皇子二人と姫二人
今回はいままでと少し趣が違うはなしに成りました、まあ、基本お気楽なお話にしていくつもりですのでその点はご安心を。
「ぼうず、お前さん今、手加減しただろ?」
俺達の立合いを見て鍛冶師のおっちゃんが話しかけてきた。
「いえ、そんなことは無いですけど。」
「じゃあ何で二本有る長刀のもう一方は抜かなかったんだ?」
この短時間の立合いで俺が脇に刺していないにも関わらず二刀流なのが見破られていた。
「俺もこの家業は長い、立合いの時の間合いや構えでそいつの癖はある程度判るつもりだ。」
メイアリアもフレイアも唖然としている、ことりはなんか暇そうだ、戦った当のフレイアですら見抜けなかった事をいとも簡単に見破られてしまった。
「なんというか向うが一本だったのでそれに応じたつもりだったんですが。」
「そうか、なんともお優しい殿下殿だな。」
「メリン皇女殿下から弟の槍を頼むって脅された時には、どんな卑劣漢が来るのかと思えば、あの暗殺者の弟にしては随分と優しい男だな。」
メイアリアはなにか言いたげだったが、言葉に出ないようだ、つうか脅されたって(汗)。
そんなところに暇に成ってしまったことりが「つまんなーい。」といって俺の袖を引っ張る。
メイアリアがあやす様にことりをあちらで遊びましょうと広場から連れ出した。
「さてどうするね猫の嬢ちゃんどうやら決着はついたみたいだが?」
フレイアは不服そうだったが絞りだす様に。
「あたいの負けにゃ、そっちの槍を先に作っていいにゃ。」
「でも、出来上がったらあたいの刀も作って貰うから待ってるにゃ。」
え、なに?帰らないの?
「好きにしな、残念ながら此処には碌な宿泊施設は無いから寝るなら馬屋で寝てくれ。」
「まあ、仕方にゃいにゃ。」
鍛冶師のおっさんは俺に向き直ると。
「おれの名前はビゼン・シュウスイってんだ宜しくな、我が家は代々鍛冶師でなぁ、まあ、倭の国のシュウスイといやちょいとした有名人なんだが。」
「よろしくお願いします。」
「じゃあ、取り合えず材料をみせて貰おうか。」
「はい。」
俺達はビゼンさんの店の中に戻ると置いておいたナップザック(?)を開くとビゼンさんに見せた。
「こ、こいつあ、たまげたな。」
「にゃんだ、にゃんだ?」
「まさかこれほどの織覇瑠金とはおもわなんだ。」
「龍族じゃなくても判るんですか?」
「ああ、鍛冶師をやってりゃ嫌でも身につくもんだ、しかしなんたってこんなにでかい上に純度も高い織覇瑠金が手に入るんだ!?」
おれは砂漠で在った出来事をかいつまんで話した。
「サンドワームか確かにあいつらなら腹に貯めてても可笑しくない、純度が高いのもうなづける。」
「じゃあ、ハーク殿下、どんな槍にするよ?」
「そうですね、出来れば近接戦闘の時は二刀流にしたいんですが、可能でしょうか?」
ビゼンさんは少し考え込んで。
「するってえと投擲攻撃時は一本で近接攻撃の時は二本にするってことかい?」
「できればそれが一番良いんですけど無理なら一本でも良いです。」
「いや、中々に面白い!」
「こさえたことは無いが新しい事に挑戦し続けるのが職人ってもんだ。」
「そうですか助かります。」
フレイアは黙って聞いていたが興味津々だ。
「ガントレッドのリールはどうする?こいつも二つに割れた方がいいか?」
「いえ、ガントレットは普通で良いですけど折角、織覇瑠金なんでワイヤーは細いほうが良いかなっておもってます。」
「まあ確かにその方が速度においても射程に関しても有利だな。」
「で、実際火焔属性で、いいのか?」
「それは、折角二つに分離出来るなら火焔と冷気でお願いしたいんですけど。」
ビゼンさんは再び悩み始めた。
「投擲する場合はどっちで飛ばすんだ?」
「やはり火焔の方だと思います、冷気だと中々速度が出ないでしょうから。」
「まあ、それもそうだな。」
「取り合えず大まかな注文は判った、んで魔石はどんなのが有るんだ?」
俺はナップザック(?)から真球の宝玉を出した。
「なんだこりゃ?!なんて大きさだ!」
地球で言うところの野球のボールサイズと言えば良いだろうかそれも真っ赤でありながら一片の曇りも無い。
「こいつはどうやらルビーの様だがこいつを二つに割るって事か!」
「まあ、二刀流なんでどうもそうなります。」
「まったくとんでもねえ仕事を持ってきたもんだ、こっちの猫の嬢ちゃんの単純な織覇瑠金の刀なんざ比べものにならねえな。」
「う、うにゃ・・・。」
フレイアは一応、次期女王候補筆頭なのでそれなりの物を作るつもりで来た物の、自分の武器が比べ物にならないと言われてしょげている。
まあ、実はこれだけ凄い凄い言われてるけど実際、神々の武器庫の武器の代わりの予備だと知ったらさらにへこむかも知れないので余計な事は言わない事にしておこう。
フレイアはがっくりして店の外に出て行ってしまった、店の外の塀に猫の如くよじ登って空を眺めている。
俺とビゼンさんはあーだこーだと議論を交わし、ある程度の方向性が出来上がったが。
最初の問題はこのルビーを二つに割るのが難題だ。
「こいつは地道に削って二つにするしかねえな。」
「やっぱりそれしか無いですか?」
「これだけの透明度がきちんと有る曇りの無い宝玉だから割っちまったら折角の透明度が台無しに成っちまう。」
「実際、どの位かかりますか?」
「そうだな、これだけでかいと三日って所か。」
「え!三日ですか?」
「なんだ、急ぐ理由でもあんのか?」
「一応、一度七日後には戻らないといけないので。」
「なんだ、それだけか、ならうちの魔力炉にハーク殿下の魔力をたっぷり入れといてくれりゃあ良い、ワイヤードランスってやつは本人の魔力で精錬して鍛えねえと碌なのに成らねえからな。」
「槍自体はどの位掛かりますか?」
ビゼンさんは暫く考え込んでから答える。
「まあ、ハーク殿下の魔力をばんばん使って構わないってんなら四日って所か。」
「そうですか、じゃあ丁度良いですね。」
「いやいや、良くねえ今日はもう半日過ぎちまってるし、魔力炉から織覇瑠金の鍛冶具に魔力を入れなきゃいけねえ、こいつはどうしたって半日は掛かる。」
「そうですか、じゃあ八日って所ですか。」
「まあ、あとはハーク殿下の魔力次第って所だな。」
ん?俺の魔力?
「ビゼンさんは魔力は感知出来ないんですか?」
「何いってやがんだ、龍族や冒険者や魔法使いじゃあるまいし、魔力なんざこれっぽっちも判らねえよ、あんまし身近の非常識な連中と一緒にしないで貰いてえな。」
「あ、すいません。」
「てことは何か、ハーク殿下は、魔力には相当自信が有るって事か?」
んー説明するのが難しいな、そもそもこっちの人って皆、魔力がどの位有るか判る物だと思ってたし。
「じゃあ、魔力炉に魔力を入れてみても良いですか?」
「おう、構わねえよ、どの道入れなきゃ作業は出来ねえから、こっちだ、ついてきな。」
そういうと地下に向かう階段を下り始める。
かなり階段を下ると、大きな扉が有った。
「こいつは、俺にしか開けられない様に成っててな織覇瑠金製の鍛冶具がひとそろえ有るからな。」
ビゼンさんが扉に触れるとビゼンさんの手形に扉が光る。
ゴゴゴゴゴ
物々しい音を立てながら扉が開いた。
中を見ると聖銀の剣やら織覇瑠金の金槌などとんでも無いものがいっぱい有る!!
「これはすごいっすね。」
「まあ、そうだろう、この鍛冶屋街でもここまで揃ってるのはうちくらいだ。」
「自慢はこれ位にして魔力炉に魔力を入れてくれ、でないと何も作業が出来ないからな、ほらこれだ。」
一見するとなんかボイラーみたいな形状だけど手を置く所が有る。
「ここから入れれば良いんですか?」
「そうそう、試しに何も考えないで魔力を入れてみてくれないか?」
「判りました。」
俺は魔力炉に手を置くと魔力を込めた、目の前の魔力炉が熱を帯びてくる、目の前にあるゲージが振り切れた。
「な!!」
「おめえ、何しやがった??」
「魔力を込めただけですけど。」
「こいつはとんでもねえもう満杯だ!!」
「普通なら半日は掛かるんだが、どんだけべらぼうな魔力してやがんだ!」
「こんだけ魔力がありゃあれが試せるかも知れねえな・・・。」
「あれって?」
「まずは織覇瑠金を可能な限り薄くしてそいつでこの宝玉を斬るのさ!」
「ちょっと待ってろ。」
ビゼンさんはそういうと、織覇瑠金の金槌とのみと台を出して俺の持ってきた織覇瑠金を叩いて削り取った。
削り取った織覇瑠金を台の上で叩き始めた、俺が入れた魔力が魔力炉から空間を伝わって金槌と台に送り込まれて居る。
それなりに時間は掛かったが、見る角度から見たら見えない程、薄い織覇瑠金の円刃が出来た。
「じゃあ、ハーク殿下、残念ながらもう魔力炉は空なんでもう一回入れて貰おうか。」
「え、もうですか?」
「ああ、言っただろう大量の魔力が必要だって。」
「判りました、じゃあ。」
俺は再び魔力炉の前に立つと魔力を込めた、再びゲージが振り切れた。
「入れましたよー。」
「おお、じゃあこの織覇瑠金の円刃で、ルビーを切っちまおう。」
ビゼンさんは布が付いた万力に宝玉を嵌めると、魔力で動くグラインダー見たいので宝玉をガイドに合わせて慎重に切り始めた。
流石のルビーも織覇瑠金の刃物相手では勝ち目が無くあっさりと二つに切れた・・・。
何かが砕けた様な音が聞こえた・・・気のせいかな?
「よし、上手くいった、割れも曇りも無いな。」
「早くも予定が三日も繰り上がったなw」
「そうですね。」
「じゃあこの魔石はとりあえずこれで良い、さて問題の槍だが、ガントレットは普通ので良いんだよな?」
「はい、ワイヤーが細ければ。」
「よし判ったならやっぱり槍から作るか。」
「どうするよハーク殿下?」
「そうですね、直刀二本ってのじゃ駄目ですか??」
「まあ、可能だが、どう分離するかだな。」
「逆に、普段は分離していて投げる時だけくっつんじゃ駄目ですかね?」
「お、逆の発想か、確かにこの魔石はもともとひとつだから可能っちゃ可能だな。」
ビゼンさんはまた考え込んで。
「そうだな、なら柄尻に魔力を込めたら槍の柄として伸びるってのはどうだ?槍のときは投げるんだ楕円でも気に成らないだろ?」
「いいですねそれにしましょう。」
「あとの問題は槍にして投げる時に何処から魔力を放出するか。」
「伸びた柄からじゃ駄目ですか?」
「構造上それは不可能だな、魔力を込めて刀の柄尻が槍の柄と石突きに成るんだ塞がないと伸びようがないな。」
「刀の歯止めつけるしか無いですかね。」
「そうだな、だがそうすると二刀で使うときに重心が悪すぎる。」
あっちを立てればこっちが立たないという状況に成ってしまった。
まあ、二本の刀を作るという方針は決まったが、槍をどうするかが問題だ。
「俺思ったんですけど俺の有り余る魔力を直接刃物に出来ないんですか?」
ビゼンさんは頭をハンマーで殴られたような顔をしている。
「確かにそいつは有りだ!!」
「それなら、いっそ織覇瑠金の刃も必要ねえ!!」
「ハーク殿下の魔力をそのまま刃物にしちまえば他の誰にも扱えないって事に成るし、色々と都合が良いな!!」
「まったく、おめえさんは考える事がぶっ飛んでやがるな!」
結局、織覇瑠金の刀身は作らずに宝玉と織覇瑠金を媒介にした魔刀とも魔槍とも言えるワイヤードランスの製作に取り掛かった。
まあ、そもそもワイヤードランスは魔槍だけどね・・・(笑)
まずは俺の魔力を噴出して刃物にするための台座作りから始める、その台座の外側にはもちろん槍として投擲するための魔力の噴出孔が設けられる。
それもテンションが上がったビゼンさん発案で噴出孔の向きを自在に変えられるというおまけつきだ。
もしかして神々の武器庫の武器必要無い!?
完全な直刀だと槍にした時に破壊力が一点に集まりすぎてしまって貫通してばかりとのことだったので、俺の魔力を噴出する台座、刃の背の部分は反りをつけた。この作業を終わらせるのに既に二日が経過してしまった、俺は魔力をたいして消耗していなかったのだが、ビゼンさんの体力が限界を迎えたので取り合えず三日目は休む事にした。
メイアリアとことりは俺達の作業の邪魔にならない様にメイアリアがことりを連れて倭の国の首都にいった。シルバーンほど広大な街では無いが中々大きな街だと言うことだ、地味に俺は馬屋で寝泊りしている><。
まあ、一番体力を回復しないといけないのはビゼンさんなので当然と言えば当然だ。隣の馬屋ではフレイアが大きないびきをかいている。
本当にお姫様かこいつ・・・?
作槍四日目、二つに斬った宝玉を台座に取り付けると宝玉を守る為に織覇瑠金で周りを完全に覆った、倭の国の錬金術師によって
魔法刻印を施され俺の魔力で二本の長刀の台座が宝玉を中心に一つになる様に成った。傍らでは柄を伸びるようにビゼンさんが、織覇瑠金を同じ大きさに斬って整えている。ここまでの作業をこなすのに、16回も魔力炉に魔力を満タンまで入れている。
ほかの龍族なら一回魔力炉を満タンにするのに、半日掛かってそこから作業を始めるので32倍以上の速度で作業が進行している事に成る。だが、つらいのはビゼンさんだ、俺は魔力が無尽蔵と言える位に有るがビゼンさんは細かい仕事も力を使う仕事も同時にこなさなくてはいけないのである。
それも一回も作った事の無い武器、ある意味、超魔槍とも言える代物だ、疲れが溜まっているのが目に見えて判る。
長刀を分離した状態で柄をつけた所で本日の作業は終了となった。
あとは、柄の方にも錬金術師に魔法刻印をして貰って稼動実験をするのみである。
かなりの突貫工事だが、俺の魔力がいくらでもあるような物なので仕事がとてつもなく速い、実際の所これだけ魔力が有るならフレイアの刀なんか片手間に出来ると言っていたw
作槍五日目、今日はガントレットを作る、リールの中に入れる魔石はビゼンさんの手持ちの中で一番強力なものを入れてもらった。
ガントレットは基本どちらにでもリールが取り付くように出来ている、俺のガントレットも御他聞に漏れずその形式に成った。
今日の問題は織覇瑠金製のワイヤーだ、細くと言った物の何処まで細くしたもんだか。
「どのくらいまで細く出来ますか?」
「そうだな、見えないくらいまで出来るだろう。」
「そんなにですか??」
「ああ、基本ワイヤードランスのワイヤーは切れたりはしないからな魔力がかなり通ってるから。」
「でもあんまり細くすると周りの物切れません??」
「確かに切れるな、じゃあ、1ミリ程度にしておくか、普通のは3ミリが一番細いから三分の一だ。」
「そうですね。」
ワイヤーなので勿論細い糸を組み合わせてワイヤーにするのだが、1ミリのワイヤーを作るには織覇瑠金を細い12本の糸にしてから1ミリにするのだ、これはどうしてもまともな作業じゃないw
二人して見えない程の糸を織覇瑠金から俺の魔力が篭った高温炉(?)で熱して叩いて伸ばす、伸ばしたら転がして糸にする、ひたすらこれの繰り返し、おまけに長さが長い上に12回繰り返し熱して叩いて伸ばして転がして・・・熱して叩いて伸ばして転がして・・・気がつくと魔力炉に数え切れないほどの回数魔力を入れていた。
どうやら今日は徹夜だ、ビゼンさんも覚悟していたみたいで最初から万全の用意をしていたが、二人の飲み水が無くなった所で休憩にしようと言うことに成った。
朝日が白々と東の空から昇り始めている。
どうやら作槍六日目の朝だ。
明日になったら、カエサルさんが迎えに来る。
間に合わせるなら今日しかない。
俺とビゼンさんは休憩と朝食を取り再び鍛冶場に戻った、あと二本糸を作ればワイヤーに出来る。
またまた熱して叩いて伸ばして転がして・・・熱して叩いて伸ばして転がして・・・の繰り返し。
・・・
残りの二本も出来たのでワイヤーを寄り合わせるオーブンの様な装置に糸を十二本を固定すると自動的に工具が回り始めた。
日の出が五時だったがこの作業が終わったのが十二時を過ぎた頃だった。
寄り合わせる工具の反対側にはビゼンさんが手持ちで持っていた魔石が一つに成ったワイヤーにくっついている。
魔石をリールの中に入れワイヤーと槍を取り付ける金具を固定してワイヤードリールは完成した。
あとはガントレットのみに成った。
これは一番簡単だった、リールと俺の腕を採寸して嵌るように形を作るだけだった、ここまで毎日ビゼンさんと一日中作っていたので二人の息も合ってきていてビゼンさんが「ちょっとそこ持っててくれ」とかはもうツーカーに成っていた。
夕方にはガントレットも完成し実質六日間で完成した。
あとは起動実験というか性能実験というか。
それぞれの部品を組み立てて取り合えず一つにした。
まあ、見た目は完全に刃が無い上に真ん中に刀の反りの為に穴が開いたので織覇瑠金のステッキみたいだが。
「じゃあ、そいつを試してみてくんな。」
「判りました。」
「俺はハーク殿下の魔力が充満してる此処で少し休んでから行くからよ。」
「はい。」
俺は鍛冶場から厚い扉を開けて出ると地上に向かって上っていった。
俺は地上に出るとフレイアと立ち合った広場に行くとまずは、ワイヤーをランスに取り付ける、そして魔力を送り込んだ、すると。
シャラララ
という音と共に槍の柄が伸びた。
どうやら第一段階は成功みたいだ。
次に俺は穂先の上部に魔力を込めた、すると先ほどまで溝だった所に半透明の赤い刃がふきだした。
試しに多めに魔力を込めると込めたら込めただけ赤い刃のサイズが大きく成る。
これはかなり使い勝手が良さそうだ。
第二段階も、問題は無いようだ。
そして穂先の下部を発動させてみた、魔力の刃が噴出してる台座から突き出た魔力の噴出孔から赤い炎が輪を描いて噴出する、どうやら刃の方は噴出はしているものの空気などには干渉していないらしく、お互いの噴出力でも相殺していないみたいだった。
第三段階も問題なし。
俺は意を決して空に向かって投擲の準備に入る。
穂先の下部は俺が魔力を込めれば込める程噴出する炎が大きく成り広場の石畳をちりちりと焦がす。
「うらあああああああああ」
ドゴンッッ!!!
俺が気合を込めて投擲すると爆音と共に周りが赤黒く成って何も見えなく成った!!!
周りには急激に熱せられた空気が冷え初めて蒸気が立ち込めている。
まさか魔力を込めすぎて魔石が爆発した!!?
その刹那右手が空に引きずり込まれる感触に気がつく。
爆煙が治まると遥か上空をワイヤードランスがすさまじい速度で駆け上って行く!!
まるでメイアリアのワイヤードランス並の速度だ!!
俺の起こした爆音の為に周りの鍛冶屋が何事かと何人か出てきていた。
その間も俺のワイヤードランスは白い軌跡を描きながら上へ上へと上り続けている!!
ついに見えなくなってしまったが、リールから魔力を引き出すと赤い線が徐々に大きくなって近づいて来る。
真っ赤に成ったワイヤードランスが隕石の如く降って来る。
これだとこの前のメイアリアの槍と同じで地面に大穴が空きそうなので少し魔力を込めて減速した。
ついでに冷気も込めたので赤い槍は薄黄金色に戻って俺の手に戻ってきた。
出来た!!
感慨も一塩だ。
自分の魔力を込めて作ったのだから満足感も違う。
それに、俺自身の魔力しか込めて無いので自分の手にしっくり来過ぎるほどにしっくりきていた。
というか大事な事を忘れていた。
近接戦闘用の二刀流を試してないww
俺は深呼吸をして自分を落ち着かせると、槍から魔力を引き出していく。
穂先の下部、柄、そして穂先の上部、問題無く元の形に戻った。
第四段階も問題なし。
ステッキ状に成った槍からワイヤーを外すと今度は柄の底、石突にあたる部分を押す。
すると、魔法刻印が一度淡く輝いてから蒸気を吐きながら槍が二つに分かれて二本の刀の形に成った、柄にあたる部分にもきちんと少し反りが有る。
第五段階も問題なし。
最終段階から二番目の第六段階、ビゼンさんもこれが一番厄介だと言っていた、槍の状態では安定して魔力の刃が出たが一刀一刀の刀が同じ出力で刃がきちんと出るかはやってみないと判らないとのことだった。
まずは右手の刀に魔力を火焔属性で込める、すると見事に炎が安定した形を保ち刃と成った、槍の状態の時と同じで込める魔力を増やせば刃が大きく成った。
問題の左手の刀だ、ここだけ属性が冷気なので、魔法刻印によって補助がされては居るが冷気がきちんと刃に成るかは不明だったのだが・・・。
おれは魔力を冷気属性で込める・・・。
?
・・・?!
何も起きない!!
まさか失敗か!
魔法刻印はきちんと動作している様に感じたが何も出てこない、試しに振ってみるときらきらとした光が辺りを舞った!!
まさか、と思い左手の魔力をさらに込めてみた!
すると魔力の刃が届いているであろう位置の広場のベンチが凍り始めた。
そうか、薄暗いから見えなかっただけなんだ!
これで最終段階もクリアと成った。
「おう、どうやら突貫工事の割には上手くいったみたいだな。」
振り返るとビゼンさんがそこには居た。
「どうもありがとう御座いました、これで晴れて初陣を飾れます。」
「まあ、そんなに畏まらなくていいって、貴重な体験ができたしな。」
「で、御代はいくらになりますか?」
「そうだなーうちの馬屋で寝てる猫の嬢ちゃんの刀の魔力をくれたらただでいいぜ。」
「そんなんでいいんですか?」
「良いも何も、紅龍皇朝と獣王国の将来を考えたら、貸しを作っといて損は無いとおもうが。」
「でも、彼女自身の魔力でないと駄目なんじゃないですか??」
ビゼンさんは頭をぼりぼりかきながら。
「獣人族ってのは自然から力を確かに得ちゃ居るがこと魔素や魔力の扱いはからっきしな筈だ、基本的には身体強化位しか出来ない筈だ。
「まあ、ようするに、前さんが来ないことにはあの猫の嬢ちゃんの刀も打てなかったって訳よ。」
あら。
「そんな理由が・・・。」
「そうゆうことだ、お前さんの槍に比べたらあっという間にできるだろうし一回か二回魔力炉に魔力を満タンに入れてくれりゃあ問題ねえ。」
そんなこんなでフレイアの刀も打つことに成った。
馬屋で惰眠をむさぼっているフレイアを起こす。
「おーい起きろよフレイア、お前の刀打つってよ。」
猫耳がピクピク動くと猫独特の伸びをするとフレイアは跳ね起きた。
「あたいの刀打ってくれるにゃ??」
おい、ちょっと可愛いじゃねえか。
「そうだってよ。」
「やったにゃーー待ってた甲斐があったにゃ!!」
「ビゼンさんは先に行って準備してるってよ。」
「うん今すぐいくにゃ!」
俺達は馬屋からビゼンさんの店に入り地下の鍛冶場に入った。
ビゼンさんは既にフレイアから渡されたフレイアの織覇瑠金を取り出し難しい顔で吟味していた。
「嬢ちゃんよ。」
「なんにゃ?」
「残念だがこれは刀にはならないな。」
「どうしてにゃ!?」
「まず第一に純度が低い、第二に総量が少ない、第三に混ざってるのが金ってのがいけねえ。」
「にゃんで金は駄目にゃんにゃ??」
フレイアは猫目になみだをいっぱい貯めながら聞いた。
「金って奴は織覇瑠金との相性が良すぎる、こんだけ混ざってると普通に考えていくら熱を加えても分離するのが不可能だ、このままだとただの金の刀と対して変わらない物に成っちまう。」
フレイアは俺のほうを見ながらうるうるしている。
「にゃんでハークばっかりいいのを持ってるにゃああああ、詐欺にゃあああ、不公平にゃあああああ!!」
あーあ、泣き出しちゃった、詐欺でも不公平でも無いんだが・・・。
やっぱりお姫様だから常に欲しい物は手に入れてきたからこいつは効いたみたいだな。
にゃんにゃん泣き出して収拾が付かなくなってしまった。実は俺が持ってきた織覇瑠金はまだまだのこってたりする。
はーもう、しょうが無いなー。
ここで獣王国に貸しを作っとくのも、て言ってたビゼンさんの言葉が頭をよぎる。
「フレイア、俺の織覇瑠金かなり残ってるから使うか??」
気が付いたときにはもう発言してしまっていた。
お約束とおりフレイアの耳がピクッと動き俺に向く。
「本当かにゃ??」
うるうるしながら俺を見るフレイア。
「ああ、男に二言は無い。」
そういうと喜び全開のフレイアが俺の両手を掴んで
「ありがとうにゃーーー。」
と言いながらぴょんぴょん跳ね回った。
俺とビゼンさんは念の為フレイアに魔力炉に魔力を送り込んでもらったが針が僅かにピクリとしただけで全然貯まらなかった。
ビゼンさんは切々とフレイアの刀を何故打たなかったかを説明し、フレイアもまじめに聞いていた。
「じゃあ、ハークが織覇瑠金も魔力もくれるにゃか!?」
「そうなるな。」
「ハーク殿下様ーーーこのご恩は一生忘れ無いにゃーー。」
「大げさだなあ。」
「だって紅龍皇朝から送られたようなもんにゃ・・・。」
「いやだから大げさだから。」
俺はビゼンさんに急かされたので魔力炉に魔力を込めた、相変わらず一瞬で満タンに成った。
「おおおお、すごいにゃああああ。」
ビゼンさんは俺の織覇瑠金から切り出すと熱してから叩いて伸ばし始めた、子気味良い音が室内に木霊する。
何回か繰り返すと魔力炉の中の俺の魔力は全然尽きてないのにも関わらず刀身が完成していた。
「本当にあっという間ですね。」
「まあな、刀だと魔力と道具が有りさえすれば、こんなもんさ。」
「さて。」というとビゼンさんは、刀身を磨きに入った。磨くための砥石もふんだんに織覇瑠金が練り込まれていて見る見るうちに刀身が輝きだす。
「うにゃああ・・・」
フレイアはうっとりと見つめている。
「まあ、こんなもんだろう、あとは上で拵えを作っちまおう。」
俺達は地上のビゼンさんの店で刀の拵えを作る所も見学した。
刀身を軽く熱して木の鞘の元にやきごての様にして型を二枚取りそれに合わせて木を掘り二枚を合わせて鞘が出来た。
ここでは普通の魔力炉で俺の魔力を送って道具を動かしているが下の魔力炉と比べてサイズがかなり小さいので一回魔力を込めただけでフレイアの刀の拵えを作るのに充分だった様だ。
出来上がった刀はかなり薄い金色の刀身をしている刀に成った。
フレイアは。
「にゃんか斬って良いかにゃ?」
なーんて言い出したので立ち合った広場で薪を切る事にした。
俺が薪を立ててやってフレイアが出来たての刀で斬る!!
「やあああああああ」
途端に刀が赤く輝き出し薪を燃やしながら袈裟斬りに真っ二つに成った!!!
薪はメラメラと燃えている。
「あれ?」
そこに遅れてビゼンさんがやってきた。
「やっぱりな。」
「え?やっぱりって?」
フレイアは驚いて固まっている。
「いやよー、砂漠でサンドワームの腹にあったってんなら砂漠と相性の良いハーク殿下の魔力を込めれば織覇瑠金なんだから、火焔刀に成るだろ、おまけに僅かとはいえ最初に嬢ちゃんの魔力も入ってるから、性質の違う魔力が良い着火剤に成ったな。」
「すごいにゃあああああああああ」
「大感激にゃあああああああああああ」
「ありがとにゃ、ありがとにゃハーク。」
「これからは絶対、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、」
「にゃ?」
「にゃにが有っても獣王国は紅龍皇朝の味方にゃああああ!!!」
あまりの感激で我を忘れて塀に飛び乗り屋根に飛び乗り刀片手にどっかに飛んで行ってしまった・・・。
危ないから・・・。
本当に姫様かよ・・・。
まあ、味方が増えるのは良い事だ。
確かに斬り込みの速度も早かったし、メイアリアと稽古してなかったら正直勝てなかっただろうし。
獣王国が味方に成ったら事実上獣王国と最友好国の精霊王国とも共同戦線も張れるかもしれないし。
結構簡単に魔導王朝との事も片づくかも知れないな。
時間は暫く遡ってハークが、ワーヤードランスを作っている頃、メイアリアとことりは倭の国の首都、東の宮に到着していた、何でも今の時期はお祭りだったらしく久しぶりに皇族が庶民の前に姿を現すということで東の宮は皇族が牛車で街を練り歩いたりして大騒ぎだったらしい、のだが・・・。
どうしましょう、ことりちゃんがこの国の皇族の乗られる牛車の前に駆け出してしまうなど私としたことが・・・。
「この小娘無礼であろう!!」
あああ。
私はことりちゃんに駆け寄ると、ことりちゃんを咎めた侍に謝った。
「申し訳ございません、この子はあまり普通の生まれ性ではなく見た目より幼いのです。」
「平にご容赦を。」
「ふん、そのような言い訳で・・・・」
「若の牛車を横切るとは不届き千万!!」
周りの他の二人の侍も刀に手をかけてこちらにじりじりと近づいてくる。
「なんじゃなんじゃ、なぜ牛車を止める?」
そのよく通る声と共に牛車の中の若様が顔を覗かせる。
「ほう、その出で立ち我が国の民では無いな、ならば仕方あるまいてジュウゾウ、他の国の者と諍いを起こしても詮無き事よな。」
「しかし若様、さりとて、この幼子は普通の人間では有りませぬ、まさかとは思いますが、他国からの暗殺者やも知れませぬ。」
最初にことりちゃんを見咎めた侍が答える。
その発言を聞いた若様はカンラカンラと笑い始めた。
「ジュウゾウ、お主、よく見てみよこの幼子は色素欠落児ではないか、魔力が大きいのも色素が欠落したのを補うために過ぎぬ。」
「お主はもう少し魔導理論を学ばねばならんな。」
「それは、若のおっしゃるとおりかも知れませんが私はどうも刀以外は信頼できませぬ。」
「それにのう、ジュウゾウ、こちらのメイドの方がどうやら人ではないようだがの!」
ジュウゾウと呼ばれていた侍の殺気が私に向いてしまった。
「貴様何者だ!?」
私は返答に困ってしまった、今ここで身分を明かすのは非常に危険だと判断できた。
何故なら、ハーク殿下がいらっしゃらない状態で竜騎士団長が単身(実際はことりちゃんも居るのですが。)こうして同盟国とは言え倭の国の首都に居ておまけに皇族の牛車を遮ったとなると、ある意味では武力侵攻とも取られかねない。
お祭り騒ぎの中なのであまり周辺にこの状況は察知されてはいないのですが遅かれ早かれ拘束される可能性が・・・。
と私が色々と考えを巡らして居ると。
「ん?よく見るとそなた紅龍皇朝のメイアリアか?!」
「!!!」
しまった、先に見破られてしまった。
今驚いた顔をした途端に若様がニヤリと笑った。
若様の周りの侍に戦慄が走る!!
全員の殺気が私一人に注がれる。
私が困った顔をしたのを認めて若様が続ける。
「なんだジュウゾウわしの為にこんな余興を設けるとは中々手の込んだいたずらをするのう。」
「!?」
「わしがつねづね恩ある紅龍皇朝の皇族と酌を交わしたいと申しておったのを叶えるとはのう。」
ジュウゾウと呼ばれた侍は完全に若様に言いくるめられた感じに成ってしまった。
私のほうも穏便に事が済んで一安心と言ったところで、この若様は中々肝の座った方のようで、私とことりちゃんを牛車に乗せると何事も無かったかのように牛車を出発させた。
「メイアリア姫、どうやら武力侵攻のつもりは無い様子、此度の訪問の訳をお聞かせねがえないかのう?」
「その前にお礼申し上げます、あの状況からいかに脱するべきか思案しておりました、若様には温情を賜りまして誠にありがとうございます。」
「いやいや、そうでもないのじゃよ、わしはある意味、悲運の姫君として生まれたお主に並々ならぬ興味があったのも事実。」
「こうして言をかわせるなど思ってもみないことじゃった、事実、悲しい事だが紅龍皇朝無くして我が国は立ち行かぬ、この世は人のみではとても国は守れぬからのう。」
「若様の御見識いたみいります・・・御質問の件ですが我が紅龍皇朝の皇子ハーク殿下が現在この倭の国にて武器を作っておられます、それゆえ今回は倭の国に参った所存です。」
「ふむ、武器とな、やはりワイヤードランスなのかのう?」
「はい、その通りでございます、今はビゼン・シュウスイ殿の工房で作業をしています。」
「ほう、シュウスイか、わしもシュウスイには色々と作ってもらったがどうも普通の人間ではあの重い武器は中々むずかしいのう。」
「人は人で優れた点がございますのでお互いに持ちつ持たれつでよろしいのではないでしょうか?」
「まあ、貴女にそう言われると我が国も立つ瀬があるというものだな。」
「してそちらは何日ほど逗留される?」
「はい、僭越ながら七日後に迎えが来る手はずに成っております。」
「ふむそうか。」
私がそうゆうと若様は考え込んで。
「ならばわしの宮に逗留するが良い。」
「!!」
「まさか、トキオ様がいらっしゃる宮ですか?」
「うむ、そうか自己紹介がまだだったのう、わしはトキオ・ダイセ・ロンダが長子アキト・ダイス・ロンダじゃ、まあまだ皇帝ではないのでさほど気にしなくて構わぬ。」
「そ、そのような、私、ごときいちメイド風情が・・・」
「まあ、そうゆうな本来は戸籍上も生まれも全て皇朝の姫君であろう、わしとなんら大差無い、それよりもその美貌と若さで常勝無敗とは恐れ入る、むしろわしの近衛尉位に稽古をつけていただけると助かるのだが・・・。」
「あのジュウゾウなどは中々良い筋をしていると思うのだが少し実直過ぎるきらいがあってな、奇をてらった攻撃に対応がきかぬ、丁度少し他国の兵者などと、刃を交えて見る頃合かと思っての。」
「そうでしたか・・・それではお言葉に甘えましてことり共々逗留させていただきます。」
そんなこんなで、ことりちゃんと二人で東の宮、本宮に逗留することになったのですが、ハーク殿下が今頃、馬屋で寝ていないか心配・・・。
お祭り自体はアキト殿下と出会った翌日が最終日だったので逗留三日目からアキト殿下の近衛尉位に稽古をつける事に成った。ことりちゃんは本宮の侍女方に面倒を見てもらっている、わがままを言わなければいいのですが・・・。
ジュウゾウ殿はアキト殿下の仰る通りかなり素質に恵まれた方の様だ、暫く前のハーク殿下を思い出す。普通の人間で有りながら腕力で圧倒的に勝る龍族の私の打ち込みをたくみにいなし切り返し隙をついて切り込んで来る。
ですが、やはり普通の人間なので一度捉えてしまえば、力でねじ伏せることができてしまう。
自分より年若い婦女子相手に苦戦するなど侍にあるまじき行為だと、最初の頃は自分を責めていらしたのだが。
アキト殿下から、私が紅龍皇朝で最強なのだと聞き及ぶと、真っ直ぐ迷いなく向かって来るように成ってきていた。そしてしまいには腕力に頼らなくなり剣筋がかなり鋭く成っていって私でも真面目によけなければ危ないような事も度々起きるように成っていた、そんな様子をアキト殿下は微笑ましく眺めていらした。
「ジュウゾウ、日に日に剣筋が鋭く成っておるのう。」
「若、お褒めに預かり嬉しゅうございます。」
「しかしジュウゾウ、お主はまだまだ上が居るという事を知らねばならん。」
「それは一体どうゆうことでございましょうか?」
「メイアリア殿少し本気でやっていただけぬだろうか?」
「「!!」」
「ですがそれでは、通常の武装ではとても持ちませんが・・・。」
「まさかメイアリア殿は今よりも上があるということですか?!」
「ジュウゾウ、竜騎士団、第一騎攻師団、団長の腕前が刀で推し量れるものでは無かろう。」
「そ、それは確かに若の仰る通りにございます。」
「メイアリア殿、多少の宮中などの損傷は厭わぬ、竜騎士団長の本当の力というものを見せてやってはいただけぬか?」
「殿下の御下命ならば、喜んで。」
私は集中するとトライデントを呼び出しにかかった。
カカアッドドン
雷鳴と共に海龍王様がよくお使いに成る三股の鉾を呼び出した。
雷が落ちた段階で近衛尉位の方々は戦々恐々状態になってしまったが、私がトライデントを手に取るとさらに愕然としてしまった。
手に取った瞬間からトライデントからは夥しい量の雷が迸る、私が近衛尉位の方々に当たらない様にコントロールしなければ周りの人はみな焼け焦げてしまっただろう。
「まさか、これほどとは・・・。」
ジュウゾウ殿も言葉がそれ以上出ない様だ。
「さて、ジュウゾウこのメイアリア殿に挑めるか?」
アキト殿下がそう言う間も雷があちらこちらに飛び焦げ跡を作っている。
「若、申し訳有りませんが私には抗しようがございません。」
「ふむ、まあ、そうであろうな、だからといってわしは責めぬがな。」
「わしが近衛尉位の諸君らに言いたかったのは、他でも無い、我が国はこれほど強力な国家に守られて居るという事実を知ってもらいたかったのじゃ。」
「この龍族の力も言ってみれば我が同胞の力よ、侍に生まれ、戦う事を宿命づけられていても、実戦経験は無いに等しいお主らであろう。昨今我が国で紅龍皇朝から脱却せよなどという世論が高まって居るがこれは明らかに魔導王朝からの奸計であることは明白である、魔導王朝はいかなる手段を用いても世界に覇を唱えるつもりであろう、我らはそのような蛮行を許す訳にはいかぬ、よってこれより先もわしは紅龍皇朝と共に有ろうと思うが?」
その場に会していた近衛尉位は「ははっ」と返事と最敬礼をもってアキト殿下に答えた。
「倭の国にも魔導王朝の手が伸びていたのですね。」
「いや、非常に申し訳なかったのう、メイアリア姫、結果的に利用させてもらった事になってしまったが、我が国でもわし直属の近衛尉位の中ですら、魔導王朝の諫言にたぶらかされかけていたのでな。」
「紅龍皇朝と我が国の関係といかに紅龍皇朝が庇護してくれているかは平和な状態が長いゆえ最近の若者には行き届いてなくての、誠に嘆かわしい。」
「いえ、アキト殿下はご立派だと思います、それに私も非常に勉強に成りました、武術は力では無いという事が改めて学べました、ジュウゾウ殿のあの動き、力を常に入れるのではなく、柔らかく柔軟に力をいなす、私もまだまだ未熟だと気づかせて頂きました、今回はハーク殿下のランスを作りに来ただけだったのですが私にとっても思わぬ試金石に成りました、私もさらに精進したいと思います。」
「今より更に強く成ると申されるか、これは頼もしいのう。」
「いえ、私などはハーク殿下の足元にも及びません。」
「ほう!なんと!!」
「ハーク皇子はそれほどの豪の者なのか?」
「はい、初めての戦闘で一撃で竜騎士団長を事実上戦闘不能にしました。」
「なんと、希なる逸材よな、竜騎士団長を倒したとなると既に竜騎士団長なのか?」
「はい、そのとおりでございます。」
「それは、メイアリア姫も仕え甲斐が有るというものよな。」
「いえ、ですがあまりにもお強いので私で良い者かと正直悩んで居りまして。」
私はなにを言ってしまっているのだろうか、他国の皇子殿下にこのような悩みを打ち明けてしまうなど。
私の感情を知ってか知らずかアキト殿下はこうおっしゃった。
「まあ、ただの人間のわしが言えた義理ではないのかもしれないのだがの、龍族とて人間と変わらん、姿にしても心根にしても。」
「それゆえ立場の違いや能力の違いで悩むことは誰しも有る事よ、わしなどジュウゾウにも敵わぬしな、だがそれで良いのではないかな。」
「ただ傍らに居るだけでもそれが力になるやも知れぬし、聞くところによればハーク皇子は中々に良き益荒男の様子、内政や民草に対しても興味や関心と責任をきっちり持っておられる様だしの、メイアリア殿の心配はわしには杞憂に思えるがの。」
「申し訳ありません、私は知らず知らずの内にアキト殿下に甘えてしまいました、殿下の仰るとおりかも知れません、私にできる事を精一杯いすればいいのですね。」
「まあ、無理は禁物だがの。」
そう付け加えてアキト殿下はイラズラっぽくウィンクして見せた。
たっちゃんが目を覚ましてからそろそろ二週間が経とうとしていた。
私は毎日学校が終わったらたっちゃんの病室に行って学校で有った事や授業の内容をたっちゃんに話すのが日課に成っていた。
昨日は黎ちゃんと七尾くんも一緒にお見舞いにきて皆でわいわい騒いでしまって他の患者さんも居るのですよと看護士さんに叱られてしまった。
たっちゃんも楽しそうだったけど、何と無く心此処にあらずといった感じだった。
私は怪我のせいで色々と思う事が有るのかなと思ったのであまりたっちゃんに負担をかけない様にあえて何も言わなかった・・・でも、・・・すごく気懸かりだったから看護士さんに聞いてしまっていた。
看護士さんの答えに私は驚愕する事になる。
「看護士さん何かたっちゃんに変わった事はないですか?」
「ああ、名取さん、そうね・・・別段、異常は無いのだけれど竜哉君は左利き?」
「え?」
「?」
「どうしてですか?」
「うーんなんて言うか食事の時にいつも左手で食べてるんだけれど、凄く左手が使いにくそうなのよね。」
私はか細く答えた。
「たっちゃんは右利きです。」と。
「そうなの!?」
「じゃあ何で右手で食べないのかしら何処にも異常は無いのに。」
「はい・・・。」
私はもっと恐ろしい事を知りそうでそれ以上何も聞けなく成ってしまった。
次回はやっとこさセレンス村奪還さくせんが始まります、まあじつはどんでん返しも考えていたりするのですが、我慢しようかどうしようか五分五分です。
なるべく早くお届けしたいと思います。ではでは。