散歩ついでにモンスター狩るなよ……
ちょっとずつ読みやすい形にしていこうと思っています。
冬の終わりが見えてくる頃、俺はこの異世界にやって来た。
日本の気候と比べ、それでもいつも以上に寒く感じるのはこの世界の方が日本より寒いのだろう。
今着ているジャージしか持ってない俺は、ギルド内の端っこで小さく丸まって座っていた。
なんちゃって異世界生活を始めて10日が経過した。
ギルドの皆ともそれなりに仲良くなり毎日のようにお酒と肉を胃袋に入れてきたが、それに比例し財布の腹の中は空になっていった。
「……クエストに行くかな」
金ないし。
寒いし。
このままでは空腹しか凍死してしまう。
いや……行きたいんだよ、今までもクエストを張り出している掲示板を見に行ってるんだけど……
俺は立ち上がり、今日も掲示板の内容を確認する。
「……今日もダメそうだな……」
「時期が悪かったな」
後ろから話しかけて来たのは、このギルドに入った日、俺に肩をかけてきた見知らぬ男 鈴木幸平日本人だ。
「春先になれば簡単なクエストも入ってくるんだがな この寒い時期じゃモンスターも出てこないし 出てきても散歩ついでにそのクエスト受ける奴がいるからなぁ」
「散歩ついでにモンスター狩るなよ……」
そう、俺がクエストを受けていないのは、駆け出し冒険者である俺がこなせそうなものがないからだ。
「この中で一番楽なのはトータデスワーム8体の撃退かな?」
幸平さんはクエストを一通り見たのち、その紙を掲示板から外し、俺の前に渡してきた。
「何?そのトータデスワームって」
紙受け取りながら質問してみる。
「1匹いれば村の人間を淘汰できるっていう死の虫 淘汰デスワーム」
「おっかねえ!!」
名前ダジャレのくせに!!
そんなもんを8体!?
ゴジ〇もびっくりだ!!
「冗談冗談 ジョークだよ」
俺の持つ紙を取り、今度は幸平がそのクエストに目を落とす。
「これは俺でもちょっと苦戦する」
「ちょっとなんだ……」
この世界にはレベルという概念はない。
故にノンカンストの青天井、上げようと思えば無限にステータスを上げられるという。
そりゃ魔王も真っ青だわ。
「こっちが本命 さっきのよりはマシだろ」
最初っからそっち出してよ……
手に取って内容を確認する。
トールダンゴの駆除 一体につき賞金3000リル 撃退数ノルマ上限なし 場所 ハシラ高原
「ダンゴ?」
お団子?
「ようはダンゴムシだ こっちの世界じゃダンゴと呼ぶ」
「ダンゴムシ……簡単そうだけど でもデカいんでしょ?トールって書いてある」
「まあ人間の腰の位置くらいの大きさだよ 全長1メートルってとこか?」
「……ふむ」
たしかにお手ごろだ。
「運がよかったな この季節にこれが残ってるってのはまず無いぞ」
……運が良い?
その言葉に俺の体は反応してしまう。
運が良い?
……この俺が?
「普通ならトイレットペーパー買いに行くついでにサハラ高原のトールダンゴ全部駆除されるからな」
「もう魔王とかよりあんたらの方が怖いわ」
「で?どうするよ?」
「…………」
確かにいいクエストだと思う。
今から武器屋に行ってなけなしの金 全部つぎ込んで武器を買い揃えれば出来なくないクエストだと思う。
だけどさっきの言葉が気になった。
運が良い。
俺の場合運が良いということは、それが裏目に出るということだ。
……17年間、ずっとそうだったから。
でも、金が無いのは確かだ。
「……手持ちの金が底つく前に 動いた方がいいよな」
「決まりだな」
元より俺に選択肢など無かった。
以前役職について筋肉男から説明を受けた。
まずギルドに入れば、その人は「冒険者」になれる。
どの役職になろうが冒険者と呼ばれるが、もし何かの役職になった場合、冒険者 役職○○という事になる。
役職は色々ある。
騎士 拳闘士 槍使い 魔法使い 弓使い 暗殺者 僧侶
俺としては騎士が良いと筋肉男に言ったら……
「……騎士か」
「……?何か問題が?」
筋肉男は親指をギルド内で飲んでいる皆の方に向けた。
それに従い俺の目線は右を向く。
…………皆腰に剣を携えている…………
「……じゃあ格闘士」
「それ二番目に多いやつ 俺もそうだし」
自前のメリケンサックを見せてきた。
うん納得。良くお似合い。
「まあ決めかねるなら冒険者のままでいろよ 役職付きじゃないから攻撃力は半減だが 上がった分のステータスは役職を決めた際その分上乗せされるからな」
「じゃあ最初は適当に役職決めるか」
「残念ながらこの世界はゲームっぽいがゲームじゃない 役職は一度決めたら変えられないんだ」
……まじかよ
「このギルドで一番足りない役職がある それを俺はお勧めするね」
「…………何?」
「僧侶」
嫌だった。
なんで念願の異世界ファンタジーで支援役に徹しなきゃならないんだ。
だから俺は冒険者のまま、装備を整えこうして一人でハシラ高原に居る。
「……整えられちゃいないけど……」
上半身は薄めの甲冑。
長さの足りない剣。
そして下半身はジャージだった。
そんな装備で大丈夫か?と聞かれれば嫌味にしか聞こえないのでルシ〇ェルにビンタしたくなる格好なので、誰か付いて来てくれないかとギルドの皆に頼んだのだが、パーティー外の誰かとクエストに行くのはタブーらしく、結局単身でクエストに参加した。
「……このクエスト以降 他の仕事ができる保証はない 宿舎が一泊5000リル トールダンゴ一体3000リルと考えたら そうだな 最低10体は倒したいところだ」
食費も込みで5日は生き延びれる。
高原と言うだけあって見渡す限り草草草
福岡生まれ福岡育ちの俺には見慣れない。
北海道ってこんな感じなのかな?
なんて思っているとほらさっそく見つけた。見渡しが良いのはやり易い。
遠目だから小さく見えるけど何となく大きいなってのはわかる。
まあ怖がる事はない。
大きいとは言え所詮はダンゴムシ。
ポケ〇ンで言えば。
「 」 「 」
「 」 「ころがる」
くらいのもんだろ。
お前は俺に倒され、今日のビエール代になるのだ。
俺はトールダンゴの元に走り出した。
「一狩り行こうぜ!!」
おお。
なんかなんか……
異世界ファンタジーっぽくなってきたんじゃない!?
……なってるかなぁ読みやすく。