1-3.最下層!!
再びの僕っ子少女……性別まったく関係なく進んでますけどね。
『世界を美しいと感じる為には、醜い世界があることを意識しなければならない』
父の口癖で、僕、ミネルバがツアーに参加した理由だ。
最下層は世界で最も荒れた社会だと社会科で習った。
荒れた歴史も習った。
それでも僕がまだ最上層を父たちほど美しいと思えないのは、比べる対象がないからに違いない。
醜く寂しく荒んだ場所を知らないせいに違いない。
最下層には法律がない。
最下層には貴賓がない。
モラルがなく、何をしても逮捕されない。
どれほどの被害を出そうと咎められない。
最下層は野蛮の極みだ。
最上層は法と警察に守られている。
最上層には規律がある。
品性、素行の良さ、潔白な優秀さでできている。
被害をこうむれば保護され、全てを保証される。
最上層は栄華の高みにある。
今日この野蛮極まりないツアーの果てに、僕は僕の故郷の尊さを実感することができる!
だから僕は心弾ませ、品揃えと並んでスリが一番多い商店街を眺めた。
ここで嫌な目にあえば、父が守る最上層の平和の素晴らしさが史上の感動と共に味わえる。
両手を大きく前後にふり、期待に胸を膨らませスリ横丁を闊歩していた僕だが、見たくないものが視界の隅でちょろちょろし始め、しかたなく不機嫌にそれを振り返る。
「自由行動だろ、これは。君が着いて来る必要はないだろ」
『答えはNOです』
ぴったりと引っ付いて来るガイド人形に軽くけりを入れ僕はスリ横丁を再び歩き出した。
『まず第一に自由行動ではなく自由見学です。お客様の好きなように行動していただく、そういった趣旨のものです』
「それを、一般的に、自由行動というんだ!」
『そうですっけ?』
「ふざけるのも大概にしろ」
『私からおふざけを抜いたら何も残りませんよ!』
「胸を張るな!」
疲れる。
こいつとの会話は非常に疲れる。
これが最下層の住民なのか?
なるほど、従兄のアルフォードに勝るとも劣らぬ嫌な奴だ!
『それはそうとお客様。そろそろバスに戻りましょう。次の観光予定が詰まってます』
「う、じゃあ、せめて何か買ってから……」
『財布擦られたのに?』
「ああ………何を!?」
慌てて懐を確認する。
ない!財布がない!
『買えませんし、見学も済みましたし、バスにお戻りください』
「……スリに遭った客に言うことがそれか?」
『当方は財産の保証はいたしておりませんので。付け加えさせていただきますと、注意したにも拘らず、擦ってくれと言わんばかりにフードから財布をチラつかせていたのはお客様です』
例えようもないほど気分が悪くなる。センスのない、ど地味茶色いフードを深くかぶり路地に向かって歩きだす。
「お前本当にガイドか? 話し方といい、態度といい、いちいち気に障るぞ」
『確かにその場の受けは良くないのですが、この対応の方が評判がいいもので』
「そんなはずは」
『それにお客様も私と似たり寄ったりですよ?』
「失礼極まりないぞ!」
ドォン!!
頭にきて叫んだ瞬間、そう遠くない場所で耳をつんざく大きな音がした。
それが爆発音で、現実に起きたことだとすぐに理解できたが、現実味はまるでなかった。
バニーお父さん操るガイド人形は、お客さん3人全員にひっついて行動してます。