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プロローグ

 ある日、老人が一つの石を作った。


 濁りもなく、一切の傷も汚れもつかない不変の石。


 それは火を自在に操る力を内包していた。何もない場所に火をともし、火を吸収し、果てには天にも届きうる可能性がある火柱までもを何の代償もなく作り上げる。


 世界に極限の火の魔法と言われた『火を司る石』。


 老人は石と魔法の存在を確固たるものであると理解すると、再び石を作り出した。


 水を司る石

 風を司る石

 土を司る石

 雷を司る石


 それぞれが各属性を司る最強無比の伝説の秘宝。もしこの全てを使うことができれば国さえも簡単に滅ぼすことができると石の生みの親である老人は自負していた。


 だが、老人はそれでも満足していなかった。


 もしもこの全てが内包しているであろう石を作り出すことができれば、という妄想をしてしまったのである。


 仮に老人がまっとうな人間であれば、興味はあれどその危険性を考え、すぐに作るのを止めてしまうだろう。しかし、今迄にない最上のものを作り上げてしまった老人は、己の中にある知的探求心を暴走させてしまったのである。


 それから老人は何年も何年も何かに憑りつかれたかのように研究を続け、遂に完成させてしまった。


 火と水と風と土と雷を司り、それを操る。


 老人が作り出した世界を震撼させるほどの最高傑作。


【世を司る石】。


 火のように赤く、水のように青く、風のように緑色に、雷のように黄色く。


 しかし、それは誰にも操ることができなかった。老人自身でさえその世の理を操る力を使うことはできなかった。


 使ってみたいと思う反面、この誰にも作り出すことができないであろう傑作を作り出したことに満足した老人は、それぞれを使いやすいように杖に埋め込んだ。


 勿論、最初に世を司る石を一番初めに杖にすることにした。その次からは作り出した順番に杖にしていった。


 老人は我が子のようにその杖達を毎日磨き、時にはストレスを発散せるかのようにその石に宿る力を振るった。


 その力は絶大であり、何人もの者達がその現場を目撃し驚嘆した。


 誰もがその威力に驚愕し、その強さに羨望し憧憬を抱き、何人もの人々がその頂に辿り着こうと思った。


 だが、羨望を集めればそれと同じくらいの嫉妬や妬みを集め、石達を盗もうとする輩達が現れた。


 俗世を嫌い孤立している老人は誰にも守られることはなかったが、風を司る石を使い住処の小屋の近くに見えない壁を作り、雷を司る石と火を司る石を使い地面の中に踏めば爆発する罠をしかけ、水を司る石と土を司る石を使い、小屋の周囲を毒の沼地に変えて敵の侵入を妨げた。


 それからは沼地に大量の白骨死体や爆発で粉々になった肉片などが溜まるようになり、いくら掃除をしても堪えない日々が続いた。


 自分の庭が死体だらけなのを良しとしなかった老人は罠を仕掛けた場所を誰にも気づかれずに去り、また別の場所に家を建てて暮らした。


 誰も済んでいない無人島。その全てが森に覆われ、危険な動物が多く住んでいる場所。そこに老人は家を建てると、それから死ぬまでずっとそこで暮らし続けた。


 ただ、一つ己が作り出した最古傑作である世を司る石を一度も使えなかったことを悔いながら、ベッドの上に深い眠りについた。




 それから数年、世界は奇跡の石、超上の石達を作り出した老人を『賢者』と呼び、その賢者が作り出した石を『賢者の石』と呼んだ。


 各国の国王や力を求める者達はそれに内包される力に魅了され何とかして賢者の石を手に入れようと躍起になった。


 賢者が住んでいた小屋を何年もかかって攻略したが、そこには石どころかもう死んでいるであろう賢者の死体さえもなかった。


 どこへ行ったか分からなくなった賢者を探すことに躍起になるも、見つけ出すことは誰にもできなかった。


 それでも諦めきれなかった者達は、独自に超上の石を作り出そうと奮起する。


 しかし、国中にいる研究者を集め、魔法使い達を集めても賢者の石を作るどころか、それの模造品すら作ることができなかった。


 賢者の石を作るがために国同士が同盟を結ぶものもいれば、戦争をする者達がいた。さらには、大量の魔法使いを生贄にすることで無理矢理作り出そうとする者達もいた。


 だが、結果は全て無駄に終わった。


 目的を果たせず志半ばで倒れ、努力はまったく実を結ばずに作ろうと思ったことに後悔しながら、誰もが匙を投げた。


 それから凡そ百年の月日がたった。


 今では賢者の石は本当はなかったのではないかと言われ始めている始末である。


 だが、彼らは知らない。これから起きる災害を。


 そして、それを食い止める賢者たちの存在を。

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