2-2.最下層の生活!!
今度はミネルバ視点です。
初老の医者ディアの要望で、僕はウサギガイドの息子ソーマと買い出しに行く事になった。
「何処に行くんだ、スリ横丁か!?」
外出着だとボロボロのカッパを渡された。ごわつくしチクチクするし、最悪だな! やはり最下層は『底辺』だな!
「一番近い雑貨店だよ。スリ横丁は遠いし、店が多くて混んでるから少ないものを買うには逆に不便だし」
「……いいじゃないか、けち」
むすっとして突っかかると、ソーマは呆れと疑問が入り混じった顔で僕を見つめ返した。
「あんた、スリ横丁で危ない目にあっただろ。行きたくないだろ普通」
「そんなに怖くなかったから平気だ」
「……」
「……」
僕とソーマはしばし無言で睨み合った。
僕はより危険なものを見たい。最下層がどれほど危険で、野蛮か、実感したいんだ。
口には出さない。理解されないのはわかりきってるし、このソーマは多分、愚かな考えが嫌いだ。一度話して理解し合えなければ、二度と同じ話は持ち出さないような、切り捨て人間だ。この顔だからな、絶対そんな奴だ!
今も多分、怖くなかった、という僕の発言に見切りをつけて、僕とこれ以上議論なんてせずにさっさと行先を決めてしまうに違いない!そんな顔だ!
「とにかくスリ横丁には行かない。外出できるだけ有難いと思って船乗って」
「船? 歩かないのか?」
「『栄華の極み』最上層様と違って、こちとら階層全体が危険区域なもんでね。最下層生まれの最下層育ちならともかく、素人さんが歩き回るのは不可能。ほら、船乗って」
言うや否や、観光で乗ったテーヘン号よりも相当小さいスカイシップに無理やり押し込まれた。
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「狭い! 臭い! 最悪だ!」
「どーも」
だけど船の外装であるガラスに埋め込まれた青と緑に輝くLANの光は綺麗だ!
……一瞬浮かんだ賛辞を頭の中から振り払い押し込められた船体を見回す。僕の身長スレスレサイズの天井の低いワンルームにコクピットが備え付けられただけの至って安っちい船だ。外装がセラミックガラスというのはあまりないだろうが、特別珍しくはないし……
「! この外装もしかして形状成形型のセラミックガラスか!」
気付くや否や、僕は形状成形型セラミックガラスにへばり付いた。
ちょっと冷たい! つるつるしてる! 今時こんな古くて危険な技術を使っているのか!? ていうかこれしかないんだな! 可哀想、最下層可哀想!!
「おい、へばりつくなよ。危ないから」
「馬鹿にするな! 形状成形型のものが危険なことぐらい知ってるぞ! 予め定められた形式にしか変化できない上、変化中に誤って触れると接触した部分をも変形に巻き込んでしまうのだ! 知ってるぞ!」
「知ってるなら余計にへばり付くなよ」
「なんだ、変化させるのか? じゃあ離れるから、さっさと済ませろ」
形状成形は今僕が言ったような難点はあるが、元の素材そのままというか、加工後も質感が残せるところが魅力だ。あと、安価だ。
「この船改造船で変な電波飛ばしてるみたいだから、ときどき勝手に変化するんだよ。だから下手すると変化に巻き込まれてガラスに閉じ込められて窒素死する」
「改造じゃなくて改善しろよ!」
「俺慣れてるから平気だし」
僕はビクビクだ! 最悪だ!
「シートは操縦席しかないから、これからあんたをシートの後ろに括りつける」
「横暴だ!」
「この船結構揺れるから、括りつけないとセラミックガラスにぶつかって危険だぜ」
「……」
不本意ながら取り付け式のシートベルトで操縦席の後ろに座らされた。
最悪だ……本当に最悪だ。
船の入り口は合金製の船体下部です。変形しないから安心。