祖母と―――”葵”ちゃん
祖母と孫のやんわりと切ない関係。
私の祖母は ついこの間までは記憶確かな活舌たる貴婦人だった
何でも自分の思うがままの まるで老いを知らない女性だった
他界した祖父の写真を仏壇に眺めながら 楽しかった昔を揶揄しながら
けらけらと笑う豪快さに 私は安心以上の何か強いものを与えられていたのだ
そう いつも元気そのものの祖母から―――
いつかしら何気に立ち寄ったはずのこの家に いつもの豪快な笑い声は響かなかった
仏壇の祖父の写真はというと 摺れた畳の表面で上手に寝転び
ことりとうつ伏せになって 我が妻の喪失した記憶を偲んでいるのだろう
”おばあちゃん”って声をかけると 私の顔をまじまじと見据える
そして返ってくる呼び名は 最近いつも”葵”だった
祖母の三女 私のお母さんの妹だった”葵” わずか九つの若さで逝ったと聴いた
”葵”ちゃん お茶の香りがとってもいいわねえ 新茶の季節がお母さんは大好きよ―――
お腹が空いたらおせんべいがあるから 棚の一番上に背伸びしなさい―――
私には造作なく届く棚の上 そこにはあるはずのない祖母の”おせんべい”が見えた
”よいしょっと”――――――
そっとこぼさないように”おせんべい”を包む私の手を 祖母の無念がチクリと撫でた
―――ああ 母親の性は 人並みを外した外界に住み着くのだろうと
女の端くれの私に 敢えてそれを知らしめた 否 既にそれを身篭っているのかも―――
久しぶりに会った祖母は 白く穏やかな寝顔で快く皆を待ち受けていた
祖父の写真はというと 今日だけは祖母の胸の柔らかさにいつもより照れているように見えた
そして”葵”という名の行き先は 決まって私の涙に溶け込んでいくのだ
”お母さん 葵だよ”――― そう言って涙交じりに笑顔を差し出した私
愛おしく祖父の写真を抱きながら 粛々と生を手離しに掛かった祖母の名残は
”おせんべい”と引替えに まるで私の仕合せを按じてくれているようだった
ありがとう おばあちゃん―――
おやすみ”葵”ちゃんのお母さん―――




