ゴーレムと精霊魔法
たったの二日だった。
あの白銀の迷宮で過ごした時間はいったい何だったのだろうか。
シルバーンでの怪我も治って体調も戻った聖母龍は魔力が大きすぎて今のままでは何処にいても位置がバレバレで不便だということを伝えると一般人ぐらいの大きさの魔力程度にしか感じない様に契約の指輪から神々の武器庫へ魔力を流して貯めて置ける様に術式を組んでくれた(破軍の指輪にも同様の術式を組み込んでいる)
その後、暫くは大人しくしているつもりだと言い残しさっさと皇墓のある央都センシズに帰って行った。
聖母龍の話だと迷宮魔法の中の時間の流れ方が違うことはよくあると言われていたのだがそれにしても中での時間はけっこうなものだったはずだ。
その証拠に俺は少し身長が伸びてしまっている。
こっちはまあ、こんな世界だから仕方ないのかと気持ちの整理をつけるのに丸一日費やしてしまった。
俺たちが居なくなっていた二日間で特に何も無かったのかといえばそういうことも無く、俺の魔力が破軍の居るはずの地下の広場に降りた後に消えたので再生槽の中でメイアリアが大騒ぎしだしてしまい、あまりの事に再生槽からそのまま何も着ずに出てきてたまたま様子を見に来たアレイクさんに指摘されるまで素っ裸で再生槽のある魔導研究所やとなりの鍛冶部屋(弟子コンビの為に新設した)までうろつきもうすこしで地上の騎士学院まで出て行くところだっとという。
驚いたのは判るんだがせめて服は着ようよって・・・鍛冶弟子コンビに任せっきりにしていたことりにも見られていたらしいから真似しないと良いが・・・。
そんなこんながあって久しぶりにメイアリアの所に顔を出す、いや顔は出して無いが、勿論面と向かって会ったわけではないのだが、もうほとんど再生槽に入っている必要もないので明日にでもふつうに職務に戻りますと言われた。
それと破軍だが、まだ目覚めてはいないのだが、アレイクさんの見立てによると、しばらくすれば起きるだろうということだった。
白銀の迷宮で手に入れた例の氷の剣は、俺がなんとなく剣より刀の方が使いやすそうだなあとか思ってるとその場で溶けたかのように形が変わって刀に成った。
・・・なんでもありだなこの世界・・・。
そんな状況をレッドドラゴンさんに話したらインテリジェンスウェポンだねとか言われた。
色々と面倒な状況があったのでしっかり見て回れてなかったシルバーン城の地下の広場や今まで白龍皇朝系の人たちが暮らしていた施設を見て回ることにした。
今回の付き添いはお互いに皇子同士なのだから多少は打ち解けたほうが良いだろということで白龍皇朝皇子のローグ・フォン・シルヴィスだった。
年齢的にはローグの方が8つ上なので急に兄が出来たような気がした。
「ハーク、よく来たね、あの階段を下って来るのは面倒だっただろ?」
そういわれて俺は素直に。
「いやあ、そうですね、上の白夜の塔に行くよりだるいですね。」
「あははは、素直な事は良い事だ。」
などと言われた。
破軍が氷漬けにされていた広場まで来ると
「さてハーク、この広い空間を見渡してなにか気に成る所はないかな?」
「気に成る所?うーんどうだろう・・・。」
あたりを見回すと壁際に一定間隔でぐるっと囲むように大きな柱が有るのだが柱の下に非常に気に成るものが有った。
「なんか大きな柱の下にあるあれは何ですか?」
俺がそういうとローグはにんまりとして。
「やっぱりハークも男の子だよね、大きいのとかみるとワクワクするよね!」
そういってローグは俺が指さした大きな柱の下にむかってスタスタと歩き出してしまった。
俺も置いて行かれまいとローグの後を追う。
大柱の麓まで来るとブラックドラゴンさんやレッドドラゴンさんと取っ組み合いが出来そうな位のサイズの像(10メートル弱か?)がそれに見合う大柄な鎧を着込み槍を地面に突き刺す形で立っている。
よく見ると像の下にも槍を突き刺している地面にも特に台座などなくむしろ槍などこの地下の床石にひび割れを作る形で刺さっており、像の足元の床石もこすれてすり減ったように凹んでいる。
「この地下が厳重に入れないようになっていたりするのは破軍がここに収容されたからじゃなくてこれのせいなんだ。」
「なんなんですかこれ。」
俺もそう言いながらワクワクが止まらなかった。
「白龍皇朝の初代様はなかなか奔放な方でね、こういう、とんでもない代物を作ったり作らせたりする人だったんだよ。」
「そしてこの地下空間は破軍を収容するために作ったんじゃなくてこの秘匿兵器をしまっておくため、そして運用準備をするための施設なのさ。」
ローグはそう言いながらすごくうれしそうに話している、まるでその奔放な白龍皇朝の初代の様に。
結局、俺とローグは地下の施設を見て回らずにその場で色々と熱い、熱い論議を交わしたのだった。
翌日、
朝 メイアリアに起こされて顔からなにから全身まじまじと見つめてしまった。
「殿下恥ずかしいです。」
そう言われてもこんだけはっきり違いがあると驚かずにいられないというか・・・。
肌と髪は艶々だわ、声も透き通ってるわおまけに何よりそれより、胸が、胸が、大きく成っとる!!!!!!
アレイクさん再生槽さんグッジョブです!!
本人も流石にそこまで変化してるつもりがなっかったのだろう、だが、今着てるメイド服の胸の部分が結構きつそうなのだ。
これはすごく良いものを見た・・・。
午前の授業の前に成ると。
「ハークちょっといいかしら?」と珍しくエリザが鼻息荒くしながら聞いてきた、
まあ実の所、俺は俺で地下施設のアレの事とかメイアリアの事で頭がいっぱいなので人の事は言えなかったのだが・・・。
さては破軍が実は生きていたことを誰かから聞きつけたな。
「どうしたんだよ、そんなに興奮して。」
俺が指摘しながら聞き返すと微塵も落ち着かない様子で。
「は、はは、破軍様が生きているって、ほ、本当??」
「ああ、本当だよ、俺も見てみていろいろと驚いたよ。」
俺の発言をきくまで半信半疑だったのだろう、本当だよと言った後は多分、意識がどっかにかっとんでって聞いちゃいねえ・・・。
「あーあ、エリザちゃんどっかに飛んでっちゃった、あーなると暫く戻ってこないんだよねー。」
珍しくリーナの方が落ち着いているという状態でいつもと逆なので、それはそれで俺も驚きを隠せないのだが・・・。
教室のほかのクラスメートも珍しいものを見たという顔でやっぱり女の子は夢見る乙女なんだなという感じで無理矢理納得した。
「ッフフ。」
この人は変わらねえなあ・・・。
「ユリエはエリザみたいに恋焦がれてる人とか居ないのか?」
俺の質問が意外だったようで暫く考え込んでから。
「ハーク?」と言いながら首を傾げやがった。
こちらも珍しく話しかけてこないのでどうしたのかと思ってカレンを見るとなんだか腕を組んでうんうん唸っている。
「え、どうした?」
「あ、おはようハーク、うん、べつに大したことじゃないんだけどね、メイアリア様の・・・。」
なぜそこまで言って言いよどむ。
俺が続きの発言を待っていると
「む、胸があたしより大きくなってるみたいで・・・。」
あ、やっぱり気が付いてたのか。
ぶっちゃけるとバストサイズ的にはカレン、エリザ、メイアリアの順だったのだが、今はメイアリア、カレン、エリザの順に成ってしまっているという。
エリザは元々、そんなこと気にするようなタイプではないのだがカレンは自分が一番大きいのはちゃんと自覚してたのね。
因みにフレイアは国元で行事があるとか言って来たばっかりなのにも関わらず暫く帰っている、この時期は何処の国も収穫祭だとかあるようなので多分それがらみだと思われた。
まあ、なんにしても今度こそ本当に平和な日常が帰って来たな。
日本には戻れてないんだけどな・・・。
央都センシズに帰った聖母龍は愛しい人の墓の前で紅龍皇朝の皇子の報告をしていた。
「良い子に育っておったよ、そなたが心配せずとも、良い子じゃった、中々見どころがあるんじゃなかろうか・・・。」
「本調子じゃないわらわをおぬしの様に抱き上げてな、ほんに長生きはするもんじゃな・・・。」
入学してから半年も経ったのだがここにきてやっと精霊魔法とやらの実技授業が始まるのは良いんだが、精霊魔法を行使するには精霊が出てきやすい場所、龍脈や地脈の集まるところ等で精霊殿だとか言うのを、精霊が好む材質の素材や魔素を、ふんだんに含んだ魔物の部位等を使ってうまく組んで呼び出さないといけないとかいう途方もなくめんどくさい代物だった。
おまけにそれなりにきちんと組めないとそもそも精霊は出てこない上にちゃんと組めてるかどうかは呼び出して成功しないとわからないとかいう・・・。
因みにこの内容はすぐ南の魔導王朝には知られてるだろうが、魔導王朝よりもさらに南方の七つある人や亜人の国には知られてない内容らしい。
南方の国々の人がどうやって精霊魔法を習得するのか非常に興味がわいたが。
そして精霊を呼び出してからもどうやら色々とやらないといけないらしい、精霊と契約した上で精霊本人と話し合って精霊詩(精霊魔法の呪文)を決めてきちんと言えないと本来の能力が出なかったりそもそも精霊魔法が行使されなかったりと、非常にめんどくさい代物だった・・・。
「めんどくさい・・・。」
俺が果てしなくだるそうにしてると乙女モードからいつの間にか復帰したエリザが。
「ハーク、そんなこと言ってたって仕方ないわよ最低でも卒業までに五つは精霊魔法覚えないと卒業資格出ないんだから。」
「そうだ!どっかに精霊殿出来たの無いかな??」
思いっきり呆れたような口調でカレン言う。
「授業本当に聞いてたの? 精霊殿は精霊がちゃんと出て来たら魔素とか使い切って使い物にならなくなるからその都度作らないといけないって説明してたじゃない。」
授業は、まあ、全然ちゃんと聞いてなかった・・・。
ほんとにエリザの事言えねえ・・・。
ハーク達が騎士学院で授業を受けている間にもシルバーンでは西都始まって以来史上最大の式典が催されようとしていた。
一万年の長きにわたって不在だった白龍皇朝の皇帝が復位する事となった為だ。
シルバーン城の城壁や、都を覆う外壁の上の紅龍皇朝の旗と共に白龍皇朝の旗が二種類交互に掲げられている。
町の人々は白龍皇朝の皇帝が復位するということにいまいち理解が及んでない様子だったがなんとなく凄いことが起きそうな雰囲気は感じていた。
それもそのはずで普通の人間の寿命は長くても八十歳などで最高でも百歳をやっと超える程度なので、歴史はあらかた知ってはいても細かい事実までは知らないので、まさか自分たちの世代で復位して戻って来るとも思ってなかったのだ。
百貨店の支配人は様々な伝手を使い地球で言うところの野球のボールサイズのルビーは手に入らなかったがゴルフボール大のルビーとサファイアの宝玉を二個ずつ手に入れていた、なぜルビーだけではなくサファイアも手に入れたのかといえば通りがかりで来店した金髪の龍族の貴婦人に。
「ハーク殿下ならばルビーだけでなくサファイアも問題なく使いこなすでしょう」
と言われたが為だった、始めて見たにも関わらずその佇まいからして只者ではない雰囲気を醸し出していたので、思わずその貴婦人の言う通りにルビーとサファイアを手に入れてしまっていた。
しばらくしてシルバーンで紅龍皇朝発の号外が出され、白龍皇朝の皇帝が復位することが正式に表明された。
(活版印刷も新聞もページ数はすくないけど一応ある、紙などはあまり多くないので基本的に掲示されたり飲食店などで置かれてたりする。)
これだけの一大イベントなのだから国交のある他国からも様々な来賓があるということでシルバーンだけでなく他の三皇朝からもかなりの人の流入が予想された。
そんな中、メリン皇女率いる第二騎攻師団の面々は魔導王朝での任をとかれ全員シルバーンに戻ることと成った。
実際の所、彼女たちができたことといえば外交特使としてガチガチの監視の中、魔導王朝の穏健派と戦争回避のために交渉や根回しをしたり、雇い入れたダークエルフ二人と共に潜入調査をしていたのだが肝心の潜入調査の成果を全く上げることができなかった。
ゴーレムの自動生成装置に使われていた宝玉やハークが砕いた杖の宝玉が完全に人工物だということは判ったのだが製造方法は判らずじまいだった。
とても大きな大砲が常に試射されていたのだが、かと言ってそれが大砲として兵器として使われたとしても脅威に成りえるとも思えなかった。
魔導王朝なのだから魔術の痕跡があるはずと思って調べてみても砲弾を打ち出すための魔術の術式と砲弾の強度を増すために保存系の魔術の術式だけで他には特に何もおかしな痕跡が見当たらなかったのだった。
「陛下、メリン皇女が国元に戻るようです。」
アーシェリカにそう言われ魔導王朝の国王は
「フフフフ、外交特使としても密偵としてもなんの成果も上げられず尻尾を巻いて帰るのか、ご苦労な事だな。」
「どうやらシルバーンで建国以来初の式典があるようです。」
「ほう、どのような式典があるというのだ?」
「なんでも、今まで空位だった白龍皇朝の皇帝が復位するということです。」
「ム、面倒な事に成ったな、今まで居なかった白龍皇帝が戻るということは奴らの戦力が増加するということか?」
「その程度問題ございません、私の開発している新型ゴーレムをもってすれば竜騎士など恐れるに足りません。」
「それを聞いて安心したぞアーシェリカ、其方のゴーレムで目障りな紅龍皇朝など地上から消し去るのだ!」
「っはは!」
アーシェリカは恭しく一礼して国王の執務室を後にした。
レイボルクはいままで見たことも聞いたこともないゴーレムと対峙していた、身の丈は9メートルほどだろうか、素体は艶のある黒い物質で出来ておりキンキンと甲高い音を響かせている、その外装には古龍の骨を纏っており、両手には外装の古龍の骨から削りだされたであろう蛮刀を持ち、その蛮刀を投げたり飛び掛かって切りつけたりしてくる、胸部には大きめの宝玉がいくつか埋め込まれておりそこから攻撃魔術も撃って来る。
外装の古龍の骸骨は有るはずのない空洞に紅く瞳を灯らせ常にカタカタと呪詛を唱えており少しでも気を抜くとレジストに失敗して呪いによって行動が鈍化させられる。
術式は明らかにゴーレムなのだがその身のこなしや速さは桁違いであり攻撃速度もドラゴンに騎乗した竜騎士でやっと躱せるほどの速度だった。
当然ワイヤードランスを投擲して何度かその黒い素体の手足を吹き飛ばしているのだが、ゴーレムなので見る間に元通りになるうえ投げつけてきた蛮刀までくるくると飛翔してゴーレムの手元まで戻っていく。
高速軌道でよけ続けなければいけない状態でさしもの龍族のレイボルクですらスタミナ切れを起こすところまで来ていた。
「クソッ!こんな化け物どうやって倒せば良い!!」
ハークに倒される前のブルードラゴンであればなんとかなったのかも知れないが、アーシェリカに様々な人工物や他の魔物の因子を、入れられてキメラになって蘇ったブルードラゴンは連携や意思疎通があまりうまくいかない、そのくせ何もしていないのに痛みを伴っているようで、その痛覚だけが何故か鮮明に伝わってくるのできちんと戦闘に集中できずにいた。
一定距離、離れさえすれば攻撃は届かないので高度を取ってしまえばいくらかスタミナの回復は望めたのだがこの距離から打ち出したワイヤードランスの投擲はいとも簡単に避けられてしまう。
仕方なく再び 遠距離に離れたのだがゴーレムが背中のマウントにあった何かに蛮刀から持ち替えた。
古龍の骨から作られたであろうそれは回転しながら伸び切ると槍に成った、レイボルクが悪寒を覚えると同時にゴーレムがその槍を投擲して来た!
ゴバン!
振りかぶって投擲したゴーレム直下の地面に亀裂が走る!!
身の丈9メートルのゴーレムが投擲してきた槍は竜騎士のワイヤードランスと遜色ない速度を出しレイボルクに迫る!
お互いに簡単に躱せるはずの距離だったのだがブルードラゴンの動きが何故か鈍い、鈍化の呪詛をまき散らしながら飛翔していることに気が付いたときにはもう遅かった。
バシュ!!!!!
左翼面を貫かれたブルードラゴンはレイボルグと共に錐揉みしながら墜落した。
ゴゴン!!
「ガハ!」
墜落した衝撃で肺を損傷したレイボルグが吐血する。
レイボルグを叩き落したゴーレムが両手に蛮刀を持ち歩み寄って来て立ち止まる、ゴーレムの背面の外装と素体が後ろにスライドしてから開き中からアーシェリカが出てきた。
非常に満足気のアーシェリカは息も絶え絶えのレイボルクに話しかける。
「どうです、私の開発したゴーレム・ゲリエは?これでもまだ試作機なのですよ。」
「っく、もう用済みだろう、こ、殺せ・・・。」
「いえ、そんなことはありませんよ、まだまだ貴方には役にたっていただきます。」
ニヤニヤしながらアーシェリカはそう告げると回復魔術を詠唱し始めた。
回復魔術の光がレイボルクとブルードラゴンを包んだ・・・。
俺がたまたまメイアリアと再び百貨店を訪れるといのいちばんに申し訳なさそうに支配人さんが
「わたくし共に手に入れられたのはこちらの宝玉が最大でした・・・。」
と言って宝箱的なものを差し出してきたので開けるとゴルフボール大の宝玉が二種類、二個ずつ入っていた。
あとで錬金術師のフルニによってわかる事だがこれは宝玉にする工程はもちろん人工だが結晶化は天然の物だということで魔力の出し入れも相当無茶のきく上物だった。
「これは素晴らしいですね殿下!」
「そうだな、これだけ大きい物、それも二個ずつとかすげえな・・・。」
支配人さんは俺たちのセリフを聞いて肩の荷が下りたようだった。
「どうやってこんなもの手に入ったんですか?」
と俺がもっともな質問をすると、普通にこたえようとしていた支配人さんを遮ってメイアリアが
「そのような事は企業秘密ですよね。」
なんて言うので俺もそんな質問は無粋かと思い、質問を引っ込めた。
実はメイアリアは再生槽に入っている間、暇だったので聖母龍や元々叔母で今は義母の紅龍皇朝皇后に契約の指輪を通して会話して色々と入れ知恵(国民に無理をさせない気の使い方等)をされていたようだった。
俺が契約の指輪のその機能を知ったり引き出すのはもう少し後に成るのだが。




