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3-4.同じ!!

ミネルバ視点です。

 常に満点以上の答えを出せ、それができないうちは部屋から一歩たりとも出ることは許さない。至高の最上層に役立つ人物になるまでは……


 お父様はそこで言葉を区切られた。しばしの沈黙。思案なさっていたのかもしれないが、僕の返事を待っているようでもあった。


「はい、お父様」


 背筋を伸ばして、お父様に頭を下げ、ふと気付く。

 ああ、これは夢だ。

 僕が4つの誕生日を迎えて、お父様にあの部屋を頂いた日だ。その前はどこで生活してたんだっけ?

……記憶にないな、幼かったから仕方ないか。


 最上層に役立つ人物とは、どんな人物だろう? お父様が認めてくださるには、どんな人物になればいいのだろう?

 部屋で一人、文献や過去の映像をまさぐりながら色々考えた。いくつも素晴らしい考えが浮かんだ。でも、従兄弟のサルサが部屋に無断で出入りするようになって、ケンカしながらあいつと話すうちに、自分の考えのちっぽけさに打ちひしがれて。素晴らしい考えだったものが、どれも平凡なものばかりだと気づいてしまって。


 サルサが最下層に行った。知られれば階堕ちもあり得る重罪だ。

 でも、サルサは以前より少し大人になって帰ってきた。一皮剥けるとはこういうことだろうか? 認めたくはないが、羨ましかった。

 最上層の事をボロクソに貶し否定する非階層民だったくせに、最上層を見直したと言っていた。

 あのサルサが!

 だから僕も最下層に行くことにした。不安はあったけど、最下層に行けばお父様のおっしゃていた人物に近づける気がした。少なくとも、今の僕よりは大きくなれると思った。

 お父様の最上層をより良いものにして差し上げたくて……お父様の役に立つ人に成りたくて……あの大きな手に一度でいいから誉められたくて……


 パチリと目が覚めた。

 お父様もいないし、僕の部屋でもない。

 最下層のディアの家の一室。ベッドしか置けない狭い部屋。

 ……最下層に来て、何日目だっけ? 僕がいないことが分かったころかな? お父様は僕が言いつけを破ったことを怒っていらっしゃるだろうか、それとも―――


「甘えるんじゃない!」


 ピシャリと叱りつける声に反射的に身をすくめた。

 叱られたのは勿論、僕じゃない。部屋の外、家の何処かからその声は響いてきた。続いてバタンと扉が乱暴に開き、誰かが勢い良く駆け抜ける音がした。


「……」


 気になって、そろりとドアをあけ廊下の様子をうかがう。


「起きたか、小娘」


 いかにも機嫌の悪いディアと眼が合い、体が固まる。


「おいで、アランのことを説明してやる」


 アランって、あのウサギの本名だったな。

 最後に見た恐ろしいウサギの姿が脳裏に蘇る。


「早くおいで!」


 ディアの叱咤に、僕は嫌々部屋を出た。


 *********


 ディアの話は、ウサギがした話に細かな説明を足した感じだった。


「行きたいとか言い出すんじゃないよ」


 ディアにギロリと睨まれて、僕は慌てて首を横にふった。


「い、言わない!ウサギ……アランにも言われたし……あいつ実は凄く怖いな」


「怖いか。ま、化け物だからね。ソーマも小娘を見習って少しは聞き分け良くなってほしいもんだ」


「ソーマは何て?」


「追いかけるとさ、あんな場所に行かせられるもんか」


「……追うって、侵入?」


「出来ないよ。アランもどうする気なんだか……頭を冷やしたソーマが戻ったら、シットのとこに行くよう伝えとくれ、小娘も一緒に来いとさ。早速、支払いの催促だよ」


 話が終わると、疲れたから寝る、とディアは部屋を出ていった。


 *********


 とりあえず、ソーマを探しがてら、家の中をぶらぶらと歩く。

 とはいえ、僕が行動できる範囲は狭い。

 凄く狭い僕の部屋。ソーマの部屋。リビング。地下室まで続く階段(地下室は鍵を掛けられてるから入れない)。屋上に通じる通路(屋上には出れない。屋上を含めて外出禁止だからな)。スカイシップの格納庫。

 格納庫はスカイシップに乗る時以外行かないな。油臭いからな。

 折角だからスカイシップをよく見ようと梯子で整備用の足場に登ったら、ソーマがいた。


「……何だよ」


「し、シットが水よこせって!」


 てんぱって早口になった。

 特別探していたわけでもなんでもないのに、何故こうも簡単に見つけられる場所にいるんだソーマは。僕が凄いのか、ソーマがアホなのか、どっちだ!?

 ソーマは露骨に胡散臭そうな顔をした。


「ディアが言ってたんだ! あと、僕も一緒に行かないと駄目だって」


 駄目とは言われてないが、別にいいだろ? 呼ばれてることは間違いないし、僕も行きたい。


「あんたも?」


 ソーマは益々、胡散臭そうな顔をして、うーんと唸りながら目をつぶった。

 ……ところでそろそろ僕も登っていいよな?

 ソーマが目をつぶっている間に、そろそろと足場に登る。あんまり丈夫じゃないのか、ゆっくり動いてもギイギイ音がする。


「……」


 ソーマは黙ったままだ。眉間にしわが寄ってなければ、寝てるみたいだな。


「ソーマはウサギを追いかけるのか?」


「父さんの名前はアランだ。ウサギじゃない」


「知ってるけど、ウサギの方がわかりやすい。ソーマもそのアンダーマーケットに行くのか?」


「アンダートップマーケット。アンダーマーケットはあんたも行ったあの疑似最上層みたいな場所。名前は似てるけど、中身は全く別物だ」


「そうか、で、行くのか?」


「……」


「危ないんだろ。でも行こうとしてるのはウサギのためか?」


「……ああ」


「危ないのに」


「くどい」


 さっきのディアとのやり取りでも思い出したのか、ソーマは凄くふてくされた顔をした。その顔に、僕は考えるより先に笑ってしまった。


「ふふ―――同じだな」


 お父様の役に立ちたくて、最下層に来た僕と同じだ。


「? 何?」


 ソーマは不機嫌そうな顔に疑問符を浮かべて、僕を見た。

 僕は視線をスカイシップに向けた。船体の継ぎ目部分を、意味もなくただ見つめる。


「しばらくならジムのところ――シットのところに預けられてもいいぞ。だから心置きなくアンダートップマーケットに行って来い」


「……バーカ」


 ば、馬鹿だと!? 人が親切心で言ってるのに馬鹿だと! 何だか凄くイイ気分だったのに、今の一言で台無しだ!


「人が折角、行ってもいいと言ってるのに」


「別にあんたの為に行くわけでも、行けないわけでもないし、余計な気を回さなくていいんだよ。それより、シットが呼んでるって? あんたは子供らに会いたいだろうし、直ぐ支度するなら連れてってやらないこともない」


 ソーマが僕より少し大きい程度の手で、僕の頭をごしごしと撫でる。

 乱暴だ! 横暴だ!!

 その乱雑さも、皮肉な感じも、大体いつものソーマだった。いや、いつものソーマなら、これにイライラも足さないとな。

 いやいやソーマなんて何でもいい! さっきの今だけど、ジム達に会いに行くぞ!


「今すぐ行くぞ!」


「元気なことで」


**********


 第4区、シット一家の家。

 シットと知らない男がソーマの前にいた。マイクに息が吹きかかる独特の音がして、ソーマがため息をついたのだと分かった。


「何かあるだろうとは思って来たけど、これは想定外だったな。それで、俺に何の用?」


 緊迫感のある声でソーマが2人に問いかける。

 ソーマの衣服に仕込んだ小型カメラは思いのほか性能が良くて、ズーム機能もバッチリだ。

 見える範囲が狭いことだけが難点だな。

 僕はと言うと、シットの家に着いた途端、危ないかもしれないからとスカイシップの小さな物置に押し込まれた。しかも、ソーマのペットの犬と一緒に。ソーマが急に寄り道をすると言って連れて来た犬は、ガイドの日に見たコーギーであのときの印象以上に可愛い。

 そんな可愛い犬と一緒だから我慢するけど、大人1人がぎりぎり隠れられないレベルの狭さは息苦しい。


「用事の内容は俺もしらねーよ。急に来て、今月の徴収をなしにする代わり、ソーマたちを呼び出せって言われただけさ」


「……おい、シット。俺の価値は一ヶ月分の税収程度なのか?」


「こっちも一家総出で人質にされてんでね。値段交渉なんて出来なかったのさ」


 えっ!! てことは、ジムたちも人質なのか!? なんて輩だ! シットも落ち着いてるし、酷い! 最下層はダメだな!!

 僕が画面にかじりつくと、シットの隣にいた男がスッと手をあげ、ソーマに歩み寄った。

 スーツを着て、白い手袋を嵌めている。30代の男だ。髪は短くて、顔はニコニコと笑顔だ。


「手荒な歓迎で申し訳ない。シット一家はすぐに解放します。4区としても比較的協力的な区民をわざわざ失おうとは思わない。さて、アランともう一人は? 一緒に来るよう頼みましたよね?」


「……父さんはしばらく留守だ」


「そうですか。まあ、アランはソーマさえ手元に置けばいつでも呼び出せますし。もう一人は?」


「情報が早いな。でも、父さんには分かるけど、あいつに用はないだろ?」


「私はボスに、君たち一家を全員連れてくるよう言われただけで、理由は聞いていません。全員連れて来いとの仰せなので、言葉通りの事を実行します。それと……」


「!?」


 男が寄って来たと思うと、映像と音声が同時に切れた。

 何だ何だ!? どうなったんだ!? ソーマ達の様子がわからないじゃないか!

 パソコンを叩くが、うんともすんとも言わない。

 犬が、くぅーんと可愛らしく鳴き、僕の顔を落ちつけと言わんばかりに舐める。

 くっ、可愛い!!


「―――ソーマ、大丈夫かな?」


 数分して、寂しさと不安が膨らみ始めたころ、ガチャリと物置の狭い扉が開いた。おい、とソーマが僕の顔を覗き込む。


「行くぞ」


「び、吃驚するだろ! い、行くって、どこへだ!」


 ソーマが背後にちらりと視線を向けた。なんか警戒しているっぽい。

 その先を追おうと、物置から顔を出そうとした途端、ソーマに頭を抱きかかえられ、そのまま胸元へと抱きしめられた。


「………なん!」


「フィーバー、ローブになってくれ」


 犬の、寂しそうに了承する鳴き声がして、僕の頭と背中にローブがかけられた。


「顔を見られないように着てろ」


 真剣な声で耳打ちされて、コクリと頷く。

 僕がちゃんとローブを着たことを確認してから、ソーマは僕を抱きしめるのをやめた。

 顔を隠しながら、ソーマの後ろにいた人物をみる。

 さっき、ソーマとシットと一緒にいたスーツの男だ。映像では感じなかったけど、こうして実物を見ると目が糸みたいな笑顔だな。ちゃんと見えてるのか?


「ボスに会うときは着替えていただきますから、それほど意味はないと思いますけど。―――ともかく、一緒に来ていただきましょうか。第4区、ボスの元へ」

場面転換が多くて申し訳ない。30代男のスーツがアランと被ってますけど、アランはウサギなので(笑)

ソーマが危険を察知できたのは、シットが催促の連絡をするときは不味いことが起きてるときだけと決まっているからです。

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