花一輪 1
ちょっと投稿方法を変えてみます。
長い1話ではなくて短い話をちょこちょこと。
結果、長い1章になれば、いいなぁ…。
その昔、後に王国の初代国王になる青年が母に一輪の花を贈ったという。
『貴女の息子で良かった』
青年の言葉に母は涙を浮かべ微笑み、そして贈られた花に口付けを落とした。
『ありがとう』
何気無いひとこまだったが天の王はそこに溢れんばかりの愛を見た。
その何気無い日常の中にある愛情を慈しんだ天の王は青年に力を与えた。
『何気無い愛情を守る国を造れ』
その一言と共に贈られた力でもって青年は王国を打ち立てた。
そうして、王になった後も毎年母に一輪の花に感謝の気持ちを込めて贈り続けた。
やがて、初代国王が母に花を贈り続けたその日を『聖母の日』と呼ぶようになり、子どもが母親に感謝の気持ちを込めて一輪の花を贈るのが習わしとなった。
さて、学園には国全土から魔力を持つ子どもたちが集められている。当然、学園の近くに家がある子どもばかりではなく、学園から遠く離れた領地に実家のある子どもも少なくない。
全寮制であることも手伝って『聖母の日』の近くになると新入生たちの中にはホームシックになる子どもも多く見られるようになり、そんな下級生たちを支えるのも上級生たちの仕事であった。
騎士科希望の新入生なら騎士科の上級生が、薬学科希望の新入生なら薬学科の上級生がそれぞれ寄り添い支える、それが学園の伝統だった。
そして、学園では『聖母の日』に合わせて生徒たちがそれぞれの魔力で『花』を咲かせ各家庭に送るのも伝統だった。
魔術学園の名に恥じない方法で花開くそれは、各生徒の持つ魔力の属性によって花の色が決まる。
火の属性なら赤、水の属性なら青といった風に色が変わり、新入生の場合、各個人の属性判定の意味も持つ。
「そう。
青い花が咲いたということはラスの属性は水だね」
薬草園の手入れをするオルガの側では新入生の1人、ラスリールがオルガの見よう見まねで薬草の手入れをしていた。
「そう、みたいです…」
「ラス?」
俯き、どこか落ち込んでいるような様子にオルガは首を傾げた。
「…花は鳥が運んでくれるじゃないですか」
生徒たちが咲かせたそれは魔術科の高学年生たちが生み出す鳥によって各家庭に届けられる。
オルガも鳥を飛ばせた1人だ。
「それを見送った時の、思ったんです」
ラスリールは手を止めオルガを見た。
その瞳は潤み、今にも涙が零れ落ちそうだった。
「私も…一緒に…連れていって…って」
「ラス」
「私も…一緒に…飛んでいきたいって」
胸元で手を組み、ギュッと抱え込んだラスは俯きつつ声を震わせた。
「わかって、いるんです…でも…っ
…で、も…っっ」
「ラス」
震えるラスリールの身体を抱き締めオルガはその背を優しく宥めるように撫でた。
「帰り、たい…っ」
ラスリールは抱き締めるオルガにしがみつき小さな悲鳴の様な嗚咽を零す。
自分の腕の中に収まってしまう程細い身体を抱き締め、オルガはその柔らかい髪に頬を埋めた。
薬草園を吹き抜ける風がラスリールに声を浚っていく。
オルガは何も言わず小さな身体を抱き締めていた。
「すみません…」
か細い声がして腕を開けばラスリールが泣き腫らした瞳でオルガを見上げてくる。オルガは首を振り、ラスリールの頬を柔らかいハンカチで拭った。
「大丈夫」
オルガは言いながらラスリールに笑いかけた。
「ねぇ、ラス。
今夜、ちょっとした作業があるの。
手伝ってくれる?」
唐突な申し出にラスリールはキョトンとした瞳を向ける。
「作業、ですか?」
「そう。
担任はドーン先生だったね。
ドーン先生と寮母さんに許可を貰って私の部屋に泊まりに来て。
そうそう、明日は遅刻することになるだろうから、その許可も貰って。
私の手伝いって言えば大丈夫だから」
「お泊まり?遅刻の許可?」
目を丸くするラスリールにオルガは頷く。
「今日は私がご飯作るから。
そうそう、好き嫌いはない?」
オルガはそう言って医務寮に戻る道をラスリールと手を繋いで歩きだした。