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3-3.ウサギの帰還!!

ミネルバ視点です。

 ソーマと一緒にディアの診療所に戻ると、あのウサギが格納庫の出入口で腕を振りまわしていた。


「おかえり! ソーマ!」


 スカイシップから降りるなり、ウサギがソーマに駆け寄り抱きついた。

 親子の触れ合いというよりは、テーマパークのマスコットが子供に抱きつくのをもっと大げさにした感じだ。


「偉いじゃん偉いじゃん凄いじゃん! もー、1人で仕事受けて完遂できるなんて、父さん感激だよ!」


 ソーマの両腕を取って、はね回り飛びまわるウサギ。ソーマはテンションの高いウサギの行動に、呆れ顔になりながら少し嬉しそうに頬を赤くした。

 いやウザいだろ。ソーマはこの過剰反応が嬉しいのか? 僕の事を変態とか言えた義理か?


「大げさだな、前から1人で色々してきてただろ」


「でもほらー、仕事の派生みたいのばっかりだったじゃん? 一つの仕事を1人で完璧にこなしたのは今回が初めてだし、おっ祝、おっ祝い、祝っ杯だっ!」


「父さんは見てないから、完璧かどうかなんてわかんないだろ」


「えー、丁度6区にいたからソーマの囮っぷりずっと見てたよー。偉いぜマイサン!!」


 ウザいウサギがソーマをオーバーリアクションで抱き締めた。

 ソーマはぎょっと目を見開き、次の瞬間にはまた顔を赤くして口元を緩めたんだが、僕と眼が合った瞬間、口元をきっと引き締めた。すぐにへにょへにょと崩れて、失敗してしまったけど。

 それより、ソーマの仕事の様子をずっと見ていいながら、その時に姿を現さなかったこととか、手伝わなかったことには何も言わないのか、ソーマ?


「当然だろ。父さんの……息子だし」


「とゆーわけで! 父さんはアンダートップマーケットに行ってくるから、赤毛の子と一緒に留守番よろしく! 今のソーマなら何の心配もなく父さん出かけられるよ! ヒーハー!!」


「!!」


 ソーマがまた眼を見開いた。また頬が赤くなる。今度は怒りの赤だ。


「待てよ! 戻ってきたばっかでまた出かけんの! 今度は俺を置いて、しかもアンダートップマーケットに!?」


「Yes!」


「納得いかない、俺も一緒に行く!」


「ダメダメダメ、ソーマはここで赤毛の子を守ってくれないと! 父さん困っちゃうよ!」


「大体なんで今、アンダートップマーケットなんだよ!」


「そこにドロップアウトが届くからさ! 大丈夫、父さんがチョチョイと行ってチョチョイと盗ってくるから!」


 今凄く重要なこと言わなかったか? 僕の脳内処理が追いつかないスピードで話が進んでくぞ。

 ドロップアウトっていうのは、僕が最上層に戻れない原因のことだよな? うん、それ僕にすごく関係あるよな、会話に割って入ってもいいよな!?


「そのドロップアウトが関係するなら僕も行くぞ!」


 会話に追い付こうと勢い勇んで言ったわけだが、途端に2人が静まり返った。


「……駄目だ」


「何故だ、ソーマも今連れてって欲しいと駄々をこねてるじゃないか」


「駄々なんてこねてない!」


「そーだったね、赤毛の子は最下層に来て間もないし、アンダートップマーケットが何か知らないよーねー……となれば、ガイドの出番だぜ、ヒーハー!!」


 ウサギが片足立ちでくるくると回りだし、どこからか時間ペンリミットペンを取りだし、格納庫の壁に図形を書き始めた。


「簡単ですが、これが最下層の見取り図でーす! 世界を支える柱ツワルフツリーファースト』がある中央区を中心として周囲を七分割、1から7区に分けて自治をしています! 各区の――最上層でいえば領主を、こちらではボスと呼び畏れ敬っております! 領土線は整備やその他諸々の関係上変更不可! 無理に奪ったところで管理もできないから、最下層は荒れてる割に戦争はありません! だからって平和には程遠いのですが!」


 地図はジムたちが書いたものとほぼ同じだった。こっちは数字とか字とか全て合っているけど。

 いつもなら、最下層はダメだな、の一言も挟むところだが、シット一家のジムたちと話してきた後だと平和でないことに茶々を入れることはできなかった。

 そんな僕の心境など知る由もないウサギは、ハイテンションのまま話を続ける。


「でも奪えるものは奪いたい、何だって奪いたい最下層! 最下層トップのボスたちともなれば尚更他の領土の物を奪いたい! そんなことで最下層のボスたちは各領土の物品を奪い合うための場所を設けました、それがアンダートップマーケットです! 水、食料、エネルギー、人材、物資、兵器! 土地以外の全てが強奪の対象! 奪う方法は勝つこと! そんなアンダートップマーケットに行けるのは、商品と一握りの観客と戦う駒だけ。さて、赤毛の子レッドガール私が言っていることの意味が、わっかるっかな?」


「……お前は何としてそんな物騒な場所に行くんだ?」


「どれでもないですよ! 誰の了承も得ずに、勝手に、忍びこむ! 最っ高!」


「不法侵入か……」


「ノンノンノンッ! 最下層に法律なんてナッシング!! 『世界の底辺』宜しく最下層では『力』が全て! 権力、腕力、強運! 全部持ってないと生きてけない、特にアンダートップマーケットではね。私が言いたいことは………『君ではすぐに死んでしまう』ということだよ赤毛の子レッドガール


 一泊間をおいて放った一言は、今までのウサギ口調と打って変わって重圧を感じる声音だった。

 場の空気が一瞬で冷えた。僕は両方の肩を抑えつけられたみたいにへたり込み、全身からは血の気が引いて、代わりに脂汗がぶわりと噴出した。頭がぐわぐわする。

 いつもウザいとしか感じないウサギが、例えようもなく怖い。


「……俺が付いていけないのは?」


 ソーマが両手の拳を握り締めて、ウサギを見上げた。声が微かに震えている。


「息子を傷つけるセリフは言いたくないけど――弱いからだよ」


「!!」


 一瞬だった。

 ウサギがソーマに近づいて、ソーマ持ち上げたと思うと、ソーマはもう気絶していた。

 ウサギが空いている方の手を僕に差し出す。自分でも驚くぐらい、全身がびくりと反応し、飛び上がった。


「脅かしすぎましたか? でも全部本当の事ですよ、ディアにはもう話してありますから―――大人しくしているようソーマにも伝えてくださいね」


 僕が怖がっていることは分かるだろうに、ウサギは構わず僕を拾い上げる。

 触れられたと認識した瞬間、一気に意識が遠のく。


「ドロップアウトは絶対に持って帰るから」


 最後の声は凄く優しかったけど、それさえもウサギへの恐怖にかき消されて旨く聞き取れなかった。

ウサギはミネルバの前で敬語になるのではなく、基本敬語だけど、身内には砕けてしゃべっているというのが正しいです。

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