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4-1.アンダートップマーケット!(その1)

ソーマ視点です。

 ミネルバ・1・ベネディクトとは結局別れ別れになり、俺は独房に入れられた。身ぐるみはがされた上、食事はなし、素っ裸で放置された。

正直、予想外だった。独房に入れられるとか、拘束されるのは予想してたけど。

 俺は自他共に認めるジュリアの弟のようなものだから、4区長でもそこまで酷い扱いはしないと、心のどこかで過信してた……浅はかだな、俺。

 4区長にとって大事なのは、ディアとジュリアであって、俺は2人に纏わりつく虫程度の存在なんだよな。むしろ、区長が必要以上に接触できない2人と親しげにしてるわけだから、嫉妬されても無理はない。


「それは流石にないですよ。子供に嫉妬するほど、うちのボスは子供ではありませんとも、多分」


 4区実動隊のナジーが糸目で笑う。いや、ナジーはいつでも糸目だけど。

 独房に催眠ガスを撒かれて、気が付いたらアンダートップマーケットの一般個室にいた。服も着せられてた。区長自信は最上階の区長室にいるんだろう。各区長は上層層のお得意様から席の指定を受けた時にすぐに対応できるように、いくつか一般室も所有しているって聞いたことがある、ここはそういう部屋なんだろう。

 見張りはナジー一人だけど、あの4区長が認める実動隊長相手に逃げられる実力は、今の俺にはない。動く前に捕まって組み伏せられるのが関の山だ。フィーバーがいれば気付かれないように脱出の準備もできるけど、引き離された時フィーバーにはミネルバ・1・ベネディクトを助ける様に言ったからな。

 くそ、ミネルバの安全がある程度保証されて優遇されてる今だと、事情を知らないフィーバーがミネルバ救出を行動に移すことはない。行動するとして最上層に引き渡される直前、それじゃあ遅すぎるし……最上層のさらに上層部の人間なら、フィーバーの正体を知れば対策も取られちまうんじゃないか? フィーバーも元は最上層で作られたものなんだし。

 ……こんなことなら4区に大人しく捕まんないで、逃げるべきだった。


「それに普段の区長ならば始末してお終いにしてしまいますのに、五体満足で生かしているぐらいですから、ソーマは気に入られていますよ。もちろんジュリア様に文句を言われないためとか、アランの息子だからというのもありますけど」


 逆にその2つ以外に理由はないだろ。

 百歩譲って気に入られているとしても、あの区長は障害になると思えば即決で始末しちまうだろうし、気に入られても安全が保証されるとは思えない。今回の俺は間違いなく邪魔だったろう。


「ミネルバ・1・ベネディクトは?」


「出品用に着飾ってもらってます。ふふ、お互い幼い恋人とはいえ、彼女の着替え姿を見たいとは。ソーマも子供でも男の子ですね」


「違うし! 何なんだあんたの脳は!? 恋人じゃないし、恋もしてない!」


「大丈夫、照れる必要はありません。お兄さんは理解者です」


「人の話し聞けよ!」


 ナジーってこんな奴だったのか?

 とりあえず、ナジーの落ち着きようを見るにフィーバーはやっぱりまだ行動してないみたいだ。上手く逃げたであろうあいつに、何とか動いてもらわないと……。


「しかし申し訳ありませんが、もう会わせられません。品物は競の前にステージで全体映像が出ますから、遠目に彼女の姿を見るので我慢してください」


「っ!」


 くそっ、やっぱりもうそのまま出品するのか。


「ふふふ、君も4区長と同様、気に入った物しか守らない人間。そんな君が赤の他人の彼女の為に必死になる。よっぽど愛してしまったんですね!」


「違うっつってんだろ! あいつはーー」


「ボスに言ったジュリア様と同じ境遇という話ですか? 正直、だから? ですね。区長もおっしゃいましたが、彼女はジュリア様ではない。君が命を掛けている存在ではないのですよ。でも彼女を守ろうとする、愛ですね! 最上層と最下層の禁断の愛です! 寝ている君を彼女が優しく抱きしめた時は、私は涙が止まりませんでした」


 はあ! 会いに来たのかよ! なら起こせ! フィーバーの事とか、色々言っとくべきことがあったんだぞ!


「翌朝には会えると約束しましたからね。私はそんな約束忘れていたのですが、彼女がどうしてもと仰るので、出品準備前にお越しいただきました。そして伝言です。「諦める。もういい」だそうです」


 な! あいつ! 命かかってるんだぞ、それを諦めるって……

 怒りと脱力が同時に襲ってきた。普通足掻くよな、命だぞ、諦めるモノじゃないだろ、それを……諦めるって。今まで色々してきたのが、今捕まってるのが、馬鹿みたいだ。

そっちがその気なら、俺もいいよ。もう、どうでもいい。

 ミネルバが居ても居なくても、父さんがドロップアウトを手に入れれば解毒剤は造れる。最初から会わなかったと思えば、それで済む話さ……俺が今捕まってること以外はな。


「さあ、私たちはここから開会式を観させていただきましょう。区長席ほどではありませんが、ここも十分に特等席ですよ。……ふふ、月に一度3日間の、アンダートップマーケット開催です」


 ナジーが無意味に腕を広げた瞬間、光り輝いていた闘技場のライトが消えて、中央の司会席だけがライトアップされた。

なんつーか、父さんでも入れないとか、色々悪い噂される場所の割には普通だな。壁や地面に血がこびりついている悲惨な場所を想像してたけど、見た目アンダーマーケットの競技場と同じじゃん。観客席は厳選されてるそうだけど、客が違うだけで内容も変わんないんじゃないの?


『皆々様、お待たせいたしました。そして、遠路遥々よりよくぞお越し下さいました。アンダートップマーケット、本日より開催いたします。まずは、主催者である各区長のご紹介をさせていただきます』


 ライトの一つが、最上階の一室を照らし出す。


『最下層第1区区長、ガリアル様』


 モニターにゲヒヒと嫌な笑い方をする大柄の男の姿が映る。周囲には屈強な戦士達が控え、区長のすぐ後ろでは、5区雑貨屋のキャンベルが微笑みを称えていた。

 何であんな狂乱者が、下心丸見えのキャンベルを気に入るんだか。


『最下層第2区区長、ヘル様』


 左右に美男美女を侍らせた、美系だが性別不明の色魔の姿が映る。花街にだけ力を入れて、それ以外は全く放任主義の、最下層公認色魔。……あいつがジュリアに目を付けなければ、4区長の愛人になんてなる必要なかったのに。


『最下層第4区区長、ザックス様』


 他の二人よりも絢爛豪華な金の椅子に構え、ギラリとモニターを睨む4区長が映る。ギラギラとした目に、ガラスの向こうの各個室で客たちがざわついている。こんな風に脅えるくせに、脅えることを愉しんでるみたいで……ミネルバ・1・ベネディクトは最下層を駄目だと言うが、俺は最上層も十分おかしいと思う。脅えるのは怖いからだろ、怖いのがどうして愉しいんだ。

 あいつ自身、駄目、を愉しんでるような変人だったな。


『最下層第5区区長、ルルーベット様』


 真っ黒なレースで顔を隠した喪服のドレス姿の女が映る。他の4人と違って周囲には誰も付けていない。5区の管理も独りで行ってると噂されるほど、5区長は傍に誰も近づけないらしい。5区は最下層でいちばんマシな区だから、あの区長の感性はマシであると信じたい……。


『最下層第6区区長、ダグラス様』


 6区長の部屋がモニターに映し出された瞬間、俺とナジーは驚きの声をあげた。


「今も内乱中のはずでは!? 決まったのか、早すぎる!」


 ナジーが驚いたのは、あと数年は続くと予想された6区の内乱が終わっていたこと。4区も劣勢だった子息派に物資支援をしていたはずだ。それが知らないとなると、今映っている白髪交じりの中年が6区長になったのは、本当につい先日とか、さっきとか、そんなレベルだろう。

 で、俺が驚いたのは内乱の終結とは別の事。

 白髪交じりの男の後ろに、背を向けて立っている男。

 室内の照明は区長だけに当たるようになっていて、背を向けて立っている男は僅かにシルエットが見えるばかり。

 頭から丸みを帯びた角のようなものが、2つ伸びている。髪型にしてはいささか奇妙なその影は、おそらく仮面の一部。ウサギの仮面の耳の部分。


「まさか、あれは、アラン?」


 そう、あれは、父さんだ。

間がだいぶ空いてしまい、大変申し訳ありませんでした。

次は早めに投稿します。

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