旅支度と同行者
剣聖に稽古をつけてもらうことに成った、聖母龍からはどうせ全てばれるから詳しい話しまでしてしまっていいと言われたので
俺たちの置かれている状況を詳しく説明したのだった。
「へえ、なんか大変な事に巻き込まれてるのね、じゃあ、まあ、取り敢えず武器とかは?」
「あっちだとあまり手持ちの武器とかは扱えないこともそれなりに多いと思います。」
俺と破軍がその旨伝えると剣聖にこう言われた。
「じゃあ二人とも、ちょっとどの位まで無茶出来るのか見たいから二人、素手で全力出して戦って見せてほしいんだけど。」
「全力でですか?」
と破軍が問う。
「そういえば俺達、全力で素手の殴り合いって、やったこと無いな。」
「それならなおさらどの程度動けて動けないのかも自分たちで判ってないって事だね。」
「一応ゴーレムリッターで戦闘訓練はしてますけど確かに素手では無いですね。」
ということに成った。
シルバーン内でやり合うと色々と問題がありそうなので例の如く西の砂漠に移動することに成った(最近は一時期の図書館以上に来てる気がする・・・)。
レッドドラゴンさんとブラックドラゴンさんと子ブラックドラゴンさんだけでなくギャラリーとして
メイアリアとエリザ、リーナ、カレン、ユリエ、ローグとおまけにライノルトまで観戦するようだ。
「じゃあお互いに咄嗟に余計な物呼ばないようにこれは外しておこうね。」
そう言われて何のことかわからずに俺たちはきょとんとしていたが、いつもならどんな事をしても外れなくなっていた神々の武器庫の契約の指輪が
剣聖の手によってするりとあまりにもあっけなく外された。
「!!え、?!」
「こ、これ外れるの?!」
「一応ね、特に秘密にするつもりも別に無いんだけど、あの子とは姉妹だからね。」
俺も破軍も一瞬何のことを言っているか判らなかったが契約の指輪をくれた人物に行きつく・・・。
「え、ちょっと待ってください、ゴールドドラゴンさんと姉妹?!」
「いやいや、わけが判らないよ、完全に種族違うでしょう二人とも!!」
「でもまあ事実だし、そもそもバンパイアの真祖がドラゴンと姉妹じゃいけないの?」
「いけないとかいう以前になんでそんな事態に・・・。」
「うーん、正直説明するの面倒なんだけど、思いっきり端折って言うとドラゴンから化身して龍族と変わらない状態に成ってる時に自分で真祖化に成功した・・・じゃだめ?」
「お、おおう、もう訳が判らないけど本人がそいうならそうなのか劉生?」
「いや、俺もさっぱり理解できないが、それより俺は破軍だからな。」
「ああ、すまんすまん。」
「剣聖さんしか近くに居ないから問題ないとは思うが・・・。」
「本当に色々あったのって思ってくれれば良いわ、事実そうなんだし、のっぴきならない事情があったのよ。」
そういいながら本人はヘラヘラしているがそれよりも剣聖がわざわざ魔界の大門の前で大門を閉じているという役目をしている以上
それに関連したことなのだろうと納得することにした。
「一応注意しとくけど、あの子(聖母龍)になんでこうなったかとか聞いたら駄目よ、あの子すっごく怒ると思うから。」
「「はい、覚えておきます。」」
二人でハモってそう答えた。
「じゃあ色々と時間も差し迫ってるしあたしもどこまで教えられるか判らないからとっとと始めましょう!」
そういわれ俺と破軍はお互いに距離を取るとそれを見るなり剣聖が大きな声で「始め!」と言った。
ドドン!!
合図と共に一気に間合いを詰めると互いに殴りかかるが俺が殴りかかった破軍の姿が拳が通り抜けてそのまま消える
早え!と驚く間もなく後方から飛び蹴りの形でもう蹴りかかってきているので仕方なくこちらも自分の温度属性の魔力で対応する気に成ったのは良いが
其れよりも破軍が一方的に早過ぎる!!
二発ほど貰ってしまうがなんとか冷気魔力を絞り出すとそれを乗せた蹴りを放った。
俺の蹴りを電撃が走る様相そのままに破軍が俺の蹴りをするりと避けてしまう。
あとで聞いた話だがこの時吹雪の巨人と戦っているようでぞっとしたそうだ。
暫くお互いに全力で打ち合っていたが唐突にはしっと剣聖に互いの手が掴まれ、とっくに止めと言われていることに二人して全く気が付かなかった。
「うんまあ、経験の差はあれども同じくらいの戦闘力で魔力だから千日手に成っちゃうよねえ、一応どんなものかは理解したから明日から稽古つけてあげるわ。」
そう言われたので思わず。
「今からでも良いです!」
とは言ったのだが、ふと 見るとギャラリーがドン引きしているのを認識してお互いの姿をやっと認識した。
一応血は出ていないがあざだらけで体中紫色に成っていた。
まあ、属性の特性もあって俺の方が圧倒的にあざだらけなのだが、破軍は破軍で所々火傷や凍傷の状態だった。
メイアリアとエリザがたまらず駆け寄ってきてほぼ同時に回復魔法をかけてくれた、どうやらエリザも回復魔法を覚えていた様だった。
翌日、手厳しいお言葉から稽古が始まった。
「結論から言うとはっきり言って全然弱いわ、魔力の集束から変化、安定運用、それと戦いに呑まれない精神状態とか、教えるべき事は色々あるわ。」
そういってから剣聖はふと黙り込んで。
「かと言ってそれほど時間もとれないし・・・うーん。」
そのまま暫く黙り込んだかと思うと
「激しい戦いの中で自分で学ぼうか?」
そういってニッコリ笑うなり剣聖の姿がブレ始め三人に分かれると
「じゃあ行くよおー。」
と、剣呑さの欠片も無い雰囲気なのに俺たちの認識と意識の外からとんでもない速度で木刀が繰り出される。
此処から何日もの間、剣聖の作り出した分身体(?)に二人ともボコボコにされるのだった・・・。
一応は戦闘訓練が、ぎりぎり及第点という認識に何とか成ったので今度は教授職でもあるレッドドラゴンさんも交えて群島国家の騎士やその他諸々の座学に成った。
こうゆう格好してる人が居るとか居たとか色々な講義がされたが特に印象的だったのがグリフォンナイトの話だった。
「あなたたちは龍族だから生物的にはかなり上位の存在のつもりだろうけど相手によっては必ずしもそうとも言えないわ。」
「グリフォンナイトが群島国家には居るのだけど彼等とドラゴンナイトの相性は最悪なの。」
「それはどうしてですか?」
『彼らの駆るグリフォンには同族殺しの種族特性が有るからあちらの攻撃そのものは目全然大したこと無く見えてもでもドラゴンには過剰に徹るって事だねえ。』
「ドラゴンとグリフォンは同族じゃないじゃないですか?」
「最もな疑問ね でもそうじゃないの、厳密にいえばドラゴンもグリフォンも元を辿れば同じ祖先に行きついてしまうの、まあ四本の足が全て獅子や虎のキメラ化しているグリフォン
ならばその限りじゃないけど四本の足のうち二本が鷹や鷲の原種のグリフォンの攻撃はあなたたち人身の龍族にも勿論過剰に徹るから気を付けるように。」
『この内容は中央学府まで進学して古代生体学の授業に行けば学べる話だけど騎士学院では群島国家と敵対する事を、そもそも想定していないから殿下達が知らなくても無理もないけど、
今回の事で少しカリキュラムの変更が必要かもしれないねえ。』
レッドドラゴンさんにそう言われて俺はあることを思い出した。
あれ、そういえば元の世界でも中国の龍は鳥類が弱点だったような・・・。
『おや、ハーク殿下、何か釈然としない顔してるねえ?』
「あ、そういう訳じゃなくて、原種のグリフォンに気を付けないといけないって事は鷲とか鷹も気を付けないといけないのかなって。」
『なかなか鋭いじゃないかハーク殿下、そもそものサイズが違い過ぎるから実際は話にも成らないけどもしも同じサイズだったら不利と言えるねえ・・・。
まあ、かと言って 彼らに強力な魔力があるとは限らないし彼等の羽はよく燃えるから負けることは無いだろうさ。』
「でも気を付けてね、この前 私が咄嗟に斬った雀も種族特性から何から完全に模倣、獲得してたから、もし
グリフォンが例のスライムやその他の魔界の原始生物に寄生されてたらかなり厄介だから肝に銘じて置くように。」
「はい。」
おっかねえ・・・というかこの会話がそもそもフラグに成ってそうで怖え・・・。
その他も色々と勉強になる話が、というか完全に講義だったが、スライム系はこちらでも魔界でも貝殻のない貝類の魔物化ということで
結構塩が有効だとかでそれでめったに海を渡ったりしないということだった。
深化している個体(魔物は進化ではなく深化、さらに深化が行きつくと堕転、魔物に成ったということで生物としての正常な恩恵は受けられない存在になり、その状態がさらに深くなるという意味。)
はその限りではないが、それでも基本的な性質は変わらないので、囲まれて困ったら海水や塩を撒けとのことだった。
破軍に確認したら大量の海水を呼ぶのはさほど難しくないので任せろとのことだった。
まあ、それ以前にそっちも冷気と熱が操れるから問題ないだろ、と突っ込まれたが。
「でも本当に吸血鬼中心の対策だけでいいのかしら、あの子たまに抜けてるところあるから気になるのよねえ。」
とか最後の最後に剣聖は余計な不安を増やしてくれたりするのだった。
東京タワーにほど近い某国の大使館で壮年の大使に向かって明らかに年若いプラチナブロンドの女性が横柄に話しかける。
「どこかの国のお馬鹿さん達が暴走させたジャポンの神籬とか言うゴ シ ン beaucoup?は、どうなったのかしら?」
「6時間ほど暴走したのち止まったそうです。」
「伊達に、国体が変わらずにavant J.C.からある国っていう訳じゃないのかしら?」
「我々の知り得ない魔術体系があるのかもしれません。」
そう言いながら大使は超望遠レンズで奇跡的に一枚だけ撮れた赤い鎧の何者かが映った写真を女に見せた。
「あまり余計な手出しをしても実入りは薄いのかしら。」
「我が国以外の魔術組織もちょっかいをかけているようですが結果は芳しくないようです。」
「ジエイタイ、なんて、センシュボウエイとかいって、中途半端な組織かと思ったら手ごわいとか、恐れ入るわね。」
「この写真だけではよくわかりませんが・・・。」
女は写真を見ながら。
「これはまるで Chevalier ねぇ・・・。」
「現状では何とも。」
「まあいいわ、他の国はどうするか知らないけどうちは余計な手出しはしないわよ。」
「そうですか、判りました。」
「本当にあなたが言いうように色々な国の魔術組織がちょっかいをかけても何ら芳しい結果が出てないなら、考え様によっては協力関係を築いた方が得かもしれないわ。」
「それはあまりにも飛躍しすぎでは!?」
「そうでもないわ、うちの首都の問題も私たちはあくまで被害者だという形で解決してもらえばいいのよ。」
「奴らの退治を日本に依頼するんですか?!」
「こちらから頭をさげてお願いして利用するだけ利用してあとはお引き取り願えばいいわ。」
「我が国の周辺国家がどう出てくるか予測が付きませんが・・・。」
「それこそうちに仕掛けてきたのが何者で何処かという当たりが付いて好都合だわ。」
「日本を餌にということですね。」
「うまくいけば大元から退治してくれるかもしれないわよ。」
「日本側への報酬は?」
「適当に美術展をジャポンのロッポンキでどうですか?とかこちらから言えば納得するでしょう?今、この国には景気のプラスに成る要素があまりないようだし。」
「確かにそうですね、現状の経済状態で好事家の多いこの国ならば首を縦に振るかもしれませんな。」
「そもそも、同じ民主主義国家陣営同士でただの人助けをという話よ、こちらがどうゆう立場なのかはわざわざ全て明かす必要も無いわ。」
とんとん拍子で話がまとまり、明朝 大使の方から日本政府に依頼がされることとなった。
プラチナブロンドの女は大使の部屋から出ると独り言を漏らした。
「百年前の本家の不始末、美術展 程度で済めば安いものね。」
剣聖とレッドドラゴンさんの図書館の窓際の席で講義を受けていると来客があった。
「みゃああ!ひっさしぶりみゃー!」
その声だけで誰が来たのか丸わかりだったが振り返ると前回と同じく獣王国先王も共に来ていた。
もしかしてお孫さん可愛すぎか?と一瞬思ったが少々事情が違うようだ。
「おお、来たか。」
俺が声をかける前に剣聖が声をかけた。
「剣聖殿のお呼びとあらばこの老骨どこへでも参ります。」
「あれ、じゃあもしかして俺たちだけじゃないってことですか?」
「まあ、そうなる、流石に小門とは言え魔界の門を閉じるのにたった二人というわけにもと思ってな、ここに来る前に一通り声をかけておいたのよ。」
「一通りっていうと、ほかにもですか?」
と破軍。
「そうよ、あと精霊王国と倭国にも声をかけてきたから。」
「倭国の人ですか?」
「いいえ 違うの、人じゃないのに声をかけてきたから。」
剣聖の話を要約するとこうだ。
一応の体裁を整えるためにもどうしても国家の代表者が一人は必要ということで獣王国の先王陛下とその孫のフレイア。
そして精霊王国からは精霊王国、聖銀騎士団団長、そして倭国からは剣聖さんがとある理由で秘境に隔離してた妖怪ということだった・・・。
不安だ、特に最後が不安しかない・・・。
一通り剣聖が誰を呼んだか説明し終わると、自分の影をつま先ででコンコン突きながら。
「いい加減出てきて挨拶しなさい。」
と言った。
わずかの間があり剣聖の影が震えたかと思うと影が分かれて二次元から三次元に立ち上がり獣耳と尻尾が生えた妖艶な女性の姿になる
が、引きこもりが引きこもってたのを無理やり引きずり出されたかのようなびくびくした態度で。
「ど、どうも、・・・た、たまです・・・。」
とだけ言った。
大丈夫なんだろうかこの人・・・。
「人里から隔離してる間に人見知りの引きこもりに成っちゃったみたいなんだけど腕だけは確かだから。」
そういってる剣聖にたまが耳打ちしている。
「(なに?こんなイケメンぞろいのとこに引きずり出すな?あんた引きこもりになってるのに好色なのは変わってないとかどんだけ性癖こじれてるのよ。)」
とか何とかひそひそとやっていたが俺にはまるきこえだった。
後日、精霊王国からも今回の旅の同行者が来訪した。
「ミスリル騎士団団長リナリィ・レリス・ハーンと申します、リナとお呼びください。」
これぞエルフの絶世の美女と言わんばかりの女性がそこにはいた!
あれちょっと待って、俺と破軍と先王さん以外みんな女性なんですけど・・・。
それもフレイアはともかくとしてみんな美女・・・。
いや冷静に考えたら三人三人だったわ。
全員そろったところで各々が自己紹介をし、剣聖も紹介したりしてくれた。
フレイアとケモミミ同士で意気投合したのか、妖怪のたま(?)がフレイアの影の中にいるという話になった。
その途中でたまたま近くに居たことりがフレイアの影から飛び出してきた たまに驚いて尻もちをついて一度は泣いたりしたが、
今はフレイアとたまの尻尾のもふもふで遊び疲れてたまのしっぽにしがみついたまま寝ている。
「いやあ、まあ、これはすごいな・・・。」
「これはとんでもねえ豪邸だなあ・・・。」
四人でうちに遊びに来いと言われたのでついて来てみれば
龍宮寺 真理亜 (聖母龍)の家は豪邸だった・・・。
日本の高級住宅街にありながら敷地面積もかなりの大きさだった。
だが、そんなことは大した問題ではなかった。
ふと剣聖の、あの子とは姉妹だからという言葉がよぎる。
「あら真理亜お客様?」
「そうじゃ、クラスの友達を連れてきた。」
「じゃあお茶の用意をしてくるわね。」
そう言って真理亜にそっくりな女性はスリッパのおとをパタパタさせながら台所があるであろう
方に歩いて行った。
剣聖さんも居る!!!!
いや、こちらの世界の剣聖と言えばいいのかこちらでは剣聖じゃないからええと、俺がパニックになっていると。
「わらわも最初は戸惑うたよ、そうそうめったにお目にかかる顔ではないからの・・・。」
「えっとじゃあこっちでも姉妹ってことですか?」
「そうじゃ、て!、そこまで聞いたのか!?」
あからさまに真理亜が狼狽している。
「まったく口がかるいのは相変わらずか・・・。」
意外な一面が発覚したがあっちの剣聖さんに余計なことを詮索すると機嫌が悪くなると
いわれていたのであまり深入りはせずとりあえず流すことにした。
真理亜は何かぶつぶつといっていたがそこもあえて聞かないようにスルーしておいた。
そんな気配を察してか劉生が口を開く。
「そういえば今日こうして呼ばれたのはなにか在りましたか?」
「おお!、そうじゃ、たまにはみんなで遊興もよいじゃろうと思ってこんな物を手に入れたんじゃ。」
真理亜がガサゴソと箱からヘッドマウントディスプレーのゲーム機を取り出す。
「龍宮寺さんこれよく手に入ったね!!」
結構ゲーム好きで新し物好きの芽衣子が喰いついた、
最近巷で流行っているゲーム機だがいろいろな事情があって一般人にはなかなか手が届かない
状況に成っていた代物だった。
「皆が来た時にやろうと思っておったからわらわも一切やってないからの。」
気が利くというかなんというか、思いっ切りこっちの世界を堪能しているという事か。
この気の利く感じで前もってゲームをやってなかった事がまさかの大惨事になるとは
この時、俺も劉生も真理亜(聖母龍)本人も誰も思ってなかったのだった。