表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

2-1.最下層の生活!

ソーマ視点のinディア診療所。

 自分が置かれた状況を失意呆然といった調子で聞いたミネルバ・1・ベネディクトはフラフラと幽霊のように彷徨い漂い、床に就いた。

 うん、昨日寝たときは確かに抜け殻のような感じだった。

 なのに、たった一晩でこの変化は何だ!!


「なんだあのベッドは! 堅い臭いギシギシする! 最悪だ!」


「なんだこの食事は! 味付けが濃い! 体に悪い! 最下層はダメだな!」


「なんだこの服は! 品がない! ほつれてる! 最下層はダメだな!」


 朝起きた時から文句を言いっぱなし!

 いや、それはいい、そこは予想してた。

 最上層のお嬢様だもんな(お嬢様には見えないけど)『底辺』最下層に文句がないわけがない。

 だけど……


「まったくもって最下層はなってない、なってない!」


 両手のこぶしを強く握りしめ、赤髪を振り乱し、小さな口を大きく開けて、瞳をきらめかせ・・・・・声を張り上げる。

 いい笑顔だな!

 文句言ってんのに、なんでいい笑顔なんだよ!

 キラキラ輝いてんだよ!!


「ソーマ、整備しながらうちの発電機壊したらタダじゃおかないよ」


「う、ごめんなさい。ディア」


 俺を拾って育ててくれたのは父さんだけど、赤ん坊の俺が死なずに済んだのはティアのおかげだ。

 火器は扱えても、赤ん坊は見たこともなかった父さんがディアのところに来た時、俺はすでに死にかけだったらしい。

 その後も父さんの赤ん坊おれの扱いは相当常識に欠けていたらしく、物心つき始めたぐらいまではディアと孫娘のジュリアに面倒を見てもらってた。

 よって、俺は二人に頭が上がらない。

 父さんも二人にはほとんど口答えしない。

 そんなディアの頼みで、俺は今、ディアの診療所の発電機の整備をしている。

 バイオマス式の発電機で、腐るモノなら何でも燃料として使えるから燃料不足にはならないけど、燃料の大半はゴミで………つまりメンテナンスが必要ってこと。


「最下層は最悪だ! あはははははは!」


 今日はまだ傷心放心状態だろと思って手伝わせないでおいてやってるのに!!

 実は元気だろ!!

 何だあの笑顔、何だあのウサギ被った父さん並みのテンションの高さ!!

 殴ったろか!


「ソーマ、二度は言わない」


「……ごめんなさい」


 あまりの怒りに部品を握りつぶすところだった。

 発電機壊したら生活成り立たないし、怒られるどころの騒ぎぎゃないぞ、俺。


「しかし、あの小娘も元気だね。何がそんなに楽しいんだか」


「まったくだよ!!」


「家に帰れないのがそんなに嬉しいのかね」


「……そうなのかな?」


「そんなわけないだろ、責任感じな」


「……ごめんなさい」


 ディアは怖い。ちょー怖い。反省してますんで、睨まないでください。

 これ以上、あの意味不明な笑顔と浮かれた声に惑わされないように、発電機の修理に集中する。

 長年使ったせいか、それとも機械本体の熱か、外装が歪んでゴミの一部が内部に入り込んでる。

 まずは隙間に挟まったごみを丁寧に取り除いてから、外装をはがす。

 外装裏の枠にも結構ごみ詰まってんなぁ、嫌だなぁ。


「アランに常識がない分、ソーマはしっかりした子に育てようと思ったんだけどねぇ。甘やかしすぎたのかねぇ」


 ディアに甘やかされた記憶はない。

 口にできないから、心の中で断言する。


「これからあんたをしっかりした子に育てるためには、どうしたらいいと思う? ソーマ」


「俺の育て方を俺に聞かないでよ……」


 ゴミでショートして回路が一部壊れてる。でも、これならこの間シットと交換したスクラップの部品を使えば問題なさそう。今度は直しやすいように間にヒューズを咬ませておこう。

 問題は外装だな。相当歪んでて、はめ直したところでまたゴミが入り込んですぐに故障する。

 ゴミをある程度はがしたら、継ぎ目を何かで埋めないと駄目だな。

 薄い鉄板か、耐熱性のあるゴムか……鉄板ならスクラップから剥がして叩いて伸ばして……今一だな。買い出しに行った方が無難だな。


「ディア、発電機動かすのもう少し待ってくれない?」


「直せないのかい?」


「修理はできるよ。でも外装の劣化でゴミが入りやすくなってるんだ。だから、隙間を埋められるものを何か買いにいかないと」


「そうかい、わかった」


 ディアはあごに手を当て少し考えるそぶりをして、上の階ではしゃいでるミネルバ・1・ベネディクトを呼んだ。


「おい、小娘! こっちに来な!」


 何で彼女を呼ぶんだ? 最上層民に買い出しに行かせるとか?

 って、そんなわけないか。

 家事全般でもさせるのかね? できるとは思えないけど。


「呼んだか?」


 ツアー客である最上層民の約半数は、やたらと素直で柔順だ。

 言葉遣いの荒さに反して、彼女はその素直で柔順なタイプらしい(ツアー中は反抗してたけど)。

 ちなみにあとの半分は変態で偏屈で業突く張り。


「小娘、あんたソーマと一緒に買い出しに行きな」


「ええ!? 1人で行った方が早いよ!」


 これは流石に抗議せずにはいられない!

 ツアー中の彼女の行動から想像するに、役立たずどころか、ものすごい足手まといだよ!

 観光気分できょろきょろして俺からはぐれる姿が目に浮かぶよ!

 人攫いに遭いそうな雰囲気がビンビンするけど!


「口答えはおよし、もう甘やかさないって言っただろ」


「そういう問題!?」


 だから、甘やかされた記憶はないって。

 てか、その一言で済まされるのこの事態は!?


「買い出しって……外に出れるのか!」


「そうさ。ただし、ソーマから絶対に離れるんじゃないよ。できないなら行かせない」


「わかった! ソーマ連れてけ!」


 本当に、いい笑顔でいい返事するよ、コイツは!!

発電機の調子が悪いから、今日は診療所お休みです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ