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……なぜ死のうとする

やっとこさ……


だだっ広い荒野には俺とこのデカいダンゴムシしかいないような、そんな孤独を感じるのは多分気のせいだ。

目の前にいるトールダンゴだけしか見れない、余裕の無い俺の錯覚だろう。



「………………」



トールダンゴは筋肉が言ってた通り俺の腰の位置くらいの大きさだった。

動きもせず今がチャンスと思い剣を上に振り上げる。


「………………」


だけど、なんか……こう。


思ってた感じと違うというか……

俺の頬に、異様に冷たい汗が伝っているのが分かる。


「……ごくり」


もちろん俺よりも小さい生物だ。臆することはない。


だけどこの怖気は怖いよ言うよりも――――


トールダンゴムシは少し動いてこちらに近づいてくる。

横線の入った黒光りする背中の下から、うじゃうじゃと足が動いているのが見えた。













ワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサワサ!!!!









「キモイィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!」





俺はその場から……その大きくて気持ち悪いダンゴムシから逃げた。

トールダンゴは俺を追いかけてくる。

ワシャワシャと気持ち悪い量の足で地面を蹴りながら。



「キモイキモイキモイキモイ何あれキモ……うわはっえ!!何あれ速!!キモイキモイ怖い怖いキモイ怖い!!!!」



引きこもっていた俺の体は、それでも運動神経は周りから引かれるくらいあったので中々の速度で走っているが、それでも俺と同じくらいの速さでこっちに向かってくる。


甘く見ていた。


確かに情報通りのサイズ感のダンゴムシだ。


でも俺の瞳は、小指の爪程度の大きさのダンゴムシしか映した事が無い。

いざこのサイズのダンゴムシを見ると、目が、脳が、体が拒否反応を起こしてしまった。


何だあれ。

何だあれ何だあれ何だあれ!!

ゴキ〇リの800倍は怖い!!



うぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞうぞ



後ろから気持ち悪い足音が近づいてくる。


「い 命を 燃やせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


俺は全力を出し逃げる。


体が千切れるくらい全力で足を回した。

少しずつ俺とトールダンゴムシとの距離が離れていく。


「よし……なんとか逃げられそ……」


俺が後ろを向いてトールダンゴムシとの距離を確認した時。




ダンゴムシは。

丸まった。






ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!!






地響きと共にその黒い球体は、徐々に俺に近づいて来た。


「鉄球!!もはや!!!」


「くそ日本とのギャップか!!ここまでとは思ってもみなか……っ!!」


俺は前を向き必死に逃げようとするが、躓いてコケてしまった。





……俺にはドジっ子属性は無い。

なのに……何もない高原でコケてしまった。

漫画やアニメではよく見るが、何もないところで躓くなんて滅多に無い。

これは現実だから。

だからこれはきっと。




「こんな時に……!!」




俺が。

不幸な人間だからだ。




そうこれは現実なのだ。
















「残念ながらこの世界はゲームっぽいがゲームじゃない 役職は一度決めたら変えられないんだ」





筋肉男との会話を思い出す。


僧侶になれと言われ、その場を後にしようとした時、筋肉男に言われたのだ。




「だから生き返りは 無い」

「教会がリスポーン地と言うわけでもない」

「……俺の知ってるやつも 何人も死んでしまった」

「だから一生いつき




「死ぬんじゃないぞ 寂しいから」


















ああそうか。


このクエストが残っていたという幸運は。

こういう風に裏目に出るのか。


俺に追いついたトールダンゴムシは、俺の目の前で止まり、広げた体で俺を押しつぶそうとしてくる。


口がこっちを向いている。

俺を食べる気だ。



……ダンゴムシの口ってそんな形なんだ。





……死に直面する時 もっと慌てふためくものだろう。

だけどなぜか、俺はこの状況を落ち着いて見ている。

前の時もそうだった。

飛行機の中でも、たしかこんな感じだった。

思い出す。

飛行機の中を。

その中で、封筒を大事そうに持っている自分を。

そして。




隣で静かに泣いている女の子を―――――――――




異世界ファンタジー。


0から始まった。待ちに待った第2の人生。


結局何も変わらない。


俺は死ぬだけ。


…………だって…………





「俺自身は 何も変わってないから―――――」







――――――――――刹那






俺を食おうとしていたトールダンゴの横っ腹を、鋭い炎の衝撃波が切り裂いた。


「……え……?」


ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォオ と


トールダンゴの体は真っ二つに裂け、二つの体はその炎に焼かれていく。

叫び声もなく、少しずつ動きが無くなりそして――――




「…………死んだ?」


俺は助かったのか?


衝撃波が飛んできた方向から、歩いて来たのは女性だった。



「…………っ!」



その女性は赤い長髪を靡かせ尻もちついている俺の横に立つ。



磨かれた剣は光の反射でまぶしく、綺麗な銀色の甲冑に身を包み黒いローブは風に乗り音を立てる。


出るところは出ていて出すぎない、美しい体系をしている。


まつ毛も長く、その表情は凛としていた。


絶世の美女とは、多分こういう方のことを言うのだろう。


その人の周りだけ不透明になっているような。


――――――――――とても綺麗な人だ。







「……なぜ 死のうとする」




彼女は口を開いた。


「…………は?」


「死を受け入れた顔をしていた」


「…………」


「生きろ 最後まで 死ぬ直前ということは貴様はまだ生きている」


「……………………」



「生を諦めた者から 人間では無くなるんだ」



俺と、この美しい女性を風が撫ぜる。


遮蔽物の無い荒野の風が心地いい。


さっきまでは気づかなかった―――――。





……彼女との出会いは、多分俺の人生を変えるだろうと。

勝手だが、そうなる事に確信を得た。






さてこの出会いは不幸なのか。









それともこの幸運は、そのまま幸運でいてくれるのか――――――

ヒロインのご登場です。

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