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3-5.4区長!

ソーマ視点です。

一部話がかみ合っていなかったのと、大事な情報が抜けていたので、後半を大きく修正しました。

 最下層全7区の中で、第4区は比較的マシな区だ。

 ボスの支配欲と独占欲が異常に強く、他者の勝手な振る舞いを許さないから、区内の争いが少ない。

 シットは窮屈だと言っていたが、子供が多いシット一家には、監視が多い4区が一番安心で、いい区だろう。

 ……シット一家にはな。

 4区の区庁舎の一室。バカ高い天井を見上げ、俺は大きく息を吐いた。

 監視が計10人。俺とミネルバ・1・ベネディクトの後ろに4人。後の6人は姿を隠して、でも監視してることを分からせるかのように、やたらはっきり気配を感じる。監視してるぞって示すためにわざとやってんだろうな。確かに相当窮屈だ。

 ミネルバ・1・ベネディクトは両膝の上で震える拳を握りしめ、背筋を伸ばしてじっと動かない。フィーバーのローブは身体検査の時に取り上げらたから、表情から緊張がありありと読み取れる。

 2人して屋敷に連れて来られてまだ数分とたってないのに、すでに疲労はピークだ。移動中はずっと実動隊が左右を挟みこんでたし、今は今でこの過剰監視体制。

 俺は見とがめられない程度に小さく息を吐き出した。

 4区長がシットを使って俺とミネルバ・1・ベネディクトを呼び出した。

 多分、いや絶対、俺に都合が悪いことになる。かといって、区長が相手じゃ逃げ場なんてないも同じ…

 チリーン

 涼やかなベルの音に、監視達が背筋を伸ばした。4区長のお出ましだ。

 区長の証である区番入りの義眼が、ギョロリと室内を見回す。

 その目に怯えて、ミネルバ・1・ベネディクトが「ひっ」と息を飲んだ。

 いや、目だけじゃないか。4区長はとにかく畏れられるような姿を好んでる。

 本当はディアより少し年下だけど、わざわざ髪を白く染めて、迫力が増すよう皺と傷を作り込んでる。そのかいあって、見た目は80くらいの厳つく頑固で融通の利かないじい様だ……中身もな。

 でも体の方は長身で屈強で背筋もいいとあって、まったく年に感じない。何ともアンバランスなじい様だ。

 4区長の後ろには俺達を連れてきた実動隊トップのナジーがいる。

 ナジーが監視に向かって意味深げに頷くと、監視が全員部屋を出た。


「心当たりがあるだろう」


 質問の主語を言わないのが4区長の手法だ。4区長の耳に入ってる情報をとぼけて話さなければ裏切り、4区長の耳に入ってない不味い話をすれば断罪か、稀に免罪。

 やな性格。


「いや、要らん前置きはなしだ」


 俺が返答を考える間もなく、4区長はお決まりの断罪詞を切り上げて、義眼の右目をギョロリと俺達に向けた。


「最上層から、最上層の人間を引き渡すよう通達があった」


「!」


「特徴は赤髪の少女。最上層からの客は多いが、少女まで呼び込むアホんだらは……お前らしかいまい。それで、ワシの読みはものの見事に当たったわけだ。さて、お前がそうだな。名前は?」


「ちょっと待て」


「ん?ワシは小僧には聞いておらんし、口もなってない……アランの息子だからと、調子に乗るな」


 4番の義眼が俺を見据える。気迫に俺は思わず黙ってしまった。


「なるほどアランは化け物だ。あいつには勝てん。だからといって小僧には手を出さないと?思うのか?このワシが?」


「……」


「そうだ、黙ってろ。さて、小娘、名前は?」


 ミネルバ・1・ベネディクトがチラリと俺を見た。俺はゆっくりと頷いた。仕方ない、黙りとおせる訳がない。


「ミネルバ・1・ベネディクト」


「五大家の子供か……数日以内に最上層に引き渡してやる。感謝しろ」


「待っ……て下さい」


「愁傷だな、実に良いことだ。で、なんだ小僧」


「こいつを最上層に連れていかないで、下さい」


 もう黙っている余裕はない。


「それは最上層が決めることだ。ナジー、小娘はジュリアの所へ。ソーマは返せ、アランが飛び込んでこないとも限らない」


「父さんならこない」


「……死んだか?」


 一拍置いて、感情の読めない声がする。


「そんなわけあるか! 父さんは今でかけてる。こいつと……ジュリアに関わることで!」


「ジュリアに?」


 4区長に対して、俺が持っている唯一無二の武器はジュリアだ。4区長は父さんの脅威があっても俺を処分する人だけど、ジュリアには甘いから、ジュリアが弟みたいに大事にしてる俺には滅多なことはできない。

 でも、言い方と使い方を間違えれば、殺す以外の全ての方法で俺を罰する。4区長はそういう人だ。


「……ドロップアウト」


4区長が目を細めた。顎で続きを促されて、俺は言葉と内容を選びながらゆっくりと話す。


「前回の客の一人が運び屋で、ドロップアウトを持ってた。盗ろうともめてる最中に、こいつがドロップアウトを浴びて――だから最上層に帰さなかった。本人も了承済だ。アンプルはその一本だけで、手がかりは無くなったけど……父さんは、それとは別に最下層にドロップアウトが運ばれてくるって情報を手に入れて、だから……」


「なるほど、アランはドロップアウトを探し回っているのか。それで、奴は今どこだ」


「……知らない」


 俺たちのアンダーマーケットへのフリーパスは4区長に発行してもらったものだ(勿論、ジュリア経由で)。同じようにアンダートップマーケットへのパスも貰おうとしたけど、駄目だった。

 ジュリアの為で利害が一致していても、父さんをアンダートップマーケットには入れたくないだろう。少なくとも、邪魔はしても手助けはない。言えば父さんが不利になる。


「では話は終わりだ。小娘は最上層に引き渡す」


「何で! 父さんは絶対にドロップアウトを手に入れる。そしたらディアが絶対に解毒剤を作ってくれる。そしたらミネルバ・1・ベネディクトも安全に最上層に帰れるだから……まだ引き渡さないでください!」


「まず、ドロップアウトの情報を手に入れたという話に信憑性がない。本当だったとして、情報が正確かも疑わしい。万が一、ドロップアウトの争奪戦になったとしてアランが取れるか微妙だ。奴の専門は壊すことで、品物は高確率で壊してくる。全てが奇跡的に上手くいったとしても、ワシは小娘を最上層に引き渡せればそれでいい。生死は知ったことではない。よって、答えは否だ」


「! こいつはジュリアと同じ境遇なのに! それを!」


 食ってかかった瞬間、俺は全身を床に拘束された。

 床のカーペットを突き破り、黒くて金属質の――最下層の土台を構築している物質が俺の両手足に巻き付き、体を床に縛りつけていた。

 突然の事にミネルバ・1・ベネディクトは眼を丸くするばかりで―――そうか、こいつは最上層民だから知らないのか。区長が、何か。


「分を弁えろ、小僧。ワシは区長だ」


 区長の4の眼があやしく光る。

 体に纏わりつく金属が、4区長のオドロオドロしい感情を直に伝えてくる。寒気と吐き気が同時に襲いかかってくる。


「最上層の言い分はこうだ「最上層民が行方知れずとなった、一大事である。各層の警備を強化しなければならない。特に第5層から第8層を念入りに」! 水と食料を生成する層の警備を固める。各層への食料分配配給なんぞ過去の話で、現在の最下層の食料はほとんどが横流しだ。無論、ワシらが根回しした全ての食料ラインを潰すことなどできまいよ。だが、食料の確保が困難になり、獲得できる数が減ることは間違いない! 冗談ではない! ワシが手に入れられるはずのものは全てワシのものだ! 未来だろうが予定だろうが、全てだ! ジュリアと境遇が同じ? だから何だ、小娘はジュリアではない」


 義眼からあやしい光が消える。

 4区長は荒れていた口調と呼吸を整えて、遠い眼をした。


「ジュリアは大事だ。眼に入れても痛くない。何より、あの人の孫だ。苦しめるものも、不幸も、火の粉も全てなぎ払う--その点はアランも同じだからな。ジュリアのための駒として、目に余る奴の行動にも、ワシに害がない限り関わるつもりはない。同じようにジュリアが構う小僧の事もたわいのない話なら聞きいれてやってきた……だが、今回は交渉はない。しかし、いい事を聞いた。赤毛の娘と会わせれば、ジュリアは間違いなく娘に同情してお前と同じことをワシに頼む。そうなれば、さしものワシも無下にはできん―――ナジー、娘は監禁室に入れろ。ジュリアに会わせるな、あの勘のいいメイドとも事が終わるまで接触するな。あとはそうだな、最上層の機嫌を損ねんよう、いい部屋を宛がえ。脱出以外の望みは叶えてやれ」


 4区長が立ち上がると同時に、俺も縛られて身動きが取れないまま宙に持ち上げられた。


「次こそはキチンと目上の者に対する敬意を身につけて来い。あのアランでさえ、その気になれば化けられる。その技を学べ、そうすれば小間使いぐらいにはしてやる」


 口をふさがれて文句も言えないまま、俺は喚いた。

 あんたの手足なんて、まっぴらごめんだ!

 俺の抵抗を楽しむかのように、4区長は高らかに笑いながら部屋から出て行った。


「ソーマも食いつきますね。まあ、そういうところを区長も気に入っているのでしょうが。さて、最上層のお嬢様はこちらへ、ソーマは――もう少し暴れれば区長も拘束を解いてくれるでしょう。そしたら独房にご案内します」


「イヤだ」


 ……イヤだと思ったけど、今のは俺じゃない。

 ミネルバ・1・ベネディクトだ。

 赤い目に僅かに涙をためて、俺を睨みつけている……力及ばずで悪かったよ、でも俺なりに手を尽くしたのにそんな目で見なくたって……


「僕の願いは脱出以外なら叶えてくれるんだろ。なら、ソーマと一緒にしろ」


 ミネルバが、俺の首に両手を回して引き寄せた。

 え、何?


「ソーマと独房に入る!」


 独房はお断りだ!

 ていうか、せめてお前が入る豪勢な部屋に呼べよ。何で環境が悪い方に移ってくるんだよ! お前のいつもの小言は聞きたかない!


「へー、えー、一緒がいいと」


 何だよ、ナジー。何でニヤニヤする! 違う、そういうんじゃない! こいつは俺より年上のくせに子供なんだよ!

 ミネルバ・1・ベネディクト! ギュッとするな! 頬を赤くして涙を浮かべるな!


「まだまだ若いのに、ソーマも隅に置けませんね。参考までに、お嬢様おいくつですか?」


「? 12だ」


 年を聞かれたミネルバ・1・ベネディクトは、わけがわからない様子で答えた。

 ああ、そうだろうよ。何を勘違いされているかさえ、わかってないだろうよ。もとより、そんな気もないだろうよ。

 あんたが分かってないのはいいとして、俺を巻き込むな!!


「ソーマの一個上ですか。そうですね、ソーマは尻に敷かれるぐらいがちょうどいいと思いますよ」


 だから違ーーう!!

 反論するが、4区長の拘束のせいでもがもがしか言えない。

 くそう! 早くこれを解け!


「しかし、残念ながら一緒にはできません。脱走の相談されても困りますし、ソーマから不要な入れ知恵をされても困るので。でも安心してください。離れ離れは今晩だけ、明日の早朝にはまた会えますから」


 明日の朝には受け渡しに行くのか!?

 で、俺はこいつを誘拐した犯人として引き渡されるわけか。父さんが最上層に殴りこみに行って、厄介者同士がつぶし合って一石二鳥ってか、あのボスは!!


「お嬢様は元々最下層に観光にいらっしゃったんですよね? 明日の朝はいいものが見れますから楽しみにしていてください」


 アンダーマーケットの絶景で受け渡しってか?


「いやいや、時期もぴったり間に合ってほっとしました。明日は月に一度のアンダートップマーケット区長集会の日なんですよ」


 ……え?


「……え?」


 ミネルバ・1・ベネディクトと反応が被った……じゃなくて、アンダートップマーケット!


「出品の際は結構な高画質で映像が流れるので、今日は綺麗にして早く寝て、最善の状態で明日に臨むのがよいかと思います」


「……出品?」


「はい。ボスが受け渡して、4区が疑われるのは嫌ですから。匿名出品となりますが、扱いは丁寧にさせますから、ご安心ください」


 ああ、何故だろう。笑えて来た。

 運がいいのか悪いのか――こういうのを悪運がいいというのか?

 目的地には行けるわけだけど、出品って、間違いなく父さんの足を引っ張るぞ。

 ああ、やっぱり駄目じゃん。


「あはははははははは」


 ミネルバの気の抜けた笑い声が、俺の心を代弁していた。

区長の義眼は右目だけなのですが、文章上、どうしてもうまい具合に表現できませんでした。いっそ、両目義眼の方が迫力があっていいかもしれない……

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