ぽんとね
「本日ついに、犠牲者が観測されました。犠牲者は男性。二十歳。危険区域付近にて重度の症状を訴え、大学の閉鎖病棟に二日前入院。医師たちの処置の甲斐なく初の犠牲者となりました」
書記はいった。
議場は騒然となった。
議長は両手を組んだ。
「これで今までの水際対策は無駄だったということが証明された訳だが、如何かな。専門家諸兄」
議長の向かい側には、大学教授たちが連なっていた。
その中の一人がいった。
「このような事態になるとは想定していなかったものでして……我々の推定よりも事態が早く進展しているからであると思われます。目下、今回のような事件が何故起きたのか、早急に研究チームを編制しまして原因究明を突き止めようという処であります。ですが、現時点を持ちまして地上での研究は不可能となったこともご報告致します」
「では、ゆくのだな」
「えぇ、我々以外の対策員は既にスタンバイしており、機器や設備の搬送は終えています」
「では諸君。くれぐれも気をつけて取り組んでくれ」
ぞろぞろと教授たちが退室した。
書記と副議長が残った。
「議長、このままではここにも危険が及ぶかも知れません」
「急いで避難を」
議長は頷いた。
副議長は退室すると、すぐに戻ってきた。
「運転手の姿が見当たりません。警備員も、逃げたものと思われます。最早無人です」
「では、私が裏口に車を廻してきましょう」
書記が部屋を出た。
副議長はそっと扉を閉じてから沈鬱そうに議長を見た。
「議長、申し上げにくいのですが、私にも家族がおりまして……本職を解いて頂きたいのです」
「何の為に君は、今の職務に就いたのだね」
「……家族の為です。この苦境では生きるだけで精一杯なのです」
「そうか」
「議長、どうか。お願いします」
「解った。それで君は何処へ向かうつもりだね」
「人や、機械、文明社会とは無縁な所にでもいければいい、と考えています」
「子供たちが、納得しないのではないかな。そういう世界では楽しみも少ないだろうし、衛生面だって良好とはいえないだろう。それに、奥さんも嫌がるだろう」
「家内とは、先月離婚しました」
「そうか。いくのなら、せめて会うなり顔を合わせてからにしろ」
「電話に出てくれません」
「子供たちなら応じてくれるのか?」
「はぁ……しかしそれでは卑怯な気がします。たとえ彼女がついてこなくても、子供たちは連れていきます」
「それにしても、あるだろうか、この地上に君の考える環境が……」
「探しますよ。家族を待たせていますので……それでは」
「気をつけていってくれ」
副議長は頭を下げ、扉を閉めた。
議長は携帯端末の電源を入れ、通話サーヴィスに接続した。
「あら」女が応じた。「どうしたの、こんな朝から」
「君は、避難しないの」
「え、何の話?」
「あ、すまない、いってはいけない決まりなんだ」
「ふーん、何だか大変そうね。ふぁあ……ごめんごめん。それで何の用?」
「イエスかノーか、いってくれ」
「何? 占い?」
「いや、そんなたいしたことじゃないよ」
「なあんだ、ノーっていったら怒る?」
「いや怒りはしないよ」
「うーん、じゃイエス」
「有り難う」
「ねぇ、今度何のことか聞かせてね」
「解ってる解ってる。そういえば君の前の夫だが、ケリはつけたんだよね?」
「えぇ」
「よかった」
議長は携帯端末の電源を落とした。
議長はもう一つの携帯端末の電子ロックを解除した。
「議長。何をするつもりです」
書記が戻ってきていた。
「解らんのか。今回の事件はきっと我々の責任になる。その前に証拠となるモノを何もかも破壊するのさ。君はその席で観ているがいい」
「は、破壊……」
「君はただ観ていればいいのさ」
書記は、席に座った。
壁の一部がスライドし、大型の画面が現れた。都市を空中から撮影しているようだ。人の姿はない。
「議長、貴方は間違っている。これで何もかも解決できると思っているのですか」
「もう止められないんだ」
議長は端末の画面に表示されたスィッチをぽんと押した。
ぼん。
建物の群れは一瞬で焼失した。
書記は椅子から崩れた。
「貴方は、自分で何をしたか解っているのですか」
「ああ、心配要らないとも。あれは研究用として創った架空の都市だ。人は一人もいない。一時的対策として何もかもを似せてある、見せかけの都市だ、忘れたか」
「二日前に書記になったばかりでして」
「……偶然か、“原因”をあそこに留めることができ、一時的にだが犠牲者を出さずに済んでいたのさ。故にあの都市ごとまとめて壊滅させれば“原因”も少しは痛手を負うだろう……」
「ぎ、議長!」
書記は画面を指差した。
噴煙が晴れた画面には、黒い粒々らしき物体が、渦を描きながら意志を持つかのように進んでいた。
「君、車は」
「満タンにさせて待機中です」
「よし」
議長はついに立ち上がった。
ジャンル分けとあらすじ(或いは概略)はちと面倒な作業だ。
文字数が少なければその分だけ、むしろあらすじだけでよくないか、と感じる。
……他人に対して簡易に伝えられぬモノの部分部分を厚くしたところで余計に伝わりにくくなる。また、自分でも把握できなくなるのではないか……
物語が動くならばいいが暴走となっては、何処かしら欠陥があり、軌道修正の為にも概略みたようなのは、必要である。
そもそも本質に狂いがあった場合、諦めることも重要だ。
と思っていながら私は苦手だけれども。
段階を踏むってのは大切だと、いつも納得させられてしまう……。




