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拾い物には福がある?

作者: 三原煉


『男装令嬢』の息抜きで考えたものです。

連載するかは未定です。

「どうしよう……」

 メアリー・ハンディは困惑していた。自分ではどうしようもないこの場面に。


「離して!」

「我が離すと思っているのか、小娘よ」

 彼女のいる所から少し離れた場所にいる2人の人物。

 女性の名はシズク・ウタツキ。詩神・シェーラにより異世界からこの世界にやってきた人物である。

男性の名はデュミナス。この世界では魔王と呼ばれる存在である。

そんな2人の様子を見ているメアリーは普通の学生である。

現時点で世界最高の保有魔力を誇るシズクと魔王であるデュナミスに敵う訳がない。

だからこそ、同級生であるシズクの助けなどには出られない。

 様子を見て、迷った挙句、メアリーは上着のポケットに仕舞っていた物体を取り出す。

それは現代社会では必需品となっているスマートフォンであった。しかし、この世界にスマートフォンは存在しない。

手馴れた手つきでメアリーはどこかに電話をかけているようだ。相手が出たと同時に彼女は小声で電話口の相手に話しかける。

「どうしよう、ケイさん」

『……状況を説明しろ、状況を』

 どうやら相手は男性のようである。名前は『ケイ』のようだ。

「シズクさんが魔王に捕まっています」

『あ~、隠しキャラ登場ってわけか。

 シズクはどうしているんだ?』

 メアリーから聴いた言葉ですぐに状況が判断できるケイは頭がいいとメアリーは思っている。

「嫌がっています」

『なら、正規ルートにいくな。

 しばらくすれば、攻略対象の中で一番好感度の高い奴が助けに来るさ』

「……すでに一刻ほど経っているのですが……」

『は?』

 一刻は現代社会の時間で言えば、1時間。1時間もの間、シズクとデュナミスは離して離さないのやるとりをしている。

それをずっと見ていたメアリーは物知りであろうケイに助けを求めた。

『1時間かよ……もしかして、結界でも張られているのか?』

「そういえば、張っていましたね」

『それって……』

「魔詩でしたね。

 魔王でも魔詩以外は使えないようですね」

『納得しているなよ』

 この世界は魔法というモノが存在する。魔法を使用する為には『詩』を紡ぐ必要があった。

 『詩』には大きく分けて4種類あり、『魔詩』は人間以外の種族が使い、人間では理解できないものである。

 それを理解できるメアリーは人間ではないと思われるが、ちゃんとした人間である。

ちょっと普通の人とは違う部分があるだけである。

『じゃあ、魔王が紡いだ詩がなんだったか、分かっているよな?』

「はい。紡いだ詩は2つで、1つはこの中庭に張った結界。

 もう1つは自分と触れている者以外の時を止める詩でした」

『……最後のやべーだろ』

「でも、私は動けていますよ?」

『魔詩は保有魔力マイナスは魔詩の影響受けない事を勉強しただろ。

 今までの経過からして、好感度が高いのは王子だが、あいつは魔力あるから、無理だろ。

 次点の男の娘も同じ理由で無理。

 お前の先輩は動けるだろうが、結界壊せないし……』

 電話口のケイは頭を抱えた。

 この世界の全ては魔力を持って生まれる。しかし、稀に魔力を持たないで生まれてくる者がいる。

その者達は魔法が使えないが、普通の生活が出来るので、魔力がある人間達と変わりない。

 大きな違いは保有魔力がマイナスの人間は魔詩の影響を受けない。

だが、それは魔詩の目標とされた場合である。結界の場合、目標は建物や土地となる為、結界を壊す為には魔法を使用する必要がある。

保有魔力がマイナスの人間には魔法が使えないので、結界を壊すことが出来ない。

例外を除いては。

「どうしましょう……」

『……シズクが魔王に攫われるのを待つしかない。

 隠しルートになるが、それ以外に手段がない』

 いや、手段があるが使いたくない。使った途端、メアリーに危機が来る事をケイは予知していた。

それだけメアリーの力は大きいものであり、特殊であった。


「……そこに誰かおるのか」

 メアリーはその声に固まった。

 先程までシズクと言い争いをしていたデュナミスが自分に気付いたようだ。

(小声で喋っていたのに……!)

「シリウス!」

(え?)

 メアリーは恐る恐るシズクとデュナミスを見た。目線は確かに自分の方を向いているが、その視線は少し上を向いている。

メアリーは振り返った。そこには窓を叩いているフォルス王国第三王子であるシリウスがいた。

怒った顔で何か言っている様だが、音も遮断されている用で何も聞こえない。

そのシリウスの後ろにはメアリーの先輩であるアルフレッドがいる。

アルフレッドはシリウスの後ろにいるだけで何もしようとしない。自分に出来る事と出来ない事を理解しているからであろう。

 自分ではなく、窓の向こうの彼らについてでメアリーは安堵した。

『メアリー、王子がいるのか?』

「はい、ただ結界壊せないようです。

 後ろに先輩もいますが、だらけています」

『壊せないのか……それじゃ、ルートは確定的だな』

 これでこのイベントは終わるだろう。そうメアリーとケイは思っていた。


「この結界を壊せぬ者がお前を助けられる訳がなかろう。

 だが……そこに隠れている者は潰しておいた方がよいな」

 デュナミスのこの一言を聞くまでは――。

「ケイさん、ヤバイデス」

『メアリーもやばいと言う言葉を使うようになってしまったか……』

 大半は自分のせいであるが、と思いながら、ケイは思考を巡らせていた。

あれを使うには最悪の状況ではある。しかし、使わないと、メアリーが危ない。

「そんな事言っている場合じゃありません!

 魔王に殺されます!!」

『メアリー、“クライシス”を使え』

「! でも、あれは……」

『それしかない。“クライシス”を使えば、王子がシズクを助けに入る。

 そうすれば、魔王は逃げ、メアリーの身も安全になる』

 いつになく真剣に喋るケイ。それだけメアリーの事を思っている。

その真剣さにメアリーはしばらく黙っていた。

「そちらが出てこないのであれば、こちらからゆくぞ」

 デュナミスの足音が聞こえる。まだ手首を捕まれているシズクが何か喚いているが、メアリーの耳には入ってこなかった。

『メアリー、嫌なら俺が』

「大丈夫です、ケイさん。

 私を誰だと思っているんですか。

 大魔法使いと言われたウォーリス・ハンディの義娘でケイさんの相棒ですよ。

 ケイさんに会うまで私は生きます」

 メアリーは紡ぎ始めた。


命の源

力の源

全ての源


終わらぬ絆

終わらす絆


全ての絆を無に

全ての繋がりを無に


(ノーレス)の名の下に

クライシス



 止まっていた周囲の時が動き始める。

 時が動き始めたと同時にデュナミスが張った結界も消え去った。

「何が……!」

 デュナミスは何が起こったのか、すぐには理解できなかった。

結界が消えた事が分かったシリウスは窓を壊し、中庭に入ってきた。

「シズク!」

「シリウス!」

「大丈夫だったか?」

「この通り、ピンピンよ!

 それよりこいつ誰?」

「魔王だ」

「え?

 魔王って、あの世界征服しようとしているあの魔王?」

「それ以外魔王と言う者はいない」

「だって、魔王っぽくないじゃん」

「……お前は魔王に何を求めているんだ……」

 恒例のイチャイチャ会話を始めたシズクとシリウスを見て、メアリーは安堵する。

 すぐにこの場から離れたいが、先程自分に気付いたデュナミスがいまだに呆然と立っている為、動けそうにない。

『焦るなよ、メアリー』

「焦っていません」

「……神詩を使う者が他にもいたのか……

 やはりこの国は面白い……」

 デュナミスが先程の出来事を理解し、不気味な笑みを浮かべる。

「今日の所は帰るとしよう。

 シズクよ、次会う時には必ずお前を我のものにする」

「誰があんたのものになるもんですか!」

「強気な女子も我の好みだ……」

 そう言いながら、デュナミスは姿を消した。

「魔詩で転移しましたね」

『俺には何も分からないが、とりあえず、イベントは終了したな』

「なんでこうイベントが多いんですか?」

『それはメアリーのいる世界が女性向け恋愛ゲームだからだ』

 そう、この世界はケイの世界では女性向け恋愛ゲーム、通称乙女ゲームの『貴方に誓うシンフォニー』の世界そのままなのである。

シズク・ウタツキはゲームの主人公であり、王子ことシリウス・ギルティア・フォルスは攻略対象の1人である。

ちなみにメアリーはゲーム上には出てこないキャラクターである。

 ケイは『貴方に誓うシンフォニー』の製作者の1人であり、様々な事を熟知している為、特殊なメアリーに度々助言を行っている。

『しばらくは普通の学園生活だから、ゆっくり過ごせよ』

「はい、ケイさんもお仕事頑張ってくださいね」

『……あぁ……ありがとな』

 ケイはそう言うと、電話を切った。メアリーはすぐにスマートフォンをポケットにしまい、シズクとシリウスに見つからないように校舎の中に入った。


 校舎では様々な生徒が先程の魔王の話をしている。

メアリーもその話に混じって、普通の学生になりたいのだが、混じれないでいた。

(このままだと、シズクさんが来ちゃうよ! 浮いちゃっているのはやばいって、ケイさん言っていたのに……!)

「メリーちゃん、こんな所でどうしたの?」

「先輩!」

 メアリーに話しかけてきたのはアルフレッドであった。

 先程はシリウスの後ろにいたが、シリウスはシズクの元にいる。相手が誰もいなくなって1人でふらりと歩いていたのだろう。

「魔王が現れたって、聞いたんですが……」

 メアリーは他の生徒に合わせるように話す。本当は現場にいたのだが、それを言ってしまうと、色々トラブルがある。

ケイにもきつく言われているので、周りに合わせるようにしている。

「オレ、見たよ」

「そうなんですか!?」

 メアリーは頑張って、驚いた風を装った。しかし、アルフレッドはすぐに見破った。

「メリーちゃん、演技下手」

「うっ」

「メリーちゃんの驚き方は『え……そうなんですか?』って感じ」

「先輩、気持ち悪いです」

「せっかく先輩のオレがメリーちゃんの真似してあげたのにその返答はひど~い。

 で、メリーちゃんは魔王を見たんだ」

 せっかく話を逸らしたと思ったのにと思いながら、メアリーはアルフレッドの問いに答える。

「遠目からですが……先輩は近くで見たんですか?」

「う~ん、まぁ、近くといえば、近くかな」

「どんな感じでした?」

「う~ん、シリウス並みの美形だけど、言葉が古臭くて、年齢詐欺してんだなと思った」

「そうですか」

「で、メリーちゃんはどう思ったの?」

「え? 何がですか?」

「魔王のことだよ。

 ……メリーちゃん、中庭にいたでしょ?」

 最後の言葉は周囲の生徒に聞こえない様、アルフレッドはメアリーの耳元にで呟いた。

メアリーは驚いた顔でアルフレッドを見る。アルフレッドはいつものへらへらした笑顔でメアリーを見ている。

「シリウスはシズクしか見ていなかったのと同じ様にオレはメリーちゃんしか見ていなかったんだ」

 あの時の事を見られていた事を知り、メアリーの顔色がどんどん青白くなっていく。

メアリーがアルフレッドに気付いたのはデュナミスの言葉で知った。しかし、いつからアルフレッドがいたのかは知らない。

 メアリーはこの場からすぐに立ち去るべきだと判断し、行動に移そうとしたが、アルフレッドの方が一歩早く、メアリーを抱きしめた。

 周囲の生徒から黄色い悲鳴が聞こえたが、メアリーの耳には届いていなかった。

いくらメアリーが力を出して、抜け出そうとするが、男であるアルフレッドの方が力があり、押さえ込まれてしまう。

「何か喋っていたみたいだけど、誰かと話していたの?

 あの時、持っていたものは何?」

「あ、あの……」

「後、結界を壊したのもメリーちゃんでしょ?

 あれ、何の詩を紡いだの?」

「せん、ぱい……」

「早く答えてくれないと、いつまでもこのままだよ?」

(ピンチです、ケイさん!)

心の中でそう思っても、遠い世界にいるケイに心の声は聞こえないし、今の状況を打開することも出来ない。


「何やっているんだ、アル」

 アルフレッドに声をかけてきたのは先程まで中庭にいたシリウスであった。

シリウスの隣にはシズクがいる。

「後輩とのスキンシップだよ。

 邪魔しないでくれる?」

「どう見ても、恋人同士に見えるんだけど」

 シズクがバッサリと言い切った言葉がメアリーの耳に入った。

(恋人同士恋人同士恋人同士コイビトドウシ……)

 青白かったメアリーの顔色がどんどん赤くなっていく。

「メリーちゃん?」

 メアリーの異変に気付いたアルフレッドがメアリーの顔色を伺う。

その時すでにメアリーは意識を失っていた。

知恵熱が出て、気を失ったメアリーをお姫様抱っこしたアルフレッドは全速力で保健室に連れて行ったのはその日の内に全生徒に広まった。


「あ~あ、せっかく聞けると思ったのになぁ……

 だけど、こんな事で知恵熱出すんだから、もしかして、恋愛とか今までしてないのかな?

 だとしたら、オレが初めてのオトコになれるな。

 ……メアリー、オレはキミの全てを知りたい。

 ……身体も心もオレのモノにする」




 自分の拠点に戻ったデュナミスはブツブツ何かを言っていた。

「おかしい。時間を止めて、結界も張っていたから、確実に僕のルートになるはずだ。

 ゲーム上、僕より上の魔力を持つ者はいないし、魔力がマイナスなら、結界を壊すことは出来ない。

 しかし、現実は時は動いて、結界も壊された。

 あ~、も~、わかんないよ~!!!!」

 数分前まで喋っていた口調とは全く正反対の子供っぽい口調で話しているデュナミスは先程よりも幼く見える。

「どうなさいましたか、魔王様」

「ねぇ、ルディ。

 僕の詩を無効にする事が出来る人間っているの?」

「何かと思えば……そうですね……

 私の知る限りはウォーリス・ハンディですね……彼は魔力を多く持っていますが、その魔力をマイナスにする事が出来ますから」

「あぁ、大魔法使いか……でも、あいつはもう死んでいるでしょ?

 他に宛てはないの?」

「他ですか……

 気になる者はいますが……」

 そう言ったルディの顔色が少し赤らむ。

「それって、ルディが恋している奴でしょーが。

 僕が言っているのは違う奴だって。

 もういいや。下がっていいよ。その子の観察でもすれば」

「はい、是非そう致します」

 ルディはデュナミスに一礼をして部屋から出て行った。

(魔王様はあのお方の事を言っているのは分かっておりますが、私はあの方を離す気はありませんから……)

 ルディは自室に戻ると、寝室に置いてある水晶の元へと歩を進める。

ルディが水晶に手を触れると、水晶が淡く光り始め、何かを映し始めた。

 ルディの愛おしい存在であるメアリーはベッドに横たわっている。そのメアリーの髪を触り、口付けを落とすアルフレッドがメアリーと共に映し出された。

映された映像を見て、ルディは舌打ちをする。

「あの小僧、またメアリー様に気軽に触りやがって……いつか殺す!

 大体、なんであんな小僧がメアリー様の先輩になるんだ。

 メアリー様にはっと素晴らしい方が先輩であるべきなんだ。

 いや、メアリー様はあのウォーリスが育てて、保有魔力値が世界最低値で神詩も2つ使用できるお方だから、学校で習うことなどない。

 やはり、あの国は潰すべきだな……

 そして、メアリー様と共に暮らすのだ……!」




 メアリーの学園生活は平穏が訪れるのは当分先のようです……。



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