなんで名前を覚えてるんだ?」
「私が覚えてるのは、名前と日本って言う国と・・・・トラック……」
俺はスマホを取り出しまた調べた。
【中島庄司 】検索っと。
「何それ?」
「スマートフォンだよ。知らないのか?」
「覚えてないわね」
中島庄司行方不明事件・・・か。
高速道路の渋滞にトラックが突っ込んだという事故で幸い死者は出なかったものの、突っ込まれた車の所持者、中島庄司氏が行方不明になった事件か。
その行方不明者がまさかこんな幼女になっているなんて笑い者だな。
「何かしら?じーっと見て、もしかして惚れたのかしら?」
「うるせぇ。俺は幼女に興味はない!」
「朝から騒がしいで・・・キリトさんにそんな趣味があるとは・・・失礼しました」
「おーい!待て!誤解だー!」
「分かってるわ。冗談も通じないなんて、その頭には何が詰まっているのですか?」
「お前は冗談とかいうようなキャラじゃないだろ・・・・」
「ひっさしぶりー!ルイカちゃん!」
「私は貴方みたいな幼女なんて見たことないわ」
「酷いなぁ。何度もあってるのに〜」
「分かってるわよ。なんでここに? キリトさんみたいな男の部屋にいたら襲われるわよ?」
「え?やっぱり幼女好きなの?」
「ルイカー!変な事言うなって!」
「私はクウォート魔法学院の復興に来たのよ。ルイカちゃんこそなんでここに?」
「私はこちら、キリトさんの付き添いとレイピアの手入れよ」
「そうなのね〜。キリトきゅんは何しに来たのかしら?」
こいつが元男って知らなかったら素直にヒロイン候補入りしてたかもしれないのになぁ。
「俺もクラウドとほとんど同じだよ」
「建設が始まるのは明日からよね?」
「そうよ」
「ならキリトさんの修行を手伝ってあげて。私はレイピアを取りに行きたいし、何よりめんどくさいわ」
ちょいちょい本音と毒舌が出てくる感じを聞く限り今日もルイカちゃんは絶好調なようだ。
「修行って魔法のかしら?そうだとしたらキリトきゅん死んじゃうよ?」
「大丈夫よ。セルシア様の修行にも耐えたのだから」
「あー、あれエグいよね〜。なら多分大丈夫かな?」
「えーっと、話が読めないのだが」
「キリトさん、先に言っておきますね。ご愁傷様♪」
そう言って嬉しそうにルイカは出て行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さあ!じゃあ、始めるわよ! ところで何処までセルシアに習ったの?」
「えーっと、火、水、風、土、陰、陽、雷の魔法かな」
「その初歩の属性をどの程度まで?」
「雷は第3レベル、それ以外は第1レベル」
「つまり、全部あって無いようなものってことね。その魔力量がもったいない」
「うるせぇ幼女。お前はどれくらい使えるんだよ?」
「私は全属性第15レベル以上の特殊魔法持ち☆」
この世界は魔法にレベルが付く。
といってもどの程度か、は魔法評議会の定義に基づいている。
第1レベルとは 弱い魔物くらいなら応戦できる くらいだ。RPGで言えば最初の村から次の村までに2〜3レベルアップで使える程度の魔法。
「魔力の使い方がなってないだけだと私は思うから一回全開放してみようか!」
「どうやるんだ?」
「私の手を掴んでみてよ」
「こ、こうか?」
「じゃあ行くよ」
そう言うとクラウドは魔法を打ち始めた。
その瞬間身体が重くなる。
「はあ、はあ、おい!クラウド!」
「なぁに?」
「お前、俺に何した?」
「魔力の使い方を体に叩き込むにはこれが1番手っ取り早いのよ!」
何分間魔法を打ち続けただろうか?
俺の中の魔力がほぼスッカラカンになるまで打ち続けたのだろう。
「はい。終わったわよ!これで全属性が第3レベルくらいまでは使えるはずよ」
「ハア ハア こんなんで、、、本当に、、、使えるように、、、なるのか?」
「半強制的に魔力を使いまくって 魔力を体の外に出す方法を叩き込んだもの! 使えるに決まってるわ」
「それは・・・ありが・・・・た……」
あ〜、うん。察した。これは魔力切れだな。
漫画で魔力切れを起こすと眠くなるとか倒れるとかそんな描写あるけど、ガチでこうなるのか。
「ッハ! あー、体 ダリィ」
「おー!起きたかキリトきゅん!ぐっすりだったね!さては昨日徹夜したな〜?」
こ、こいつ・・・幼女姿じゃなくおっさんの姿だったらぶん殴りてぇ!!
「じゃ!修行の成果を確認しますか!」
「ここなら思いっきり魔法をぶっ放しても大丈夫だから、思う存分ぶっ放してね!」
「そんなこと言っても、どこかの鬼畜幼女が、魔力を全部使いやがったせいでもう殆ど魔力が残っていないのだが?」
「いいから、使ってみてよ!」
「じゃあ、行くぜ!『炎の精霊よ その力を持ってして 焼きはらえ』」
「おー 凄いすごーい」
「・・・・・・・は?」
目の前には白く輝く炎の塊が燃え盛っていた。