1-5.儲けっ!
お金が大好きソーマ君
『それは了承しかねる』
掛かった!
不機嫌にはっきりと言い切る熊男を画面上で眺め、俺は思わずガッツポーズを作った。
悪だくみをして何が一番楽しいって、どうやって相手をはめるかあれこれ方法を考えるのと、相手が思惑通りに罠にはまる時が一番楽しい!
全面に並べられている画面たちを指でなぞり、獲物がまだちゃんと付いてきていることを確認する。
うん、いる!
人形を壊してしまったのは予算的に痛いが、それを補えるほどの収入の見込みがある。
うん、大丈夫!
さすがに、父さんの人形に爆弾を仕込むようシットに依頼した時は、俺実は馬鹿じゃないかなぁ、と落ち込んだが、大金を設けるためには相応の出費が必要だ。
シットがふっかけてきた分はちゃんと値切ったし!
『このツアーには法外な金をかけた……金額に目を瞑ったのは、最下層を見るためだ。最下層に来る以上……ある程度の覚悟もしてる。私は法を犯して参加してる。なのに、金は返すから諦めてくれというのでは、随分と上品な話じゃないか?』
『最上層の皆さまは上品がお好きでしょう?』
『私は最下層に来た。強制されたわけでもなく、危険を冒してわざわざ来た。意味はわかるな』
最後はもう、脅しだった。
熊顔の眼に肉食獣の鋭さと、人らしい醜さがぎらつく。
いいねいいね。そういう人間臭いの、俺は大好きだ。
普段の父さんなら、謝りながら捲し立ててうやむやにするだろうけど、今回は屈する。それが計画だから。
てか、こういった脅しは最下層民には無意味なんだけどな。
理由は、
1.最下層は無法である。罰則などの実害がない。
2.彼は最上層の人間である。俺らに何の関わりも影響力もない。今後会うこともない。
3.ただの我儘を聞いてやる義理はない。
4.実益がない。
特に利益がないのが致命的!
なってないねぇ、経営者なのに!
のしあがった方の人なのに!
『……万が一、ツアー決行という結論に至りましても、当方はこの先の責任を負いかねますが?』
『ま、待った! 最上層にも帰れなくなるのか?』
娘の男が、おっかなびっくり不安そうに尋ねる。
『いえ、そればっかりはお客様たちではどうしようもないことですし、最上層への帰り道だけは確保させていただきます……。万が一、ツアーをお続けになりたいようでしたら、代金はとさせていただきますが、それでもよろしいですか?』
吹っ掛けんの? 父さん吹っ掛けちゃうの!
やるじゃん!
儲けが大いに越したことはない。
『倍っ!』
当の吹っ掛けられた少女が驚き喘ぐ。
子供にはきつい金額だしな。
『私が言いだしたことだ。他の客の分も私が払う』
おお! 太っ腹!
熊男、お金にがめついかと思ったら太っ腹だな。
『……でしたら、これ以上、私から申し上げるべきことは何もありません』
『決まりだな』
父さんが深々と頭を下げ、熊男が横柄に頷いた。
「じゃあ、こっちも計画続行ってことで」
誰に聞こえるはずもなく、誰に言うでもなく、僕はにやりと笑って、ついっ、と画面の熊男をなぞった。
描写に出ないけど、話し中もペット君は頑張って運転しております。
無免許だよ、資格の概念がない場所だから! 法律ないから、違法でもないよ!