この世界には居るって噂だ
自由に書いてます。
異世界のギルドは見てくれだけで。
その実態はほぼコスプレしているヲタク共にしか見えなくなってしまったが。
そのヲタク共のヲタトークを背に俺はギルドの受付でギルド申請を完了させた。
「はい 必要事項は全て記入されましたね」
では と受付のお姉さんは立ち上がり、言った。
「最終試験です 質問に答えてください」
「……?」
「好きなアニメは何ですか?」
「 」
喉が言葉を発せない。
まさかそんな質問がギルドの受付から飛んでくるとは思わなかった。
「……えっと 質問の意図がわからないんですが……」
「どの程度のもんか知るためだ」
「!」
転生した際出会った筋肉男よりも大きい。背丈は2メートル近くあるその大男は俺を睨みつけながら言った。
気づけばギルド内の冒険者は、皆俺を見ている。
「ちゃんと考えて答えるんだな 返答次第では お前をにわかと判定しこのギルドから追放する」
「そんな!!」
「だが上手くいけば 好きな作品が他の誰かと合ったのなら このギルドに居やすくなるぜ?そいつとパーティーを組み 一緒にクエストを受ければいい」
「……なるほど」
自己紹介みたいなもんか。
なるほど一応理には適っている。
だけど……
「……普通アタッカーとかヒーラーとか バランスを考えて仲間になるもんじゃ……」
「確かにそれも大事だがな……」
大男は続けた。
「趣味の合う班で遠出した方が楽しいだろぅがぁ!!」
「遠足か!!!」
なんで日本でヲタクライフを送っていたのに、異世界でもその続きをしなくちゃいけないんだ!
「……お前もオタクならわかるだろう?」
「え?」
「この世界には色んなヲタクがいる、ゲーヲタ アニヲタ 軍事ヲタ アイドルヲタクまでいる……だがその大半は アニヲタだ 友達とヲタトークで盛り上がったりイベント行ったりしてるやつもいるだろうが 基本は一人だっただろう?」
「……」
確かに……
高校を中退し引きこもっていた俺は、いつも一人だった。
「この世界に来た奴らは 特に一人だった奴らばかりだ お前がどうだったかは聞かない 詮索するつもりはない」
「…………」
「一人でも俺達は確かに楽しかった でもな やっぱり みんなで楽しく 好きな事について笑って話し合ったりしてぇじゃねえか あっちの世界じゃヲタクは肩身狭いからなぁ」
ここでなら と男は続けた
「ここでなら俺たちは自由だ あっちで楽しめなかった分 こっちで楽しんでも罰は当たらないだろう」
「…………」
「好きなアニメを答えろ」
「この世界を 楽しみたいのなら!」
……
何て答える?
もしここでワ〇ピースとか進撃の〇人とか答えてみろ。
ミキサーで回した豆腐みたいにされるだろう。
だからと言ってマイナーすぎるのを言っても共感されないし嫌そういう不安は不必要か?みんなヲタクなんだしパーティーも作りたいしここは素直に好きな作品名を言うかでも……
「難しい質問なのはわかっている……素晴らしい作品はそれこそ星の数ほどあるからな その星の数々から自分の星を見つけ掴もうとしているのだ それはまさに砂漠に咲く一輪の薔薇を見つけるが如し」
何言ってんのこの人?
「すぐにとは言わない 何だったら明日にでも……」
「俺が好きなのは」
ザワ と。
一瞬周りの冒険者たちが反応した。
好きなアニメは何ですか?
答えがないその質問に対し模範例はない。
だったら言ってやる。堂々と胸を張って。
それがその作品へのリスペクトであり。
俺の愛の重さだ!!
「…………ノゲ〇ラ」
しん――――
空気が止まった。
愛の重さを感じられないその薄っぺらい声量は、それでもちゃんと皆の耳に届いた。
俺は俯き、返答を待つ。
足が震える。
これでだめだったら、俺の異世界生活は始まる前に終わる。
…………沈黙が痛い。
メジャーすぎたか?……
誰か……
誰か何か言ってくれ――――
「…………面白いよな ノゲ〇ラ」
大男は
口を開いた。
「――—!!」
よかった!!この答えは間違っていなかった!
周りも少しずつ口を開きだした。
「確かにいい作品だ」
「2期をやってほしいよね」
「原作ストックあったっけ?」
やった!嬉しい!
俺の好きなアニメを皆も好きと言ってくれる。
共感して……もらえてる。
大男は俺に近づき肩に ポン と手を置く。
「異世界ファンタジー それも転生モノで最強系主人公か お前 この世界に来た時叫んだもんな?」
「え?」
「俺は主人公だー ってな」
「!!!!!!!!!??????????」
え!?なんでその事知ってるのこのおっさん!
もしかして聞いてた!?
俺が顔を赤らめて目を泳がせると、視界の端に筋肉男が映った。
「…………え?」
「よっ」
「筋肉ぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううう!!!!!!!」
俺の叫び声と同時に、ギルド内は爆笑に包まれた。
「てめぇ チクったな!!みんなにチクったな!!新人を探すとか嘯いて先にギルドに来てやがったな!!」
筋肉男の元にダッシュで駆け寄り俺は胸ぐらを掴みながら叫んだ
……涙目で。
「お前さんのことをよろしくって頼んだんだよ むしろ感謝してほしいね」
「こんな辱めは初めてだ!!もうやだ!!死ぬ!今ここで死んでやる!!」
「まぁまぁ落ち着けよ兄弟」
見知らぬ冒険者が俺の肩に手を回す。
「皆この世界に来て考えた事さ 思うよな 自分が主人公だってさ 恥ずかしい事じゃない」
「くぬ……」
「お前名前は?」
「……田中一生」
「安心しろ この光景を見てみろ」
俺は羞恥から出た涙を拭き、ギルド内を見渡した。
皆 笑っている。
酒を片手に、肉を片手に、大喜びで楽しんでいる。
……笑いの種は俺の恥だけど。
「お前が気に食わない奴なら 皆こうはならないよ」
「……え」
「我がギルド Two dimensions へようこそ!」
そのセリフと共に大男が声を張り上げる。
「新しい仲間 一生の異世界人生にカンパーーーーーイ!!!」
カンパーーーーーーーーーーーーーーーイ
カンカンカン
樽のコップが交わされる音でギルド内が一杯になった。
「おう飲め飲め一生! なんの酒が良い? おっとこっちではビエールって呼ぶんだぜ!?」
「い いや俺まだ17歳……」
「日本の法律なんざこの世界じゃ何の価値も無えんだよ!がはははは!!」
……
「じゃ じゃあ!!」
俺はその男の持つビエールを奪い取り、一気飲みした。
「っっっかぁぁぁ~~~キク~~~~~!」
初めてお酒を飲んだ。
アルコールが体を駆け巡る。
鼓動が一気に早くなるが、悪くない気分だ。
「いい飲みっぷりだ!おうこっちにもっと酒もってこい!!」
騒がしさも。
大人数も。
今まで嫌いなもののはずだったのに。
その日飲んだビエールの味は、悪くなかった―――――
「ところでこの世界の目的って何?魔王退治とか?」
夜も更け朝になろうとしているその時間、みんな酒でつぶれている中ギリギリ起きている酔っぱらいの俺は大男さんに質問した。
大男さんは元気である。
どうなってんだこの人の肝臓は。
「魔王なんかいねぇよ?」
「へ?」
「いや 居たんだが今は居ない 俺はこっちに来てもう2年になるが それまでに魔王は6回代替わりして現れそのたび俺らに始末されている」
「…………はい?」
「ここに居る奴らは元々アニヲタでありゲーマーだ (ゲームの中で)何度も世界を救ってる俺らにかかればそうだな 一週間もあれば魔王なんか倒せるからな」
「…………」
「早いときは半日で新しい魔王を退治したこともあったぞ」
はんに……
「この世界には居るって噂だ」
「誰が?」
「TASさん」
…………
魔王軍……切ないな……
じゃあこのギルド意味ないじゃん。
ただの……ヲタクサークルじゃん……
分からない単語はググってくださいスタイル。