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2-4.ソーマの思惑!

ソーマ視点です。

 要らん苦労を背負い込み手に入れた充填剤で、発電機外装の隙間を埋める。

 仕事を引き受けた代わりに、充填剤はタダにさせた。ついでに色々かっぱらってきた。もちろん報酬とは別に、だ。

 交換する品はあるのに、無理やり依頼してくるのが悪い。押しつけだ、押しつけ! 金品とか食糧とかだいぶせしめて来たけど、今思い返せばあれでも安すぎた。

 ――ああーまた腹が立ってきた! 依頼受けなきゃ今後何も売らないとか言ってくるし! キャンベルがミネルバ・1・ベネディクトにちょっかい掛けてくるし! キャンベルがあの気難し屋のボスのお気に入りじゃなければ――

 ふつふつと怒りが込み上げていたところで、ミネルバがやたらでかい声を出して急に飛び上がった。


「思い出した! あのガイドのウサギはどうした?」


「父さんならバスガイドの後処理中。今頃は最上層の客たちを帰しに……行った、頃――」


「そうか……」


 ……何だよ。悪かったよ。

 寂しそうないじけた顔で、ミネルバ・1・ベネディクトは俯き唇を突き出た。

 膝を抱えたまましばらく落ち着きなく手足を動かし続け――その様子は次第にエスカレートして、ついには頭を抱えたまま上下にブンブン振り始めた。中途半端な長さの赤髪が、その激しい動きに追い付けず、途中で絡まっていく。

 スカイシップに乗ってた時といい、コイツは奇行が多いな……


「僕らが最下層に来るには何日もかかったのに、どうして帰りは1日なんだ!」


「……登る方が降りるより簡単だからだよ」


「馬鹿か! 逆だろ!?」


「常識的にはな。俺たちは非常識に非合法に使ってるから、最上層から降ろすより、登らせてやる方が楽なんだ」


「答えに――なってない」


「教える気ねーもん」


 下手にしゃべったら、1人で帰ろうとするかもしんないし。『ドロップアウト』を手に入れ損ねたんだ、この上サンプルまで逃がしたらもう―――それに、死ぬのがわかってて帰すのはいくらなんでも……

 ……帰れないことを、気にしていないはずはない。

 俺だったら疑うし信じないし逃げ出そうとするのに、こいつはそんなアクション一つも起こさないな。最上層民の半分は確かに半端なく素直で柔順だけど、こいつはもっと暴れたり――自暴自棄になっていいだろ―――それはそれで困るな。

 とりあえず2人で見張ってれば脱走しにくいだろうと思って、俺まで一緒になってディアの所に世話になってるわけだが―――父さん早く帰ってこないかな。ディアの所にいると要らぬ雑用を大量に押しつけられて困るんだけど。


「ソーマ。終わったかい」


 噂をすれば影。


「後は完全に乾くのを待つだけだから、もう終わったようなもんだよ」


 充填剤を片付けながら、答える。

 今度は何をしろって言われるのかなー。


「よし、じゃあ夕飯だ。2人ともおいで」


「あの味が濃くて旨くないのか!」


「お黙り小娘」


 ミネルバ・1・ベネディクトが声を上ずらせながら文句を言う。だからどうしていい笑顔で嬉しそうなんだよ!

 そのせいか、ディアも叱り方が甘い――俺が文句言うともっと厳しいのに―――

 とりあえず、雑用はもう終わりみたいで、昨日に引き続きディアの料理が食べられるとウキウキしたのもつかの間、ミネルバ・1・ベネディクトに続いて部屋を出ようとした俺の額をディアが軽く小突いた。


「ソーマは飯の前に、その臭い体を洗っといで」


 臭いって――ディアの発電機直したからなのに。でもまあ、鼻がマヒしただけで、実際は相当臭ってるだろうから素直に従おう。


 水は貴重な資源だ。最下層には水が十分にないから。

 でも、ディアの所は診療所だし、お偉いさんの相手もしてるから、水は豊富だし何より綺麗だ。

 うちでは水がないのと、俺と父さんが無頓着なせいで週一しか体洗わんもんなー。

 手のひらサイズの水膜(ウォッシュボウル)に水を入れ、体の上をコロコロ転がす。

 大昔、惑星に人類が住んでいたころは水がそこらじゅうから湧き出てて、流して使ったらしいけど、地面から水がわき出るって、その下どうなってんだよ。自然にポンプがあるわけじゃないだろ?

 顔と頭の上を転がしたら、もう水が濁った。まだ3日なのに、やっぱり発電機の掃除したせいだな。全身くまなく転がし終わるころには水は――あえて言うまい。発電機の油とか混じってるから、一般用のバイオ分解じゃ無理だろうな、ディアの医薬品用の分解ボックスに入れとこ。

 そう考えると、ディアの所はうちより相当便利――というか、効果で貴重なものが多くて狙われてそうなんだけど、その手の事で頼られたことは一度もないな。

 強盗も、7領のボス御贔屓の場所は狙わないのか? そこそこのが手を出さないのはわかるけど、追い詰められたネズミなら一矢報いるために、ディアの診療所を襲うのもあると思うんだけど……

 そう考えると、父さんとこっちに戻った方がいいかな?

 ああでも、俺たち狙いの輩がディアにまで迷惑かけるかもしれないし……


「ソーマ、ディアが……変態!!」


 ちょうどズボンを履いている最中にミネルバ・1・ベネディクトが洗面所に入ってきた。


「風呂行くって言っただろ、変態は覗いたお前の方だ」


「ぼ、僕は変態じゃないぞ!」


「それで変態、ディアが何だって?」


「通信が入ったから、呼んで来いって」


 父さんか!


「すぐ行く!」




「エエエエエーーーーー!!? 帰れないの!?」


『ノンノンノンノンノン! 帰らない・だ・け! ちょーっと用事ができちゃってー、4日後には帰るから、赤毛の子と仲良くお留守番しててね!』


 ああ、このテンションの高さ。ウサギを被ったまましゃべってるな……


「明後日、急に仕事はいったんだけど……」


『ええー、私がいない間に一人で引き受けちゃったの!? やるじゃーん! 流石我が息子!!』


「内容は囮なんだけど……」


『あー、ツインシップ使うのねー。だったら、フィーバーを相方にしなよ。ソーマが運転できるようになるまで、父さんもフィーバーを相方にしてたし!』


 確かにフィーバーの腕は俺より上だし……そう考えると、大丈夫そうだな。


「――わかった」


『流石我が子! でも無茶はよそーねー? では、また!』


 通信はあっさり切れて、俺はがっくりと肩を落とした。

 あーあー、父さんが一緒なら追ってくる奴らからも金品ふんだくれると思ったんだけど、今回は2重で稼ぐのは無理か。


「明後日はあたしも出かけてていないからね。小娘の世話はできないよ」


「せ、世話って何だ!」


「文句あんのかい?」


「……ない、です」


 威勢良く反論したミネルバ・1・ベネディクトが、ディアの一睨みでしゅんと項垂れる。

 いやいやいや、俺はそれじゃ困る!


「ある! 異議あり! そんなこと言ったら、明後日こいつの面倒誰が見るの!? 1人にしといたら碌なことになんないよ、絶対!」


 ディアの診療所をひっかきまわすとは思えないが、1人で外に出ようとする可能性は高い。何が起きるかわかったもんじゃない!


「あたしの知ったこっちゃないよ」


 ディアに冷たくあしらわれて、俺は愕然とした。

 他に預ける宛なんてないぞ……


「何だ、ディアがいないなら、僕はソーマに付いて行くしかないな! 仕方ないなまったく!」


「絶対、連れて行かないからな!」


 憤慨しつつもやっぱり笑顔のミネルバ・1・ベネディクトをビシリと指さし、俺にしては珍しく、本気で必死に心の底から叫んだ。

ミネルバの文句は、全部語尾が上がり調子で嬉しそうなのです。

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