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皇帝の帰還











彼女は花の都で万博の年に生まれた。

彼女の家は死霊術士の家系だった。

都の地下に広がる墓地が彼女の工房だった。

年に何度か観光客が失踪する事件は主に彼女と彼女の家の者達が原因だった。

彼女は才能に恵まれていた、生まれてから様々な実験を幾度も行い結果を出し、死霊術士として確固たる地位を得ていた。

だがある実験の最中にそれは起こった、知的生物が沢山死亡することによっておこる魔術的な空間の干渉を調べる実験をしていた時だった。

沢山の知的生物の命を狭い空間で同時に殺めたときそれは起こった。

聞きなれた怨嗟の声と悲鳴、泣き叫ぶ生き物だった者達の恐怖と無念、それが渦になって凝り固まった時地面が割れた、否、底が抜けた。

気が付くと彼女は高地に居た、工房ごと自分の家の者達、何名かと共に。












シルバーンの大通りやパレード予定の通りのいたるところに様々な種類の白い華が飾られ始めた。


メリン副団長以下第二騎攻師団の面々はシルバーンの華やかな雰囲気とは裏腹に非常に暗い面もちでシルバーン城に居る紅龍皇帝、カーディナルに報告していた。


「陛下、申し訳ありません、私共ではこれといっためぼしい成果を上げることが出来ませんでした。」

沈痛な面持ちで報告してくる愛娘に思わず甘い言葉を投げかけそうになるのを堪えて。

「そなた達の報告はこちらで吟味してから判断する、下がってよい。」

とだけ告げカーディナルはメリン達第二騎攻師団を下がらせた。




「この報告書をどうみる?」

シルバーンに逗留している間は執務の補佐もしているハークの母親のユリアナに問う。

「陛下、必ずしも得られた情報が役に立たないとも思えません、それこそ価値観のまったく違うハーク殿下にもこの内容は共有すべきだと愚考いたします。」

「確かにそうかもしれないな、同じ情報でも別の価値観の見方によって全く意味が変わって来るからな。」

「そもそも殿下はすでに第二騎攻師団の団長であらせられますので。」

「フム、それではおぬしがハークを呼んでまいれ、執務室では肩が凝っていかんからな、白夜の塔にメリンもメイアリアも呼んで久しぶりに親子水入らずと行くか。」

そう言われてユリアナはいたずらっぽく。

「陛下、そのお二人方は私の娘ではありませんよ。」

「そういうな、あの二人とてお前を慕っているのだからな。」

「畏まりました、では私は三人を白夜の塔に呼んでまいりますね。」

ユリアナは一礼すると執務室から出て行った。


「まったく立場などというのは面倒な物だな、娘と息子が部下などと。」

カーディナルはしばらく物思いにふけっていたが自らも白夜の塔に向かうべく執務室を後にした。












今日の騎士学院の授業が一通り終わり、一息付いているところにメリン姉さんと母上が現れた。

「ハーク殿下、第二騎攻師団の団長としてメリン副団長の報告がありますので白夜の塔に参りましょう。」

そう言われて俺は母上とメリン姉さんと一緒に白夜の塔に登って行った。




しっかしシルバーンでなんかあるってえと必ずあそこだよなあ、俺もこっちの世界で変に肩ひじ張らないで済むのが判ったから良い物の驚いたりしたことが多いからあそこはあんまりイメージが良くないな。




微妙にそんなことを考えながら神妙にしていると母上が

「ハーク殿下、心配しなくてもなにもありませんよ。」

と微笑んだ。


俺と母上は少し和んだが、久しぶりに帰って来たメリン姉さんは少し雰囲気が暗かった。






「おう、二人とも来たな!」

白夜の塔の部屋まで来ると完全に仕事オフモードのカーディナルが両手を腰に当てて今にもコーヒー牛乳でも飲みだすかとおもわれる風情で待っていた。

あたりを見回すと白龍皇帝も皇子のローグも居る。

ここは元々白龍皇朝の皇家の居室なので居て当たり前といえば当たり前なのだが。

「取り敢えずみな揃ったな。」

皇帝陛下がそういうと丁度メイアリアも部屋に入ってくるところだった。



「それではまずこれをハークに見分してもらいたい。」

そう言いながら皇帝陛下はメリンから提出されたばかりの報告書を差し出した。


その報告書には色々な事柄が書いてあったが俺が一番驚いたのはこっちの世界らしからぬ大砲の事だった、いや大砲というには生ぬるい艦砲といったほうが的確だろうか。

まるで昔の戦艦にでも搭載されていそうな砲塔が図解と共に載っていた。

「これはいったい」

俺が驚きを隠せないでいると実際に見てきたメリン姉さんが色々と解説してくれた。

「何度も同じ弾を打ち出してたってあるけど、なにかひっかかるな。」


俺のつぶやきを聞くや否やカーディナルが興味津々で聞いてきた。

「ほう、何故そう思う?」


「同じ弾を打ち出すにしても設備が過剰すぎるしそもそも同じのを打ち出す意味がないし、なら逆に考えたら何回も打ち出す理由が有るのかもって。」

「砲弾が勿体無いから何回も使ってるという事ではなく?」

と母上。


「砲弾はたくさんありました一定数を一定の周期で延々と試射しては運びこみ試射しては運び込みしていました。」

とメリン姉さん。

「砲弾、ほう、だん、ほう、宝、たま、たま、玉、一定の周期で試射・・・。」


「あれ?」

「ん?どうしたハーク。」

「あ、いや、完全に連想ゲームみたいであれなんだけど、もしかしてその大砲って宝玉の生成装置なんじゃ・・・。」

俺の発言をきいて紅龍皇帝が、

「ハーク、流石にそれはふざけ過ぎ・・・。」

といったところで固まった、他のメリンからの報告書を読み返すとこの砲弾の先端は攻撃用としては不向きでかつ速度の落ちる丸い

形状をしており件の宝玉が収まるようなサイズ感だった。

「ハークによって本当に成果が出てしまいそうだな・・・。」

「殿下は前に人工的に作るには圧力がどうとか仰られてましたが。」


「そうだ、確かドレイクからハークがそう言っていたと。」



一度そう考えるとその他の無意味だと思われたさまざまな事柄が腑に落ちていく、最初からちゃんと強度を持たせればいいのに大して強くない保存系の魔術術式で砲弾を覆っていたり、大砲なのにも関わらず火薬ではなく砲弾の中身が大事なものかと言わんばかりに滑らかに徐々に加速するように魔術の術式で撃ちだされている。



あくまでも推論の域を出ないのだが実際に似たようなものを作ってみれば良いということで鍛冶弟子コンビと錬金術師フルニさんアレイクさんが居る図書館とその地下の魔導研究所に向かうことに成った。







あれ、面子は大幅に違うけど、行く所いつもと同じじゃ・・・。







鍛冶弟子コンビとテコが呼び出すノームに仕事が出来てしまったのでぶーたれていたことりが何故か俺の母上だと察したのかメイアリアや他の誰にも目もくれず俺の母上のユリアナに甘えている。


いつもそんな感じで子供らしく甘えててくれるなら一番助かるんだが。




鍛冶弟子コンビのレイチェルとテコは正直、戦々恐々と言った感じで皇帝二人に見られている中作業してるので正直可哀そうだった。

試しに作っているのは50センチ程の高さの砲塔で砲身の長さが2メートル弱の物だった。



完成した砲塔に、(ビゼンさんの所とほぼ同じ設備があるからはええことはええこと。)

同じく最初の仕事が皇帝が見てる所でやることに成った錬金術師のフルニさんが作った砲弾が込められて(勿論宝玉の材料に成りそうなもの込みで。)

アレイクさんが調整した魔法術式で規模は小さいが宝玉が出来るか試射することに成った。


流石にこんなもの外の校庭だとかで試射するわけにはいかないので例の地下施設までもっていってやることになった。





何人もの騎士たちと協力して下の地下施設に何とか運び込んだ砲塔を訓練用のゴーレムにむかって照準した。

「どこにでもあるんだな、訓練用ゴーレムって・・・。」

「それはそうだよハーク、ここでも常に戦闘訓練はしていたんだからね。」

とローグ。

「では試射してみますね。」

アレイクさんが精霊魔術の術式を報告書にあったとおりそっくりそのまま展開して発射した

 

 ドゴン!!


ゴーレムの腹部に大きな音と共に作られた砲弾が打ち出された。


最初に取り出した砲弾の中身は何も変化が無かったのだが、保存系の魔術の術式を弱めると色々な変化を見せ始めた。

可能な限り保存魔術の術式を弱めた所、砲弾の中身に劇的な変化が現れた。

アレイクさんとフルニさんが砲弾をゴーレムの腹部から注意深く取り出し虫眼鏡などで事細かに検分した。

「これは、驚きました。」

砲弾の先端内部のケイ素の結晶同士が結合し何粒かが大きくなっていた。


「推論はほぼ当たっているということか。」


「これだけ明確な変化が有るのですから長い時間研究して何度も撃ちつづければあのような宝玉も作れるかもしれません。」

「アレイクよ、其方たちで、わが国でもこれを研究してくれ、予算は国の方から出す。」


「はい畏まりました。」

四人を代表してアレイクさんが返事をした。








そのころドレイクは地下の氷から破軍が救出されたため戦闘教官の授業はメイアリアに丸ごと任せ倭国皇族の護衛任務のために第三騎攻師団に同行して倭国から戻ってくる途中であった。

「アキト殿下、もうしばらくで南都の港に到着します。」

「何から何まで済まぬの。」


「いえ、こちらこそ急な式典の参加を感謝致します。」

「そう気になさるな、我が国にとって最友好国の式典ならば、参加しない訳にも行くまいて。」

「有難うございます。」

ドレイクはアキトの船室を後にすると第三騎攻師団の団長である自らの弟のグレイグとこれからの護衛計画の確認の為に甲板に上がっていった。




 













白龍皇帝が復位することとなったのでその祝賀会に比較的正常な国交のある国々の大使や王族が招かれ、距離的に近い獣王国と精霊王国の王族がシルバーン入りした。


この二国と倭国は最友好国なので早々にシルバーン城に招かれた、一応国際問題に成りかねないので

騎士学院は式典が終わるまで休校ということになった、そのせいでこの二国の王族が来るまでのあいだ詰込み授業に成っていたのは否めないが・・・。



俺は第二騎攻師団の団長にも成っているし一応、皇子なので城の内門で案内役に任命されていた、それも例の派手な軽鎧とマント付きでだ。

入城パレードを終えて正門から入って来た獣王国の馬車が内門前に止まると勢いよく扉が開きフレイアが飛び出してきたかとおもうと俺の顔を見つけるなり飛び掛かって来た。

「ハーク!!会いたかったにゃーー!」

本人はただ抱き着いてるつもりなんだろうがネコ科の動物の獲物に成った気分だ。

「あーもー飛び掛かって来るなよ、俺は獲物じゃねえよ。」

「にゃあ!ある意味では獲物にゃ!!」

フレイアが飛び掛かってきたせいですぐに気が付かなかったが、大きめの影が俺の足元にかかっていた。


「ほう、こいつが件の皇子か、魔力もたっぱも小さいではないか。」

振り返ると思いきりライオンの顔が有った!!

「おお!」

俺が飛びのくとフレイアが誰だか教えてくれた。

「紹介するにゃ、あたしの祖父で先代国王のライドルフ・レウス・ハントにゃ!」

「は、初めまして、ハーク・フォン・ヴィシスです。」

おれが自己紹介してもなんか釈然としなかったのかライオンの顔なのに非常に表情豊かに不思議そうな顔をしている。


さっき言われた通り身長も魔力も小さいからとても龍族に見えないのだろう、実際は白銀の迷宮で身長が伸びたはずなのが、それでもフレイアの方が高いうえ、契約の指輪で魔力を神々の武器庫に即座に流して一般人ぐらいにしてるからだった。


「うむ、疑問は残るがよろしくハーク皇子。」

ライドルフは右手を出して握手を求めてきたのだが、正直、ライオンの前足と人間の手のあいのこみたいな凶悪な手で握りつぶされないか心配だったが仕方なく握手した。


「ほう、そうゆうことか、済まなかったなハーク皇子。」

何が判ったのかわからなかったが二人と従者の人たちを城内の貴賓室に通した。






二組目の精霊王国の王族の人が来るので獣王国の時と同じく城の内門で待っていると、プラチナブロンドのエルフの美女が一人、馬車から現れた。


俺がその美しさに見蕩れていると最初は美しくも冷たい印象だった顔が優しくほころび。


「ハーク皇子ですね、私は、精霊国国主、エネルリィサ・レリス・ハーンと申します今後ともよろしくお願いいたします。」

そう言いながらドレスの裾を広げ会釈の後、握手を求められたので応じると。

「まあ、お強い魔力をお持ちなのですね。」

と、言われたのだがその顔なぜか急に妖艶な色気を醸し出していた。

「あの、従者の方たちは?」

一人で現れたので気に成って聞いてみると。

「いえ、必要ありませんので、私一人で参りました。」


言ってる意味がよくわからなかったのだが失礼があってはならないかと思い直し余計な詮索はそれ以上せずに貴賓室に案内した。







獣王国と精霊王国の王族が到着したのであとは倭国にアキト皇子を迎えに行ったドレイクさんと第三騎攻師団の帰りを待つのだが、その前に西の砂漠の向こうの西方諸国の何か国かの王族も入城していた。


彼らはどうやら人がメインの国家なのだが自分たちが一番偉いとでも思っているのだろうか、紅龍皇朝で奴隷制が禁止されているのだが奴隷を当たり前のように引き連れて入城した。


西方諸国の入城には今度はローグが出迎える手筈なので急に暇になった俺は城内をぶらぶらして居ると中庭でフレイアと出くわした。

何が気に入らないのかわからないが奴隷を怒鳴りつけている西方諸国の王族を遠巻きに見ていたようで。

「なにかあったのか?」

と俺が尋ねると。

フレイアはあからさまに不機嫌な顔を隠さず、

「ほんとあいつらを見るとイライラするわ。」

などとにゃんにゃん言葉が無くなるぐらいに怒っていた。


どうやら奴隷が勝手に荷物を下ろしたことに腹を立てていたらしいのだが・・・。

そんな連中でも国の代表としてこうして来ているのだからそれなりに大人な対応をしないといけないなと考えていたのだがフレイアが睨みつけていた他の国の王族の下衆な発言を聞き逃さなかった。

「王子、こうしてここまで来たのですから折角ですから、うら若き娘の一人や二人連れて帰りましょう。」

「侍従長、妙案だな、そうだ、あそこに居る胸の大きな金髪と桃色の髪の娘などどうだ。」

あ、カレンとエリザだ、うーん、なんかやばい話してるみたいだけどこの人たちって騎士学院の事、解って無いのかなー城に併設してあるから城内にふつうに居るんだけど。


いや、そもそも今は休校中だしあの二人も私服だから仕方ないのかもしれないが別にあんたらもてなす為に若くてきれいな子たちを集めてる訳じゃないんだけどなあ・・・。

俺がそんなことを考えているうちに侍従長と呼ばれた初老の男がカレンとエリザに近づいて行く。


会話の内容から察するにこの城で下働きなどしてないでうちの国に来れば裕福な暮らしが出来るぞとかなんとか言って居るみたいだった。



ちなみにここの所、俺がメキメキとレベルアップしているのが気に入らなかったのか何なのか判らないが戦闘訓練の教官をメイアリアがやっていたこともあって二人とも授業が終わってもメイアリアと戦闘訓練をしまくっているという、いや、別に張り合わなくても良いだろうに、ちゃんと騎士学院出て騎士に成れば貴族からお嫁さん候補として引く手あまただろうに、カレンにはハッキリと好意は伝えられていたけど。

エリザもまさか、破軍と一緒に戦いたいのか・・・?


なんてことを考えて目を離したすきにお馬鹿な侍従長がひっくり返っていた・・・。

「あーあ、やっちゃったよ・・・何の為に休校にしてるか分かんないじゃないか・・・。」

「仕方にゃいにゃ、あんな下衆野郎あたしの所に来てたら真っ二つにしてたにゃ。」

「おいおい、辞めてくれよ城内で刃傷沙汰は・・・。」


流石にお馬鹿な侍従長と王子をほっとくわけにもいかないので王子の方がヒステリーを起こす前になだめに向かった。



最終的には不問になったのだが仕事オフモードのカーディナルまで引っ張り出す羽目になったがお馬鹿な侍従長を投げ飛ばしたカレンがカーディナルに気に入られてしまってメイアリアと二人で俺の事を宜しくなとか余計な事言いやがって・・・。


その裁定が不服だったのか例のお馬鹿な侍従長の国の王子はひどく嫌な目つきをしていた。











少しばかり遅くなったが無事倭国のアキト皇子も入城パレードをこなして入城し面識のあるメイアリアと共に貴賓室に案内した。


「アキト殿下、遠路はるばる長旅お疲れ様でした。」

「ハーク・フォン・ヴィシスです、初めまして。」


「おお、ハーク皇子お噂はかねがね伺っておりますよ。」

「どんな噂か怖くて聞けないっすね。」


表向きは終始和やかな雰囲気だったが実情はそんな場合では無かった、今回南都までの船の航路上にあまりみないタイプのクラーケンが出没しドレイクさんと第三騎攻師団の活躍でやっとのことでたどり着いたのだった。












皇帝カーディナルは自分の執務室でドレイクとグレイグから今回の報告を聞いていた。

「して何が有った。」

「はい、南都近海の海溝よりクラーケンの襲撃が有りました。」

「もっと具体的に申してみよ。」

「はい、始め黒い雨雲の渦のようなものが海まで落ち込んで行き次第に海が荒れ始め、荒れが収まったところでクラーケンが襲ってきました。」

「ユリアナどうみる(エクリプス)だと思うか?」

「聖母龍様が仰られていたことに酷似していると思われます。」

「陛下、恐れながら私も同じ意見でございます。」

「そうか、こんな大事な時期に。」

「南都の被害はどうなのですか?」

「見えるほどには近づいていましたが離れておりましたので特に被害はありませんでした。」

「そうですか。」



丁度そのころ俺とメイアリアも貴賓室から人払いを済ませ、アキト皇子から同じ話を聞かされていた。

「殿下、やはり(エクリプス)でしょうか?」

「そうだと思うけどそれだとゴールドドラゴンさんが言ってたのと規模が違い過ぎるな。」

「小規模のものが起きないとも限らないのでは無いですか?」

「確かにそうかもしれないけど、単に転移魔法の違うバージョンのとか召喚魔法とかの可能性は?」

「クラーケンを使役して召喚する魔法等聞いたこともありませんが。」

「そうは言うけどこれ魔導王朝が仕掛けてきてるって考えたほうが自然じゃない?

それにもしかしたら魔力に引きずられない転移魔法を編み出したのかもしれないし、それこそ紅龍皇朝に恨みを持ってる別の国って線もあるかもよ。」




ゴロゴロゴロ




丁度そんな話をしていたところシルバーン城の上空に雨雲が渦巻き始め黒紫の稲妻と共に何者かが現れた!!



カァアッドドン!!



今しがた(エクリプス)がどうのなどと話していたので俺とメイアリアは臨戦態勢で外に出た。

黒紫の稲妻とともに現れた何者かが口を開いた。

「やっぱり俺様は入城パレードとかは好かねえからな。」

そのセリフを聞いてメイアリアが。

「驚かさないでください、魔王陛下。」

「メイアリアか、美しくなったな、俺の所に嫁ぐ気に成ったらいつでも来い歓迎するぞ。」

「それはよろしいのでしょうかメリン皇女殿下に・・・。」

「ダメダメ、俺が悪かった、メリンには言うな!!」


俺は誰だか知らないのがきたのでぽかんとしてるしかなかった。

「メイアリア、誰?」

俺に聞かれるまで紹介していなかったことを思い出し。

「殿下はご存じありませんでしたね、我が国の遥か西の海の向こうの大陸に魔王国という国がありまして・・・。」

メイアリアの発言を遮って本人が自己紹介し始めた。

「ハーク皇子にはお初にお目にかかる、魔王国首領、魔龍王、ダグマ・ウォン・バラスだ、因みにメリンの婚約者でもある。」

「え?そうなの?それにウォンて・・・。」

「はい、我が国の傍流のお方です、なぜそうなったのかは私も存じませんが魔王国の国主をなさってらっしゃいます。」

「こまけえ昔のことは俺もよく知らねえけどな、よろしくなハーク皇子。」

ちょっとキザっぽいけどいい人そうだった、魔王がこの世界に居るんだって事には素直に驚いたけど・・・ドレイクさんが前に言ってた気もしたが・・・。




本来、来城予定でなかった魔王が現れたが白龍皇帝の復位式典は滞りなく予定通リに完了した。






その後、夜に城の中庭で晩餐会が開かれた、俺もメイアリアも役職があるので勿論参加し、俺たちは他国の方々と交流をしていた。

しばらくして、特に用の無いはずのことりが怯えたようすで鍛冶弟子コンビと俺を探しに現れた。

「三人共どうした?」

「ハーク殿下、ことりちゃんの様子がおかしいんでお連れしました。」

「どうしたことり。」

「お兄ちゃん、なんかドキドキイライラする・・・怖い・・・。」

ことりの肩に触れるとブルブルと震えている、よく見ると簪とリングの蝶も僅かに紅く光り羽根をはためかせ警戒の色を示している。

騎士学院が休校なので寮にいるはずのユリエ、カレン、リーナまで中庭に現れていた。

ユリエが俺に何か告げようとした時それは起こった。





ヒュウオオオ!!


ドゴ、ゴン!!



ドガアア!!!!



シルバーンの街の外から飛来したであろうその何かは白夜の塔直下のバルコニーに突き刺さると爆ぜた!

ミサイルかよと思っているうちにバルコニーが皆の居る中庭に向かって崩れ落ちてくる!!

そこでカエサルさんが現れ、落ちてくるバルコニーの大きめの落下物を断空の刃で何処かに飛ばす。

飛ばしきれなかった破片に何人かが巻き込まれそうになっていたが近くに居た龍族になんとか守られていた。




ゴゴゴン!!!


シルバーン城の正門の緊急閉門用の縄が切って落とされ堀の跳ね橋が上がることなく上から鉄格子が落ちて門を閉じ防御魔法が発動した。


リーン リーン キーンキーン、キリキリキリキリ


キンキンと甲高い音を立てながら何かが鉄格子で閉じた正門に飛び乗り越えて現れた。

巨大なドラゴンの物と思しき骨を全身に纏った人型のそれは黒光りする素体が動くたびにキンキン、リンリンと耳障りな音を発している。

異常を察知したブラックドラゴンさんとレッドドラゴンさん率いる第一、第二騎攻師団が中庭上空に現れたが味方が狭い中庭足元に居るので手が出せない様子だった。

数瞬の間の後その大きな何かは俺たちに目もくれず他国の要人たちにむかって襲い掛かる。

咄嗟に呼び出した槍を投擲すると足を貫き黒い素体がはじけ飛び膝を突く形で立ち止まった。

だが見る間に破片が寄り集まり足が元どうりに成る!


「ならこれなら!!」

俺が氷の刀を振り抜いて冷気を叩きつけると動きが著しく鈍くなった。

第一騎攻師団と第二騎攻師団の面々も意を決してドラゴンから飛び降り俺たちの援護に加わった。


「流石ですね。」


状況不利と感じたのか聞き覚えのある声が語り始めた。


「この声はまさか。」

「お久しぶりですハーク殿下、どうですか私が開発したゴーレム・ゲリエは?」


「これがゴーレム!」


「ああ、そうそう忘れてました、本日は改めて宣戦を布告しに参りました。」


「宣戦布告だと!」


「はい、その証拠にこのようなものをお持ちしました。」


バリン!!


そういうなりゴーレムの背中にあるバックパックから取り出したどす黒い宝玉を地面に叩きつけて砕いた。



砕けた宝玉の破片から瘴気と共に苦痛に呻く数多の魂が溢れ出した後、徐々に真っ黒い渦に結実してコールタールの様に地面に落ちると蠢き始めた。

「ウフフフフ、何が出て来るか見たかったのですが時間切れですね、では頑張ってください。」

そう言い残すと来たときと同じように古龍の物と思われる骨を纏ったゴーレムは一足飛びに門まで飛びあがると去って行った。



地面に落ちた真っ黒なそれはブチブチと泡立つと吐き気をもよおす臭気を放ちながら急激に大きくなり巨大な蛸が頭に乗った人の様な化け物に成った。

その姿をみて西方諸国の王族や従者たちの何人かが急に奇声を上げはじめ発狂し始めた。


「なんだこいつは!!」

「見ただけでそんな。」

俺たちの惨状を下に見ながらレッドドラゴンさんが

『なんとかあたしらが一緒に戦えるところまで誘導するんだよ!!』

そう言われるのと同時に頭の位置にあった触手が伸びて避ける俺の右腕にかすった。


ジュワアア!!


触手がかすっただけで俺の腕の一部分が焼けただれる。

「殿下!!」

メイアリアが慌てて駆け寄ってこようとしたが。

「俺は平気だから、避難誘導を!!」

ありったけの魔力をこめた冷気を怪物にぶつけると凍り付き動きが止まった。


「ローグ!カエサルさん!!」


「おう!」

「承知!!」

ギギギイイイイイン!!!


ローグとカエサルさんが同時に攻撃と転移を行う。




凍った怪物がカエサルさんが切り開いた断空の切れ間に落ちていく、わずかな間を開けて俺もその切れ間に飛び込んだ。

飛び込んだ先はシルーバーンからほど近い西の砂漠だ。

砂漠に落されて溶け始めた氷から触手が飛び出す!!




何度か触手を躱して冷気を叩きつけていると背後からメイアリアを除く第一騎攻師団と第二騎攻師団が飛来した。

俺は早速レッドドラゴンさんに拾ってもらうと。

「あれはやべえな攻撃をわずかにでも受けたらだめだ、その癖、魔法のダメージが通ってる感じがない。」

『なんとまあ、厄介だねえ!!』

そう伝えてきたレッドドラゴンさんの顔はニヤリと笑っていた。









丁度そのころ



メインの戦闘が遠ざかったシルバーン城ではメイアリアとカエサルを中心に発狂した西方諸国の人たちの沈静化にあたっていた。




エリザはリーナ達と中庭に向かうことなく破軍が眠る皇室用の病室にアレイクと共に居た。

魔力の急激な集中を感じたアレイクとエリザは破軍をみた。

「戦いか何かでもあったのか・・・。」

瞳をうっすら開いた破軍が問うてきた。

「破軍様!!」

エリザが思わず声に出して呼んだ。

「どこだここは、それに黎子その髪と呼び方は?」

「???」

「???」


「なんだ、酷く、頭が、痛いな・・・。」

「破軍様大丈夫ですか?」

「ずっと眠っていたのですから急に起き上がられてはお身体に障ります。」

「うん?! 色々と合点がいかないが外の騒ぎを収めてこないといけないだろう。」

エリザとアレイクは破軍にそう言われ騒ぎの音が大きくなっていることに気が付いた。

破軍は騒ぎの方に目を向けると窓を開けてふらっと出て行った。

余りにも急な事で呆けていた二人は慌てて破軍の後を追う。


中庭では発狂した西方諸国の王族が魔法まで使いだし綺麗な庭が荒れ放題に成っていた。

「大禍と同じで発狂しているようできちんと魔法は行使しているな。」

破軍は自らの槍を呼び出した。

代わりにメイアリアが使っていた槍が手元からかき消える!

破軍が細く長く練った魔力を槍の先端に送ると八本のワイヤーアンカーが飛び出し障害物を巧みに避けながら発狂している西方諸国の王族の足に絡みついたかと思うと次の瞬間、必要最小限の電気が迸り彼らを気絶させた。


今の今まで自分が使っていた槍がかき消えたためメイアリアも驚きが隠せなかったが破軍の姿をみて納得がいったようだった。


目覚めた破軍はやはり破軍だった、起きてから五分もしないうちに新たな戦闘を即座に収束させていた。




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