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魔獣討伐2


 レイボルクは自分にあてがわれた部屋で目を覚ました、ゴーレム・ゲリエと戦って重傷を負った後そのまま用済みで殺されるという様な事も無く充分過ぎる程の治療が為されていた。


聞きなれない詠唱の回復魔法ではあったが自分の怪我は治ったのだが、騎乗していたブルードラゴンは墜落の時まともに受け身もとらなかったので落命していたのだった。



コンコン



扉がノックされると特に何も反応を返さなかったにも関わらずアーシェリカが入って来た。


「お目覚めのようですね、で、身体は一通り回復した様ですけど。」


「この下衆が・・・。」


「まあ、貴方の言う通りなのですが。」


アーシェリカが続ける。


「仕えていた自国の皇子と姫と戦って敗れて逃げ回っている貴方といい勝負ですね。」


「っく・・・。」


「これからは貴方にもゴーレム・ゲリエに乗っていただきますので。」


「あれが他にも有るのか・・・。」


「それなりに苦労したのですけれど沢山作りましたから、ですが、どうしても乗り手が必要なのですよ。」


「他を当たってくれ。」


「そんなことを言っても良いのですか?貴方にぴったりな機体に仕上がっているんですが。」


「まさか・・・。」


「はい、そのまさかです。」


「クズが!」


「貴方が乗らないと言うのなら他の候補者に貴方用の機体が渡るだけなのですけれど・・・。」





その日は一日の最初から憂鬱な始まりとなった、レイボルクはアーシェリカに言われるがままにゴーレム・ゲリエに乗ることに成った。


自分の騎乗していたブルードラゴンの死体を材料としたゴーレムに。


「最初からこのつもりだったな貴様!」


そう言われ何も隠す気が無かったアーシェリカは。


「ええ、その通りですがなにか?」


とゴーレム・ゲリエのコックピット内で誰にも見られていないことをいいことに嗜虐的な笑みを浮かべながら言った。


「それでは使い物に成るのか試してみましょうか。」


「くそが・・・。」


レイボルクは小声で言ったつもりだったがゴーレム・ゲリエの通信(?)によってアーシェリカには丸聴こえだった。





港町ブロウ西端のそれほど高さの無い比較的平坦な岬で二体のゴーレム・ゲリエが対峙している。


岬からブロウの裏手に二キロほど登った丘の上にはつまらなそうにティータイムをしながら見物しているブリジットとその貴下であるニコラとジャンの姿もあった。


アーシェリカのゴーレムは相も変わらず古代龍種の骨を外装に使ったスカルドラゴンとでもいうような姿をしている。


対してレイボルクのゴーレムは骨ではなく死んだばかりのブルードラゴンの身体から取った素材を使ったドラゴンゾンビとでもいえばいいだろうか、その様な機体に仕上がっていた。


「さあ始めましょう、どこからでも掛かってきていただいて構いませんよ。」


そういうとアーシェリカのゴーレム・ゲリエは二本の蛮刀を背中のマウントから取り出すと、まるで上から叩き斬れば一番強いとでも言いたげに両腕を上に広げて足を閉じバレリーナの様に構えた。


レイボルクの機体はロングソードと盾を装備しておりアーシェリカの機体よりもわずかに長い刀身の直剣でどちらかというと斬るよりも突くことに特化した剣だった。


彼の機体は剣と盾を構えると一気に距離を詰めてアーシェリカの機体に肉薄する、ブリジット達から見ても初めて乗るとは思えない驚異的な速度が出ていた。


ギキキキン!!


レイボルクは四度突きいれたが全て蛮刀で弾かれていた、打ち合った二体の刃の欠片がキラキラと僅かに舞った後すぐさま戻っていく。


「それだけですか、では今度はこちらから。」


そう言うや否や、アーシェリカは一気に近づくとその速度をそのまま乗せた大ぶりで舞うような攻撃を仕掛けた。



その後も互いの力量や機体の性能を試しながら確認しながらとでもいう風情の模擬戦が続けられた。


最初はただの暇つぶし程度に考えていたブリジットではあったが二機の他では見ることのない異常な戦闘速度と雷もかくやという轟音そして打ち合う度に陽光に照らされキラキラと舞い散り舞い戻るゴーレムの破片をいつの間にか綺麗だなと思いながら眺めていた。



だがその戦闘は唐突に終わりを迎えた。


ガシャアアアン バリバリバリ!!


急激に速度が落ちたレイボルクの機体にアーシェリカの機体の左蹴りが炸裂し、彼の機体の左腕を吹き飛ばし、吹き飛ばされた左腕がけたたましい音をたてながら転がったのち停止した。


レイボルクの機体は急に魂が抜けたかの様に動きを止めるとそのまま片膝を着いて擱座した、背面のハッチが蒸気と共に緊急展開する。


「はあはあはあ・・・。」


戦闘中、何処かにぶつけたのかレイボルクの額から僅かに血が流れていた。


「どうやらそちらの機体の魔力が尽きたようですね。」


「くっくそ・・・。」


レイボルクはそれだけ言って後のセリフが続かなかった。


「まだ組み上げたばかりの機体でこれだけの出力が出せるとは正直驚きました、流石、龍族は違うという事でしょうか。」


ニヤニヤしながら満足げにアーシェリカがなにがしか語っていたがレイボルクの意識は急激な魔力の枯渇で遠くなっていった。




翌々日からレイボルクとその機体もブリジット達の魔獣討伐に加わることに成った。




「ちょっと、この隊はあたしが隊長なんだからちゃんと指示には従いなさいよ。」


そうブリジットから言われレイボルクは「フン。」とだけ返事とも何とも判断の付かない反応を返した。














カーディナルはシルバーンの執務室で人払いも済ませ倭国皇子アキト、及び、倭国の忍び頭と密談をしていた。



「して、かの国の様子はどうなのか。」


「はい、我が配下によりますと西方の港町ブロウにてゴーレム・ゲリエの製造と戦闘訓練及び装備の強化が図られているようです。」


「そうか、しかし毎度のことながら其方の国の忍びには助けられてばかりだな。」


「いえいえ、皇帝陛下、我が国は貴国の庇護が無ければそもそもたちいきませんので持ちつ持たれつです。」


「そういってもらえると此方も立つ瀬があるというものだが・・・。」


「あともうひとつご報告すべきことがあります。」


「聞こう。」


「元第二騎攻師団、団長のレイボルクもゴーレム・ゲリエとともにありました。」


「むう!」


カーディナルも薄々考えては居たが、レイボルクが完全に敵国に寝返っていたのだった。


「やはり、ハークとやり合った後あちらに呼び込まれたとみて間違いないか。」


「はい、残念ですが。」


「ハークの同学年にレイボルクの末弟が居るのだが・・・。」


「そうなのですか!それは、また・・・。」とアキト。


重たい気持ちを切り替えるかのようにカーディナルから質問した。


「かの国のゴーレム・ゲリエの性能はどうなのだ?」


「あくまでも私共の見解ですが、ハーク殿下、ローグ殿下、及び破軍殿の扱われるゴーレム・リッター真騎士の性能には遠く及ばないかと。

 

 良くて下から二番目の従騎士クラスの性能かと。」


「数はどうなっている。」


「あちらのゴーレム・ゲリエは現状108体ですので。」


「こちらは65体だ、ゴーレム同士の総力戦ではこちらが不利ということだな。」


「一度にすべて投入してくるとは考えにくいですしあちらはあちらで機体はあっても扱える者が少ない様子、こちらには竜騎士の方々も居られますので油断は出来ませんが、総合的に見て不利とは言い難いかと。」











ハークのゴーレム・リッターでの戦闘訓練が始まったことで困っている者が一人いた、いや、正確には一人でも者でもなく物であり一本といった方が正しいのだが・・・。




一番最初マスターである彼をきちんと認識したのは剣より刀の方が好みなんだよなと思われて刀として自らの形を変えた時だった、その時に『インテリジェスウェポンだね』と言われているので、

自我が有ることに気が付いてもらえたかと思っていたのだが、初めて得たマスターはそんな事は露知らず、自分に話しかけて来たりなどしてこなかった。


このマスターの力量ははっきり言って魔力の面で言えば桁違いの量と質で剣の腕もそれなりにたつが、まだまだ伸びしろが有り、これから二人三脚で(刀だが)剣技も研鑽して行けるものだと思っていた。


だがこれっぽっちも微塵も、話しかけられたと勘違いで返事するような発言も場面も、どこにも存在しなかった、そもそもゴーレム・リッターなる超兵器を駆って戦闘訓練をしているマスターはゴーレム・リッターの機体のサイズにまで自由に成れる自分の事を知る由もないので、自分以外の品の無い雑などこにでもあるようなただの太刀をふるっていた。


ドラゴンの何頭かは長命な生き物なので私が話かけるきっかけどころかそもそも会話する許可が出無くて困っていることを見抜かれてすらいた。







『ハーク殿下、そろそろしびれを切らしている頃合いですのでちょっとあたしの方から一言、言っておきたい事があるんですがね。』


放課後にやるべきことを済ませ、ゴーレム・リッターの戦闘訓練の為に移動中に学院の庭を歩いていたらレッドドラゴンさんが急に変な事を言ってきた。


「え?なんですかレッドドラゴンさん藪から棒に?」


『過日、吹雪の迷宮から帰還した後に見せてもらった剣だった刀の話をしようかと思ってねえ。』


「ん?ああ、この刀の事か、これレッドドラゴンさん何か知ってるんですか?」


『あたしもこうしてそれなりに長い事生きてきたけどその武器の事はよく知らないけどねえ・・・。


まさか殿下がインテリジェンスウェポンと言う物が如何なるものか知らないと思わなかったもんでねえプククク。』


「え?!ちょっと待ってください、確かにこの前そうゆう話はしましたけど・・・。」


俺にはレッドドラゴンさんが何を言いたいのかさっぱりわからなかったのだが。


『あははは・・・・はあ、可哀そうだからあたしから説明させてもらうよハーク殿下。』


「あ、はい、お願いします、なんだかよく話が判らないけど。」


『インテンジェンスウエポンには自我が有るからマスター、この場合は踏破したので褒章として得たハーク殿下の事ですが。』


「うん。」


『マスターが発言の許可をしないと意思の疎通も何も出来ないで・・・プクククク』


「え!ちょっと何それ!!全然知らないよそんな事!!」


とんでもないこと言い出したこの人(?)


「じゃあなに、自我もあっておまけに俺が発言許可出さないと会話もできないって事!」


『はい!アハハハハハハ』





・・・





「え、えーとなんかいままでごめんね、発言を許可するよ。」


「ハイ、マイマスター私、一日千秋の想いで待ちわびておりました!!」


「もーーーーいまかいまかとズーットズーーットズーーーーーーーーーーーーーットお待ち申し上げておりました・・・はあはあはあ・・・。」


レッドドラゴンさんが氷の刀の発言を聞いて大爆笑して転げたり地面を叩いたり、おまけに過呼吸気味に笑い過ぎてフレイムブレスまで暴発してる・・・。


なにげにちょっと校庭が心配だ・・・。


「ええっとそのなんだ、なんかごめんね、全然知らなくてさ。」


それからというものこの氷の刀は喋るわ喋るわ吹雪の迷宮でどれだけ暇だったか、本当に待ちくたびれてやっとの事でマスターを得たかと思ったら全然話かけてすら来ない上に、自分以外のインテリジェンスウエポンでない武器まで使っていてショックだったとか包み隠さず、ずけずけと俺は本当にマスターなのかなって思うくらいに、思っていたこと全部もうこれでもかというほどぶちまけられた・・・。



ほんと御免・・・。



俺たちのその様子を見ながら相変わらずレッドドラゴンさんは完全にツボに嵌ったのかゲラゲラと火炎を吐きながら笑い転げていた。



























新たな魔獣の討伐の為ブリジットとその貴下、ニコラとジャンそして今回から加わったレイボルクは、ブロウから東に進み魔導王朝首都クラーヌ北西にあるソリレス山脈に向かっていた。




山間部にパイロヒュドラが住み着いたということで、これも大きさや戦闘能力等、一介の冒険者や冒険者ギルドの手におえない相手の為、国に討伐依頼が来ていた。


「なんであたしたちがギルドの尻拭いばっかりしないといけないのよ。」


「他国の冒険者ギルドをモデルにして我が国にもギルドは在りますが、魔術師ばかりが多い我が国ではギルドそのものが形骸化してしまってるので仕方が無いかと思われますが・・・。」


ニコラにそう言われるとブリジットは強くは返せないのだった。



冒険者ギルドの依頼どうり山間部の窪地に成っているところにパイロヒュドラが陣取って眠っている、このパイロヒュドラはどうやらスネークヘッドタイプのようだった。


「冬眠してたのが出てきたのかしら?」


「どうでしょう、彼らは時に数百年穴倉で冬眠することもあるようですからその可能性もあるとは思いますが。」


とジャン。


「まあ、なんでもいいけど、スネークヘッドタイプのヒュドラって再生能力異常だったはずよね?」


「そうですね、おまけにパイロヒュドラなのでフレイムブレスとアシッドブレスは確実に吐いてくると思います。」


ブリジットとジャンとニコラが会話していると後方に居たはずのレイボルクの機体の気配がなくなっていた。


「パイロヒュドラなど一撃で核を潰せば良いだろうに。」


いつの間にかいなくなったと思っていたレイボルクの声が上から聞こえたかと思うと彼の機体が音もなく空を舞っていた。


そのままヒュドラ上空で剣と盾を装備すると急速落下してパイロヒュドラの首の中心の核に剣を柄まで深々と突き刺した。


ドズン  ブシャアアアアア


夥しい量の返り血を浴びてレイボルクの機体は青藍から紫藍に染まっていた。


パイロヒュドラはその猛威を一切振るうことも無くそのまま絶命した。



「はああ?!」


「なんだ文句でもあるのか?」


「なんで飛べるのよ!!」


「そっちか・・・。」


ブリジットの文句は勝手に討伐したことでは無かった、そもそも自分が戦わないで楽して済むならそれに越したことはないと思っているのだからそれもそのはずだった。


単純に彼の機体だけが何の苦も無くそして音もなく飛行できた事が羨ましかったのである。


暫くブリジットがやかましい状態が続いたが何度聞いても何を言ってもレイボルクが答えないのでここで聞くことを諦め、アーシェリカに文句を言うことにしたのだった。




今回の討伐で返り血を浴びたレイボルクの機体は魔力容量が大幅に向上し近くで見ていただけのブリジット達三人の機体も魔力容量が増加していた。



討伐後、例のごとくこのでか物のパイロヒュドラも持って帰らなければならないのだが・・・。


「あーあ、やっぱりこれも持って帰るのか・・・。」


「キマイラの時は骨だけだったから楽でしたけどね、回収班も居ましたし。」


そう言いながらジャンはヒュドラの尻尾をゴーレムで持ち上げると妙に軽いことに気が付いた。


「これは妙に軽いですね・・・何かしましたか?」


そう問われてレイボルクは。


「フン」


とだけ返すと先に進んで行ってしまった。




前回のキマイラの時よりも首都から伸びる街道にすぐに出れたので山間部ではそこまで魔物に襲われる事はなかったが街道まで出るとやはり血の匂いに引かれて小型のワイバーン等はすぐに飛んでくるのでうっとおしい事この上なかった、その上森林の近くでもないのにラプトルタイプのトカゲまで走って来るので獲物を倒した野生動物が自分の獲物を守っているかのような様相を呈していた。


「あああ!!もう!!めんどくさい!!なんでこんなに寄ってくるのよ!」


ブリジットは折角戦わないで目的の獲物が倒せたのに余計な略奪者がこぞって寄って来るので苛立ちは限界に来ていた。


彼らのゴーレム・ゲリエのサイズからしてみれば話に成らないほどの雑魚なのだが如何せん数が多い。


折角倒したパイロヒュドラの死体にトカゲが飛び掛かり何度か噛み痕を付けられてしまうほどであった。


「面倒な・・・。」


埒が明かないと感じたレイボルクが重力魔法を起動する。


ブウウウウン!!


周辺に高重力の力場が発生する!!


飛んでいたワイバーンは落下して血を吐きのたうち回り、足が速いのが売りのラプトルがその足を折る程だった。



動きの止まった小型のモンスター達にとどめを刺して回る。


「ああ、そうゆうことね理解したわ・・・。」


「次席、何のことですか?」


「あいつの機体だけ飛べる理由よ。」


「今の戦闘で何かありましたか?」


「ブルードラゴンに乗ってる竜騎士の得意とする属性魔法は重力魔法だわ、自分にかかる重力を減らせば飛べるのは当り前よ。」


ブリジットはゴーレム・ゲリエに乗ってからのレイボルクの戦闘しか知らないのに属性魔法を的確に見抜いていた。


その後もブリジットの重力魔術講義が続いた、いつもそのように冷静にしていれば頭もよく飲み込みも早いのだからそうしていれば頭が良くて魅力的に見えるのにとニコラとジャンは思ったが、口が裂けてもそんな事は言えなかった。


「フ、重力だと、そんなものは何処にも存在しない、お前たちの国の魔導技術も大したことはないな。」


意外と魔術談義には口が軽かったレイボルクがまるで馬鹿にしたように口を挟んだ。


「へえ、初耳だわ重力が存在しないのならどうやって私たちは大地につなぎ留められてるのかしら?」


始めて聞いた話にブリジットの好奇心の虫が刺激されまさかの相手と話が弾み始めた。


「大地につなぎ留められているそもそもの原因は光やエネルギーの圧力差だ、重力がどうとか等の理屈などその圧力差の前ではどうにもならない。」


「もう少しきちんとかみ砕いてわかるように話してくれないかしら?」


ブリジットが頼みごとをするのを初めて聞いたニコラとジャンは只々驚くしかなかった。


「光の最小単位の素粒子はどのようなものが有っても小さいので直進し続ける、だが狭い所を通るときに多少なりとも磁界などに触れて引っかかりを生じる。


極小の物質でも速度は光の速度だ引っかかった物体はこの素粒子の引っ掛かりが少ない方に押し付けられる。


あとは簡単だ、地面の向こう側から来る圧力と空や上から来る圧力どちらが強いか、もちろん引っかかりが少ないほうが圧力が強い、だから地面に押し付けられる。」


ブリジットは興味津々でレイボルクの話を聴いていだがニコラとジャンには内容がさっぱり理解できなかった。


「俺の魔術はこのあらゆる方向から来ている圧力を逸らしているだけに過ぎない。」


レイボルクとブリジットの魔術談義は帰りの道すがら延々とずっと繰り返されたのだった。







二日半程かかって四人は街道沿いの途中の農村で待っていた回収班にパイロヒュドラの死骸を引き渡すと一行はブロウに向かって先に戻ることにした。


日が暮れるころ、ブロウに帰り着くと丁度、他のゴーレム・ゲリエが彼女たちの様に出撃する所だった。


「これはこれは二席、今回の首尾はどうでしたかな?」


「十一席、二席は疲れていますのでそのお話は戻ってからでよろしいのでは?」


「ああ、そうですね、メリシャ、肉体に縛られている半端物の魔導士だから仕方ないですね、フフフフ。」


メリシャと呼ばれた女も、もう一人のゴーレム・ゲリエのパイロットも同じく笑っていた。

 

「この貴方の新しいクローン、調子が良いですよとだけ言っておきたかったのですが仕方がありませんね、では行きますよメリシャ。」


ブリジット達が何も言い返さないことを良いことに十一席と呼ばれた老婆はゴーレム・ゲリエに乗ってブロウから出撃していった。


「嫌味なババアだ、何故言い返さないんだ?」


返ってくる途中に魔術談義をしたせいでかなり打ち解けてしまったレイボルクが尋ねてきた。


「あれの相手をする必要はないわ、しょせんただの死霊よ、そもそも何か言い返せばその言葉を呪詛として取られ呪詛返しで返されるわ。」


「厄介な魔導士だな。」


「あれよりもっと厄介な魔導士がこの町には居るのだけれどね。」


「宮廷魔導士、第十一席、イヴォンヌ、紅龍皇朝の皇子にやられたと聞いていましたが、まだ存命でしたか。」


とニコラ。


「殺しても死なないわ奴は、そもそも今だって死んだままで生きてない。」


「はぁ・・・帰ってきて早々ケチが付いたわ、今夜はもう風呂に入って寝る・・・。」


イヴォンヌと出くわして明らかにいつもの調子でなくなったブリジットはゴーレム・ゲリエを降りると早々に自室に帰って行った。



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